日韓を代表するミュージカル女優、夢の対談!~濱田めぐみ×パク・ヘナ、『デスノート』とミュージカル観を語る~

左:パク・ヘナ 右:濱田めぐみ

『デスノート THE MUSICAL』の死神レム役オリジナルキャストの濱田めぐみと、韓国での初演・再演に続いて今回の日本公演でも同役を務めるパク・ヘナが初対談! レム以外にも共通点の多い二人は、会って早々「初めて会った気がしない」と意気投合。日韓それぞれを代表するミュージカル女優が、まるで姉妹のように息の合ったトークを繰り広げた。

 

■<愚かな愛>誕生秘話と“レムあるある”

――お二人は今日が初対面とのことですが、お会いになってみていかがですか?

濱田「『デスノート』韓国公演が日本版と同じ演出で上演されると知った時には、大変だろうなあと思ったんです。でもヘナちゃんのレムを観たら、根幹が一緒だなって。キャッチするものが一緒なんだろうなあと思っていたから、初めて会った気がしないですね(笑)」

ヘナ「嬉しいです! 私はめぐみさんのことは、残念ながら映像でしか見たことがないんです。でも素晴らしい女優さんであることはもう、私が言うまでもないこと。レムのほかに、『ウィキッド』(エルファバ役)と『フランケンシュタイン』(エレン/エヴァ役)でも同じ役を演じているめぐみさんとお会いできて嬉しいです。もしかしたら私たちは…」

濱田「似てるのかもね!」

ヘナ「はい、雰囲気とか、身長とか」

濱田「そうね、声質とかの持ち物も似てるのかもしれない」

ヘナ「めぐみさんは、強い役が多いですか?」

濱田「確かにそれはありますね(笑)」

ヘナ「私もなんです。やっぱり似てるんですね。でも今日お会いして思ったのは、めぐみさんは映像を見て感じていた以上に実物が素敵だっていうことです」

濱田「ありがとうございまーす(笑)!」


――「キャッチするものが一緒」というお話のあったレム役について、それぞれどう解釈し、そしてソロ曲<愚かな愛>をどんな思いで歌っていらっしゃるかを教えてください。

ヘナ「私は今までも、役から色々なことを学んできたのですが、レム役からも学ぶことが多いです。自分の命を投げうってまで人を助けようとするレムを演じながら、私だったらできるかな?って。無償の愛の大切さを教えられる役ですね。<愚かな愛>については、歌う前のシーンでもう涙がこぼれて鼻水まで出てしまうので、歌うのはとても大変です(笑)」

濱田「悩みが同じ! 私も毎回、鼻水が出て「やばい」って思いながら歌っていました(笑)。意識は死神になっていても、私たちの肉体は人間だから、生理現象からは逃れられないのよね。人のために身を投げ出そうとすると、涙も鼻水も出るし、震えやしびれも出てくる」

ヘナ「そうですね。私はクリスチャンなんですが、レムが十字架にかけられたミサミサの足元に口づけをするあのシーンは、(演出の)栗山(民也)さんがピエタ(キリストの遺体を膝に抱いて悲しむ聖母マリア像)のイメージを元に作られたんですよね?」

濱田「そうそう! 跪いてキスをしてから歌い出してほしい、と最初に言われた時は、お気持ちはよく分かるけれども、歌い手としてこの体勢は非常にきついですと(笑)。でも栗山さんがどうしてもとおっしゃるので、トライしてみたらできちゃったんですよ。それが採用されてしまったわけだから…ヘナちゃんには、ごめんねっていう気持ち(笑)」

ヘナ「色々なことを考えさせられますし、身体的な問題もありますが(笑)、舞台の上では役に集中したいなと思っていて。余計なことを一切考えないでいられるように、事前の準備をしっかりしておくことが大切な役だと思います」

濱田「フィジカル面プラス、メンタル面の準備がね。私の場合は事前のというより、幕が開いてから<愚かな愛>に辿り着くまでのレムとミサミサとの関係が、歌い出しにすごく影響していた気がします。毎回、メンタルの準備に幕開けからそこまでかかったというか」

ヘナ「分かります」

濱田「あのシーンでは毎回、ミサミサ役の(唯月)ふうかの目からも目隠しの下から涙がツーって流れていて、そのたびに言葉にできない思いになっていました。予期せぬ感情が駆け巡って毎回驚いていたから、私もヘナちゃんと同じで、レムという役から勉強させてもらったという感じですね」


――聴いている分には美しいが歌うと難しい、と評判のフランク・ワイルドホーンの楽曲に対してはどんな印象をお持ちですか?

濱田「『デスノート』に関して言えば、難しかったというよりも、お互いの意見をすり合わせていちばんいい場所を見つけるのが大変だった覚えがありますね。<愚かな愛>については二つ問題点があって、まずは歌詞。最初に届いたのがレムを客観的に語るようなもので、歌ってみてもしっくり来なかったので、主観的な言葉に変えてほしいとお願いしたんです。それから歌い方についても、フランクは最初、地声をバーンと張り上げてもものすごく強く歌ってほしいと言っていて。それでは日本人の心に届かないと思った私と、でもバラードにはしたくないと言うフランクとの間で話し合いを重ねて、辿り着いたのがあの、歌わずに語るところから始めて壮大にふくらませていくスタイルでした。そうやって、日本語や日本人を軸に作られた曲だから、ヘナちゃんにとってはすごく大変だろうなって思います」

ヘナ「確かに大変ですが、ワイルドホーンの楽曲は美しくて、歌いたい!という思いが先行するので楽しいです。今回は日本語で歌うので、そこはやっぱり難しいですが。でも幸いなことに、今回のカンパニーで『デスノート』を経験しているのは私だけなんですよ」

濱田「あっ、そうだ! 見落としていたけど(笑)、全員新キャストなんだもんね」

ヘナ「そうなんです。私は韓国で2回レムを演じているので、そこで役をつかむ、という作業の時間は稼げたというか(笑)、言語の課題に集中することができて。色んな人に発音チェックをしてもらいながらお稽古をしている今が、本当に楽しいんですよ。この楽しさが舞台の上でも持続するように、もっともっとがんばっていきたいと思っています」■ヘナが楽しんでいる姿が嬉しい!

――オリジナルキャストとして役を一から作り上げる時と、すでにある役を演じる時とでは、どんな違いがありますか?

濱田「オリジナルキャストのほうが、ケタ違いに大変です(笑)。本当に何もないところから、白い紙にまず青を塗るのか赤を塗るのかっていうところからのスタート。もちろんちゃんと自信を持ってお届けしたいと思っているけれども、これでいいのかな?っていう気持ちはずーっとあって、これで良かったんだって思えるのは千秋楽を終えてからなんです」

ヘナ「大変ですよね。でもオリジナルキャストには、自分がこの役を作り上げるんだ!っていうやりがいがあると思います」

濱田「そうね。それに前任者がいたらいたで、今度はどこまで踏襲するべきかって考える大変さがあるから、結局はどっちもどっちなのかもしれない(笑)」

ヘナ「そうですね(笑)。でも『デスノート』の韓国初演の時は、日本で作り上げられたものがあったから、やっぱりオリジナルキャストの時よりもちょっと楽でした。レム役を一から作ってくださっためぐみさんに、改めてお疲れさまでしたと言いたいです(笑)」


――色々な経験をされてきたお二人が“今”思う、ミュージカルの楽しさとは?

ヘナ「私は、趣味が“心配すること”なんですね(笑)。だから初めて日本でミュージカルに出演することになって、来る前はたくさん心配しましたが、それ自体がもう楽しくて。それに実際に来てみたら、思っていた以上に楽しくて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。お稽古場にいる日本の同僚たちはみんな、『デスノート』という作品のために一生懸命汗を流している。そういう姿や日本に来てからの色々な出会い、一つひとつが私にとっては本当に宝物のように大切で、だから今、とても楽しいのだと思います」

濱田「良かったねぇ~! 私はこの頃、すべてを俯瞰で見ているところがあって、みんなの活躍や喜んでいる姿が何より嬉しいんです。自分が前に出たいという気持ちが、元々なかったんですけどさらになくなって、「譲る!」っていう(笑)。「みんなおやり~私の分まで」「なんかあったら相談してね~」みたいな、もう母親のような気持ちになっているので(笑)、ヘナちゃんが楽しんでいると聞いてすごく嬉しい。それが今の私の楽しみですね」

ヘナ「素晴らしいですね…! そうやって見守ってくださる、めぐみさんのような先輩方から力をもらっているのは、私だけではないと思います。これからも見守ってください!」

 

――最後に、今日初めてお話をされてみた感想をぜひお聞かせください。

ヘナ「濱田めぐみさんが本当に素晴らしい女優さんであることがよく分かりました! お会いできたことに感謝していますし、お話できたことで力をもらえてすごく嬉しかったです」

濱田「私もお会いできて、こちらこそ嬉しかったです。ヘナちゃんは、物怖じしないし、人に対して垣根が全然ない人。どこに行っても受け入れられると思うから、これからも色んな環境に身を置いて経験を積んだら、もっともっといい女優さんになるんじゃないかと思いましたね」

ヘナ「かしこまりました! 一生懸命がんばります」

濱田「もう十分よ! そんなにがんばらないで(笑)」

ヘナ「まだまだ、日本語は難しいですから…。「時間はある」というセリフの発音が、どうしてもうまくいかないんです」

濱田「あ、2幕のね。「時間は」と「ある」で切って言ってみたら?」

ヘナ「「時間は、ある」」

濱田「そうそう! 発音、すごくいいと思うよ」

ヘナ「本当ですか? 嬉しい!! 「時間は、ある」「時間は、ある」「時間は、ある」…」

濱田「なんかかわいそうになってきちゃう(笑)。悩みすぎないでね?」

ヘナ「昨日、(リューク役の)横田(栄司)さんにも同じことを言われました(笑)」

濱田「きっとみんな、そんなにがんばらなくても大丈夫って思っているんだよ(笑)」

ヘナ「でも発音は大事ですから、やっぱりがんばりたいんです。…もっと“時間”があればいいんですけど(笑)」

濱田「あはは! じゃあぜひ、楽しみながらがんばって。公演、観に行くね!」

ヘナ「ありがとうございます、お待ちしています!」

 

取材・文/町田麻子