『デスノート THE MUSICAL』観劇レポート

社会現象になった伝説的コミック『DEATH NOTE』をミュージカル化。2015年の世界初演以来、日本のみならず韓国・台湾でも大ヒットを記録した人気作『デスノート THE MUSICAL』がキャストを一新して再演。2月9日まで、池袋にオープンした東京建物 Brillia HALLにて、こけら落としシリーズ作品として上演中だ。その公演の模様を観劇レポートします。主人公・夜神月[やがみライト]は、舞台経験豊富な村井良大と、今作が初舞台で2416名の中からオーディションで選ばれた甲斐翔真がWキャストで演じる。ライトを追いつめる謎の名探偵L[エル]を演じるのは、ソロシンガーとして活動しSNSでも注目を集めている髙橋颯。髙橋もミュージカルは初挑戦だ。死神リュークを蜷川幸雄演出のシェイクスピアシリーズにも多数出演するベテラン俳優、横田栄司がコミカルに、ときに重厚に演じる。もうひとりの死神レムを、韓国版でもレムを演じた韓国ミュージカル界最高の歌姫といわれるパク・ヘナが演じることも注目だ。この新キャストで初演から演出を手掛ける栗山民也がどう見せるのか、開幕前から期待の高まるところだ。第一幕は、誰もいない舞台に象徴的に置かれた真っ赤なりんごにスポットライトがあたり、まず最初に観客の目を引く。そこにオーケストラBOXからぬるっと舞台上に現れる、死神リュークとレム。這うような姿勢のまま、圧巻の歌唱力で歌う横田とパク・ヘナ2人のシーンは強烈で、一気に『デスノート』の世界観に引き込まれる。そして物語は、死神リュークが、人間界に落とした「このノートに名前を書かれた人間は死ぬ」と書かれたデスノートを、成績優秀な高校生・夜神月が拾ったところから展開していく。

半信半疑でデスノートを使ってみた月は、その威力を目の当たりにして恐怖を感じるが、自分が理想とする社会を作るため、強い気持ちで恐怖を乗り越え、デスノートを使って世界中の凶悪犯を粛正しようと決意する。その思いを高らかに歌い上げる月を、村井も甲斐もそれぞれ力強く表現していた。村井の月には熱さと狂気があり、甲斐の月は原作のキャラクターに近いクールさが際立っているので、見比べて観るのは面白いかもしれない。月の部屋で、ともに暮らし始める死神リュークと月のちょっとコミカルなやりとりはクスッと笑えてほっとするシーン。そして、デスノートに次々と犯罪者の名前を書いて殺していく月は救世主キラとして、世界中の人々から支持を集め始める。この不可解な事件を解決するために、いよいよ世界屈指の名探偵Lが登場。登場の仕方にもインパクトがあってよかった。少し腰を曲げたような不自然な姿勢を表現し、Lのある種の不気味さも出ていて、大のLファンであるという髙橋のこの役への思いが感じられた。少し高い歌声もLに雰囲気に合っていて魅了された。今作のヒロインで、アイドルのミサミサこと弥海砂[あまねみさ](吉柳咲良)のライブのシーンは、物語と関係なくても楽しめるところでもあるので、楽しんだもん勝ちだと思う。すべての悪を裁こうとする救世主キラと、キラの逮捕を宣言するLがついに顔を合わせることに。キラとLのデュエットも聴きごたえ十分。第二幕に向かって観客のテンションも上がってくる。第二幕の幕開け、光と影を巧みに使った演出は観る者の心をザワザワさせる。ここからキラとLの壮絶な戦いが始まるのだ、という気持ちにさせられる。

第二幕の見どころといえば、やはり月とLのテニスの試合。かのミュージカルに負けない迫力だ。この試合に絡む、死神リュークの存在も面白い。ミサミサへの死神レムの深い愛情にも、大いに泣かされたが。『デスノート THE MUSICAL』において、2人の死神の存在感は圧倒的。とても印象に残った。後半はハイスピードで、人間の弱さと哀しさを痛感させられるエンディングへと向かっていくのだが、ラストシーンはあまりに美しくて、これが舞台芸術だと思える忘れられない場面だった。そして、なんといってもこのミュージカルを彩どるフランク・ワイルドホーンの楽曲がどれも素晴らしかった。キャストのフレッシュな演技が光った月とL。新キャストの『デスノート THE MUSICAL』は、新たなミュージカルスターを生み出したかもしれない。カーテンコールでも初々しかった甲斐翔真と髙橋颯のふたり。彼らの今後の舞台での活躍にも期待したい。文:井ノ口裕子
写真提供:ホリプロ (C)大場つぐみ・小畑健/集英社