ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』中川晃教インタビュー

累計140万部を超える不定期連載中の人気歴史コミック「チェーザレ 破壊の創造者」が、中川晃教の主演でミュージカル化される。会場となる明治座では、1873年の創業以来初めてとなるオーケストラピットを設置。15世紀のルネッサンス期イタリアを舞台に、イタリア半島の統一、そして欧州統一を狙う名門ボルジア家の英雄・チェーザレの戦いを、圧倒的なスケールで描き上げる。野望を抱いた欧州の英雄・チェーザレを演じる中川に、話を聞いた。

 

――今回のミュージカルに向けて、今はどのような意気込みでいらっしゃいますか

稽古もまだ始まっていないので、今日の取材のために勉強してきました(笑)。これまで自分が経験してきたこともありつつ、2020年という節目の年にどのような形で、皆さんに喜んでもらえるようなものをお見せ出来るか…自分の役割を全うできるのかをまず考えていて、悶々としているところです。今ある台本や膨大な歴史という時間の中に身を投じていて、夜はなかなか寝付けませんね(笑)。頭の中にいろんな言葉が出てきてまとまらないような状態ですが、そんな時間が楽しくもあります。そんな作品に携わることができて、嬉しいですね。

 

――チェーザレという人物についてはどのような印象をお持ちでしょうか

実はチェーザレという人物も、このお話をいただいて知りました。原作は絵も緻密で細かいですよね。今回のミュージカルでは、原作の1巻から10巻くらいまでをまとめたお話になります。チェーザレは31歳ほどで割とあっけなく亡くなってしまいますが、インターネットなどで調べても、そんなに情報が出てくる方ではなかったんです。なので、実際のところチェーザレって何者なの? っていう謎が最初にありました。――わかりやすく情報がたくさんあるタイプの人物ではないかもしれませんね

惣領冬実先生が原作となる漫画を描かれるにあたってもかなり取材をされていて、今現在も進行形で続いています。何かで惣領先生のインタビューを読ませていただいたんですが、チェーザレはスペインの出身でイタリアの人間ではないこと、ボルジア家が教皇の椅子を狙っていること、そのためにいろいろな手段で画策をしていること…それらのことを良いと思っている人と、そうでない人がいて、ボルジア家を悪い印象で書いている文献もあれば、とても聡明でかなり評価している文献もある。その両方を知れば知るほど、どうやってチェーザレを描くべきか悩まれたそうなんですね。当初の期限には到底間に合わなくて描き出せず、1年や2年延ばしてようやく描き始められたそうなんです。チェーザレという人間がとても謎めいていた、と。そのインタビューを読んで、ミステリアスな部分を、謎のままではなくて、ご自分なりのチェーザレ像を歴史的裏付けをもって描き始められたんだな、と感じました。16歳と若くして司教になっていて、武芸にも秀でていたという聡明さ、その一方で、目的のためには手段を選ばない冷徹さ、一般的に思われているチェーザレ像はそういうものだと思うんですが、今回は、のちにそのように語られていく”手前”のところが描かれていきます。

 

――チェーザレがいかにして歴史に名を残すような人物になっていったかが描かれていくわけですね

学生間での仲間内でのやりとりは、どちらかというと純粋なチェーザレが見えてくるでしょう。大人たちの中で父が教皇の座を得るためにどんな動きをしていたのか、フランスやスペイン、イタリア、いろんな国の枢機卿たちとの関わりを、16歳ながらに見つめる部分もあります。製作発表会見でも歌わせていただいた楽曲の中には“欺瞞と堕落にまみれたバビロン”などという言葉を使われていますが、本当は神を信じたい気持ちがありながら、まつりごとに明け暮れている教会は果たして教会なのか、という疑問を抱いていて、その思いが確実に頭角を現していきます。そういう部分をもって、演じていくことになると思います。

 

――作品のことを追う中で、今現在、胸に響いているものや役を掴むきっかけになっているようなものはなんでしょうか

本当にたくさんあるんですが…今一番ホットなものだと、側近のミゲルというチェーザレにとって一番身近な存在がいるんですが、ミゲルはユダヤの没落貴族の出身で、子供のころからチェーザレを守る存在です。このミゲルを宮尾俊太郎さんが演じられますが、取材などで少しご一緒する中で、すでに宮尾さんの中にミゲルを感じているんです。宮尾さんは日本にバレエというものをここまで根付かせたKバレエカンパニーで、今なおその魅力を作り、お客さんに届け続けている稀有な牽引力を持っています。僕はミュージカルという世界で抜擢していただいてから今がありますが、宮尾さんもバレエの世界で…ご自身では始めたのは遅かったとおっしゃっていましたが、確実に存在感を持たれています。そういう僕たちが出逢って、その出逢った場所にこの作品がある。そんなふうに思えたんです。衣装や音楽などいろいろな要素はありますが、バレエは肉体で表現して感動を呼びます。一方ミュージカルは、お芝居から派生してその人物を読み解き、それを音楽で表現して感動を呼び寄せるもの。それぞれに持っているポテンシャル、それぞれの表現の先にある交わったところ、という感じがしているんですね。そこに新たなミュージカルが生まれようとしています。その関係性が、僕がチェーザレで、宮尾さんがミゲル。そのことが、とても僕の気持ちをホットに、ワクワクさせています。――今、チェーザレをオリジナルミュージカルにするということに何か感じる部分はありますか

チェーザレってなんぞや?っていう人はたくさんいらっしゃると思いますが、そのことがターニングポイントになるんじゃないか、とも思っています。いろいろなオリジナルミュージカルがあっていいと思うんですが、ミュージカルの世界に引き上げていただいて、いよいよ自分がオリジナルミュージカルを作っていくというところに来ているんですね。常々オリジナルのミュージカルを作っていかなければダメだ、と感じていたんですが、いち俳優がそんなことを考えても…と自問自答するときもありました。ミュージカルに浸透していけばいくほど、ミュージカルの価値を考えるようになって、流行りや流れだけでなく確かなものを遺していかなければいけない。オリジナルを作るうえでそれも大切なことじゃないかと思っていたところなんです。そんな時に、温められていたこの企画のお話をいただいたんです。チェーザレは決してわかりやすい題材ではありません。けれど、今の時代に置き換えて観ることができるんじゃないか、という企画の意図を、今僕がわかり始めているんです。チェーザレは君主論のモデルになったといわれていますが、目的のために何を選択するのか、リーダーとしての力強さをチェーザレには感じるんですね。リーダーを求めるような風潮は現代にも感じています。時代がオーバーラップしていくような、舞台上にその両方が見えてくるようなミュージカルの力。そこにオリジナルの価値を見出そうとしているのではないと思うんですね。表面的なものでは演じることができないし、関わることができない。共演の皆さんの顔ぶれを見ても、機が熟して、今、この作品をお届けできるタイミングが来ているんだろうな、と実感しています。今僕が感じているものを、お客様にも実感として残せたらと思いますね。ミュージカルとして、爪痕を残したいです。


――それは中川さんご自身にとってもターニングポイントになるのでしょうか

20周年に向けて、そういう作品になると思います。先日、僕のミュージカル俳優としての生みの親、小池修一郎先生が「フランケンシュタイン」を観に来てくださったんですが、楽屋でとっても大切なことをお話していただいたんです。これまでは、中川晃教にと当てられた役をがむしゃらにやってきたけれど、その一方で、ひとつの型にははまらない幅のある俳優になりたいとも思ってきました。縦軸と横軸の両方が伸びれば伸びるほど大きくなるものですが、そういう自分になるためには、自分がやりたい、表現したいと思うものをやっていくこと!と、小池先生からいただいた言葉を噛みしめるうちに、自分がそういうものを大切にしなければいけない、ターニングポイントにいると感じています。やがては、オリジナルミュージカルを作るかもなるのかもしれませんが、自分の考えや興味を自分から発信していくことを大切にしなければいけないんだな。と改めて思いました。座長として、どんと構える部分、気を遣う部分…決して焦ってはいけないし、自分が何をすべきかわかっている立場に、そろそろなっていくんだね、という言葉も小池先生からいただいたので、チェーザレという役はいただいた役ですが、そこにいち俳優として自分を投影するような、枠にはまらない新たなオリジナルの形を作っていきたい。このミュージカルで出会えた奇跡を信じあえる仲間たちの中で、自分の与えられた立場というものも実感しています。

――会見でも歌披露がありましたが、音楽の魅力はどのように感じていらっしゃいますか

音楽の島健さんは、とても幅広い音楽に触れてこられた方で、日本の歌謡曲やJ-POPからジャズ、タンゴ、ラテンと、さまざまな音楽を操る魔法使いのような方なんですね。以前にも島さんの音楽でミュージカルをやったことがあるんですが、ピアノ1本で奏でたその旋律が本当に色とりどりの輝きを放つんです。島さんご自身もバレエやミュージカル、映画がとてもお好きで、たくさん観ていらっしゃるし、僕が言うのもおこがましいですが、本当にすごく勉強をされている方なんです。会見で披露した歌の旋律も、とてもアジア的な音階で歌謡曲のような要素も感じられますが、チェーザレの見つめる先にハッピーだけじゃない部分もある。上辺だけの幸せや平和でなく、本当の幸せ、平和に暮らせるとはどういうことなのか、チェーザレの瞳が見つめる先のそういう悲哀を島さんの旋律から感じるんです。島さんのドラマティックな音楽が、お客様に刺さればいいなと思います。

 

――今回のミュージカルならではの部分はどのようなところになるでしょうか

別所哲也さんが関わってくださって、チェーザレの父・ロドリーゴを演じてくださいますが、会見で歌唱披露した後、きっと別所さんは袖で聞いてくださっていて、歌い終わったあとに「いよいよだね、がんばろう」って声をかけてくださって、見守ってくださっているような感覚がありました。そんな別所さんをはじめ、オリジナルを作るという試みに対して、やってやろうじゃないか、と受け止めて、自分のやるべきことをやってくださる方々が集まっていることですね。自分の立ち位置や役割がある中で、そこからさらに前に出ていかなければという個人的な計算や狙いのようなものがある気がしているんですが、オリジナルミュージカルはそれではできない。関わる人たちの情熱や想いがないと作れないんですね。成功させるための計画やロジックはもちろん必要ですが、それぞれの情熱や想いと、オリジナルミュージカルを作るというスタートラインと、そのモチベーションがちゃんと融合している気がしているんです。初めての会う方も多いし、ともすれば殺伐としてもおかしくないのに、そういう空気ではないんです。チェーザレのミュージカルにみんなが賛同して想いを持って、それぞれのフィールドで戦ってらっしゃって、ちゃんと求められている方がこれだけ揃っている作品というのは、ほかにはないと思います。チェーザレを作っていく、すべての過程、感覚が、特別な感じがします。

 

――期待しています。本日はありがとうございました取材・文:宮崎新之

スタイリスト:KAZU
ヘアメイク:松本ミキ