ミュージカル回想録『HUNDRED DAYS』稽古場レポート

2月20日よりシアターサンモール・3月4日から中野ザ・ポケットで上演される「HUNDRED DAYS」の稽古場を訪問した。今回は冒頭のシーンと、タイトルでもある曲” HUNDRED DAYS ”など、一部シーンを観劇した。

 

この作品は、アビゲイル・ベンソンとショーン・ベンソンという夫婦によって紡がれる、二人の回想録。実在する(そして今でも活動を続けている!)この二人は、ベンソンズとしてバンドを組み、自らの出会いを音楽に乗せて観客に伝える作品を作った。その音楽の美しさと二人の愛が感動を呼び、話題となった作品が日本に初上陸するのだが、その作品がこの「HUNDRED DAYS」である。 

舞台上は二人のシンガーとピアノ・ドラム・ベース・チェロの6名のみで構成される、『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』を彷彿とさせるシンプルな作り。

バンドのリーダー、アビゲイルは、ロックミュージックに乗せながら、自身の過去やショーンとの出会い、愛や孤独、生、そして死について、回想しながら曲に乗せて伝えていく。 アビゲイル・ベンソンを演じるのは、美しい歌声に定評のある木村花代。「木村花代がロックなんて」と言われたこともあるというほど可憐なイメージの強い彼女が、今回は、自分の感情のまま生きる、繊細ながらも意思のある女性を演じる。その夫、ショーン・ベンソンを演じるのは実力派俳優であり、ミュージシャンとしても活躍する藤岡正明。少しシャイながらも、アビゲイルの隣でギターを弾いて、彼女を見つめ続ける姿が印象的だ。 物語はアビゲイルの語りから始まる。とはいっても、“語り”ではなく“語り掛け”が正解かもしれない。ステージと客席の枠を破壊するように、本当に観客に語り掛け、コミュニケーションをとっていくのである。どこまでがセリフで、どこまでが本当の会話なのか?これまであまり感じたことのない不思議な雰囲気に、一気にステージと客席の距離が近づいていく。 この作品は“ミュージカル回想録”ということで、作品内で披露される楽曲についても少し。二人の歌唱力が抜群なことは言わずもがなだが、それでもやはり書かせてほしい。作中では、木村のどこまでも飛んでいきそうな高音ボイスに、藤岡の優しい歌声がマッチして、これはもはやコンサートでは…?というクオリティの高いサウンドを何曲も体感できる。さらに、ベンソンズ自身が作詞・作曲した楽曲たちのおかげで、メロディに乗って感情が増倍していくよう。オペラでもミュージカルでも音楽劇でも、やはり音楽というのは感情を表現するのにとても適したツールだなと思うのだが、その力の強さを改めて感じさせられた。観ているときから、これはサントラをエンドレスリピートしてしまうな…と確信。音源化、ぜひお願いいたします。稽古後のインタビューでは、藤岡が「(実在の)ショーンになりきるわけではなく、藤岡正明でいるわけでもなく、アビゲイルやバンド、観客との関係性の中でショーンという存在に見えるたたずまいをしたい」と話していたが、作品を観た後ではあまりにも納得できるコメントだと思ってしまった。それぞれ自分であり、役でありながらも、その場の周囲との関係によってその人そのものとして認識される。観客との距離の近い公演だからこそ、その言葉がとてもしっくりくるものであった。最後に、「孤独に敏感な人、孤独に対して共感できる人たちにぜひ、観に来てほしい。」と話した木村。自身が孤独に敏感であると話す木村だからこそ、共感できる部分が多いはず。

何か少しでも孤独について考えたことのある人、自分と同じ仲間を探す気持ちで、ぜひ一度観に行ってほしい。