笹本玲奈 インタビュー|ブロードウェイミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』~あの頃の僕たち~

ミュージカル界の豪華キャストが勢ぞろいして上演される、ブロードウェイミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』。斬新でスタイリッシュな新演出版が日本初上陸する。ウエストエンドを代表する大女優マリア・フリードマンが、初演出として手がけ、ローレンス・オリヴィエ賞リバイバル作品賞をはじめ数々の賞を受賞した。作詞・作曲を手掛けるのは、現代ミュージカル界の巨星・スティーブン・ソンドハイム。ソンドハイムの陽気でキャッチ―な音楽に乗せ、ブロードウェイ・ショービジネス界での若者たちの成功と挫折を、現在から過去へ逆再生で描いていく。

かつて”親友だった”3人を演じるのは、全員が同い年の平方元基、ウエンツ瑛士、笹本玲奈。小説家・演劇評論家のメアリーを演じる笹本に、作品への思いや、自身の活動などについて話を聞いた。

 

――出演が決まって、率直にどう思っていますか?

すごいメンバーが集まったなと驚きました。今回のお話を頂いた時に台本を読ませていただいて、ストレートプレイでやっても面白そうと思ったのが第一印象です。その後に曲を聞いて、さすがソンドハイムさんだと。曲がインパクトがあって、難解なイメージがありますが、意外とキャッチーな曲も多くて、ミュージカルとしてもすごく楽しめそうだなと思いました。

 

――その豪華なキャストの皆さんは同世代が多いですね。

そうなんですよ! 平方さんとウエンツさんと私は同級生なんです。役的にも同世代の役なので、3人組が同級生なのは嬉しい驚きでした。

 

――おふたりと何かエピソードなどはありますか?

おふたりとも共演するのは初めてです。平方さんは、同じ事務所なのでもちろんお話をしたことも何度もありますが、ウエンツさんには、今日の撮影で初めてお会いします。テレビで拝見する限り、とても明るい印象があって、しかも演劇を学ぶために留学されてましたよね。帰国してすぐの作品なので、本場ロンドンで勉強されてきた方とご一緒するのも興味があります。彼が学んできたものを、私も学ばせていただきたい気持ちがありますね。

 

――作品や共演について、平方さんとはお話されましたか?

平方さんが私の舞台を観に来てくださった時に、「共演するね」みたいな話はしましたが、まだ深くお話したことはなくて。作品について共演者の方と話したことはまだないのですが、とても楽しみにしています。

 

――今回はフリードマンさんが演出されますね。

彼女はウエストエンドの大スターなので、女優さんとして学びたいと思うこともたくさんあります。私は、女優兼演出家という方とご一緒するのは初めてですが、演者の気持ちもスタッフ側の気持ちも、両方理解できるのではないかと思います。聞きたいことはたくさんあるので、寄り添ってお話したいなと思います。

 

――笹本さんは数々の作曲家の名曲を歌ってこられていますが、ソンドハイムさんの楽曲を歌うことは、どう感じていますか?

ミュージカルの、“ザ・作曲家”という方たちの作品をいろいろ歌わせていただき、ソンドハイムさんの曲もいつか、と思っていたので、この作品で歌える日が来るとは、本当に嬉しいです。どういう曲なのかなって、やはり構えていたんですよ。ソンドハイムさんの曲はあまりにも難しい曲が多いので、自分の歌う曲はどういったものなんだろうと思って聞いてみたのですが、キャッチーだし、現代の人たちが聞いても耳馴染みが良いんじゃないかと思う曲ばかりで、それは意外でした。もちろん、ソンドハイム調というか、とても難しい曲もありますが、オーバーチュアや、その後に続く曲は、一度聞いたら忘れられないくらいポップな曲なので楽しみですね。

 

――ストレートプレイでやっても面白そうと仰いましたが、たくさんの役を演じてこられたなかで、メアリー役に対して今の印象はいかがですか?

キャラクターひとりひとりが人間らしく描かれているなと思います。どのキャラクターを見ても共感しますし、男女の関係や夫婦間の問題とか、生々しいんですよね。私が演じるメアリーも、一見普通の女性ですし、抱えている問題や「こうしたいな」という思いがあまりにも普通の女性すぎて魅力的だなと。ミュージカルはどちらかというとゆめゆめしいというか、非現実的な作品も多いと思いますが、人間関係や抱えている問題にリアリティがあるのが、ストレートプレイっぽいと感じたところです。そこにソンドハイムさんの曲がついていることで、とても魅力的な作品に仕上がっていると思います。物語は生々しい作品なのですが、そこに一度聞いたら忘れられないような、素敵な楽曲があることがこの作品の魅力ですし、時系列が過去に遡っていくのが珍しいと思うんですよね。現在に置かれている問題が、どんどん過去に遡っていくにつれて、より切なくなっている気がします。そこが胸がきゅっとするというか、考えさせられるなと思いました。

 

――物語はこれまでの人生を遡りながらその時々の選択を辿っていきますが、ご自身の人生において、あの時が選択だったなと思うようなことはありますか?

今のことや、この先のことに考えがいってしまって、過去のことを忘れてしまうことのほうが多いんですよね。でもミュージカルを始めたのはなぜだったのか、子どもの頃にミュージカルをやりたいと思ったのはなぜだったのかということを、事あるごとに思い出すようにしているんです。初心をちゃんと忘れないということや、自分がどういったことが好きでこの世界に足を踏み入れたのかということを、忘れないこと、ちゃんと思い出すことが、節々で大事だなと思っています。この作品が訴えかけていることは、そういうこともあるのかなと思います。もちろん前だけを向いて突き進んでいくフランクのような、野心的な考え方も人間には大事ですが、やはり、なぜ夢を持ったのかという過去をちゃんと思い出すことが、すごく大事だと思いますね。

 

――子供の頃にミュージカルをやりたいと思った時のことを忘れないように、思い出すようにしているというのはなぜでしょうか?

きっかけは、言葉で言ってしまうと簡単に聞こえるかもしれませんが、「人を感動させたい」と思ったことです。小さい頃にディズニーランドに行って、ショーを観て、すごく幸せな気持ちになったんです。私がミュージカルをやりたいと思ったのも、自分自身が感動したので、今度は自分が感動を与える立場になりたいと思ったから。その思いをどうしても忘れてしまう時があるんです。目の前にある大きな役をこなしていくのに必死になってしまったり、人の評価が気になってしまったり、自分の今後がどういう風になっていくのかが気になってしまったり。そんなことが気になり始めると、なぜこの仕事をしているのかということを忘れてしまうんです。だから、事あるごとに、そういう時こそ、自分の子どもの頃のことを思い出すようにしています。

 

――今年はやはりそういうことについて考える機会は多かったですか?

多かったですね。自粛期間中と同じように、3・11の時に公演が中止になった時もそうでしたが、自分にとってこの二つは本当に大きな出来事でした。自粛期間中は、演劇を続けたい、続けなければいけないけれど、世の中が許してくれない状況でした。その葛藤、演劇が必要とされていないのではないか、やったら批判されてしまう、感染源になってしまうかもしれないという状況になって、演劇は何のためにあったのか、お芝居とは何だったんだろうと考えました。

 

――舞台上演が再開されて、『ハウ・トゥ・サクシード』に出演されていましたね。

コメディ・ミュージカルなので、このご時世に合っていたなと思います。

 

――コメディや、ハッピーな作品に行ってみたら、「今これが欲しかったんだな」と思ったというか。

そうですね。私も笑うことや、お客さまが笑う姿を、欲しすぎていて、泣いてしまいました。笑っていることが逆に泣けてしまうというか。最近は重厚なミュージカルが主流になってきていますが、もっとハッピーなミュージカルも増えればいいなと、あの時思いました。

 

――今後は映像作品も予定されていると伺いました。舞台や映像など、様々な活動についてはどんな思いで取り組まれていますか?

自分の存在を知っていただくためには、舞台だけでなく、今後ドラマも積極的にやっていきたいなと思います。舞台と映像は違いはありますが、お芝居をする、表現をするというところでは同じです。やはり私は表現をするのが好きなので、場所が舞台であっても映像であっても、表現をすることを続けられたら幸せだなと思います。

 

――ミュージカルをやりたい思いの原点は、人を感動させたいからと仰っていましたが、映像に関してはどう感じていますか?

感動を届けるという意味では一緒だと思います。生の舞台はその場でお客様の反応があるのでやりがいを感じますし、映像の場合は、シーンをバラバラに撮っていって、自分でもどうやって繋がっていくのかわからない状態のものが、いざ放送を見て「おお、完成されている!」と思った時にやりがいを感じます。どちらもやりがいがあって、表現しがいが、お芝居しがいがあると思います。

 

――それこそウエンツさんは、バラエティも含めて映像でご活躍されていますし、映像など様々な活躍をされている方との共演は刺激を受けますか?

そうですね。昨年の『ウエスト・サイド・ストーリー』は声優さんもいて、それこそ声で表現することのプロが結構たくさんいたので、私には刺激的で、勉強になりました。いろいろな場所で活躍している俳優さんとご一緒すると、自分にもこういう表現の仕方があったんだと、自分自身の新しいポイントを発見したりできます。『ノーサイド・ゲーム』では、本当にお芝居をやったことがない普通のラガーマンの方とご一緒しました。お芝居経験が全くない方々ばかりでしたが、それも私には本当に新鮮で。お芝居をまったくやったことがない方のお芝居って、お芝居じゃないんですよね。演じていないというか、その人の姿で、そのキャラクターとして存在している。そこが本当にすごいな、到底かなわないなと思いました。そういう彼らを見て、生々しい自分に近づけるように努力しました。面白かったですね。

 

――いろいろなジャンルの方との出会いが、発見に繋がっていくんですね。以前「10代の頃から役を演じ続けていて、自分がどんな人だったかわからない」と話されていたのを思い出しました。

今もドラマを2作品やっているので、ふたりのキャラクターをやっていますし、1年を通して、自分でいるよりも誰かになっていたほうが多い時もあるんですよね。今回は自粛期間があって、自分を見つめる時間もたっぷりありましたが、作品が詰め込まれている時は、自分だったらどう考えるか、そもそも自分って何だっけ、となってしまったりするんです。そうなることが自分でよくわかっているので、なるべく自分のなかで、仕事とプライベートをきっちり分けるようにしています。そうでないと切り換えられなくて、引きずってしまうというか。作品の役のまま家に帰ってきてしまうタイプなので、そうならないように気をつけています。例えば、稽古場を出たら絶対に台本を開かないとか。撮影や稽古が終わって、家に帰るまでの時間は、自分を取り戻す時間だと思っています。基本的には自分で運転するのですが、運転する時間に自分に戻る作業をする努力をしなければ戻れないですね(苦笑)。

 

――切り替えが習慣づいて確立してきたものはありますか?

本当にリラックスできるようになりました。体ってすごく正直で、お客さまの前に立っていると、すごい緊張状態になるんですよね。その切り換えがうまくできなかった時は、本当にガッチガチになったまま寝るんですよ。寝ている間も、気づいたら顎に力が入っていたり。

 

――歯をくいしばって寝ているみたいな?

そうなんです。以前は、力を抜こうと思わなければ抜けなかったり、体がベッドの上にいるのに誰かに見られている状態になっているという感じでしたね。

 

――それで毎日の公演をこなすとなると、フル稼働している感じですよね。

疲れもとれないし、自分自身がわからなくなってしまい、自分も取り戻せなくなってしまいます。そうじゃいけないんだよと教えてくれた演出家がいて、彼と出会っていなかったら、自分を取り戻すということがうまくできなかったと思います。

 

――今はオフの時間で大事にしていることや、自分の栄養源みたいなものはありますか?

自分の時間はちゃんと作るようにしていますね。家に帰って、子どもを寝かしつけた後の時間は、自分の好きなことをする時間。SNSを見まくったり、Netflixを見たり、自分の好きなことをする時間を毎日ちゃんととってから寝るようにしています。

 

――お子さんとの時間はいかがですか?

毎日面白いぐらいに成長しています。今3歳ですが、どこでそんな言葉を覚えてきたの?ということを言っていたり(笑)。私が仕事の時は祖母に預かってもらっているのですが、この間も、語尾が全部「~よ」となっていて、それってお祖母ちゃんが言っている言葉だと思うんですよね。「良いお天気ねえ」とか。多分、お祖母ちゃんが言っていることをそのまま言っていて、本当に面白いぐらいにいろいろなことを学習していくので、見ているだけで笑います(笑)。

 

――上演は5月になりますが、この作品をどんな風に届けたいか、どんな風に観ていただきたいか、最後にメッセージをお聞かせください。

コロナ禍で、やはりいろいろな職種の方がいて、皆さんそれぞれに大きな悩みや不安を抱えている2020年だったと思います。2021年になっても、どういう風に状況が変わっているかわかりませんし、皆さんこの先についての不安が今とてつもなく大きいと思います。そんななかで、先のことしか見えなくなりがちだと思うんですよね。この作品が、結局何を一番伝えたいことなのかは、私もお稽古を通して見つけていきたいので、あまり具体的に言えませんが、少なくとも脚本を読んだ時に、過去に自分が思ったこと、やり始めようと思ったきっかけは、忘れてはいけないことで、ちゃんと初心に帰る、原点を見つめ直すことが人には大切で、前ばかり見ていたら頭がすごくガチガチになってしまうんだと。いったん過去を振り返ってみることで、心と頭が緩むのではないかと思いました。この先の不安や「これをやらなければいけない!」とか、真面目な方ほど思い詰めてしまうと思いますが、過去を振り返って、それが癒しになるとか、自分自身の心を解きほぐすものになると思うので、そんなことをこの作品を通して受け取ってもらいたいなと思います。

 

取材・文:岩村美佳