オフ・ブロードウェイミュージカル『The Last 5 Years』ジェイミー役の木村達成、平間壮一、水田航生インタビュー

オフ・ブロードウェイミュージカルの傑作『The Last 5 Years』が、木村達成×村川絵梨、水田航生×昆夏美、平間壮一×花乃まりあ、の3組のキャスト、小林香による新演出で上演される。ふたりの男女の心の揺れ動き、すれ違いを描いた普遍的なストーリーと、ドラマディスク賞を受賞した美しく魅力溢れる楽曲が魅力の作品だ。2001年にシカゴで初演され、その後オフ・ブロードウェイに進出、世界中で上演され続けている。ジェイミー役の木村、水田、平間に、作品の印象や見どころ、ジェイミー役についてなど話を聞いた。

 

ーー作品の出演が決まったときのご感想をお聞かせください。

平間 ちょうど出演が決まる少し前に、ミュージカルのサントラをいろいろと調べていて、いい曲だなと思ったのが『The Last 5 Years』だったんです。出演が決まったと聞いたときは、自分は歌えないなと思ってたんですよ。こういう曲が歌えるようになったらいいなと思っていた矢先にやらせていただくことになって、焦りがありましたね。これから頑張ります(笑)。

水田 僕は、お世話になっている山本耕史さんが出演した作品であり、事務所の先輩の村川絵梨ちゃんが一緒に出演していたことも聞いていました。耕史さんからも、「この作品が本当に好きで、曲がかっこいいんだよ」と伺っていたので、まさかその役を自分がやらせていただくなんてと、一番最初に思いました。耕史さんに伝えたら、「本当に難しいぞ」とプレッシャーをかけれました(笑)。実際に曲を聴いたり、映画を観てみると、これはただ事じゃないぞと。ここから、どうやって高めることができるか恐怖を感じながら、ある意味自分に期待を持ちながら稽古していきたいなと思います。

木村 2014年に公開された映画に出演しているアナ・ケンドリックとジェレミー・ジョーダンが上手すぎて、すごくプレッシャーは感じましたが、作品自体は舞台にぴったりだと思いました。僕と一緒やってくださる村川さんは前回もやられている方なので安心しました。すごく素敵な瞬間を作れたらいいなという気持ちと、ふたりでこの時間を作り上げるプレッシャーみたいなものは徐々に感じ取っています。というのは、やはり曲を練習していく中で、ビッグナンバーばかりで本当に気が抜けないというか。デュエットもあまり多くありませんし、ひとりでお客さんに気持ちを伝える瞬間が多いので、頑張らなければと思っています。

 

ーー映画や脚本をご覧になって、この作品の魅力はどういったところに感じましたか?

水田 このストーリーの中の、どこかひとつくらいは皆さんが共感できるポイントがあると思うんですよね。僕たちは日本人で、彼らはアメリカですが、人種の違いは置いておいても、男女で起こりえる共感するポイントでお客さんの心をぐっと引き込み、前のめりにさせる、ひとつのスパイスなのかなと思います。

平間 一番の魅力は、曲じゃないですか? 言ってしまえば、すごく人間味のあることをしていて、誰かが悪いわけでもなく、誰かがいいわけでもないという、ストレートプレイの舞台でやったら、よりもっと深い人間らしい話なのに、そこをあえて音楽でポップさや愛おしさ、寂しさを表現しているのがこの作品の魅力かなと思います。

木村 人間は完璧じゃないよねと、この作品を通して思うことでもあります。その完璧ではないところを役者さんたちが完璧に演じているところ、歌やいろいろなものの緻密さが、面白さだと思います。テーマは本当に、そんなこねくりまわしたものではなく、人間が、人間らしく、どう思っているか。物語って、難しく、こねくりまわしがちじゃないですか(笑)。

水田 確かに。

平間 伏線を回収して、どうのって。

水田 お客さんがすべてキャッチできるとは限らないからね。

木村 そういう作品ではなくて、人間らしい。人間が絶対に持っているエゴ、嫉妬心、浮気心。今、おふたりも言ったように共感できる部分というのは。

平間 誰しも浮気心は持っていない(笑)。

木村 僕は持ってるんです……やめなさい(笑)。そういう人間ぽいところが一番魅力だと思います。

 

ーーこの企画を3ペアでやるところがすごく面白いなと思いましたが、同じジェイミー役をこの3人でやると知ったときは、お互いに対して、どう思われましたか?

水田 知っている人でよかったなと。知っている人だからこそ、「あのふたりは、どうやってやるんだろう」と思ったりします。僕は絶対に自分と同じ役をやるふたりを観たくないので、興味はありますが、観るのは怖い。影響されてしまうのも怖いから、本当にマイペースにやりたいですし、このふたりだからマイペースにやれる気がしています。最初に、そう思いました(笑)。

平間 全員役者さんでよかったなと思いましたね。

木村 歌手の方が来ちゃうとね。

平間 歌だけではなく、芝居でいいんだなという安心感はありました。

水田 確かに。

木村 おふたりとも知っている方なので、楽しみです。僕も最初は観たくないなと思ったんですが、もし観るのであれば、キャシー役のふたりを観ようかなという気持ちになれました。自分がジェイミーとして観るキャシーの村川さんと、彼らが一緒にやっているキャシーはどう違うんだろうと。あのキャシーだったら、こうやっていくんだろうなみたいなところが、計算のバリエーションは増えると思うんです。ジェイミーとして、ふたりのジェイミーを観るのは嫌ですが、キャシーは観たいかな。

水田 観たいよね。キャシーを観たい。

平間 そうね。

水田 でも、一杯引っかけてからじゃないと観れないわ(笑)。

(一同笑)

水田 それくらいが、ちょうどいいかもしれない。

木村 でも、可能なんじゃないかな。劇場の楽屋で観ることもできるでしょ。

水田 全部終わってからじゃないと無理だわ。大阪の最後に、自分が終わって、どっちかがやっているのを一杯引っかけて昆ちゃんと観る(笑)。

平間 同じじゃないと思えば、楽じゃない?

水田 そうだね。まったく違う風になると思うし。

 

ーー現段階では、ジェイミーという人物について、それぞれどういう風に捉えていますか?

平間 「男!」という感じでしょうか。「ジェイミーという人間」というよりは、「男のまんま」というか。思うがまま進んでいるヤツ。

水田 女性は嫌いだろうな、こういうタイプは。

木村 でも、女性って、そういう男に捕まっちゃうんじゃない? 本能的な何かで、興味が湧いてしまうんじゃない? アグレッシブな感じとか、後先考えない感じとか。

水田 キャシーの友だちは、ジェイミーのこと大嫌いでしょ。

木村 「キャシー、絶対やめな!」って言われてんのよ。

平間 それは、そうだね(笑)。

水田 だからこそ、壮一君の言う「男」という感じがジェイミーにはあるかな。

木村 そういうところは、文化は関係ないんだなと。日本人である自分たちも共感できる部分もあるので、カルチャーショックもまったく受けず、理解しがたいこともないですし、むしろ共感できるところの方が多いかなと思います。アメリカンドリームを掴んだときに周りが見えなくなってしまうこともあるだろうなと。僕もこういう職業なので、もちろんキャシーの嫉妬、周りが見えなくなっていく様も、もちろんわかると思うんですよ。だから、この作品の物語は理解している分、お客様により明確に伝えることが可能なんじゃないかと思っています。ただ日本語の歌詞も難しいよね? 三連とか、めちゃくちゃあるよね。

水田 めちゃくちゃあったね。

木村 リズムも、すごく難しい曲が多いので頑張ります。

 

ーービジュアル撮影のときに相手役の方と何か話はされましたか?

木村 恥ずかしかった。話すよりも「恥ずかしい」が勝ったかな。フルーツの食べさせ合いみたいなのしたの。

水田 僕は生ハムとかチーズとか。

木村 撮影中に動くんですが、撮るのは静止画じゃないですか。だから、この瞬間で止まらなくちゃいけないというのが、一番恥ずかしかったです。「あ?ん」で口に入るか入らないか、みたいなところで止まるのが恥ずかしかった。ど緊張(笑)。恥ずかしさを乗り切って落ち着くまでに、ちょっと時間がかかりました。

平間 写真めちゃくちゃよかったよ。

木村 本当?

平間 一番手だったもんね。だから、「どんな感じだったんですか?」って見せてもらったんだけど、めっちゃいいじゃんって。

木村 「アイツ、こういうのできないんだ」となめられたらいけないと思って、余裕な感じで「了解っス」みたいな。こんなところで恥ずかしがってたら今後うまくやっていけないなと思ったから、その後はもうガンガン行きました。

平間・水田 (笑)。

 

ーー村川さんの印象はいかがでしたか?

木村 僕は野球をやっていたんですが、村川さんは以前野球のドラマとかにも出演されていたじゃないですか。ちょっとミーハーな心が出ました。「はぁ!」っていうの。この人と一緒に恋人役をやるんだ、というデレデレな感じも、もちろん出ました。だから、緊張したんだと思います。

水田 ミーハー心からの緊張だったんだ。

木村 そう。あんまり、そういう気持ちになることはないんですが、当時の記憶がばーっと蘇ってくると、少しはね。鼻の下も伸びますよね。

水田 それ、印象じゃなくない? 達成の気持ちだけ(笑)。

木村 きもいな、俺(笑)。

 

ーー平間さんは、いかがでしたか?

平間 花乃さんは空気が丸い方で、近寄ったときにとげとげしさがない方だなと思いました。僕も、そんな写真を撮ったことがないから緊張するんだろうなと思って行きましたが、意外と緊張せずに最初から、がっつり触れ合っていけたかなと思います。お相手の空気感がそうさせてくれただけなんですが、うまくやっていけそうだなと思いました。

木村・水田 さすが!

水田 僕は3番目の撮影でした。しかも、時間も若干空いていたので、もうセレクトされた写真が貼ってある状態で、ふたりがすごいと思って(笑)。完璧にできているのを見せられたから、プレッシャーを感じました。「壮一君が『航生は大丈夫だから、慣れてるから』って言ってたよ」とカメラマンさん言われて、何を大丈夫だと言ったんだろうと(笑)。昆さんとは、ほぼ同じ歳くらい。とても気さくな方でしたし、共通の知り合いが多すぎて、「初めましてじゃないみたいですね」みたいな話をしつつ、「緊張するね」「これでいいのかな」と言いながらも、とても楽しい撮影ができました。その後に、役についても話す機会があったのですが、ざっくばらんに「敬語やめようよ」とか、最初に男女がやるような話をクリアできました。稽古場に入るときは、一度その入り口は終わっているから、最初から踏みこんだ話ができるんじゃないかなと思います。

木村 羨ましいです。「敬語やめようよ」のくだり、やればよかった。

(一同笑)

木村 「何て呼んだらいいかな」みたいなやつでしょ。

水田 そうそう。やってないんですか?

木村 やってない。

水田 嘘。マジで?

木村 やればよかった……。

 

 

ーー日本版では以前上演されていますが、今回は小林香さんによる新演出になります。小林さんの演出に対する期待など、どんな風に思っていますか?

水田 初演のときは、鈴木勝秀さんが演出で、やはり男目線の脚本を男性が演出するという良さも、もちろんありました。男くさかったり、作品にプラスになるものもあると思いますが、今回は、女性の小林さんが演出することによって、初演には観られなかった視点や、違った角度からの見え方があって変わりそうだなと。小林さん自身も、とても視野の広い方だと思うので、演出面でも、その違いがあるのかなと思っています。とても細かい演出をしてくださり、本当に自由にやらせてもらえる演出家なので、自分たちで意見を言い合って、ディスカッションの時間を大事にしていきたいなと思います。

平間 役者にもいろいろなタイプがあって、感覚派で動く人と、すごく緻密に組み上げていくタイプがいますが、そのすべての人を相手にしてきたんだろうなというのが香さんの印象で、どちらにも対応できる方だと思います。特に、僕自身は感覚派よりで、「この台本の文章が、こうだから、こうですよね」と物事を言葉で説明するのが苦手なんですが、「今、こう感じたんですけど」ということなども、ひとつひとつ整理しながら演出してくださいます。このまったくタイプの違う3人の役者たちをまとめて、どこかしらのポイントで、ひとつの演出をつけなくちゃいけないですよね。バラバラでいい部分と、ここは決めようという部分を、どういう風にまとめて作ってくださるのかなと思っています。小林さんは作品に愛を持って挑んでいるイメージがあるので、『The Last 5 Years』が新しくなることは楽しみしかないですね。

木村 僕は初めましてなので、何もわからないんですが、やさしく、ときに厳しく接してくださるとありがたいです。あとは、ゾーンにたくさん入れるような演出がついたら嬉しいです。作品によってゾーンに入る瞬間があったり、なかったりするんですが、すごく感覚が研ぎ澄まされる瞬間というか。そんなゾーンが、この作品の中に何個現れてくれるのか、入れるのかと、楽しみですね。小林さんが、どういう演出をされるのかわかりませんが、そんなゾーンに入れる瞬間が多ければ多いほど、僕は素敵な作品になると思います。

 

ーー5年間を描くというのが、この作品ならではと思いますが、「5年」はご自身にとって、どんな変化があるものですか?「5年」という年月について、どういう風に考えますか?

水田 僕はこの仕事を始めてから、5年刻みで続けるか、辞めるか悩むので、「5」という数字は僕の中でも結構大きいです。5年経って、何を思っているんだろう、何を持っているんだろうと自分の中で再確認する期間。だから、この作品にも少し運命的なものを感じます。5年刻みで人生を考えていた僕にとって、その5年の過ごし方を舞台上で表現することを予期していたのかなと。

 

ーー今はその5年のどの辺りなんですか?

水田 ちょうど30歳で、5年が始まったばかりですね。まず20歳になったときに、やるか辞めるか決めようと、10代のころに思っていました。そこから25歳、30歳になったときに考えて。

木村 じゃあ、辞めなかったんだ。

水田 辞めなかったね。

木村 だから、さっき「朝起きたら、『起きられている』って考える」って言ってたんだ。

水田 そうそう。余命5年で考えている。

木村 すごいね。でかめのセミだね。

水田 何で、セミなんだよ。5年だったら、もっとあるだろ。

木村 セミは、1年間で1週間しか生きないんだよね?

水田 そういうことか。頭の中で大きいセミが出てきた(笑)。

(一同笑)

平間 5年は、あっという間というか、短いなと思います。長く感じる人もいると思いますが、自分の話でいうと、自分自身があまりブレていないというか。根っこにある部分がブレていないからこそ、アンサンブルをやっていたときから、気持ち面でいうと変わっていません。女性と付き合うにしても、5年経つことが当たり前で付き合いたいな。「5年ってすごい時間だよね」と、自分の中ではあまり思っていないかもしれないですね。

木村 5年は短いようで、長いですよね。僕は一周回って、5年前の23歳くらいのテンションに戻っているかなと思っています。当時は、理由がないけれど自信があった。例えようのない、湧いてくるものがあったんですが、そこからいろいろな作品を通して「ちゃんとやらなきゃ」「そんな理由のない自信なんてダサいな」など、いろいろなことを考えて、自分が自分ではなくなっていく瞬間みたいなことが結構あって、すごく嫌でした。今は、そういう説明のつかない自信みたいなものは、一周回って「最強なんじゃないか」と思っていて。本当にガキみたいなことを言っていますが、そうでありたいと、今すごく思うことなんです。それがジェイミーという役にもハマっていると思うんですよね。そういうことを考え始めたら、最強なジェイミーだと思うので。この作品があるから、そういう考えになっているのか、今、5年経ったから思うことなのかわかりませんが、僕らは役に対して、どこか共通点を探すことも仕事だと思います。それが「5年」なのか、「ジェイミー」なのかはわかりませんが、5年という月日が自分に与えてくれたものとしては、理由なき自信です。

 

ーー最後にメッセージをお願いします。

平間 「こんなふうに傷ついたことあるよね」と、お客様と共感できる空間になればいいなと思っています。傷の舐め合いをしに、是非観に来てください。

水田 初演や映画もあり、この作品への期待度は本当に高いと思います。そこに立ち向かっていくには並大抵の精神力と技術力では、まだまだ足りないと思うので、この夏までに、どこまで高めていけるのかは自分自身の課題でもあります。身体的な繋がりができない、この時代だからこそ、人間の心みたいなもの、日常の心に触れてもらうことによって、観てくれた人たちの、それぞれの人生の中にある日常の幸せや、かけがえのないもの、儚いものの尊さなどを感じてもらいたいです。何よりも曲などエンターテイメント性に富んだ作品だと思うので、ぜひ劇場に足を運んでください。

木村 とがった、この5年間を経て、根拠のない自信を会得した木村を、ぜひ劇場で堪能して欲しいです。

水田 「とがった」とか、ちょっと芸術家っぽく終わろうとしてる!

3人 (笑)!

 

取材・文・写真:岩村美佳