ミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』稽古場レポート【第2弾】

早くも初夏の兆しが見え隠れし始めた4月下旬、都内某所で行われているミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の稽古場へとお邪魔した。本作は宝塚歌劇団の元雪組トップスター、早霧せいなにとって退団後初となる主演ミュージカル。1981年にブロードウェイで上演され、トニー賞4冠に輝いた傑作ラブコメディで、早霧は“その年もっとも輝いた女性=ウーマン・オブ・ザ・イヤー”に選ばれた女性テス・ハーディング役を演じる。

 

宝塚歌劇団で長らく男役を演じていた早霧にとって、今回の役どころは大きな挑戦。以前、インタビューでは「男役の早霧せいなしかいない、としてしまうのは失礼な気がした。別パターンもいるよというのをお見せしたい」と、新たな姿を魅せていきたいと語っていた彼女。稽古場でもその意欲が大いに感じられた。

この日の稽古は、冒頭の1幕から行われた。その年のウーマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、大勢の声援を受けながら受賞を祝福されるテス。だがその表情は晴れない。スピード結婚をした夫で風刺漫画家のサムとの関係により、楽しみにしていたはずの受賞もまったく喜べなくなってしまったのだ。この部分は、いつも正しく、ひとりでパーフェクトだったテスが、サムの存在によって大きく乱され、戸惑う姿を冒頭から観客に印象づける重要な“つかみ”。一緒に踊る女性たちとのダンスの間合いや振り揃えの確認などを詰めつつ、セリフも微妙なニュアンスを少しずつ変えながら何度も繰り返していく。柔らかく揺れる巻きスカートを翻しながらステップを踏む姿は“ウーマン・オブ・ザ・イヤー”としての堂々とした姿でありつつも、どこか女性らしいキュートさものぞかせる。このワンシーンだけでも、早霧の新たな姿をビシビシと感じることができた。

次のシーンは、テスがキャスターを務めるテレビ番組の現場。放送直前のスタジオは慌ただしく人が入り乱れ、大声が飛び交う。放送開始数十秒前になっても現れないテスに苛立ちを隠さない、テスとともに番組の進行役を務めるチップ。チップを演じる原田優一はアドリブたっぷり、コミカルに場を盛り上げていた。遅れて登場したテスに苛立ちを隠さず物申すチップに、2人の仲が良くないことは充分に窺えるが、芝居の息はピッタリ。番組冒頭のキメ台詞「アーリーバードです」のポーズを2人で笑いあいながら打ち合わせする姿からは互いへの信頼感が感じられた。このシーンは、大勢の人が一気に舞台上を動き回り、誰かの移動速度が速すぎたり遅すぎたりするだけで場が乱れてしまう。セリフや移動のスピード感、間合いなどを逐次確認しながら進められていた。

 

場面は変わって、のちにテスの夫となるサムら風刺漫画家たちがポーカーを楽しむシーン。サム演じる相葉裕樹がテスの番組を観ようとテレビをつけるが、なんとその内容は風刺漫画を批判するものだった。強い言葉で風刺漫画を責めるテスに、彼らは呆然とし、テスへの怒りを大声で歌い上げる。このシーンでは、サムが描いた風刺のキャラクター、カッツも登場。サムの代わりにポーカーに参加したり、彼らの怒りを体を張って受け止めたりと大忙し。みんなが帰った後も怒りが収まらないサムは、テスを風刺するキャラクターを描き上げる。大口で胸はペタンコの猫、テシー・キャットの誕生だ。サムの描くキャラクターは映像としてステージ上に映しこまれるとのこと。どのような形に仕上がるのか楽しみなところだ。

 

この日の稽古では、出演シーンを拝見することはできなかったが、本作にはKバレエカンパニーのバレエダンサー宮尾俊太郎も出演する。普段はバレエをやっている宮尾にとって、ミュージカルの稽古は不慣れな現場だが、まるでバレエのジャンプのような動きでステージに登場するキャストから「どう? 前より動きが良くなってない?」と話しかけられ、「確かに。だんだん良くなってきてる(笑)」と笑顔で返すなど、すっかりとこのカンパニーになじんでいる様子。空き時間にバーレッスンをしつつ、早霧らと談笑するなど、稽古場には穏やかな空気が流れていた。

 

今回の稽古の中でも、セリフのニュアンスを少しずつ変えたり、アドリブを入れたりと、いろいろな変化が起こっていた。今回の演出は決め込むよりもいろいろなことを試してみて、アップデートしていくような方法をとっているという。そしてその挑戦をキャストが楽しんでいるのか、笑顔の絶えない稽古場だったのが印象的だった。そんなチャレンジングな現場だからこそ、舞台上で想定以上のことが起こる予感がヒシヒシと伝わってくる。どんなラブコメディを繰り広げてくれるのか、実に楽しみだ。

取材/文 宮崎新之