古田新太 インタビュー|ミュージカル『衛生』~リズム&バキューム~

他に類のない刺激度満点のミュージカル『衛生』で古田新太が福原充則演出に初挑戦!

脚本・演出の福原充則と共に企画段階からアイデア出しに参加しているミュージカル『衛生』に、息子役の尾上右近とW主演する古田新太。この主人公二人は自分たちの欲望のままに悪事を繰り返し、排泄物を肥料として扱う業者から見事に成り上がっていく。そんな彼らのパワフルな様子が痛快なのはもちろん、登場人物はキャッチコピーで“善人不在”と言い切るくらいの悪者揃いで、その構成の妙は逆に徹底していて気持ちがいいほどだ。他に類がないレベルに下ネタが満載で画期的、刺激も相当に強い注目作となっている。いよいよ迫ってきた7/9(金)の初日開幕に向けて稽古が着々と進行中の6月初旬に稽古場を訪ね、福原の脚本作品は既に経験済みだが演出を受けるのは初めてだという古田に、作品に感じる魅力や今回最もお気に入りの場面についてなどを語ってもらった。

 

――福原さんに脚本を書いていただく際に、古田さんからは何か注文を出されたんですか。
基本は丸投げです。こういうエピソードを混ぜてね、みたいな話はしましたけど。

 

――たとえばどういうエピソードを?
とりあえず、ゆうみちゃん(咲妃みゆ)をひどい目にあわせたいかな、と(笑)。だけど、そのシーンのダンスを(振付稼業)air:manに振り付けてもらっているのを見ていると、まったくゆうみちゃんが汚く見えずに、むしろ高貴な匂いすら感じてしまうんです。やっぱり出自の違いなんですかね、タカラジェンヌや梨園の人たちは背筋がスッと伸びているから。オイラや六角(精児)さんは猫背だから、出自が違うことがすぐにバレちゃう。インディーズとメジャーの違い、だね。

 

――特に古田さんは右近さんと一緒のシーンも多そうですし。
ケンケン(右近)だって、常に背筋が伸びてますから。下品なことばかりセリフで言っているんですけど、あの二人が出ていると非常に清々しい気持ちになるんです。ゆうみちゃんが演じる役は夜這いされたり、人買いに買われたりして、どん底の人生を送る女性のはずなのに、でも高貴なんですよ。NON STYLEの石田(明)くんがそんなゆうみちゃんに惚れる役なんだけど、彼女はもう人を信用できない人間になってしまっているから、うまい具合にはいかない。その二人のシーンがすごく可愛くてチャーミングなんです。オイラや六角さんやケンケンが出ている場面は暴力的なシーンが多いので、石田くんとゆうみちゃんのシーンが一服の清涼剤になる。こういう企画には、やっぱり清涼剤を入れておかないと(笑)。

 

――古田さん演じる良夫は、今のところどう演じようと思われていますか。
まだ一幕終わりのところまでしか作っていない段階なんです。今のところはケンケンに小劇場の演技パターンを教えたり、逆に見得の切り方を教えてもらったりしています。良夫はダメダメな人間だけど、ケンケンが演じる大よりは合理的というか悪さが理にかなっている気がする。大は感情的になっちゃう部分があるんだけど、良夫はこうしたら得、こうしたら損ということを考えて行動していますから。

 

――劇中音楽の印象はいかがですか。
福ちゃんが書いたヒドい内容の歌詞が、いきものがかりみたいなメロディーの音楽になればいいのにと思って水野(良樹)に頼んだつもりだったんですけど、意外に水野がこっち側に寄せてきていますね。黒人系ブラックミュージックの後ノリみたいな雰囲気の曲になっていました。オイラは(吉岡)聖恵が歌いそうな曲が歌いたかったんですけど(笑)。

 

――水野さんが書かれたのはテーマ曲ですか。
テーマ曲と、オイラと六角さんとのデュエット曲ですね。これが意外に壮大な感じで出来上がってきていて、しみじみとなんでこの二人でデュエットやねんと思った(笑)。

 

――六角さんと二人で歌うなんて、初めてですよね。小劇場ファンは垂涎の顔合わせでは。
福ちゃん的には大喜びらしい。「二人のデュエットをぜひ見てみたかったんです!」って言っていました。

 

――益田トッシュさんが書かれた曲も、バラエティーに富んでいるそうですね。
はい。ロック色の強い曲もあれば、スカっぽい曲もあります。

 

――古田さんは10曲くらい歌われるとか?
でもオイラのは短い曲が多いですから。ケンケンと二人で歌っている曲と、六角さんとのデュエットのほかは、ソロパートがあっても10秒とか20秒とか。曲数的には多く感じるけど、全部通しで歌っても25分くらいです。

 

――福原演出を受けるのは初めてとのことですが、いかがですか。
丁寧ですね。ピチチ5やゴキブリコンビナートの舞台を観ていて、もっと乱暴で感覚的な演出をするのかなと勝手に想像していたんです。すごく理路整然とした、常識的でわかりやすい演出でした。あまり破綻しないし。だからケンケンはきっとやりやすく感じているんじゃないかな。どんな感情で言っているセリフなのかも説明しているし。石田くんやアンサンブルの子たちにもものすごく細かく演出をつけています。オイラは別に何も言われていないですけど。

 

――そもそも、この企画の発端は2015年の舞台でご一緒したことからだそうですが。
その時は福ちゃんは脚本だけだったので、また別のパターンでやりたいねという話になった時に福ちゃんが「僕も、古田さんを演出してみたいです」と言ってくれたんです。だったら作・演出のものをオイラたちで企もうぜ、という流れになったんです。それなら今度はアリモノの曲ではなくて歌詞を福ちゃんが書いて曲も新しく作ってミュージカルにしたいな、それも下ネタ満載のミュージカルにしちゃおう、と。これまでもリーダー(河原雅彦)や宮藤(官九郎)と一緒にやってきた作品は下ネタといってもセックス要素のほうが強くて、糞尿関連のものはやったことがないなと。

 

――そこが、今回の企画へのスタートになった。
そうそう。ちょうどその話をしている時に同席していた人が「バキュームカーの世界って面白いらしいですよ」と言い出して、それにオイラと福原が食いついた形ですね。そこから昭和30年代の汲み取り屋のことを調べ出したら、確かに面白いんですよ、高度成長の前の時代でね。

 

――意外とそんなに昔の話ではないんですよね。
太平洋戦争直後までは実際に自分たちの糞尿を畑に撒いていたところ、GHQに怒られて処理しなければいけなくなって汲み取り屋さんが生まれ、でもそれは下水道が発達するまでの短い期間で。昭和40年代になると、都会では下水道がしっかり整備されていましたから。高度成長の前って、田舎でも都会でもそれぞれがむちゃくちゃがんばろうとしていた時期だったんですよ。敗戦のショックもあって、とにかくバイタリティだけはある!みたいな。マンパワーを、ものすごく感じるんです。「先進国になる!」という。これって「海賊王になる!」よりもはるかに説得力があるでしょ、「先進国に、俺はなる!」みたいなさ(笑)。

 

――そして福原さんが書き上げてきた台本で、古田さんが最も気に入っているところは。
さっき言っていた、石田くんとゆうみちゃんのシーンがオイラは大好きなんですよ。石田くんの歌から始まる場面なんですけど、いつもニヤニヤしながらパチパチ拍手していると石田くんから「やめてください……」って言われています(笑)。

 

――でも本当にそう思ってやっているんですね。
もちろん。「大好きなシーン! 可愛いなあ!!」って言いながら見守っています。

 

――そんな古田さんの横で右近さんがあの役に挑んでいるというのも、かなりの見どころかと思いますが。
だいぶバディ感は出てきましたね。だけど、現時点ではどうしてもまともに語尾をおさめちゃうんです。そこは破綻していいんだよって、福ちゃんもオイラも言っているんですけど。真面目な言葉が書いてあっても、真面目におさめて言う必要はないのに。

 

――良夫にとって大は、息子でありビジネスパートナーであり。お互いはどういう存在なんだと思いますか。
たぶん大は良夫に対して「自分が行ったほうが話が早いぞ」と思っていそう。良夫はわりと順番を踏もうとするタイプでもあるから「いやいや親父、それはぶん殴ったほうが早いぜ」って思われているんじゃないかな。とはいえ、その良夫のやり口に対して大はリスペクトは抱いている。良夫も、大に対して頼もしく思う部分はあるんだけれども「やっぱり自分がいないとまだ危なっかしいな」とも思っている。そして、この親子は自分たちしか信用していないんですよ。自分たちの会社で石田くんとかゆうみちゃんも一緒に働いてはいるし、政治家である六角さんのことを利用したりはするんだけど、まったく信用はしていない。

 

――それは血の絆でもあるんでしょうか。
それはどうなんだろう。どういう育ち方をしたのかは知らないけど、ともかくパートナーとしてやってはいて、他人のことはまるで信用していないみたいですね。

 

――大は、良夫が“悪”で純粋培養した息子なんでしょうかね。
どうでしょうね。でも“良夫イズム”を教え込んだ息子ではあるんだろうな。

 

――思い通りに育ってくれたと思っている。
そうなんだと思います。ともすれば「頼もしくなったなあ!」くらいには思っているんじゃないですか。

 

――改めて、古田さんが福原作品に感じている最大の魅力とは。
福ちゃんの書くセリフがキッチュでポップなところかな。どんなに下品な言葉をチョイスしても、下品にならずにチャーミングに見えるんです。

 

――だからこそ、下ネタ満載でもいけるのではと思われた。
そうなんですよ。でないと、やっぱりこの手のみんながイヤがる話はやりにくいですから。宮藤と一緒にやっているシリーズもそうですけど、よりポップにしないとね。

 

――糞尿を別のものに置き換えて考えたら、深読みもできそうな物語にも見えます。
ぜひとも深読みしてほしい。できれば日本人が最もバイタリティに溢れていた時代のことを、この機会に感じてもらえたらうれしいですね。浅草に大衆演劇とか演芸とかストリップを観に行っていた人たちの元気さだとか、クレイジーキャッツやエノケンロッパの時代の映画とか森繁久彌の“社長シリーズ”の世界観とかね。ともかく、最後まで観たお客さんにはスカッとした気分で帰ってもらいたい。「よーし、明日もがんばるぞ~!」という気持ちになっていただければ幸いです。

 

取材・文/田中里津子
写真/鈴木久美子