韓国で誕生した衝撃のミステリーミュージカル『ジャック・ザ・リッパ―』が日本版演出・日本人キャストで初上演される。19世紀末に英国ロンドンで起きた猟奇連続殺人事件をモチーフに、チェコ共和国で創作されたミュージカルが、その後韓国で独自のアレンジが施され上演。2009年の初演以来、多くの観客に愛されている演目だ。
日本初演版では、演出家・白井晃のもとに、ミュージカルでの活躍が目覚ましい豪華キャスト陣が集結し、勢いのある韓流ミュージカルに新たな息吹を吹き込む。今回は、俳優、アーティストとしても幅広く活躍し、作中では正義のため孤高に生きる刑事・アンダーソン役を演じる松下優也に、自身の役どころや作品の魅力について語ってもらった。
――演じられるアンダーソンという人物について、現時点でどう捉えていらっしゃいますか?
アンダーソンは薬物中毒者で、ギャンブルもやるし、「なんだコイツ」って思うような印象を受ける人物ですが、実はそこにいたるまでには、根底に真面目さだったり、ピュアさや弱さみたいなものがあるからこそ、そうなったんだろうな、と脚本を読んで感じました。まだ立ち稽古が始まったばかりで(7月下旬取材時)、今は内面よりも体の動きの部分を作っている段階なので、役の全体像に関してはこれからたくさん気付く部分があるんだろうなと思います。
――ピュアなところとは、例えば?
作品のキャラクターの中で、僕はアンダーソンが一番共感できたんですよね。もっと上手く立ち回れそうなのに、それができないのは、彼の「真面目さ」なんですよ。だからどんどん薬物にもハマっていっちゃうし、どこか悟っているような部分もあったりして……。そういう人間じゃないと、ああはならないと思うので。もっとずる賢い人間だったら、違う運命になっていたんじゃないかな。
――アンダーソン役は加藤和樹さんとWキャストで演じられます。どんな印象をお持ちですか。
加藤くんとは舞台での共演は初めてですが、ライブのイベントなどでご一緒したり、元々知り合いではあったんです。見た目はシュッとしていて、クールでかっこいいですけど、実際話してみるとふわふわしてるところもあって(笑)、見た目とギャップがある方ですね。自分と全然キャラが違うなって感じているので、そこがおもしろいですね。
――韓国ミュージカルはドラマティックで壮大なナンバーが多い印象がありますが、楽曲の魅力についてはいかがですか?
そうですね、おっしゃる通り、壮大でドラマティックな曲が多いなって思いますし、韓国のミュージカルは歌のエネルギーがすごくあって、歌が上手い俳優さんが多い、という印象があります。今回の作品でも「歌の力」はすごく感じました。今の課題は、アンダーソンとして、どういう風に自分の声帯を使って、役に落とし込んで楽曲を歌うか、というところですね。精度を上げて、これからしっかり作っていかなきゃな、と思っています。
――ご自身が歌われる曲で、好きなナンバーがあれば教えてください。
「俺はこの街が嫌いだ」というナンバーが終盤にあるんですが、この曲、めっちゃ好きです!歌っていて純粋に気持ちがいいところもありますし、アンダーソンのピュアな部分を含め、彼の全部が入り混じったようなナンバーなので、“メンタルにクる”感じがあります。アンダーソンの曲は、事件を説明したり、刑事としての役割を担うナンバーもあるんですが、この曲は「アンダーソンって本来こういう感じの人なんだな」というのが見えてくるような曲なんですよね。
――演出の白井晃さんの印象はいかがですか。
白井さんのお話は周りからよく聞いていたので、とてもストイックな方なんだろうな、とお会いする前から思ってはいました。実際、稽古の時間や量は多いですが、理不尽さがなく、とても丁寧に作られていく方だなと感じています。そういう意味では苦にならないですし、疲労感はないですね。だから嫌な感じは全然しないです。そもそも、僕自身がすごいストイックっていうのもあります(笑)。
――松下さんにとっては好みのストイックさであった?
白井さんは、しっかり俳優を見てくれたうえで“ストイック”なんですよね。なので、こちら側としても、「もう一回やろう」という気持ちになれるんです。ひたすら追い込んでくるだけではないから。僕自身、俳優はアスリートとアーティストの部分が共存しているお仕事だと思っているので、ストイックレベルでいったら、それこそオリンピックに出ているアスリートに追いつかないといけないな、とは思っているんです。エンタメって、順位がつけられない分、逃げられるところもあると思うから。数値化できないからこそおもしろい部分も、もちろんありますけど。
――白井さんから言われて印象的だった言葉はありますか?
本読みのときに、「マイクがなくても届くくらいのエネルギーをもってやりましょう」と最初におっしゃられていたのが印象に残っていますね。今まで演出の方からそんなふうに言われたことがなかったので。日生劇場という大きな劇場でやるわけだから、もちろんマイクの力に頼る部分というのは当然あると思うんですが、まず全員の共通認識として、大前提にそういう指針があるというのは、意識がまったく変わってくると思います。
あと、これは他のキャストの方に言われていたんですが、芝居から楽曲に繋がっていくときに、「そういうこともあるよね、ってお客さんに思わせてください」っておっしゃっていて。たしかにそれって、めちゃくちゃ大事だと僕も思っていて。曲が壮大なぶん、芝居を繊細に作らないと、「なんで急にそうなるの?」って、無理が生じてしまような気がするんですよね。そういった部分も含めてそうおっしゃられたのかな、と。もちろん歌の持つ力は大切なんですけど、それだけでもっていこうとしてはいけないなと思います。
――今、様々な制約がある状況ではありますが、松下さん個人として、今後チャレンジしていきたいことについてお聞かせください。
チャレンジしたいことはいっぱいありますね。俳優としてはミュージカルもストレートプレイも両方やりたいですし。今回ミュージカルは一年ぶりの出演になりますけど、今はまだ、自分の中で「これ」って決めていないんです。決めようとも思ってないですし。いただいたオファーをありがたく受け止めて、それぞれのフィールドにリスペクトを持ったうえで、「自分が何ができるか」というのが大事だと思うので。音楽の方では、YOUYAという別名義で活動していますが、今も精力的に楽曲を制作しているので、またライブができるといいですね。今の状況が落ち着いたら、フェスにも出たいですし……。作りたいし表現したいし、やりたいことは常にたくさんありますね。
――早くいろんなことが可能になる状況になってほしいですね。それでは最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
この作品は100年以上前に実際に起きた事件が題材になっていますが、作品の中での犯人像のアプローチの仕方など、リアリティだけではなく、ファンタジーの要素も融合しているので、“エンタメ”として観ていただくお客様にたのしんでいただけるんじゃないかなと思います。キャストもスタッフも、感染対策をしっかりしたうえで取り組んでいますし、日本初演ということで、気合も入っています。コロナ禍というのもあり、観に行きたくてもなかなか行けないという状況でもあるかと思いますが、よろしければ、劇場に足を運んでいただけたらとてもうれしいです。
取材・文/古内かほ
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