平間壮一インタビュー|ミュージカル『The View Upstairs -君が見た、あの日-』

アメリカ・ニューオリンズの「アップステアーズ・ラウンジ」という同性愛者クラブで1973年に起きた米国史上に残る同性愛者に対する事件の一つ“アップステアーズ・ラウンジ放火事件”を題材にした本作は、ブロードウェイ新進気鋭の若手作家、マックス・ヴァーノンが作詞・作曲を手がけた。

2017年にアメリカ、オフブロードウェイで初演、その後全米各地、オーストラリア、シドニー、イギリスでの上演を経て、ついに2022年日本初上演を迎える。

現代を生きる若きファッションデザイナー、ウェスがニューオーリンズにある廃墟と化した建物を購入したところから物語は始まる。彼が窓にかかるボロボロのカーテンを引き剥がすと、その瞬間、活気に満ちた70年代のゲイバー「アップステアーズ・ラウンジ」にタイムスリップしてしまうのだ。主人公ウェスを演じる平間壮一に本作の話を伺った。

 

――出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。

嬉しい気持ちの半面、エンジェル(『RENT』)ぶりに「男性のことが好きな男性」を演じるので、エンジェルとの差をどう出すかを最初に考えました。相当難しいだろうなと覚悟しています。共演するキャストのみなさんは先輩方が多いので、身を任せて、先輩たちの助けを借りながら楽しくやりたいです。

 

――作品の第一印象はいかがでしたか。

音楽はポップでキャッチーなので、曲だけ聴くと『ヘアスプレー』のようなドキドキワクワクするイメージが湧きました。ただ内容は実際に起きた事件ですし、とてもメッセージ性のある作品です。
本当に(「アップステアーズ・ラウンジ」の)バーを訪れたように、「こんな人いたな」とお客様に思ってもらえるといいですね。

 

――演出の市川洋二郎さんとは会話されましたか。

一度だけボイストレーニングでお会いしましたが、まだ話はあまりできていません。不思議な方でしたね(笑)すごく優しいけれど、思っていることはきちんと躊躇いもなくおっしゃってくださる方です。空気感はとても柔らかく、忙しくてもストレスをためないように生きている印象でした。稽古場で怒ることとかあるのかな、と思いましたね。

 

 

――ウェスは現代から1970年代にタイムスリップする役どころです。約50年前に実際に起きた事件を題材にした作品を、2022年に上演する意義はどういったところにありますか。

現代は(LGBTQなど)割と受け入れられるようになってきていて、若い世代の方は過去にどういったことが起きたのか分からないことが多いと思います。違法だったものが合法になる等、最近ルールってよくわからないなと。ルールが変わると、今までダメだったことが突然OKになり、世間の価値観が変わる。正しいことと間違っていることには一瞬の差しかなく、考え方が一つ違うと、人は酷いことをしてしまう。そういった違いで起きた、過去の事実を伝えられたらいいですね。

 

――ルールが変化していく中で、平間さんご自身が大事にしている核はありますか。

「自分のことは一回置いて、人のやりたいことに合わせること」ですね。お芝居でも一緒に作る方のやりたいことを優先してみる。それでも違うと思ったら自分も意見を出すけれど、まずは相手のやりたいことを優先して、自分だけでなく人のことを見るように意識しています。ミュージカルひとつ作るにしてもプリンシパル、アンサンブルとか関係なく、みんな同じで、誰一人かけることなくやらないと意味がないと思っているので、人を大事にしたいです。これは舞台に出るようになって気づいたことですね。

 

――まだ同性愛が罪であった時代に「アップステアーズ・ラウンジ」は同性愛者の方々にとってホームのような場所だったと思います。平間さんにとってのホームとなる場所はありますか。

それがないから役者ってしんどいなと思いますね。役者って、色んなホームを探している人を演じる仕事なんです。ふと平間壮一自身に戻った時、演じた役の人物は積み重ねたけれど、自分自身は積み重なってないと思うことがあり、不安になります。そういったときに役者としての自分を評価してもらえたりすると、自分の居場所を再確認できる感じがしますね。

 

――最後に、この作品をどういった方にみていただきたいですか。

自分と同世代(1990年代)の方に観てほしいですね。この世代は、自分の前後の世代の価値観、その両方を持ち合わせた「中間」なんです。自分より若い世代は自分のやりたいことを貫いて、反対に少し上の世代はその前の世代のやり方を大事にしていて、時代と時代の狭間にいるので、自分を見失いがちで。だからこそ、30代前半になる僕がウェスを演じることで、勇気や新しく動き出す力を与えられる舞台にして、同世代の方に観てほしいですね。もちろん世代関係なく、いま動き出せない、悩んでいる人に「ウェスみたいな人もいるんだったら、自分もやりたいことをやろう!」と勇気を出してもらえるような作品にしたいです。

 

 

取材・文:ローチケ演劇部員