村上龍のベストセラー小説を原作とした、音楽劇『コインロッカー・ベイビーズ』の再演が決定した。
2016年の初演では、コインロッカーに置き去りにされながらも奇跡的に生き残りさまざまな運命を乗り越えていく2人の子どもたちの生き様が描かれ、成長後に歌手としてデビューする感受性が豊かなハシにはA.B.C-Zの橋本良亮。頭よりも先に体が動き、運動神経に恵まれたキクを同じくA.B.C-Zの河合郁人が演じた。
初演に引き続き再演版でも主演を演じる橋本と河合。
今回は新たな試みとして公演期間を分けて2人がそれぞれハシとキクを演じるというダブルキャスト形式で上演される。
橋本「再演が決まった時は、2年前の初演が認められたんだなという気持ちで嬉しかったです。初演での手ごたえも十分にありましたし」
河合「初演はすごくやり切った感がありました。反響もすごくあって。ファンのみなさんからの感想だったり、小説のファンの方だったり、もちろんスタッフのみなさんとか、みなさんそれぞれに違う感想を言っていただけて、感じ方が人によってこんなにも変わる舞台が初めてだったので再演が決まってすごく嬉しかったです」
―――反響が大きかったのと同時に、ひとつの転機となった作品だったようですね。
河合「この作品のおかげで人見知りがほとんどなくなりました。脚本・演出の木村さんはとても熱い方だったので刺激をたくさん受けて、稽古場でも自分を解放させていただけたような気がします。それもあって、はずかしがっていること自体が一番はずかしいという風に思えて、お芝居も全力を出してできるようになりました。何か困ったことや迷ったことがあった時は、人に相談もできるようになりました」
橋本「そうだったね。そばで見ていてその変化にはいろいろと驚きました。すごく積極的になったところが特に（笑）。今でも覚えているんですけど、稽古場でアネモネ役にチューするタイミングとかあるじゃないですか。どのタイミングでするんだろう？と思って後ろを見たら、すでに河合さんがアネモネに『今日いっちゃっていい？いっちゃっていい？』って言っていたので（笑）」
河合「そんなにチャラくないよ（笑）」
橋本「ちょっと盛りましたね（笑）でも今チューしませんかとか、積極的に自分から話しかけていたのでびっくりしちゃったんですよ。この作品の前にも2人で舞台をやらせていただいたこともあったんですけど、その時に比べたら全然ね」
河合「その時はほとんどしゃべってなかったね」
橋本「しゃべってなかったです。ほんとにすぐ楽屋行くみたいな感じで、会話しないみたいな」
河合「いや、会話はするよ！(笑)」
―――公演ごとに違う″ハシ″を演じていたように感じましたがどうでしたか。
橋本「ハシと戦っていましたからね、ずっと毎日。今日はこのハシでいこうみたいな。舞台に出た瞬間に決まるんですよね。”あっ、今日はこの感じのハシか”って。それが毎日楽しみで。自分の中ではこのハシでよかったのかな、と思うことがあってもスタッフのみなさんから『今日すごくよかったよ』と言っていただいたりして、こういうパターンのハシもあるんだなって気づけたり。役としてはネガティブで落ち込む場面も多くて大変ではあったんですけど、そういう面ではやっていて楽しかったです」
河合「本当にハシは僕から見ていても毎日違ったので、怖すぎて泣いちゃう時もあったくらい。それぐらい毎回新鮮な気持ちでした」
―――初演の会見やインタビューで「この役を誰にも渡したくない」というお話をされていたかと思いますが。今回はまさかの公演期間を分けてのダブルキャストということで、いまどんな心境ですか？
河合「この二人じゃなかったら、本当に相当ひねくれていたと思いますが(笑)再演をやると決まった時に、この二人でまたハシとキクをやれるということが素直に嬉しくて。二人で一緒にやれることには変わりがないけれど、新たな挑戦なのでよかったなと。ただ橋本くんのキクが似合いそうだから怖いなっていうのはあります」
橋本「正直にそうやって言えるのがかっこいいですよね。僕は言いたくないですもん。絶対ハシは渡さないぞっていう気持ちが強いので」
河合「まだ自分の中で想像できないんですよ、ハシを演じている自分の姿が。だってハシを見ているわけじゃないですか、キクとしてずっと。それを自分が演じているっていうのが・・」
橋本「僕は2年前からずっとキク役やりたかったので」
河合「そう、言ってた！」
橋本「だから2年間ずっとイメージしながら役をあたためてました。ハシとキクは僕のもんだって」
河合「橋本くんがお芝居の中で変わっていったり、違う人になっていくのを見ていて、こいつ怖いな、やばいなって思っていたので、そういうところまで自分もなってみたいというのがあって、この中の役を全部演ってみたいという気持ちはあります。アネモネの役もDも。それはもちろんどの役に対しても。ROLLYさんの役もこれを自分がやったらどういう感じになるんだろう？と思って見ていました」
橋本「僕も思っていました。河合くんのキクを稽古で見ていて、かっこいいな、やりたいなと。ドライバーを殴ってアネモネを助けるシーンだとか。そこは特にやりたいです。出だしからキクはすごくかっこいいからね」
河合「キク、本当にかっこいいよね」
―――役をスイッチすることの意味や新しいチャレンジを、現時点でどう捉えていますか？
河合「役というかタイプ的にハシとキクは全然違うんですけど、実は目指しているところは一緒。ただ目指しているところへの持っていき方が二人は違う。だから対立したりする瞬間もあるんですけど。単純にやり方違うだけでゴールが一緒だとその時の若者の力って他と戦った時に一番強いというか、パワーがあると思うので、そういうところを今回見せられたら、とは思います。子どもだって本気を出したら怖いんだぞというところを、ハシでもキクでもそれぞれの役をやった時に伝えられたら」
橋本「意味というか、観に来てくださるお客様を絶対に楽しませる。まず一番大切なのはそこです。ただ、A.B.C-Zってすごいなって思われたいのもあります。すごいなと思ってもらえることに成功したら、さらにA.B.C-Zは強くなれるのかなとも思うので」
河合「チャレンジですよね。一つの作品で二つの役を入れ替わって演じるのは初めての経験ですが、成功させたいです。主人公が二人いたらできることなので、今後こういった作品が増えていく時に、A.B.C-Zのこの二人が先駆者になれるように」
―――観た人の数だけ感じ方がいろいろとある本作ですが、実際に演じてみてこの物語の「核」や伝えたいことは？
河合「伝えたいこと・・・。少し変な話なんですけど、今の時代って″若者はこうだから″って言われることも多いじゃないですか。でもその若者の方が実は賢いんじゃないかなって思うことが最近あって。そんな若者たちが今の普通の大人より賢くなったら、結構世界を変えられちゃうんじゃないかなっていうのを、感じさせてくれる気がするんですこの作品は。だから現代の若い人達にもこの舞台は響くのかなと。そこを伝えていく軸になるのがキクだと思っていて、それはハシが思っていることをキクはオープンに表面に出していくので、そういう部分を10代の子とかが見たら純粋にかっこいいと思えるんじゃないかなって。いろいろと発言が自由にできない今の時代だからこそ、オープンでやりたいことにまっすぐ進んでいく行動力とかは、この二人の若者を見た時に今回、よりかっこいいと感じていただける気がします。歌ももちろんありますし、女の子にもすごく観ていただきたいです」
橋本「確かに！十代の女の子とかにも来てほしいね。アネモネもニヴァも女性としてすごくかっこいいので。それにしても最先端をいっている話だよね。演じたのは2年前だけど、作品自体はすごく昔に書かれたものなのに」
河合「全く古いって感じがしない」
橋本「全くしないね。逆に今の現代に近づいている気がする」
河合「村上龍さんは予測して作ったんじゃないかって思うくらい」
河合「ノストラダムス的な村上龍さん？（笑）」
橋本「すごいよね。僕は演じてみて人間のエネルギーみたいなものがこの作品の核にはあると思っていて、実際にハシやキクがいたら勝てない。なのでとにかく全力でやりきります。ハシは実はすごくさみしがり屋。だけど強い。繊細なんですよ、だからこそ強い」
河合「やりたいことからブレない」
橋本「いろんな経験しているからかな？」
河合「そうかも。もちろんそれはキクもだけど、キクはどちらかというとひとりでも真っ直ぐ突き進んでいくタイプで、ハシはさみしがり屋だから、誰かと絶対にいるっていう違いはある。普通の人ができないことを誰にも臆さずにやるところは二人とも一緒でかっこいい」
橋本「男の中の男だと思う。ハシは同性愛の話もありますけど男の中の男。貫き通してますからね」
河合「ハシやキクには憧れます。それこそキクを演じられたから、言いたいことも言えるようになったっていうのもあるかもしれないです。自分の演じた役に影響されたパターンですね（笑）キクに出会えて気づいたことはいっぱいあります。ハシにもですけど」
―――前回それぞれハシとキクを演じた中で、好きなシーンや好きなセリフはありますか？
橋本「蠅のシーンはすごく好きで大事にしていました。猛特訓したので。木村さんと一対一で2日間くらい、そのシーンだけを稽古して。キクのシーンが全部かっこいいから、僕もね」
河合「でも僕も蠅を食べちゃったとおかしくなっているハシを見て、キク自身の感情を乗せて歌う大切な曲で、キク自身の答えを見つける瞬間でもあるんですけど、その一連のシーンが一番好きかもしれないです。本当に怖いし、自分の知っているやつがなぜこんなにも狂ってしまっているんだろう。でも自分は捕まっているから助けにいけないっていう部分ですごい涙が出てくる中に歌が入る場面で。途中で歌いながら椅子を投げるんですけど、何回か役に入りすぎて壊しましたね。力の加減ができなくて（笑）」
橋本「すごく大事な場面だよね」
河合「そこでもう決まったって言ってもいいくらいの大事な場面なんですけど、それを今度は自分も狂った側も演じるので、想像できなくて・・・」
橋本「思い出してたら早く見たくなってきた！あそこ二人だけだもんね」
河合「あのシーン・・・早くやりたいね！」
橋本「いつも舞台袖で出る前に役に入ってるんですけど、一回腹パンチするんですよ、自分で。それで気持ち悪くなってから舞台に出るんです」
河合「へぇ～！それは毎回？極限状態にするみたいな？」
橋本「うん、毎回。苦しい状態で。もっと苦しいことないかなって思って。そのくらい作らないとあの役はできなかった」
―――ちなみに現時点で、お互いそれぞれチェンジした役のちょっとしたプランとかあったりしますか。イメージとか。
河合「僕はまだ分からないですね。だから今、ハシになって声を出すのも怖いです。どういう声を出したらいいんだろう、とか。変に考えすぎているので早く稽古場に行きたいです」
橋本「そうだよね。早く木村さんに言ってほしいよね」
河合「そう！すぐ言ってくださるので。こういうトーンだよとか。多分木村さんのことだから僕がハシを考えて作っていっても全部ひっくり返されちゃうと思うので。奇跡的にどんぴしゃにハマっていればいいんでしょうけど（笑）」
橋本「あえてフラットに何も考えずに最初はいって。自分なりに」
河合「そこで見つける感じだよね。本読みして。ダメって言われたら消して。いいって言われたら残して。もちろんブラッシュアップもレベルアップもさせたいですが、初めてやる気持ちでやらないと発見できない気もするので。二つの役を演じてまた最初の役に戻った時に気づくところが増えているといいなというのは木村さんもおっしゃっていたので。そういう意味ではまた新しいキクとハシになると思うので、どちらの役をやる時も完全な初演の気分です。気分・・・というか初演のような勢いになると思います」
―――今回、公演期間の前後にコンサートもあって、しかも役が変わるなど新たな挑戦も増えますが、A.B.C-Zとしての自分とハシやキクの時の自分などの切り替えはありますか。
河合「コンサートはわあ～って騒げるので、逆に発散してリフレッシュできるんじゃないかなと思います」
橋本「2年前もそうでしたからね。でもライブで役が抜けてなくて、キクが（笑）」
河合「抜けてたよ！（笑）えっ？抜けてなかった？ほんと？」
橋本「僕が言うなら分かるじゃないですか。舞台で一緒にいるわけだから。でも一番最初に五関くんに言われてましたからね。『河合さんちょっと、役が抜けてないよね』って」
河合「五関くんは『コインロッカー・ベイビーズ』を観た時の僕への感想が『本当はずっとこういう役やりたかったんだよね』って（笑）。確かにその通りだったんですけど」
橋本「一言目がそれって、よく見てくれているよね（笑）」
河合「今回は役が2つあるからね。今日のライブ会場はハシかもしれないしキクかもしれないね」
―――今回の地方公演は1日交代の場合もありますが、まず最初の公演がスイッチした役というのは前と同じ役を見せるよりもやりやすいですか。
河合「僕は違う役からでよかったです。多分キクからスタートしたら前と同じままな気がするので」
橋本「どちらの役も演じるということでは、初演の時とは全然違うスタートだからな・・・。お客様に最初の役に戻った時に『やっぱりこのほうが落ち着く』とか言われたくないですよね」
河合「それは嫌だな・・・。最初のハシとキクをもう1回観たい！って言われるくらいになりたいです」
橋本「そうだね」
河合「でもキクとハシをやったあとに、逆のハシとキクを観たいから地方も行きたいなっていう、そういう変な感じにさせたいですよね」
橋本「そうそう！中毒にさせたい。」
河合「二つの役を入れ替わって演じるという新しい試みもありますが、片方を観てからもう片方を観るとこう違うんだ！という発見をしていただけるように精一杯演じますので、最低でも2回。両方観にきてください！」
橋本「セリフも歌のハモリも二人分覚えないといけないので怖い部分もありますが、キク役も奪う気持ちで挑みますので、ぜひパワーアップした『コインロッカー・ベイビーズ』を観にいらしてください」
