新作ミュージカルのトライアウト公演初日、主演女優が舞台上で殺害される事件が発生!駆け付けたミュージカルおたくのチョーフィー警部補は、捜査をしながらも、作品の内容に口を出し始めて…?2007年にブロードウェイで開幕し、トニー賞8部門にノミネートされたミステリー・ミュージカルコメディ『カーテンズ』。12年ぶりとなる日本公演で主演と演出を務める城田優が、意気込みと日本ミュージカル界への思いを熱く語った。
「城田優の幅を見ていただければ」
――まずは今回、主演と演出の両方を担われることになった経緯や、決まった時の思いをお聞かせください。
最初にお誘いを受けたのは演出で、演出には今まで以上に力を入れていきたい思いが自分自身の中にあったので、ぜひ挑戦させていただきたいなと。そしたらそこに、まあ大体いつものパターンではあるんですが(笑)、主演もお願いできませんかということになりまして。シングルキャストで演出を兼ねるのは初めてなので、正直悩んだというか、今も悩んでます。僕は何かに挑戦する時、「こんなに不安なことはないです」っていつも言うんですが、今回も申し訳ない、同じことを言わせてください。「こんなに不安なことはないですね」(笑)。
――その不安はいつも、どのように払拭しているのですか?
やっぱり、周りの人に支えてもらってる部分が大きいと思います。僕は意見をはっきり言うので強いと思われがちですけど、本当はめちゃくちゃ弱い人間。先日『あくと』という公演が終わったばかりなんですが、あんなもの――自分たちで企画したのであえてそういう言い方をしますが、あんなものでも本番直前、緊張し過ぎて知恵熱を出してますからね。その時も、山崎育三郎や尾上松也が「大丈夫だよ」って、たぶんもう言い飽きてると思うんですけど言ってくれて(笑)、なんとか自分を落ち着かせることができた。今回は演出家という指揮官の立場でもあるので、弱音は封印する予定ですが、家に帰ってから泣いたりはすると思います。動物とか赤ちゃんの動画を見ながら寝ることになるんじゃないですかね(笑)。
――『カーテンズ』という作品の現時点での印象、面白いと思っている点を教えてください。
殺人事件とミュージカル、という二つの要素が交わることで、非日常的な面白い空気が出来上がるのではないかと思います。観客の皆様には、誰が犯人なのかを一緒に考えながら、ミュージカル製作の裏側というのも楽しんでいただけるのではないかと。プラス、僕が演じるチョーフィー警部補はミュージカルおたくで、殺人事件の捜査に来たはずなのに作品の内容にダメ出しをしていくので、そこもポイントになってくると思います。…今しゃべりながら、若干どこかで聞いたことのある展開という気もしてきましたが(笑)。
――『ブロードウェイと銃弾』で演じられたチーチも、女優の護衛に来たはずがミュージカルの内容に口を出し始める役でしたね(笑)。
確かに似てますね(笑)。でも彼は人を殺す側の人間で、今度は取り締まる側ですから。キャラクターも大きく違いますし、おそらく僕のお芝居もまっったく違うものになります。城田優の幅を見ていただければと思いますね。
「批判を覚悟で申し上げます」
――これからは演出に力を入れていきたい、と思われた理由をお聞かせください。
色々ありますが、極論を言えば、好きだからですね。俳優というのは、体調が悪かろうが心に傷を負っていようが、本番が来たら1000人2000人の前で、別の人間として泣いたり笑ったり怒ったりしなきゃいけない仕事。それって馬鹿じゃないとできないというか、自分を馬鹿にしないとできないことだと思います。特にミュージカルは一番難しいって、誰に何を言われようが論破できる自信があるくらい、僕は胸を張って言えますね(笑)。
どんな状況でも舞台を必ず成功させなければいけない主演俳優のプレッシャーってものすごくて、もちろん演出家には演出家のプレッシャーがあることは分かっていますけど、僕個人の緊張度合いで言ったらやっぱり俳優のほうがよっぽど高い。演出家の仕事のほうが素直に楽しめるというのと、才能ある人たちをさらに底上げして作品を作っていける喜び、日本のミュージカルのレベルを上げていきたいっていう思いが重なって、演出に力を入れていきたいと思うようになりました。もちろん、一本に絞るということではないですが。
――演出する際、城田さんがこだわるのはどんなことですか?
歌とダンスとお芝居が分離せず、一つの統一感ある物語になるようにすること。特に歌唱においては、やはりお芝居であるということを、初演出の時から出演者の皆さんに強く訴えています。言葉にするのは難しいんですが、アクティングのサイズを大きくするのがミュージカル、と思ってる方が多い気がするんですよ。たとえるなら、洋画の日本語吹き替えみたいなお芝居をしがちというか。もちろんそういうトーンが相応しい作品もあるとは思いますが、僕はそれをされるとリアリティが感じられなくなってしまう。誇張し過ぎず、キャラクターがしっかりと生きて見えるように構築していきたいと、今回に関しても思っています。
――それが先ほどおっしゃった、「日本のミュージカルのレベルを上げる」ことになると。
もちろん正解はないと思うんですが、お芝居に重点を置いたミュージカルがもっとあっていいと、少なくとも僕は思っています。僕が劇場で観させていただく作品のほとんどが、歌とダンスとお芝居が独立したもので、歌う・踊る時に人格が変わって見えてしまうことが多い。猫背だった人が、踊り始めた瞬間にシャキっとしたら「え、誰?」ってなります (笑)。トータルでキャラクターを作るということを、僕自身役作りをする時に目指してますし、演出する時にもひたすら話します。それをカンパニー全員ができたら、お客様が「この世界は存在する」と信じられて、同じ作品でも全く違って見えてくるはず。
批判になってしまうのを覚悟で申し上げますが、そういう「信じられる世界」のあるミュージカルを、僕は日本であまり観たことがないんです。何の作品を観ても同じように見える俳優さんがいらっしゃいますが、僕はその作品のそのキャラクターにしかない色を出すってことを、もっと本気でやれる人間が必要だと思っています。弱いくせにこうやって大口を叩くことで(笑)、少しでも感化されて、「は?城田なんかに負けねーし」と思ってくれる人が増えるといいなと思います。これもあえて言いますが、ミュージカルの世界で「この人すごい!」と思う俳優さんって日本ではなかなか出会えないんです。「すごい人を見つけたい、作りたい、作らないといけない」と思っています。
――「この世界は存在する」と信じられる『カーテンズ』、楽しみです!
コメディ要素もある作品なので、話したこと全部を成立させられるかはちょっと分かんないですけど(笑)、なるべくそこを目指したい。偉そうなこと言ったからには実現しなきゃいけない状況に自分を持ってく、っていうのがビッグマウスの仕組みですからね(笑)。
――最後に、楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
お客様におかれましても、ぬるい気持ちではなく、ぜひ厳しい目で観ていただければと思います。ひいきにしてる俳優だからということは置いておいて、ぬるいなと思ったら拍手しなくてもいい、スタンディングオベーションは本当にいいと思った時に行うものです。そうじゃないと、演者サイドも永遠に成長しないですからね。作る側も観る側も高い意識を持てば、現状は変わっていくと思うので。夢はでっかく!です(笑)。
取材・文/町田麻子