戦時中の満州を思わせるかりそめの都。その裏通りに建つレビュー小屋「シャトー ド レーヴ」では、歌姫メイファを中心に夜ごと華やかなレビューが繰り広げられていたーー。舞台『うたかたのオペラ』が、遂に待望の再演を果たす。初演は2009年6月。加藤和彦&安井かずみによる80年代ポストモダンの伝説的アルバム『うたかたのオペラ』をベースに、横内謙介による脚本で舞台化。虚構世界とそこに生きる人々の夢物語をダンスと歌を織り交ぜ鮮やかに描き、大きな反響を巻き起こした。再演の構想中に加藤氏が急逝。翌年、氏の想いを継ぎ再演を行い、以降上演を迎えることなく幻の名作といわれてきた。
12年ぶりの再演となる今回はキャストを一新。歌姫メイファを演じる北翔海莉をはじめ、実力派俳優陣がずらり顔を揃え、妖しくも美しい夢物語を今再び蘇らせる。2022年1月に控えた開幕を前に、メインキャストを務めるドクトル・ケスラー=アマカス役の中村誠治郎、脱走兵・宗一役の神里優希、「シャトー ド レーヴ」の座員・武志役の佐伯亮の三者にインタビュー!幻の作品に挑む心境と、役にかける想いを聞いた。
「自分を選んでくれたということは、可能性を感じてくれたということ」
――舞台『うたかたのオペラ』が待望の再演を叶えます。幻の名作といわれる作品に出演が決まった心境はいかがですか?
中村 前回公演の映像を観ましたが、もうポカーンという感じで(笑)、単純に観客として引き込まれてしまいました。ふと冷静になったとき、“本当にこれを自分が演じるのか?”と怖くなって……。でも自分を選んでくれたということは、可能性を感じてくださったということ。僕は殺陣のイメージが強いので、殺陣しかできないと思われているところがあり、それが自分の中でずっと悩みでもありました。だからこうしてチャンスを与えていただいたのはすごくありがたいし、本当にうれしいです。
佐伯 華やかで明るい世界でありつつ、胸に刺さる部分もある。僕も映像を観ましたが、あの時代背景がすごく好きで、自分がそこに立つんだと想像するだけでワクワクします。大変な作品であり、どれだけ自分自身と闘っていけるか挑戦ではあるけれど、先輩たちについて頑張りたいと思います。
神里 僕はまだ映像を観てなくて。もし観たら何かしら影響を受けてしまいそうで、それより台本の印象を大切に、自分で悩んで役を作っていく方がいいような気がしています。ただみなさん台本を読んだ印象と映像を観た印象が全然違うと言うので、実際どういう雰囲気なのか知りたい気持ちもある。観るべきか否か今葛藤中です。
中村 僕も普段は観ないタイプ。でも今回に関してはいろいろ未経験の部分が多かったので、あえて観ようと決めました。でもいざ観てみたら、紫吹淳さんや舘形比呂一さんはじめ前回キャストのみなさんが本当に素晴らしすぎてーー。やっぱり観るんじゃなかったとちょっと後悔してる。神里君は観ない方がいいかも(笑)。
――みなさん共演経験はありますか?
中村 亮とは舞台で一度共演しています。彼が孫悟空役で、僕は孫悟空を唯一倒すオカマの役でした(笑)。
佐伯 僕はアクションの経験があまりなかったので、そのとき誠治郎さんにいろいろ教えてもらって。二人で大暴れしましたよね。
神里 僕はみなさん初めましてです。新しい発見や勉強になることがたくさんあると思うので、いろいろ盗んでいきたいです。
中村 神里君を初めて見たとき、“芸能人が来た!”と思いました(笑)。瞳が美しくて、とにかくカッコイイ。
神里 誠治郎さんはすごくダンディで色気がある。こういう大人になりたいと思ってました。
中村 あれ、もう過去形になってるけど?僕も若い頃はカッコ良かったんですよ。全盛期は29歳でしたけど(笑)。
神里 いやいや、今もカッコイイと思っています!佐伯君は年齢の割に大人っぽくて落ち着きがありますよね。歳が近いので共通の話題がいろいろありそう。僕は人見知りなので、初めましての人ばかりだと縮こまってしまいがち。けれど今回は稽古期間も凝縮されているので、自分からガツガツいくつもりです。
佐伯 僕も人見知りの部分があって、今そこを改めようと頑張っているところ。今回は誠治郎さんがいてくれるので、そういう意味でもすごく頼りにしています。
――作中はそれぞれ物語のキーパーソンを演じます。どんなキャラクター像を表現したいですか?
中村 アマカスをしている時とケスラーをしている時の違いをお見せできたらと考えていて。ケスラーの時はみなさんを楽しませるエンタテイナーで、アマカスの時は目の色が変わるような雰囲気を表現したりと、違いを伝えることでお客さんにドキドキしてもらえたらと思っています。
佐伯 僕が演じる武志は一座の弟分で可愛いがられるタイプ。僕自身この座組で一番年下なので、みなさんについていきつつしっかり絡んでいけたらと思っています。あと武志は後半に大きな見せ場があるので、そのシーンをよりよくするためにも「シャトー ド レーヴ」の華やかな世界を盛り上げて、最後に繋げられたらと考えています。
神里 宗一の背景には戦争があって、陽というより陰が強いキャラクター。しっかり気持ちを作っていかなければいけないし、精神を削られるところがあって、なかなか難しい役ですね。何より台詞がたくさんあるので、早く覚えなければとあせっています(笑)。
中村 宗一はたぶん一番台詞が多いよね。
神里 稽古前から台本を少しずつ読み込むようにはしていたけれど、なかなか覚えられなくて。
佐伯 僕は自分で言うのもなんだけど、セリフ覚えがめちゃくちゃ良くてすぐ入っちゃう。夜な夜な散歩をしながらブツブツ言って覚えています。
中村 そんなこと言っておいて、台詞が飛んだら面白いよね。Twitterに書いちゃおう(笑)。
佐伯 うわー、やめてください!死ぬ気で覚えなきゃ(笑)。
神里 佐伯君みたいに動きながら覚えるのが一番いいらしいよね。僕はまず相手のセリフを録音して、自分の声と掛け合っていくスタイル。そうすると相手の台詞も覚えられるし、自分の台詞も出てきやすい。ただ今回はそのやり方が通用しなくて。ストーリーテラーのようにお客さんに対して話す時と、物語の中で誰かと喋っている時の切り替えも必要になる。だから今回はひたすら台本を見ては声に出して言ってみてーー、を繰り返して覚えるようにしています。
「馴染み良く親しみやすい曲ばかり。ただ歌うとすごく難しい」
――シーンをさまざまに彩る名曲の数々も本作の大きな魅力。作中は全20曲以上の楽曲が歌と踊りで繰り広げられていきます。
佐伯 どの曲も古さがなくて、聴き馴染みが良く親しみやすい。ただ歌うとなると全部すごく難しいですね。
神里 僕はソロで2曲歌うけど、今まで歌ってきた曲とは全然違って独特の世界観がある。ミュージカルのように歌い上げる感じでもないし、本当に気持ちを作らないと歌えない。自分が歌えるのかなと思うくらい未知の領域で、プレッシャーはあるけれど、強い気持ちを持って歌い切るつもりです。
中村 僕はソロナンバーを3曲とデュエットを2曲歌います。一番ハードルが高いのは冒頭の曲で、大きな抑揚があるわけでもなく、色気で見せなければいけない。しかもその後北翔さんが出てきて歌うので、この一曲目でお客さんのハートを掴む必要がある。でもどちらかというとソロよりデュエットの方が緊張します。北翔さんとは他の舞台で夫婦役で共演したことがあるけれど、彼女は本当に天才で、それでいて積み重ねてきた努力が透けて見える。普段は穏やかでちょっと抜けてるくらいの感じだけれど、座長としては絶対に動じることがなく、素晴らしいの一言しかない。今回はデュエットでがっつり組むことになるので、とにかくプレッシャーが大きくて、必死で臨まなければと思っています。
佐伯 僕はみんなと歌う曲が大半だけど、ナンバーも運動量もすごく多い。ミュージカルの経験があまりないので、歌って踊るということ自体未知の世界という感じです。
中村 僕もずっとバンドでギターを弾きながら歌っていたので、演じながら歌い・踊るというのは本当に未知の領域です。特に不安が大きいのはダンスの部分。立ち回りが身に付きすぎて、ダンスをすると全部殺陣みたいになってしまって(笑)。たまにダンスをする時は、一度殺陣に変換します。面倒なようだけど、僕にとってはその方が覚えやすくて。最近はミュージカルが増えてきたけれど、まだまだ苦手意識がある。刀を持たせてくれれば自信を持って舞台に立てるんだけど(笑)。
佐伯 それ、もう作品が変わっちゃいますよ(笑)。
――ハードな舞台を乗り切る秘訣は?みなさんの元気の源は何でしょう?
中村 僕の元気の源は酒で、酒は僕のストレス解消法。稽古終わりのビールが美味しくて。単純に酒が好きなだけなんだけど(笑)。
神里 忙しいとコンビニに頼りがちだけど、舞台の時はきちんと栄養を考えて食べるようにしています。特に元気が出るのは肉!焼肉を食べると“明日も頑張ろう!”って思える。一人焼肉も全然平気で、いつも普通に行ってます。
中村 こんなイケメンが一人で焼肉を食べてたら、周りから注目されるんじゃない?
神里 焼肉を食べてる時はひたすら肉に夢中になっているので、周りは気にならないですね(笑)。
佐伯 食は大切ですよね。僕は太れない体質で、なるべく1日4〜5食くらい食べるようにしています。そうしないとどんどん痩せ細ってしまうんです。
中村 僕も若い頃はそうだった。でも30歳を超えたら自然と太るから大丈夫(笑)。
佐伯 お酒を飲んでも太らなかった?
中村 酒を飲み出したのは32歳から。それまで全く飲めなかったけど、何故か飲めるようになって。35歳を過ぎた頃からちょっと油断すると太るようになってきて、だから最近は糖質を控えたりと、なるべく気をつけるようにはしてる。
「素晴らしい作品になる予感がある。お客様をこの世界に引き込んでいきたい」
――公演を楽しみにしているお客様にメッセージをお願いします。
神里 再々演ではあるけれど、これまでのいいところを盗みつつ、またこの新たなキャストでゼロから作ろうという気持ちで取り組んでいます。本当に素敵なキャストが揃っているので、素晴らしい作品になる予感があって。芝居も歌も一生懸命頑張って、シャトー ド レーヴの目撃者としてお客様をこの世界に引き込んでいけたらと思っています。
佐伯 こんな素敵なキャストのみなさんとご一緒できるのは本当に大きな経験です。自分の人生の糧になるようしっかりみなさんのいいところを吸収し、成長できる作品にしたいと考えています。何よりこの華やかでキラキラした世界で生きられるのがすごくうれしくて。自分の役割を精一杯果たし、新しい僕をみなさんに見てもらえるよう精進していきたいです。
中村 2022年の年明け第一弾の舞台ということで、いつも以上に気合いを入れています。初演再演と演じられてきた作品が今回どこまで変わるか楽しみであり、自分自身どう変わっていけるかという楽しみもある。エンタメのいろいろな楽しみが詰まった作品です。舞台を観に来るのは敷居が高いと言われることもあるけれど、騙されたと思ってぜひ一度観に来てほしい。そしてこの作品がきっかけで舞台にハマったと言ってもらえたら最高にうれしいです!
取材:小野寺悦子
写真:加美山莉奈