耳馴染みのある名曲たちと、迫力のダンスシーン、そして舞台上で繰り広げられる数々の「魔法」――。2018年に日本人キャストによる初演が行われ、大盛況を収めたミュージカル『メリー・ポピンズ』が4年ぶりに再演される。パメラ・トラバースの小説を基に、1964年にウォルト・ディズニー・カンパニーによって製作され、アカデミー賞5部門を受賞した名作映画『メリー・ポピンズ』。その名作が、数々のディズニーミュージカルを生み出したトーマス・シューマーカーと、日本でも大人気のミュージカル『オペラ座の怪人』『CATS』『レ・ミゼラブル』等を生み出したプロデューサー、キャメロン・マッキントッシュにより、2004年にミュージカル化。以降、世界各国で上演され、多くの観客を魅了し続けている。待望の再演にあたり、初演に引き続きメリーを演じる濱田めぐみと、新たにメリー役に抜擢された笹本玲奈に本作へかける意気込みを聞いた。
――再演、出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。
濱田:単純にうれしかったですね。初演のとき、終わるのが名残惜しかったんです。そういう風に感じる演目って、今まで多くはなかったんですよ。公演期間も長丁場でしたし、終わったときにはほっとしましたが、同時に「もう終わっちゃったな……」っていう寂しさがあって。でも、きっと再演はあるだろうな、っていう予感は勝手にあったんですよね。なので「いつかな~」っていう想いではいたんです。なので、再演の話を聞いたときは、「もう一回やれる」という安心感がありました。あの世界にまた入っていけるのがうれしいですね。
――笹本さんは今回が初参加になりますね。
笹本:決まったときは、もう胸がいっぱいでしたね。長い長いオーディションだったので(笑)。オーディションに参加します、となってから、まず半年くらい期間があって、違う作品に出ながらオーディションを受けて、という感じだったので、生きた心地がしなかったです(笑)。「やれるの?やれないの?なんで私はいま呼び出されたの??」って(笑) 。マネージャーさんから電話がかかってきたときは「ダメでした」っていう連絡だと思って電話に出たので、もう本当に歓びも大きかったですね。
濱田:(演出の)キャメロンさんの作品のオーディションって、基本的に長いんです。世界中で上演されている『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』など、全作品をキャメロンさんがジャッジされるので、きっとそれぞれのカンパニーの順番待ちの時間があるんですよね。キャメロンさんの作品のカンパニーに入ることは容易ではないので、相性や運もあると思いますね。
――オーディション期間の長さには、そういった背景があるんですね。濱田さんは、初演時に印象深かった出来事はありますか?
濱田:これ(初演時のパンフレットの表紙)を見て、今すごく思い出したことがありまして。メリーは衣装で白い網手袋をしているんですが、お稽古のときはこの手袋を3枚くらい破ってました(笑)。しかも海外から取り寄せている貴重なものなので、そんなに予備もないんですよ。なのによく絡まって破けて、伸びてぶかぶかになっちゃって……。それをお衣装さんが一生懸命縮めて縫ってくださっていました。つぎはぎの手袋で日々お稽古してましたね。本番のときはまた新しい手袋が送られてきましたけど。あと、小道具を使うシーンがとても多かったので、とにかくひたすら練習していたのが思い出深いですね。
――たしかに、メリーはたくさん小道具を使いますもんね。
濱田:そうですね、「魔法」という小道具使いですね(笑)。扱う道具の数がすごく多くて。なのに「パーフェクト」ってよく劇中で言ってるじゃないですか。そのギャップを埋めるのが大変でした。
――笹本さんは今の時点で「こんな風に演じてみたい」というイメージはありますか?
笹本:私自身がディズニーミュージカルのファンなので、ディズニーの『メリー・ポピンズ』のイメージは立ち姿、手の使い方ひとつにしても、絶対に守りたいな、って思っています。ディズニーファンだからこそ、“規定”からは外れることなく、という気持ちが強くありますね。
――「メリー」はどんなキャラクターだと捉えていますか?
笹本:オーディションのときに、「(メリーは)どの角度から見ても美しさをキープしている」、と演出の方が言っていらして。でも、「自分が映る鏡があったりすると、自分の姿勢がいいか、綺麗かどうかチェックしてしまうナルシストさがある」、ともおっしゃっていて。それが「かわいいな」って思ったんですよ(笑)。いつも「完璧だ!」って自分で言っていて、実際完璧な女性だとも思うんですけど、人からどう見られるかとか、「そういうところは気になるんだな」と思って(笑)。
――濱田さんは、ご自身とメリーの共通点が多い、というお話を以前インタビューでされていましたね。
濱田:メリーという役に関しては、なぜか“演じる”という感覚がなくて。そのままの私が、「バンクス家にお邪魔する」って感じなんです。映画のメリー役のジュリー・アンドリュースを見たとき、びっくりしました。「あら、私とそっくりだわ」って。出で立ちとか、思考回路とか、物の見方や価値観がリンクしていたんですよ。子供に接するときの距離感とかも、わーーっと寄って行くけど、ちょっと違うなという感じになりそうだったらスッと止めたりとか。(演出の)キャメロンさんは、幼い頃から映画の『メリー・ポピンズ』を見て育ったんですって。だからジュリーのあのメリーが、キャメロンさんの中の“メリー”なんです。その像に近い人を常に探している。だから自分も選ばれたのかな、って。
――お二人はこれまでも何度か共演されていますが、お互いの印象で変化したところはありますか?
濱田:最初の出会いは『ジキル&ハイド』(2012年)だよね。私がルーシー役、玲奈ちゃんがエマ役で。その次に『ラヴ・ネバー・ダイ』(2014年)でまた共演して。同じ作品に出るのはそれ以来になりますね。その間に玲奈ちゃんは『マリー・アントワネット』で主演作をやったりして、すごいな~~!って思ってました。本来持っている彼女の素晴らしい資質がどんどん花開いていっているというか、とくに主演の作品を観ていると、そうなるべくしてなっている、と感じますね。より自身の魅力を増長させるパワーを感じると言いますか。あと、『ラヴ・ネバー・ダイ』で共演したときに、私が演じるクリスティーヌと玲奈ちゃん演じるメグ・ジリーが対峙する場面があって、メグ・ジリーが嫉妬に駆られて銃で脅して撃とうとするシーンがあるんですが、その時の彼女の目や、鬼気迫るものが、いまだに忘れられないです。もう、トラウマっていうくらい(笑)。『マリー・アントワネット』でマリーが処刑されるときの場面とかもそうでしたけど、純粋にその“感情体のみ”になっていて。役にズボって入っちゃうんだな、って。器の外側はすごーく薄い繊細さや柔らかさがあって、でも中は絶対に割れない強化ガラスでできている、みたいな。そういうブレない強さを感じるんです。いろんな役を演じる上で、とってもいい素質を持っている方だと思います。でも、玲奈ちゃんはいつも不安そうに言うんですよ、「大丈夫かなあ」って。
笹本:めぐさんが観にいらっしゃると、どうも正直なことを聞きたくなるんですよ。
濱田:自分だったら怖くて聞けないようなことも、「こういうところが不安で……」って、すごく素直にポロンと言えるのが魅力的だな、って思いますね。そういう素直さが役にも投影されていて。透明感があるし、バリアがない。本当に稀有な才能ですよね。
笹本:もうそんなに言っていただいて、ありがとうございます……!めぐさんは、日本のミュージカル界を引っ張って、つくっていると思うんですよ。
濱田:何をおっしゃいますか!
笹本:作品の方がめぐさんに「これをやってください!」って寄ってくるような……。20年前と今では、日本でのミュージカルの盛り上がり方って全然違うじゃないですか。以前は限られたところでしかミュージカルって上演されていなかったんですよね。その頃からめぐさんは劇団四季でずっとやられていて、めぐさんがスターになっていくにつれて、上演されるミュージカルの作品もどんどん増えていって。昔は女性が演じるミュージカルの主人公って、少女とかが多かったんですよ。でもめぐさんが活躍されていくにつれて、めぐさんが演じているような多様な役がすごく増えて、そういうお役を網羅しているという印象があります。
濱田:私が演じる役って、よく死ぬんだよね(笑)。
――一同(笑)
濱田:ミュージカルのヒロインって、よく死ぬのよね。あれ、なんででしょうね。
――あれ、ほんとなぜなんでしょうね。
濱田:しかも、すんなり死なないじゃないですか。死に方がけっこう衝撃的なんですよね。急に、生きている人間の人生が絶たれるわけじゃないですか。観ている方はショックですよね。だから、そういう役を演じると余計印象に残るのかもしれないですね。
――なるほど。でも本当に、多種多様な作品が増えましたよね。最近も「この作品が!?」とびっくりするような作品がミュージカルになったりしていますが、お二人は「これがミュージカルになったら面白そう!」と思う作品などはありますか?
笹本:(しばらく考えながら、取材部屋に飾られていたポスターを見て)『ゴジラ』とか……?今、パッと目に入ったんですけど(笑)、『千と千尋の神隠し』が舞台化できるなら、きっと『ゴジラ』もできると思います!
濱田:そうだね、できちゃうよね!(笑)
笹本:あと、時代ものの、正統派の和物ミュージカルがもっとあってもいいなと以前から思っていて。『源氏物語』とか。宝塚では上演されている印象はありますが。
濱田:ミュージカル『大奥』とかやったら面白そう!
笹本:ちょっと怖そう(笑)
――『大奥』いいですね。女性のキャストの方もたくさん出られますし。
濱田:衣装とかも豪華絢爛でね。見ごたえありそう!
――それでは最後に、公演を心待ちにされているお客様へメッセージをお願いします!
濱田:観に来てくださった方の心の中にいる、自分が抱え込んでいる“子供の部分”を解放できるたのしい作品ですので、観終わったあとは気持ちがすごく楽になって帰れると思います。素直な気持ちで私たちに会いに来てください。劇場でお待ちしています。
笹本:昔からディズニーファンということもあり、あの世界観にいざ自分が入ると思うと、畏れや不安もあるのですが、飛び込んだからには思いっきりたのしみたいと思っています。お客様も、ステージにいるキャスト、スタッフも全員が笑顔になって幸せな気持ちで帰っていただける作品ですので、ぜひたのしみに待っていてください。
取材・文:古内かほ
写真:玉村敬太