ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』小西遼生インタビュー

2022年もピーター・パンと冒険の旅へ! ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』が、今年も上演される。2021年に続き、潤色・訳詞はフジノサツコ、演出は森新太郎が担当し、ピーター・パンを吉柳咲良、フック船長/ダーリング氏を小西遼生が演じる。2年目の出演に向けて、小西に話を聞いた。「シンプルに演劇的」と表現する、森新太郎演出版『ピーター・パン』を経験して感じたことや、再び取り組む今の想いを、終始楽しそうに語ってくれた。

 

――昨年『ピーター・パン』に出演していかがでしたか?
森さんの演出が、すごくシンプルに演劇的で、ステージに立っていることがとても幸せな作品でした。『ピーター・パン』は作品自体の質もとてもよく、大人も子供も楽しめる作品ですが、演出家が変われば姿も全く変わっていました。森さんは、本当に舞台の役者を丸裸にした、極力芝居や心をそのまま映し出されるような演出をされていたので、そのタイミングで関われたことがすごく幸せでした。ただ、コロナ禍での『ピーター・パン』の上演は本当に難しいところがあるなとも思いました。家族で観に来ていただきたい作品ですし、子供の笑い声が作品を感じさせるものですから。その中で、すごくショーアップしたものではなく、演劇として僕らが自分たちの世界を作り上げていくことで、お客さんを楽しませることができる作品に仕上がったので、役者として参加できてよかったと思うところです。

 

――何かやり残したと思うところはありましたか?
いえ、もう全力でした。

 

―― 全国へも届けられましたね。全国を回ってみて、いかがでしたか?
地方も東京も、こちらが体感するものとしては、あまり変わりませんでした。ファミリーに観ていただきたい作品なので、やはり東京だけでしか上演していないと、来られない方々がたくさんいらっしゃると思います。できるだけ多くの人に素敵な時間を過ごしていただきたいという意味では、地方を回れたのもよかったと思います。昨年は劇場と宿泊先の往復しかできなかったので、地方ならではのオフの楽しみみたいなことは、ありませんでした。それよりも『ピーター・パン』を地方のたくさんの方に観ていただけたのが何よりの楽しみでしたね。

 

――演出家やキャストが変わりながらも、長年上演されつづけ、積み重ねている『ピーター・パン』のカンパニーに入ってみて、長く続いているんだなと実感されることはありますか?
作品の完成度が抜群に高いですから実感しますね。音楽もそうですし、物語もエンターテイメント性があるのに、結構深い部分を突いてくる作品です。やはりピーター・パンというキャラクターが、とても魅力的じゃないですか。物語の主人公として、心のすごく奥深い部分まで抱えている役だったりするので、演劇作品としても完成されているものですよね。

その中で僕の体験としては、子供に観てもらえる作品に出てみたいという想いが以前からありました。子供の時に観た作品が、その子の一生の記憶の中に残るものかもしれず、『ピーター・パン』という作品は幼少期の演劇体験のいい思い出になるのではないでしょうか。昨年は、同じ事務所の先輩の山西(惇)さんが観に来てくださったのですが、一番下のお子さんと、初めて一緒に舞台をご覧になったそうです。それが僕が出演した『ピーター・パン』で、「家族の一生の思い出になった」と連絡をくださいました。そのことがめちゃくちゃ嬉しくて。

 

――家族の歴史に刻まれたということですものね。
すごくいい先輩で、役者として大尊敬している方ですが、その方に有意義な舞台を観せることができました。観てもらえたことも、その子に記憶として家族の思い出が残るということも、関わる前から実現したかった自分のひとつの夢みたいなものでしたので、嬉しかったですね。

 

――いつかそのお子様にお会いした時に、「フック船長だ」と話せるといいですね。
あの扮装じゃないと、なかなか同じ人だと思ってもらえないんじゃないかな(笑)。

 

――吉柳さんと、ピーター・パンとフック船長として対峙してみて、より絆は深まりましたか?
絆はめちゃくちゃ深まったと思います。稽古中からお互いにすごくリラックスして、役柄を演じていたと思いますし、咲良が若いからということもあまり意識せず、役者同士で、ある意味バディみたいな役なので、イーブンな関係でやっていたと思います。咲良は無限のエネルギーを体の中に搭載しているんじゃないかと思うほどで、エンジンが最新型だなと思いました。

すごいんですよ。いくらでも上に上がっていきますし、能力値で言うと、森さんの演出によって、咲良は今までと全然違うピーター・パンをやったと思いますが、稽古中もどんどん向上していくし、無尽蔵のエネルギーと歌声がどこまでも伸びていくというか。それは若い成長という部分はもちろんあると思いますが、根本的に底知れない才能を持っています。舞台上でピーター・パンとある意味ニコイチみたいな役なので、咲良が上がれば自分も上がろうと思いますし、こちらが全力でやればやるほど、ピーター・パンはフック船長をおちょくることができます。そういう無言のやり取りみたいなものも、そこかしこでできたので、とてもいい関係性だと思います。

 

――その無限のエネルギーがあるならば、今回はさらにすごいかもしれませんね。
咲良がトレーニングをスタートしているそうで、「早っ!」と思いましたが、もうすでに去年以上を目指していますね。

――小西さんはトレーニングなどはされていますか?
やり始めました。『ピーター・パン』のためだけではないのですが、昨年がすごくしんどかったので。本当に求められるフィジカル面での大変さがある舞台です。特別アクションシーンがあるわけでもないですし、体力的に大変そうには見えないかなと思いますが、やっている側はこだわればこだわるほど大変なんですよ。全員実年齢よりも子供を演じているじゃないですか。

今回のフック船長も、髭を取ったら子供というか。ネバーランドはそもそも子供しかいない中で、フック船長は大人の汚い部分を見せる役割でもありますが、「結局はフック船長も子供」というのが、森さんと作った『ピーター・パン』でのフック船長の解釈なので、子供としているわけですよ。台詞を発するにしても、それを出す時のエネルギーが、子供としてやっているので、ひとつひとつがマックスです。子供は先に取っておくことをしないので、何をするにも全力で走って転ぶじゃないですか。だけど次にやりたいことがあるから、また立ち上がって行く。そういうのを常にやっている状態で演じようと決めていたので、自分のエネルギーメーターが毎日ぎりぎりのところになるんです(笑)。そういうことも含めて、より大きくするには、体力づくりしかないなと思っています。

 

――どこかを鍛えるというよりは、自分の体力のチャージを上げるんですね。
そうですね。衣裳などであまり分からなかったかもしれませんが、常に腰を落として芝居していたんです。2時間以上の舞台でずっと腰を落とすのは、それだけでも大変なんですよね。でも、やり始めてしまったからにはやろうと思っています。

 

――腰を落として演じるのは、ご自分でやり始めたんですか?
はい。子供の目線になるつもりでした。腰を落とすというよりは、子供は常に前のめりという部分も含んでいます。あとは、周りの役者の中でも僕が一番背が高いので、その高さを生かすところもありますが、基本的には相手の目の高さに向かって何かをやるとか、その分有効な時だけすごく胸を張るとか、そういうつもりでの身体表現のひとつで、ずっと反復横飛びしているような感覚でした。体のエネルギーという情報が落ちないようにするためです。余裕で立っているとかではなくて、常にエンジンが動き続けている状態を見せるために腰を落としていたんです。ずっと体からエネルギーを発し続けようと思っていましたが、それが予想以上に大変なんです。だから去年より楽に表現できるようにしたいなと思っています。

 

――ダーリング氏についても伺いたいのですが、作品においてのダーリング氏のポジションを、どのように捉えていらっしゃいますか?
ダーリングはすべての始まりというか、本役だと思っています。ピーター・パンに出会ったこと自体が子供たちの見た夢かもしれませんし、フック船長は結局、子供たちの実生活の中での、口煩く注意する大人の象徴でしょうか。ダーリングは、そこに愛情があるかないかと言うと、親だからあるんです。でも、お父さんであるダーリングから「しっかりしなさい!」と言われても、子供から見たらお父さんも全然しっかりしていない。そういう姿があってのフック船長なので、すべてのベースなんですよね。ダーリングは、社会的立場や年齢を含めて言うと大人ですが、家族の中ではずっと子供です。フック船長も髭を取ったら子供というのと一緒で、ダーリングも家族の中で、例えばお母さんから見れば男の子、みたいな部分を強めに出しています。

 

――だから子供のようにも見えるような、ちょっとコミカルなお父さんになったんですね。
森さんがああいうのを見たいだろうなと思って作り始めました。

 

――相談して始めたわけではないんですね。
台本の第一声目で「お母さん、お母さん!」と入ってくるところのト書きに「台風のように」と書いてあったんです。だから稽古中に、ものすごく台風のように入っていったことがありました。体も回って(笑)。そうしたら森さんがすごく気に入ってくださって、そこをベースにしました。

 

――では、ダーリング氏に限らず、森さんが求めそうなことを先手先手で、作って行かれたんですか?
森さんが台本をこう読んでいるだろうなということが、上演台本に反映されていると思うので、これをお客様に見せたいんだろうなと考えています。「しっかりしなさい」と言っているけれど、「一番しっかりしていないのは君だよね」というお父さんで、その分お母さんがすごく引き立ちます。一番最後のシーンでは、何だかんだ言って、子供に対してのとてつもない愛情があったことが際立つように考えて作りました。

 

――再演に当たって、森さんとお話はされましたか?
今年はまだお会いしていないのですが、昨年の公演で、森さんが最後に来た日に、「小西、来年も頼んだよ」と言って帰っていきました。

 

――じゃあ、昨年目指したものはもうやり終えて、また新たにというお気持ちでしょうか。
そうですね、1年経てばいろんなことを忘れていると思いますので。最終的には去年以上にお客様、子供の声をもっとたくさん聞きたいと思いますし、そこは作品がどうこうというよりは世の中の状況の変化だったりします。そのヒントとして、僕は稽古場で基本的に演出家の反応を感じるのがすごく好きで、森さんは反応をすごく分かりやすく僕らに返してくれる人なので、また稽古場で森さんが笑ってくれるように、いろいろやってやろうかなと思っています。

 

――去年はご時世で行きたくても行けなかった方もいらっしゃると思いますし、今回初めてご覧にになる方もいらっしゃるかと思います。ぜひメッセージをお願いいたします。
1回もこの作品を観たことがない方は、すごく損をしていると思います。例えば音楽でも、どこを切り取っても上質な作品ですし、日常に対しての活力みたいなものも得られます。ご家族で観ていただける方は、例えば親御さんは子供の気持ちをたくさん知りたいと思いますが、大人になって実際に親になると、全部のことを知っているようで、子供が本当に抱えているパーソナルなことって知り得なくて苦労している人もたくさんいると思います。そういう子供の気持ちみたいなものは、すごく純粋にピュアにこの作品に投影していますし、この作品を家族で一緒に観て、その後にお子さんを見た時に、観る前以上に子供のことが愛おしくなっているんじゃないかなと思っています。

いろんな見方ができるとてもいい作品です。1年しか経っていませんが、個人的には咲良とビジュアル撮影で再会した時に、変わっていなくて安心するとともに、内面的な部分で1年でぐっと大人になっているなと感じました。やっぱりあの年齢の、しかもピーター・パンに選ばれる人間は特別だと思いますし、その輝きは一瞬一瞬どんどん変わっていくものだと思います、咲良のピーター・パンは、「今、まさに、ピーター・パンは彼女しかいないよ」という風に仕上がっているので、その瞬間を観ていただきたいです。あの輝きを浴びるのはすごいです。ピーター・パンは客席の上も飛びますから、本当に浴びられます。

 

――ありがとうございます。最後にローソンの思い出をお聞かせください。
毎日お世話になっていますよ! いろんなコンビニ唐揚げの中で、やっぱりからあげクンのレッドが一番好きです。ちょっとお腹が空いている時に、ちょっと何か食べたいなという時に、からあげクンのレッドは最高に美味いですよね。

 

――結構よく食べますか?
たまにですが、何かに熱中していると食事のタイミングを逃してしまうので、移動中とかで朝から全然何も食べなかった、ちょっとお腹空いたなという時に、食べています。

 

取材・文/岩村美佳