ブロードウェイミュージカル『ピピン』Crystal Kay インタビュー

ブロードウェイミュージカル『ピピン』が、3年ぶりに上演される。初演時には、ミュージカル初出演にして、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した、リーディングプレイヤー役のCrystal Kay。上演時から話題になるパフォーマンスだった。再演への想い、作品の魅力、ミュージカルへの想いなどを聞いた。

――2019年に素晴らしい舞台を拝見させていただいたのですが、初演の手応えと再演が決った時のお気持ちを伺わせてください。

全部初めてでしたので、何をすればいいのか、右も左も分からない状態で、とにかくベストを尽くすしかないと思っていました。運動神経と歌はできますので、あとは周りの人に頼りながら、いろいろと勉強させてもらいながら頑張ろうと思いました。毎回緊張していましたが、すごく初心の気持ちに戻れたというか。パフォーマンスの素敵さなど、キャストの皆さんが本当に素晴らしかったです。みんなで毎日ひとつの作品を作り上げ、毎日が生ものでした。みんなの心が一つになっているパワーが強すぎて、不安はもちろんありましたが、本当に楽しく幸せでピュアな感情が強かったです。

手応えとしては、いつものポップスを歌っている感覚と、舞台で歌っている感覚の、絶妙な違いがありました。気持ちやストーリーを伝えること、パフォーマンスすることは変わらないですが、やっぱり普通に歌うだけだと、全然歌詞も台詞も伝わらないんです。だから、上手に歌うとか、綺麗に歌うではなく、どれだけストーリーや話している言葉が、前にいるお客様に伝わるのか。外に、大きく見せるのが、新しい感覚でしたね。

あとは、台詞ってどうやって覚えるんだろうと、役者の友達や、海外の友達に聞きました。みんなそれぞれテクニックはあるのですが、「書くのがいいよ」と聞いたので、台本を最初から最後まで全部書いて覚えてましたね。でも、人間できるんですね(笑)。再演が決まった時の感想は、またファミリーと再会できる!と思って、楽しみでしかないです。ダブルキャストの(中尾)ミエさんと(前田)美波里さんが羨ましくて。私は(自分が立っている舞台は)絶対に観られないので、本当にそれが残念。また観たいという声が多いからこそ再演が実現したのでしたら、めっちゃ嬉しいですね。

――初演はミュージカル初出演で、その演技に対して読売演劇大賞優秀女優賞を受賞されました。結果が残せたことに対する思いはありますか?

すごく嬉しいです。受賞は本当にびっくりでした。ノミネートされたと言われた時も驚いたのが、きっと新しい作品が出てきて、消えるんだろうなと思っていたんですよ(笑)。そうしたら残ったので、本当にびっくりしました。嬉しいですし、これはみんなの賞だなと思いました。もちろん(城田)優君も、メインキャストの皆さんも、ダンサーもアクロバットの方々も、彼らがいないと成り立たない賞ですから、本当にみんなで獲った賞だねという感覚でした。

2019年公演より

――素晴らしいカンパニーだからこその受賞ですね。

開幕してリピーターが多くなっていったこともすごく嬉しかったです。いろんな作品がたくさんあると思いますが、『ピピン』はすごく独特ですし、結構シビアでリアルなところも、大人な乱痴気騒ぎするシーンもあったりもしますが、それが見応えがあったということなのか、すごく嬉しいですね。老若男女誰でも楽しめて、ミュージカル苦手な方も絶対に楽しめます。本当にいろんな要素が入っているから、得した気分になるのではないかなと。それぞれの人生のどこかにマッチして、自分と照らし合わせるところが、物語の中に必ずあるんです。ピピンのおばあちゃんバーサを演じる、美波里さんとミエさんのシーンは、同じぐらいの年齢の方たちが観ていて、勇気も貰うだろうと思います。おばあちゃんがピピンに対して「(人生を)楽しみなさいよ」と言う場面も、人生を振り返る人もいれば、「これからどうしよう」勇気をもらっている人もいると思います。そういう面でも希望やパワーを与えられた賞になったと感じますので、嬉しいですね。

――『ピピン』に出会えたこともすごいですね。

私はニューヨークで初めて観たのですが、それがご縁でした。2013年から1年半くらい、ニューヨークに音楽でチャレンジをしに行っていました。住んでいたところからワンブロックがブロードウェイで、勉強のためによくミュージカルを観ていたんです。そのときに、たまたまパティーナ・ミラーさんが出演している『ピピン』を観ました。彼女もリーディングプレイヤー役で賞(トニー賞最優秀主演女優賞)を獲っていますが、私が劇場から外に出ると、全身黒い服装で帽子もかぶっていたから、「写真撮ってください」と言われたんです。彼女に間違われたみたいで、「違いますよ」と。その2年後に、優から「一緒にミュージカルやらない?」とLINEが来て、「何のショー?」と聞き返したら『ピピン』で、リーディングプレイヤー役だったので、すごいご縁だなと思いました。

――『ピピン』ではダンスも多いですよね。ダンスにまつわるエピソードや苦労話があれば、お願いします。

ニューヨークのプロダクションチームが来て、オーディションというか「どれだけできるか確かめようデー」があったんです。空中ブランコもできる大きなスタジオで、チームがテーブルに並んで座っているんです。そこにひとりで入ると、”Can you Hula hoop?”と言われて。フラフープ、空中ブランコ、歌、ダンスと次々にチェックを受けました。ダンスでは、いきなりマンソン トリオの振り付けをやったのですが、全然できないし、フォッシーだし。「2週間のブートキャンプをやるから」と言われました。それで、稽古が始まる半年前から2週間、振り付けを覚えるのとブートキャンプをやりました。でも本当にあれがなかったら、稽古が1か月しかないので、絶対無理でしたね。私はバレエの基礎ないのですが、「逆に基礎がないからいいんだよ」と言われました。バレエができると、やりにくい動きだったりしますので。やはり大変でしたね。今回も1回はどこかでやりたいですね。ブートキャンプじゃなくても振り起こしはしないと!

――まだ観たことがない方に対して、どこに注目して来て欲しいなというところはありますか?

もう全部です。本当に騙されたと思って来てください! 次に何が来るか分からない、本当にびっくり箱みたいな感じですから。

――いわゆるミュージカルの先入観を超えていますよね。

でもミュージカルのイメージで来てもいいと思います。いい意味で裏切られると思いますし、びっくりすると思います。あとは、ステージのいろんな場所で、みんなが個々で動いているから、観るところがたくさんあって目が足りないというお客様が多かったんです。そういう理由の再演希望も多かったみたいですね。だから何回観ても新しい発見があるという声もすごく多く、確かにと思いました。本当に騙されたと思って、一度来てください。

――悪いようにはしないから、と?

そうやって言うと、リーディングプレイヤーが言っているみたいな感じですよね。いいからちょっと来なよ、みたいな感じですね。サーカスの要素もありますし、イリュージョンも、ダンスも、アクロバットも、お芝居も。どう言うのが一番いいんでしょう……何も考えずに、期待だけ持ってきてください。多分、何かしらびっくりすると思いますから。

――リーディングプレイヤーは、お客様とつなぐ役でもあり、舞台を回していく役でもあり、すべての鍵を握る役かと思いますが、どのように役作りされましたか?

あまり役作りはしていなくて、いつものパフォーマーの感覚でやっていたかもしれません。だから、今回のほうが役作りするかもしれません。一度経験していることもありますし、アクティングクラスも始めましたので、またアプローチが何か違うかもしれませんから、それがすごく楽しみなんです。

――リーディングプレイヤーがどう変化しているかも、楽しみのひとつですね。

初演の役作りは「全部覚えなきゃ」といっぱいいっぱいで、周りの人にも聞きながらという感じでした。とにかくステージの責任がある人であり、何があっても「とにかく任しておきなさい」という感覚でいました。

――再び演じるにあたり、具体的に変えてみよう、深めてみようと思っているところはありますか?

リーディングプレイヤー自身の「こういうことがあると嬉しいんだよな」とか、パーソナルな部分をもうちょっと作ってみたいなと思っています。彼女がどういう人なのかを、ちょっとだけ出せるように。今までのピピンとはどうだったのか、彼女の生い立ちなどを、もうちょっと掘り下げて、自分風に少し作ってみたいなと思います。

――男性がリーディングプレイヤーをやっていたこともありましたし、いろんな可能性がありますよね。

リーディングプレイヤーの存在自体が何か分かりませんし、男でも女でもないかも、人間じゃないかもしれません。

2019年公演より

――あやかしの世界へ、みたいなことですか?

はい。だから本当に好き放題というか、自分が思うリーディングプレイヤーでいいと思います。振付のチェット(・ウォーカー)から、「あなたしかできないリーディングプレイヤーなんだから、自信を持って」と言われましたが、そこがすごく楽しいです。やはり男性的なところもあり、女性らしさもちょっと出せる、本当に彼女のやりたい放題という感じですね。今回、ピピン役が森崎ウィン君で、全然違いますので、そこは大きいと思います。ウィン君は少年っぽいから、食い甲斐がありそうなピピンになってくれそうですね。優は背が高いじゃないですか。だからウィン君は全然違う、さらにイノセントなピピンを食える感じです。

――ビジュアル撮影のときに、そう感じましたか?

はい(笑)。優のピピンと、ウィン君のピピンの違いが、お客様もとても面白いと思われると思います。

――『ピピン』の音楽に関しては、どう思われますか?

全部がすごくキャッチ―で、頭から離れません。ミュージカルの曲ですが、いい感じにポップス感も入っていて、口ずさんでしまいます。本当にオリジナルの世界観がめちゃくちゃ強いというか、ミュージカルを観ている感じがしません。シーンごとの世界を作っている曲という感じで、普通にすーっと入ってくるんです。ミュージカルの曲って「ミュージカルの曲です!」みたいな感じがあるじゃないですか。モータウン節がちょっと入っているからなのか、ポピュラーミュージック感が入っていて、すんなりシーンと空間に入ってくるような気がします。だからなのか、すごく聞きやすくてキャッチ―ですね。

――歌いやすいですか?

難しいですね。抑揚が強いのでしょうか。そういうところはミュージカルっぽいですし、曲の中の展開が結構あったりもします。そこは、物語を表現する意味で、transition(移り変わり、変遷、変化)が曲中にあったりするとは思います。リーディングプレイヤーの歌い方みたいなものがあるのかな? それが結構パワフルです。力強く発声するイメージがあって、そう考えると、普段歌っている曲よりはだいぶ声が出ている感じはあります。その辺が難しかったかもしれません。

――すると、また新たな歌声を聴けますね。

そうですね、Crystal Kayが歌っている感じと全然違う歌になっていると思いますので、そういう楽しみはあると思います。私もそこは、上手く綺麗に歌うのは避けたかったんです。もちろん私らしさは残しつつというか、変えることはできませんが、綺麗に歌うのは違うと思いましたので、「歌手がミュージカルやってるのね」という風にはなりたくなかったんです。

――ニューヨークにいらっしゃった時に、ブロードウェイによく観に行っていたということですが、元々ミュージカルはお好きだったんですか?

子供の頃に2、3作ほどしか観たことがなかったです。ニューヨークにいた時は近いですし、いろいろと学べるものがあるんだろうなと思って観るようにはしていました。最近は、観られる機会があれば、観るようにしています。

――一度やってみて、ミュージカルに対する意識や見え方は変わりました?

大変なんだろうなと思っていましたが、リーディングプレイヤーが大変すぎて、これができれば他の作品でもできるんじゃないかと思いました。

――以前観ていた時と今とで、ミュージカルの見え方は変わりましたか?

出演してからは、大変さがさらに分かりました。もちろんその前から大変なんだろうとは思っていました。今は、すごい肺活量だなとか、この人この台詞をよく覚えたなとか、そういう風に見てしまいます。

――作品を楽しむというよりは?

そこも観ていますし、客観的にステージングも見てしまいます。でもさらにありがたみを感じるようになりました。以前は「このミュージカルはあまり興味がないから、そんなに行きたくないな」ということがあったのですが、どんな作品でも得るものは絶対あると思いますし、きっと心が動かされるという思いで観るようになったかもしれません。

――今後もミュージカルには出演されたいですか?

もちろん経験もすごく大事だと思いますし、やればやるほどパワーアップできると思います。チャレンジはしていきたいですが、「この役に命を吹き込めるかも」「これだったら、私なりに作品をよりよくする自信がある」「やってみたい」など、チャレンジしたい理由があれば、やりたいです。

――そういう視点で『ピピン』には出演したいと思った、一番の理由を教えてください。

初演の時は、「これをやれば怖いものはない」という理由だったんです。何故2回目をやるかは、「夢のような時間を人に与えられる作品だから」。あとは、「またファミリーに会えるから」です。

――作品を届けられる喜びと、ご自身の気持ちの喜びと、両方あるんですね。

そうですね。本当に作品が素晴らしいと思いますので、絶対に人の心を動かす力がある作品だと信じているからです。

――開幕に向けて、楽しみにされている方たちに、ひと言メッセージをお願いします。

ちょうど初演の後にコロナ禍になってしまいました。多分ストレスや、コロナ禍でいろいろと変わった日々になってしまった方が多いと思いますので、この2時間半、本当に違う世界に連れて行きますので、ストレスとかも全部ここで放って行っちゃってください。楽しみにしていてください。皆さんを食うのを楽しみにしています(笑)。

2019年公演より

スタイリスト:NARUMI OAMURA
ヘアメイク:KIYO IGARASHI (SIGNO)
撮影 GEKKO
インタビュー・文:岩村美佳