『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』大貫勇輔インタビュー

昨年末に爆誕した『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』が、一年経たずに再演される。あの『北斗の拳』をミュージカル化する!?と、幕が開くまでどんな作品になるのか想像できなかったが、開幕するやいなや、原作ファンやミュージカルファンなど、全方位に受け入れられ、日増しに盛り上がって行った。原作を大切にしつつ、舞台ならではのリアルな心の動きを描く、日本発のオリジナルミュージカルだ。主人公ケンシロウを演じる大貫勇輔に、初演を振り返りつつ、再演で目指すことを聞いた。

 

ーー早くも再演ということですが、率直にどんな想いですか??

すぐに再演ができることを本当に嬉しく思います。初演のときは、周りが見えないくらいにギリギリの状況で、毎日、毎公演を、なんとか乗り越えました。公演が終わったら、お風呂に氷水を溜めておいて、首まで浸かって、そのあとにマッサージの先生を呼んで、毎公演40分くらい治療をしてもらう日々を過ごしていました。シングルキャストだからこそ、僕が抜けてしまうと舞台が止まってしまう、代わりがいないこともありましたから。どこかに痛みがあると、ものすごく神経をすり減らしてしまって集中してお芝居ができなってしまうので、ケアを欠かさずにやっていました。

ーー手応えや周りの反響などは、どう感じられましたか?

女性もそうですが、特に男性の知り合いから反響が大きかったです。治療科の先生は僕が19歳のときから診てくださっているのですが、これまでの作品も1回ずつ観劇してくださっていましたが、この作品に関しては全部で4回も観て、毎回泣いたとお話しされていました。空手育ちの「ザ・男」みたいな人ですが、僕の兄貴分みたいな人が喜んでくださったのも、本当に嬉しかったです。他に、シェフや長く面倒を見てもらっている人などの男性からの支持が多くて、何度も観に来てくださった方も多くて嬉しかったです。

ーーご自身で、手応えを感じる部分はありましたか?

原作の力もそうですし、音楽担当のフランク・ワイルドホーンさんと、脚本・作詞担当の高橋亜子さんのふたつの力が、ベースとして素晴らしかったと思います。原作のもつ、ある種コミカルな部分は非現実的すぎて、クスッと笑ってしまうところがあるものを、いいバランスに仕上げる。愛の物語だということがきちんとベースにあって、たくさんいるキャラクターを厳選して分かりやすく、原作を損なうことなく、リスペクトがきちんとあること。そして、原作を愛している人からも支持されるような脚本だったと本当に思いました。それが亜子さんの脚本であり、さらに助長してくださった作曲のパワーだと思います。

初演ということもあり、僕ももちろん、演出の石丸さち子さんの気合が入っていて、そこにみんなが集まって、世界初演、オリジナルキャストだと、一致団結したんですよね。目に見えないパワーというか。それは『ロミオ&ジュリエット』の初演でも感じました。日本初演で「みんなでやってやるぞ!」という若さが、ロミジュリには溢れていましたが、今回もそれに似たようなものを感じていました。始まる前も「『北斗の拳』をミュージカル化? どうなるの?」と自分たちも少し疑っていましたが、「絶対いいものにしようぜ!」というキャスト全員のパワーが本当に団結しました。稽古2週間くらいで通せる状態にできたときに、多分みんなが「これはいけるかもしれない」と思い、より感動させるためにはと、その後の稽古でさらに磨き上げて迎えた初日でした。

ーー「愛の物語がベースにある」とおっしゃっていましたが、今この時代にこの作品が上演される意味、意義などについては、どう思われますか?

生きている人間の話で、北斗神拳の伝承の話だから、すごく仰々しく、特別に感じるかもしれませんが、本当に愛する人をある人に奪われ、探し出す物語です。要は自分の苦しみと、悲しみと向き合う一人の男の成長物語なんですよね。ケンシロウは友達や村人と出会い、起きた出来事で成長していきます。村人はアンサンブルの人たちが演じてくださっていますが、それぞれが、何歳で、どこで生まれて、どういうふうに父親と母親に育てられて、どこで生き別れてという自分の人生を、ノート一枚ぶんに箇条書きにして作っていたんです。自分たちの役を深く考えて舞台に立っていて、彼らがいい土台を作って、この舞台を支えていてくれたなと思います。

彼らが「今こそ戦え」と、一人が何万人もの声を代表して歌うシーンがありますが、そういう規模感。木があるから森になる感覚ではないですが、本当に1本の木がなかったら大きな声、エネルギーにはならない。何かのムーブメントにはならない。そういうことをすごく根底に、石丸さんが演出されて、みんなも必死に考えました。小さなひとりの人間でも、その小さなひとつの思いが、何かを動かす小さな炎のひとつになるんだということが、この作品のひとつのテーマでもあり、それは、今の世の中にもすごく当てはまることだと思うんですよね。自分だけではなく、ひとりの意志で大きく変わるんだということが、この時代に意味をなすのではないかと思っています。

ーー初演ではケンシロウをどうプランニングして作り上げていかれましたか?

まずは原作のケンシロウを一番大事にしました。彼がもし本当に現代に生きていたらどうするかなと演技プランを作っていたんですが、そう考えれば考えるほど、できなくなることがすごく多かったです。ケンシロウは歌わないし、踊らないじゃないですか。それをやろうとすればするほど、自分の中でノッキングを起こす気持ち悪さがすごくあって。石丸さんがひとりの生きる人間なんだとおっしゃって、表は大貫勇輔で、ベースがケンシロウみたいなニュアンスにしたときに、ひとりの男としてケンシロウと向き合えたかなと思います。

ケンシロウっぽくないところもありますが、どんどん成長して、最後のラオウが昇天して、バットとリンとお別れして、ユリアの手を取ってこれからふたりで新たな旅に出ようというところで、僕は初めて原作のケンシロウになれたのかなと思います。あそこが旅の始まりなのではないかと。そこまでは、ケンシロウになるまでの物語なのかなと思いました。ケンシロウというフィルターはなるべくかけないで、本当に相手の芝居を受けるから次の言葉が出る、成長する、そういうものをすごく大切にしました。最初はユリアのことしか見えていませんが、バットとリン、村の人を守らなきゃ、レイやシンが亡くなって、など、そういういろいろな人たちからエネルギーを受け取ることによって、次のステージへと積み重ねることを意識してお芝居しました。

ーー漫画原作ものですが、キャラクターの再現性を重視したわけではなく、舞台版で描かれているケンシロウの生き方を作っていったという感じですか?

今、2.5次元ミュージカルがとても流行っていますよね。原作のファンがたくさんいるから、そのイメージを崩さないために原作のキャラクターに似せることが、大切にされていると思います。でも、石丸さんは「これは2.5次元ミュージカルだけれど、そうではない。お芝居の力を持って、原作の『北斗の拳』の真ん中にある愛の物語を伝えるんだ」とおっしゃっていたんです。ある種ケンシロウらしからぬ、泣き出したり、倒れ込んだりする仕草はするんですが、そこで悩み苦しんだり、吐露することはない。それをどうしたら説得力を持ってお客さんに届けられるかと考えました。

ひとつひとつの仕草など、最初は肩ひじを張ってケンシロウの歩き方などをやっていましたが、それだとつながらないんです。伝承式のときはバッと立っていますが、世界が滅んでトキがいなくなっていくときには、どんどん悩んでいくひとりの頼りない男になっていく。そこから始まるみたいな。歩き方や姿勢も、一幕と二幕では自分の中で徐々に変えていきましたが、そういう体から出る弱さや、声のトーンで、ひとりの生きる男を描きたいと思ったんです。だから、ケンシロウを描くというよりは、ケンシロウという名前の男をリアルに演じたいと思いました。

ーーミュージカルでは歌で心情を吐露しますが、心情を語らないとミュージカルにならないですよね。

そうなんです。原作のケンシロウはほとんど喋らないですからね。

ーー原作とミュージカルのハイブリットを作ったという感じですね。

本当にそうだと思います。

ーー再演にあたり変更されるところはあるのでしょうか?

石丸さんとも話していたんですが、演出の面でも、合間の繋ぎの曲など、作り込みたかったけれど、時間がなく描ききれなかった部分もありました。シンやジュウザの部分で、初演でも素晴らしい描かれ方をしていましたが、再演では変えようと話しています。

あとは、ケンシロウの一幕最後の踊りの部分。もともと僕のソロではない曲を、当て込んで、辻本知彦さんの素晴らしい振付で作りましたが、今度は時間をかけてソロの曲として曲を作り直して、振付も新たな形にしようと話しています。よりバージョンアップした、一幕最後の歌からの踊りのシーンを作りあげたいねと、石丸さんとお話ししています。

ーー一幕のラストは、初演でも本当に名場面で、そこが変わるのは大きいことかと思いますが、大貫さん的にはどうブラッシュアップしたいと考えていますか?

理想の話をすると、ロンドンで『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』を観たときに、一幕が終わってから感動で立てなかったんです。初演ではそれなりにいい形にできましたが、お客さんすぐに立っていたんですよね。そのときに、ある種ショーストップするくらいの、僕がロンドンで受けた衝撃くらいの衝撃をお客さんにも与えたいなというのが目指すところですね。休憩のアナウンスが入っているのに、お客さんが立てない、みたいな。そんなふうにできたら最高ですね。もっとこうできたなという部分は、いつもありますし、反省をさらに生かしたい。今回も初演以上に限界を超えたパフォーマンスができたらと思います。

ーー初演を超える名場面を楽しみにしております。

僕も立てなくなるんじゃないかと思いますが(笑)。

ーー新キャストが入ってくることについてはいかがでしょうか。

三浦涼介君は、ロミジュリで初めて共演してから、すごく仲良くさせてもらっています。そんな彼が、命を賭して僕に大切なことを教えてくれるレイ役で、それを親友のりょん(三浦)が演じることは、どういう心の動きになるのか楽しみです。あとは、素晴らしいキャストの方々が参加してくださるので、初めましての方も多いですが、とても楽しみです。

ーー今回は前回のベースがある上での稽古になりますが、作り方の違いなどについてはいかがですか?

前回はお芝居のところから歌を作っていきましたが、今回は歌から芝居を作れたらいいなという理想があります。叫んだり、闘ったりと、体に負担がかかるのですが、ケンシロウらしい声を作らなくちゃと頭のどこかで思っていたので、喉に対する負担もすごかったんですよね。そうすると本来の歌ったときのいい響きに、なかなかいかない部分があったんです。今回は逆に、歌の声のトーンに合わせてお芝居が作れたらいいなと考えていますが、それは理想です。

ーー体力の消耗はやはり大きいですか。

叫ぶとか、戦って体を使うときなど、声帯が固まっている状態で声を出したりするのが、ものすごくストレスがかかるんです。それと、シングルキャストなので慎重に毎公演やっていますね。

ーー本作は大貫さんの代表作と言っても過言ではないと思いますが、ご自身ではどう考えていらっしゃいますか?

まさしくそうだと思います。あて書きのように書いてくださり、演出してくださって、本当に感謝しています。ただ、公演中は本当に地獄のような日々で、諸刃の剣というか。それだけ成長できますが、感謝としんどさが100と100あるような感じです(笑)。

ーーそういう意味でも唯一無二の作品でしょうか。

こんなにしんどいことは、今までに一度も経験したことがないですね。

ーー最後に読者の皆さんへメッセージをお願いいたします。

原作を知っている方も、そうでない方も、初演を観てくださった方も、そうでない方も、脚本と作曲が素晴らしく、そして初演があったからこそのバージョンアップした再演がお届けできると思います。だからこそ、新たな感動、そして人がこの時代に精一杯生きないと、説得力が持たせられない作品だと思います。再演は、初演を超える勢いで挑みたいと思っています。キャスト、スタッフ一同が一丸となって、また新たなものを作る気持ちで、挑みたいと思っています。たくさんの方の応援が必要なので、たくさんの方に何回も劇場に足を運んでもらえたら嬉しいです。

 

取材・文:岩村美佳