「まずは自分との闘い」ミュージカル『ファンタスティックス』岡宮来夢インタビュー

ミュージカル『ファンタスティックス』が10月23日に東京・シアタークリエにて開幕する。

米国におけるミュージカルの最長連続上演記録を持つほど多くの観客に愛される本作は、誰もが経験する恋と人生を描くミュージカル。『シラノ・ド・ベルジュラック』などで知られる仏劇作家エドモン・ロスタンの韻文劇『レ・ロマネスク』をもとに、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』『真夏の夜の夢』のエッセンスを織り交ぜた、ロマンティックかつ普遍的な物語が紡がれる。

上田一豪が演出を手掛ける今作で主演を務める岡宮来夢に話を聞いた。

 

たくさんの人に「もう一回観たい」と思われてきた作品

――お稽古は全シーン一通りやられたそうですね。

「はい。これからお芝居や殺陣を細かくつけていくという段階です。現時点では、稽古場の雰囲気がすごく平和で温かいので、この空気感がそのままお客様に届くといいなと思っています。トレンディエンジェルの斎藤(司)さんやアンガールズの山根(良顕)さんが笑いをつくってくださいますし、今(拓哉)さんが明るいムードにしてくださるので。そういう環境の中でみんなでのびのびと稽古をしています」

 

――お芝居の中でも笑いが多くなりそうですか?

「本番でどうなるかはわからないのですが、今はまだ自由に、皆さんアドリブをたくさん入れるので、笑うところじゃないシーンでも笑っちゃうことがあります(笑)。そこから(上田)一豪さんの演出によって、ちょっとずつ登場人物たちのキャラクターや方向性みたいなものが生まれてきているところかなと思います」

 

――岡宮さんは作品そのものにはどんな印象を受けましたか?

「一言で言うと、僕が演じるマットと豊原江理佳さんが演じるルイーザの成長物語だと思いました。ふたりの父親をはじめとする大人たちに後押しされながら、『自分が…自分が…』だったふたりが、ちゃんと相手を見つめることができるようになる。その成長記録みたいな作品だなと僕は思っていて。割と単純な話ではあるんですけど、作品が持つエネルギーの大きさとか、大切にしたいものに気付かせてくれるとか、そういう魅力がある。だからたくさんの人に『もう一回観たいな』と思われて、長く上演されてきたのかなと思いました」

 

――子供が大人になる瞬間が描かれていますが、20代の岡宮さんはどんな風に感じましたか?

「僕自身はまだ大人になる途中にいると思うのですが、『子供の頃に大人だと思っていた人たちって思ったほど大人じゃなかったのかもな』ということを思いました。例えば学校の先生みたいな、大人なんだと思っていた人たちも実は『もっと大人にならなきゃ』とか思うこともたくさんあったんだろうなって。そういうことに気付く作品だと思いましたね」

 

――ミュージカル作品としてはどんな魅力を感じていますか?

「シンプルに楽曲がすごく聴いていて楽しいんですよ。きっとお客さんも、一度聴いたら口ずさめちゃうんじゃないかなっていうメロディーです。あと、お客さんに直接台詞を投げかけるシーンもけっこうあるので、客席にいても物語に飛び込んでいくような感覚になると思います。一豪さんの演出も、お客様を巻き込もうとしている感じがしますし、劇場に来てくださった皆さんと僕らでつくり上げるような作品になりそうです」

 

濃いキャラの中で、内気なマットをどう見せていくか

――岡宮さん演じるマットには、どんな印象をお持ちですか?

「もうすぐ20歳で『自分はもう大人だ』と思っているんですけど、『自分は大人だ』とか言っている時点で子供なんですよね(笑)。でも子供がそんなふうに言う姿ってどこか愛くるしい。そういうところは、僕が今一番マットに対して好きだなと思う部分です。ただ演じる役としては、想像以上に内気で人とのコミュニケーションがうまくないところがあって。彼は、自分の感情を出す前にひとつフィルターがあるから、うまく出すことができないんですよね。そこが稽古の中で見えてきて、いま苦戦しています」

 

――苦戦しているのですね。

「僕自身が活発なほうなので、“感じ方”の違いというのがあるし。そこは丁寧に(自分を)剥がして、マットを見つけていきたいです。あとはやっぱり、感情をうまく出せない人物を舞台上で演じる、というのが難しいなって。出さな過ぎてもただ影が薄い人になっちゃいますから。そういうマットのキャラは、一豪さんとも話しながら、濃く出していきたいです。周りの登場人物はみんなキャラが濃いですからね。内気であっても、そこに負けないようなキャラづくりをしていきたいです」

 

――岡宮さんにとって、これまでにないキャラクターなんですね。

「そうですね。だから僕、台詞覚えはいいほうだと思っていたんですけど、今回全然覚えられなくて。こんなこともあるんだな、と思っています。あと3週間(※取材時)稽古をさせてもらえるので、そこはがんばらなくてはいけないです」

 

自分が逃げずに立ち向かうことは、お客様にとっての希望にもなるはず

――共演者のみなさんの話もうかがいたいです。隣人で恋仲となるルイーザ役の豊原江理佳さんはどんな印象ですか?

「江理佳ちゃんはすごく努力をされる方なので、その姿勢を見習わなきゃなと思っています。年齢も一番近いですし、いい関係が築けたらなという気持ちです。江理佳ちゃんのルイーザ、とてもかわいいですよ。マットとは別の意味で『いやいや、ルイーザ……』的なところも、愛くるしいキャラクターになっているように感じます。あとは歌声が好きです。すごく美しいし、音も一切はずさないんですよ」

 

――一緒に歌うのも楽しそうですね。

「はい、すごく楽しいです」

 

――ふたりの父親(ルイーザの父親ベロミー役・今拓哉/マットの父親ハックルビー役・斎藤司)のやりとりも楽しいものになりそうですよね。

「はい。お父さん同士のかけあいとか、ちょっと喧嘩しちゃうシーンとか、笑っちゃいます(笑)。笑うシーンじゃないところも笑いそうになるから本番は気を付けなければ。稽古場の席もおふたりは隣どうしで、よくもりあがっていらっしゃるんですよ。それを僕は盗み聞きしているんですけど(笑)。お父さんふたりで歌うナンバーは、聴いていても観ていてもすっごく楽しいですよ」

 

――登場人物たちを翻弄したり導いたりする流れ者のエル・ガヨは、宝塚歌劇団退団後、本作が初ミュージカル出演となる愛月ひかるさんが演じられます。

「あのエル・ガヨを愛月さんが演じられると聞いてすごく嬉しいです。愛月さんのエル・ガヨ、めっっっちゃかっこいいですよ! ルイーザがマットをビンタしようとして振り上げた手を、エル・ガヨがパッと取ってその手にキスをするっていうシーンがあるんですけど、見ていて『うわあああ』ってなりました(笑)。僕だけじゃなく、皆さんしびれていましたね。愛月さんご本人は明るくてやさしくてすごく真摯な方で、お会いできて良かったなと思っています」

 

――岡宮さんはこのあとも「進撃の巨人」-the Musical-の主演やミュージカル『SPY×FAMILY』と注目作への出演も続きます。そういう中で今作は俳優としてどのような作品になっていますか?

「マットはこれまでに演じたことのないキャラクターで、やはりそこはひとつ挑戦だなと思っています。さっき台詞が覚えられないという話もしたように、この役がまだうまくできていない自覚があるのですが、トライしていく姿勢は崩さずにいきたいです。役者を続けていけば得意としていないことにぶつかることもあると思うんですけど、そこで僕が逃げずに立ち向かっていくことは、お客さんにとっての希望にもなるのかなと思いますし。作品の魅力も高められるように、期待に応えられるように、がんばります……と言いたいところですが、その前にまずは自分との闘いをしていきたいです」

 

取材・文:中川實穗