©惣領冬実・講談社/ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』製作委員会
中川晃教が主演を務めるミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』が、2023年1~2月に東京・明治座で上演される。本作は、ルネサンス期のイタリアを描く惣領冬実の歴史マンガ『チェーザレ 破壊の創造者』(講談社)を原作とするオリジナルミュージカル。脚本を荻田浩一、演出を小山ゆうな、音楽を島健が手掛ける。
稽古が始まって間もなく、主演でチェーザレ・ボルジア役の中川晃教、チェーザレの側近ミゲル・ダ・コレッラ役の橘ケンチ、チェーザレの父ロドリーゴ・ボルジア役の別所哲也に話を聞いた。
いまだから演じられるもの、届けられるもの
――この作品は2020年4・5月に上演予定でしたが、開幕直前に新型コロナウィルスの影響で中止となり、約3年越しの公演となります。今この作品を上演することにどのようなことをお感じでいらっしゃいますか?
中川「僕は、この原作は2023年に上演することと重ねやすいと思っています。惣領冬実先生がチェーザレを軸になにを描きたかったのかに思いを馳せると、終わらない青春……と言うとわかりやすすぎるかもしれませんが、人は生きている限り悩んだり葛藤したりするんだということや、どんな日常の中でもそれぞれが未来に向かって生きていくタフな部分を持っていること、そういうものはこういう時代を迎えた今、実感としてありますから。それともうひとつ僕自身の変化として、2020年に作品をつくっていたときは“チェーザレとアンジェロの出会い”というものにあまりときめきを覚えなかったんです。でも今回は“ふたりの出会い”というものを見つけられそうな気がしています」
――どうしてそういうものが見つけられそうなのかうかがいたいです
中川「僕はドキドキワクワクしたりキラキラすることがあっても、次の瞬間に悲しいことが起きると、さっき覚えたキラキラ感を忘れてしまったりするんです。でも40歳を迎えて、ときめきやワクワクは自らどん欲に探さなくちゃいけないのかもなと思うようになりました。これを大切だと思える自分を大切にするというか。その変化によって、アンジェロとチェーザレの出会いというのは、恋にも似た……チェーザレの生涯で忘れられない瞬間だったのではないかと感じるようになりました。そのうえでどんなふうにチェーザレを生きられるか、楽しみにしています」
別所「僕は今この作品を上演することで、『本当のリーダーってなんだろう』とか『国の都合でなにかが動くこと』とか『なんの権力闘争だったんだっけ』とか、ご覧になる方はきっと重ねると思うんですよ。(『チェーザレ』は)別にそういう話じゃないはずなんだけど、いま自分たちが見ている現実があるから、『このチェーザレというリーダーは、なんでこんなに慕われたり、殺されようとしたりしているんだろう』とか『お父さんはなにをこの息子に求めてリーダーにしようとしているんだろう』とか、究極のリーダー論みたいなものも見え隠れするのかなと思っています。だからこの3時間前後の演劇の旅の中で、中川アッキーチェーザレがどう成長するのかをお楽しみいただけると思います」
――別所さんはそのチェーザレを父として見つめるわけですよね?
別所「見守るというか、もどかしく思ったり、自分の都合通りにならない息子だったりして。彼(父ロドリーゴ)はちょっと外様な田舎者扱いをされるんですね。中央にいるローマの人間たちと違って、イタリア語もラテン語も、スペイン語なまりでしか喋れない。財力でしかものを言わせない。そこで抱える劣等感のようなもの、その自分の抱えているドグマといいますか、業みたいな欲を一切合切チェーザレに預けようとする“バケモノ”なので。そこがどう見えるのかなとか、チェーザレはどう受け止めるのかな、ということは思っています。そんなふうに登場人物それぞれの抱えている野心とか夢が出てきますから。すごくおもしろいですよ、この作品。人間の、良くも悪くも人間臭いところが出ると思います」
――橘さんは今回からの参加となりますが、この作品をどのように感じていらっしゃいますか?
橘「これは以前中川さんとお話させていただいて印象に残っていることでもあるのですが、チェーザレは実在した人物で、この作品はその人の“青年期”を描いている。それが一番の肝だという気がしています。チェーザレはいろんなイメージを持たれる人物だと思うのですが、そんな彼も青年期には若いが故の葛藤も悩みもあっただろうし、だけど(彼を取り巻く環境で)同世代より成熟している部分もあっただろうし。そういうものをいかに魅力的に描くかだなって。ただそもそも熱いものって求心力があるじゃないですか。情熱にしろなんにしろ、熱いところにはみんなが集まっていく。そこに近づいて、そこからなにかを受け取ったり返したりして、横に伝播させていくことは、僕にとっても気持ちのいいことです。これは今まさに稽古場でも繰り広げられていることなんですよ。みなさん熱量が高くて、すごく燃えている。僕はミュージカルは初参加なので、『歌があるとこうなるんだな』と感じました。歌があることで発散もできるし、解放もできるし、感情も揺さぶられる。その良さをすごく感じて、自分の新たな可能性、扉を開けてる感覚があります」
ゼロから積み上げるオリジナルミュージカル
――橘さんは別所さんと初共演ですが面識があったそうですね
別所「ケンチマン……って言っちゃいそう(笑)」
橘「ははは!」
別所「僕は橘さんがやってらした『THE ケンチマン』という作品が大好きで、なかばファンのように『会いたい、会いたい』と言っていたら、数年前に共通の知り合いを通じてお会いすることができました。だから(橘が)ミュージカルに初参加される現場に立ちあえることが嬉しいんですよ。なんでも“初”ってなかなかないことなので。そういう場所に一緒にいられることが嬉しいです」
橘「僕、みなさん初共演なんです。だから別所さんのお名前を拝見して安心したところがあります」
――中川さんとは初対面でしたか?
橘「はい。でも中川さんはもう昔から一方的に存じ上げていました。さっきお話ししていたら、EXILEとデビュー時期が近いんですよね。いまの日本で20年やり続けるって大変なことだと思いますが、その中でずっと第一線でやられている方ですから。僕もしっかり頑張っていかなければなと思っています」
別所「僕と中川さんも初共演ですよ」
橘「そうなんですか!」
別所「そうなんです。こんなに長いことお互いミュージカルをやっているんですけど、同じ作品に出るのは初めて。だから2020年のときから本当に楽しみにしていました。いろんな作品も拝見していますが、実際にご一緒するともうね、すごいんですよ。座長だから自分のことだけじゃなくていろんなことに気配りされていて。台詞量も歌も一番多いのに、作品全体を360度見る“もうひとつの目”もある。だから、そんなに抱えないで!って気持ちになります(笑)」
中川「(笑)。ありがとうございます!」
別所「素敵なチェーザレです。自慢の息子です」
中川「別所さんのそういうやさしさと大きな懐で包んでいただいていることは前回から感じていました。別所さんと初めて共演させていただく機会がミュージカルをゼロから立ち上げる現場だというのは、僕たちの出会いはここまで取っておいてもらえたんだな、みたいな気持ちです」
――橘さんはミゲルというチェーザレの側近の役なので、中川さんと同じシーンが多いと思いますが、稽古でどのような印象をお持ちですか?
橘「本読み(脚本の読み合わせ)のときに僕は中川さんの隣の席で、まだ声をはることもなく囁くように歌われていたんですけど、その時点で『すごい……』と思って。こういう絶対的な方が隣にいるということに安心もしました。自分は少しでも追いつけるようにするしかないとも思いましたし。そしてその本読みの後、演出家の小山(ゆうな)さんが『別所さんすごかったよね。みんなあそこまでやっていいから』とおっしゃっていたのも心に残っています。あの本読みは、すごく大きな目標をいただいた感覚があります」
中川「ケンチさんは、稽古場でもそれこそミゲルのように、僕の言葉の足らない部分や僕自身がもどかしく思う部分に対して『中川さんがおっしゃっていたことってこういうことですか?』と歩み寄ってくださるんですよ。なので一人ではつくれないミュージカルの面白さを感じています。ミュージカルは初めてかもしれませんが、ケンチさんご自身の経験が、作品をカタチにしていくうえで大きな大きな力になっている、なっていく、ということを感じます」
別所「橘さんはパフォーマーとしてアーティストとして、東京ドームのような大きな空間をガッと自分のものにしながらお客さんとつながっていくということをたくさん経験されている方だから、今回同じチームに入らせていただいて一緒につくっていく中で僕もいろんなものを盗ませてもらおうと思っています。僕らがミュージカルの方程式でやってしまおうとすることも、そうじゃないものを持ち込んでくださるだろうし。だからいつの間にか当たり前になっていることを当たり前だと思わずにもう一回やってみたいなと思っています。オリジナルですしね。ここがゼロ地点というか。ここから積み上げていきたいですね」
インタビュー&文/中川實穂