ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』開幕レポート!

©惣領冬実・講談社/ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』製作委員会

惣領冬実による大ヒット歴史漫画を原作にしたミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』が1月7日(土)に東京・明治座にて開幕した。初日(“スクアドラ ヴェルデ”チーム)のレポートをお届けする。

本作は、「モーニング」にて連載されていた歴史漫画「チェーザレ 破壊の創造者」(惣領冬実 監修:原基晶 講談社刊)を初めてミュージカル化した作品。15世紀に活躍し、31歳の若さで亡くなったイタリアの軍人であり政治家であるチェーザレ・ボルジアの、理想に燃えた戦いを描いた作品で、主人公チェーザレ・ボルジアを中川晃教が演じるほか、橘ケンチ(EXILE)、藤岡正明、今拓哉、丘山晴己、横山だいすけ、岡幸二郎、別所哲也が出演する。さらに一部キャストはWキャストとして、“スクアドラ ヴェルデ”チームに山崎大輝、風間由次郎、近藤頌利(劇団Patch)、木戸邑弥という注目の次世代俳優が、“スクアドラ ロッサ”チームに赤澤遼太郎、鍵本輝(Lead)、本田礼生、健人と2.5次元作品で人気のキャストが出演する。脚本は萩田浩一、演出は小山ゆうな、音楽は島健が手掛ける。

チェーザレ 役:中川晃教

フォトスポットが設けられたり、原作・惣領冬実が本公演の為に描いたイラストが展示されたりと、『チェーザレ』の世界観で濃厚に彩られた明治座で、ひときわ演劇ファンの目を集めていたのはオーケストラピットだ。今回、明治座創業以来初めてオーケストラピットが稼働され生演奏で音楽が届けられる。そんな歴史的瞬間を味わえる作品でもあるのだ。

※以下、ネタバレがあります

物語は1475年のローマ、チェーザレの誕生から始まった。そこで歌われたのは誕生のよろこび……ではなく、私生児であるチェーザレに対する民衆の「罪の子」という噂話、そしてチェーザレの父でありボルジア家の当主ロドリーゴ・ボルジア(別所)の――彼はチェーザレが「怪物」と称する人物だが――「我が子供たちは我が手足。お前もまた私のために働くのだ」「教皇という王座に座るべきは私だ」という、チェーザレの運命を示唆する言葉だった。別所の歌声は分厚く響きわたり、劇場を重苦しく包んでいく。

ロドリーゴ役:別所哲也

そこに現れるのが青年となったチェーザレ(中川)だ。その麗しい姿と、重い空気を切り開く閃光のような歌声は、チェーザレがどんな人物に育ったのかを一瞬で理解させ、印象的であった。

本作の主な舞台となるのは、16歳になったチェーザレが在籍するピサの「サピエンツァ大学」。学生たちは、メディチ家の次男ジョヴァンニ(風間/鍵本)率いるフィオレンティーナ団、好戦的なフランス団、そしてチェーザレ率いるスペイン団など、出身地ごとに集結し、牽制し合っている。チェーザレの周囲には、腹心のミゲル(橘)をはじめ、ジョヴァンニや、フィオレンティーナ団でありチェーザレの友人となるアンジェロ(山崎/赤澤)、フィオレンティーナ団NO.2のドラギニャッツォ(近藤/本田)、同じくフィオレンティーナ団の情報通ロベルト(木戸/健人)らがおり、学校ならではともいえる関わりを通し、気付き、学び、成長していく。ただ、だからこそチェーザレの背負うものも際立っていく。彼は無邪気に学生生活だけを送ることはできないのだ。同じ頃ヴァチカンでは教皇インノケンティウス8世崩御の時が迫り、次期教皇選を睨んだ派閥争いの中、ロドリーゴは政敵ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ(岡)との争いを激化させていた。チェーザレは、父を教皇の座に着かせるため、そしてその先にある自らの理想を実現するために頭脳戦に身を投じていく――。

登場人物たちの細部までこだわられた衣裳や舞台美術、ときに映像も使われる演出、登場人物たちの振る舞いの美しさは、惣領冬実による美麗な作画やドラマチックな描写ならではのものが味わえる。全51曲にのぼる楽曲も、明治座発のオリジナルミュージカルへの強い想いと気合いを感じさせるものだ。その楽曲を大切に紡いでいくキャストたち、特に主演の中川の歌唱は凛としていて、チェーザレには敵わないと納得させられる聡明さや、例えば酒場での喧嘩のようなカオスも彼の歌でスッと整うような、そんなカリスマ性を感じた。

写真中央) チェーザレ 役:中川晃教

チェーザレに影響を与える大人たちも圧巻だ。前述の父ロドリーゴ、政敵ジュリアーノはもちろん、ジョバンニの父でボルジア家を支援するロレンツォ・デ・メディチ(今)の力強さ、ボルジア家を密かに支援するピサの大司教ラファエーレ(丘山)の信じるもの、講義の中で登場しチェーザレが「偉大な詩人にして政治家」と敬うダンテ(藤岡)の崇高さ、そのダンテがピサに招いたピサ市民にとっての救世主・神聖ローマ帝国皇帝ハインリッヒ7世(横山)の持つ気高さも、音楽と歌唱力によって繊細に表現され、どこか彼らにもチェーザレのような青年時代があったのだと思わせる深さも感じさせられる。

チェーザレの腹心ミゲルを演じる橘ならではの指先まで神経の通った身のこなしは、その美しさにチェーザレへの高い忠誠心が漂い感嘆する。

写真中央)ミゲル 役:橘ケンチ(EXILE)

学生たちの揉め事ひとつとっても国の歴史や文化が深く関わってくる本作で、ユダヤ人であるミゲルの担うものは大きいが、そこにある生々しさや複雑さとまっすぐチェーザレに向かう心も大切に演じられていた。今回観劇したのは“スクアドラ ヴェルデ”チームのみだが、山崎演じるアンジェロの清らかさとチェーザレとの出会いから生まれるもの、風間演じるジョヴァンニの気の弱さからくる愛嬌や大学卒業までの変化、近藤演じるドラギニャッツォの苦しみ、木戸演じるロベルトの心の揺れなどはどれも演者によって響きが全く変わるだろう。一方を観るともう一方が観たくなる、そんな魅力があった。

後半、ジョヴァンニの大学卒業の口頭試問の場面で、チェーザレがジョヴァンニにいくつかの質問を投げかける。そこでの問答はどこか、演劇ファンが2020年からの3年間で何度も自問したであろうことを想起さるものがあった。2020年の中止を経て遂に開幕した本作だ。劇場でその想いをぜひ受け取ってほしい。

上演時間は、第1幕75分・休憩30分・第2幕90分/合計3時間15分。登場人物が多めなので、公式ツイッター(リンク:https://twitter.com/cesare_stage/status/1611619329602387969?s=20&t=kUtnmkRclgGf12Vdfwi4jA)の人物相関図もぜひ参考に!

インタビュー・文/中川實穗