「美しいものを届けたい」末満健一、内田未来、浜浦彩乃が語る『LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-』

写真右から)末満健一、内田未来、浜浦彩乃

TRUMP series 15th ANNIVERSARYミュージカル『LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-』が、4月15日(土)に東京・サンシャイン劇場にて開幕する。

本作は、劇作家・末満健⼀が2009年より展開する<TRUMPシリーズ>の2作目として上演された『LILIUM -リリウム 少女純潔歌劇-』(’14)の再演にあたる作品で、2024年に15周年を迎えるTRUMPシリーズのアニバーサリープロジェクト第一弾でもある。

脚本・演出の末満健一、リリーを演じる内田未来、スノウを演じる浜浦彩乃に、作品の印象や稽古開始から3日目の感触を聞いた。

初演からの9年間が踏襲された作品になる(末満)

――TRUMP series 15th ANNIVERSARYのプロジェクト第一弾として、なぜ『LILIUM -リリウム少⼥純潔歌劇-』(以下、『LILIUM』)を再びつくろうと思われたのでしょうか?

末満 もう一度『LILIUM』をやることはあまり積極的に考えてはいなかったんです。今回、15周年の企画としてどうかという話があり、これを逃すともう上演する機会は二度とないだろうという思いからやってみることにしました。

――再演ではなく、「新約」として上演されるのはなぜですか?

末満 初演と差別化したかったからです。『LILIUM』を上演してからの9年間で、TRUMPシリーズとしても、自分としても、得たものがあるので、それを踏襲した作品にしたいと思っています。脚本も変更していますし、初演にない楽曲もありますし、見せ方としても9年間の経験値をつぎ込んだものにしたいと思っています。

――どんな楽曲が増えたのでしょうか?

末満 初演は劇中曲のようなものが多かったんですけど、今回ミュージカルっぽい曲が入りました。もともとの楽曲とうまく混ざり合うんじゃないかなと思います。

――フルキャストオーディションというシリーズ初の試みで、2000通を超える応募があったそうですね

末満 出演者は本当に全員オーディションで決めました。キャストの中には、ミュージカル『ヴェラキッカ』(’22)に出演した斎藤瑠希や別作品でご一緒した俳優もいますが、出来レース一切なしの本気オーディションで決まったメンバーです。

――そういう意味では、リリー役の内田さんも2021年に舞台「鬼滅の刃」其ノ弐 絆(栗花落カナヲ役)で末満さんの演出を受けていますね。どういう観点で選ばれたのですか?

末満 まずは歌唱力ですね。役に関しては、脚本から汲み取れるキャラクター性に合う人もいれば、今回の座組で当て書き直した役もあります。

――内田さんと浜浦さんはなぜオーディションを受けたのですか?

内田 私は事務所から「末満さんの『LILIUM』のオーディションがあるから受けてみますか?」と提案してもらったのがきっかけです。舞台「鬼滅の刃」でご一緒させていただいた経験もあり、これを逃す手はないだろうと思って挑戦しました。

末満 正直な話、内田さんがリリーになってびっくりしたんですよ。

内田 私もびっくりしました(笑)。

――舞台「鬼滅の刃」ではリリーの雰囲気がなかったということですか?

末満 いえ、あのときは出番の多い役ではなかったからあまり俳優としての印象をキャッチできるほどのやり取りもなくて。それはマーガレット役の川崎愛香里さん(同作に甘露寺蜜璃役で出演)も同じなんですけど。むしろ、舞台「鬼滅の刃」は大変な作品だったので、あれを経験してよく応募しようと思ったなってところで……。

内田 (笑)。

末満 リリーとしては、オーディションを進めていく中で僕もそう思っていたし、僕以外のメンバーも、「リリーは内田さんだな」と言っていた。そのくらいリリーでした。

――スノウ役の浜浦さんはハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)のグループ「こぶしファクトリー」メンバーでもありましたが、『LILIUM』はご存知でしたか?(※初演はハロプロの「モーニング娘。’14 」と「スマイレージ」のメンバーによる公演でした)

写真右から)末満健一、内田未来、浜浦彩乃

浜浦 初演は劇場で観ました。私自身も大好きですし、ハロプロのメンバーの中でも好きだという人が多い作品なので、今回オーディションがあると知り、受けてみたいと思いました。歌には自信がないのですが、やりたいという気持ちで挑戦してみてよかったなと思っています。

末満 初演の時は絡みはなかったよね?

浜浦 はい、まだ研修生だったので。年齢も14歳で、作品から感じるものも当時とは変わっています。

末満 浜やんは……。

浜浦 浜やんってあんまり呼ばれたことないですけど(笑)。

末満 (笑)。浜やんはすごくスノウの雰囲気に合うなと思っていました。ただ、本人も言ったように、もうちょっと歌唱力が欲しかったので、「稽古までにレッスンをしてもらえますか」という話をして。それから時間があいて歌稽古の動画を見たら、すごくよくなっていました。それでもう少し歌ってもらいたくなって、スノウの歌を増やそうかどうしようか今悩んでいるところです。

――それは浜浦さん、短期間でがんばられたのですね

浜浦 他の方のレベルが高いので、「間に合わせるしかない!」と思ってがんばりました。

一人ひとりが考えて作品をつくりあげる(内田)

――おふたりはご自身の役をどう思われていますか?

内田 個性の強いキャラクターが多い中、リリーは飛びぬけて強いキャラクター性を持っていない、お客さんに近い目線で物語を進めていく役だと思います。そういう役柄をどう演じるかに難しさがあるなと感じています。

末満 センターにいるニュートラルな主人公ってかなり難しいと思う。お芝居に関しても、ドタバタできる役なら、そこにある種の発散があって“演じた感”が生まれるんだけど、リリーはそういう手応えがないまま進めていかないといけない役だから。最後の最後にようやく手応えがあるくらいだよね。

内田 そうですね。稽古のときに末満さんから「ピュアさとマイペースさが欲しい」と言っていただいたので、そこで練っていけたらなと思っています。

――スノウはどうですか?

末満 スノウはさらに難しいところがあると思います。情報量が少ない中で、雰囲気だけは届けないといけないので。

浜浦 スノウは考えていることや抱えているものが大きい人で、だからこそ発する言葉がちょっとでもズレると意味深になってしまい、お客さんに(不要な)なにかを考えさせてしまう。そこをズレなく届けるためには、誰よりも素直に感情を受け止めて出さないといけないのかなと思っています。

――お稽古が始まって3日目(※取材時)ではありますが、いかがですか?

浜浦 印象的だったのは、稽古初日に末満さんが「歌にハモリを入れてみよう」とおっしゃって、みんなでハモリを作ったことです。みんなでものをつくるって素敵だなと感じましたし、柔軟性も鍛えられるなと思いました。

末満 あらかじめ振付も歌もハモリも決めておいてそれを俳優に渡すだけ、という稽古もあるんですけど、僕は「役者から自発的に生まれてくるもの」があるとしたら、それが生まれる機会は残しておきたいなと思っていて。だからハモる予定はなかったけどハモろうとか、出る予定はなかったけど出てみようとか、そういうことをします。稽古場で「ハモれる人いる?」と言って、みんなで「こうかな」「ああかな」というやり取りが発生するのは大事なことだと思うので。

浜浦 「一人ひとりが考えて作品をつくりあげる」という経験をしていると感じます。与えられたものだけをやるよりも、より良い作品につながるのかなと思います。

末満 こういう学園ものはチーム感が大事なんです。初演は「モーニング娘。’14 」と「スマイレージ」というグループでつくったぶん、最初からチーム感があった。今回は寄せ集めのキャストで、年齢幅も広いカンパニーですから、そこでいかにひとつのチームとしてのグルーヴ感を生み出していくかは重要です。みんなで一緒にやるシーンも多いから、自然とそうなっていくと思いますけどね。そういう稽古場でありたいですし。

関係性もグルーヴ感も深めていきたい(浜浦)

――TRUMP series 15th ANNIVERSARYのプロジェクトはここから続いていくのですか?

末満 そうです。まだ言えませんが、2024年末までいろいろ予定しています。

――末満さんがSNSでつぶやいていらっしゃったTRUMPシリーズ短編小説集『BLOSSOMS -ブロッサム-』もそのひとつですか?

末満 いえ、『BLOSSOMS -ブロッサム-』は15周年企画ではなく、実は僕が個人的に企画した、ある意味では同人誌ですね。でも内容は『LILIUM』の正式な前日譚で、キャラクターごとの短編エピソードを集めました。だからこれを読むと、『LILIUM』の「なんでこんなことになっているんだろう」という疑問が深彫りされています。めちゃくちゃおもしろいものになりました。公式としての公演グッズではないですが、劇場のロビーでも販売していただける予定です。

――千秋楽でも買えるくらい刷ってくれますか?

末満 割と思い切った部数を刷ってもらったので在庫を抱えてしまわないか不安ですね。千秋楽に完売するっていうのが理想です(笑)。15th ANNIVERSARYのプロジェクトとしてもいろんな計画を予定しています。次作はTRUMPシリーズではまったくやったことのないタイプの作品になるはずです。

―― (!)それは楽しみです。そんなプロジェクトの第一弾である新約『LILIUM』の開幕に向けて、内田さんと浜浦さんはどんな気持ちでいますか?

浜浦 TRUMPシリーズ15周年プロジェクトの第一弾に恥じない作品にしなければと思いました。そのためにはリリーとスノウの関係もそうですし、グルーヴ感もそうですし、稽古場でもっともっと深めていきたいです。いい作品にします。

内田 この作品はミュージカルですが、普段ミュージカルをあまり観たことない方にも観に来ていただきたいなと思っています。作品自体が素晴らしいものなので。……素晴らしくなるかは私たちの力量にかかっているんですけど。ぜひ観てほしいです。

――末満さんはこの新約『LILIUM』をどうしたいですか?

末満 この作品は悲劇の多いTRUMPシリーズの中でも特に絶望的な重い結末を迎えるものです。やはり今この時代に悲劇をエンタメでやる葛藤はあります。だけど、少女たちが生きた一瞬の輝きをちゃんと届けることができれば、観た人の胸には「生きることに対する前向きな感情」が生まれるのではないかと思っています。それと、美しいものを届けたいです。美しいものを観ると心が浄化されると思うので。今回は衣裳が真っ白で、白い花びらたちが舞っているような世界になると思います。動く美術館のような、美しい情景が入れ代わり立ち代わり見られる、そんな作品になったらいいなと思います。

インタビュー・文/中川實穂
写真/ローチケ演劇部