ブロードウェイ・ミュージカル『ザ・ミュージック・マン』花乃まりあ×小田井涼平 取材会レポート

坂本昌行主演のミュージカル『ザ・ミュージック・マン』が4月11日に東京・日生劇場にて開幕する。

『ザ・ミュージック・マン』は、ブロードウェイで1957年に初演されて以来、日本でも何度も上演されてきた名作ミュージカル。本作は日生劇場60周年イヤーの幕開けを飾る作品として上演され、主演は坂本昌行、演出は、ブロードウェイをはじめ世界各国の演劇シーンで活躍してきたダニエル・ゴールドスタインが務める。

坂本演じる主人公ハロルドが想いを寄せるマリアン役の花乃まりあ、ハロルドの古い詐欺師仲間であるマーセラス役の小田井涼平の取材会の模様をお届けする。

自信につながるダニエルの演出

――お稽古が進んでいかがですか?

花乃 今はラストまでの振付とお芝居が一通りついて、ここから内容をさらにクリアにしていこうという段階ですが、すごく楽しい作品になりそうです。稽古場では、子役のみなさんがいつも太陽のように元気を振りまいてくれて、大人たちもそれにつられて笑顔になることが多いです。

小田井 僕はミュージカル作品に参加するのが初めてではありますが、コロナ禍もあって、「たくさんの人で、ものをつくること」に対する単純なよろこびというか、「かえってきたな」という感覚があります。稽古場の雰囲気もすごくよくて、日々たのしくやらせていただいています。

――花乃さんは海外演出家が初めて、小田井さんはミュージカルが初めてという作品ですが、そのあたりいかがですか?

花乃 演出のダニエルは常に明るい方で、稽古場の雰囲気も明るいです。お稽古ではまず褒めてくださるんですよ。どんなにめちゃくちゃな動きでも、必ず「beautiful! great!」と肯定から入るので、すごくありがたいです。ダニエルが最初から動きをつけるのではなく、まずは私自身が考えたことをやってみて、それに対して褒めてくださったあとに「こうしたらもっと良くなるんじゃない?」とアドバイスをくださるというやり方で、ダニエルの言葉は、これまでの自分の経験が間違ってないんだという自信につながるような印象があります。

――会話には通訳の方が入られるのですか?

花乃 そうですね。通訳の方がとても細かく伝えてくださいます。ですがやはり、ダニエルの想いをどこまで繊細にキャッチできるかは自分の課題だなと思っています。彼の言葉や表情、自分以外のシーンでどんな演出をつけていらっしゃるかも見ることで、全体をどうつくっていきたいのかをキャッチしたい。そういう意味ではキャッチする能力が培われる現場になるんじゃないかなと思っています。

小田井 僕はミュージカルは初めてではありますが、グループ(小田井が2022年末まで所属していたムード歌謡コーラスグループ「純烈」)の座長公演は行っていたので、歌いながらお芝居をすること自体は初めてではないんです。ただ大きく違うのは、ミュージカルはステージ上での“お芝居”としてつくること。グループでの公演は“客席に向けて”やるものだったから、そこが違うなと思います。……でもなにせ初めてですからね。今感じていることがどういうことかもわからないんですよ。何作かやってみたらわかるのかな。ただ意外と自分で勝手にハードル上げてたなというふうには思っています。

それぞれの役の印象は?

――ご自身の役についてお聞かせください。

花乃 私が演じるマリアンは、図書館の司書で、町でピアノの先生をしている26歳の女性です。1912年という時代に仕事を持ってお母さんと弟と3人で暮らしている人で、「家族を守らなければ」という気持ちも含め、いろんな部分で考えが凝り固まっています。キビキビ動くし、特に最初はハロルドに対してもあたりが強かったりもするから、自分の意志がハッキリした強い女性に見えるんですけど、過去に父を失ったり辛い経験をして、「これ以上傷つきたくない」とか、正義感で「間違いを犯してはいけない」と思う臆病な部分もある。それがハロルドとの出会いによって――町全体も変わっていきますが、マリアンの考え方や気持ちも変わっていくんですね。そんなふうに鎖から解き放たれていくにつれ、物語も大きく動いていきます。この作品は登場人物がみんな変化していきますが、その中でもマリアンは、お客様が感情移入しながら時の流れを感じられる役なんじゃないかと思いますので、心情の変化は大事に演じたいです。

小田井 僕はマーセラスという、ハロルド(坂本)の古い詐欺師仲間です。僕の役に関しては描かれていない部分が結構多いので、想像で解釈している部分もけっこうあるんですけど、僕の想像では、マーセラスは単独の詐欺師としてはだいぶ抜けてると思うんですよ。でもハロルドと組んでやってたときは優秀だったから、おそらく副委員長とかそういうところで力を発揮する人なんじゃないかなって。そういう想定のもとで演技をしています。自分と一番似ているのはお調子者だというところですかね。いや、本来はお調子者の役じゃないかもしれないんですけど。僕がそう作ってるってだけかも(笑)。

花乃 もうマーセラスはお調子者としか思えないです(笑)。

小田井 まあ、まだ稽古の途中ですからね。ひょっとしたら幕が開いたら全然違う感じかも……。だけど彼の人としてのチャーミングさとか魅力みたいなものが少しでも伝わればいいなと思って演じています。町の人たちに溶け込んでいるようで溶け込んでいないような部分も見えますし、そういう所在なげなとこはちょっと悲しかったりもして。マーセラスにもいろんな思いがあって今こうしているんだろうなというのが伝わるといいなと思います。

――ダニエルさんと役についてなにかお話しされましたか?

花乃 マリアンは頭でっかちな女性として登場するのですが、なぜそうなったのかというところをお客様がちょっと想像してくださると、よりこの物語に深みが出るんじゃないかなと思っていて、そこはダニエルともたくさん話しました。あと、ハロルドは詐欺師で次から次へと調子のいい言葉が出てくる、その様を坂本さんがすごく素敵に演じていらっしゃるんですけど、ダニエルは「実はマリアンはハロルドよりも頭がいい」ということをよくおっしゃっていて。お互いに知性のレベルが高いからやり合える。そしてお互いにそれをどこか楽しく感じている。そんなふたりがやりあって、やりあって、ダニエル曰く「喧嘩をしたら人はもうその後はキスするしかない」そうなんですけど(笑)、まさにそういう感じです。そこはダニエルとの会話からヒントを得た部分でした。

小田井 僕はけっこう最初の段階から細かくすり合わせをしていったぶん、役に関しては大きなエピソードがないのですが……これは面白トークなんですけど(笑)、マーセラスって台本上のト書きに表記がないけど稽古に呼ばれることが結構あって、「つまりこのシーンに出るんよな?」と思いながら稽古場に行くんですね。でも台詞もないしト書きもないから、どこで入れるかなと自分なりに探りながら稽古を見るんです。

花乃 それ、見ました(笑)。

小田井 でも結果的に自分で「多分ここで出るんやろな」と思っていたところが出るシーンだったので、「あってた。よかった」って(笑)。

坂本は歌も芝居も川で泳ぐ魚のよう

――主演の坂本昌行さんの印象をお聞かせください。

花乃 スーパースターです。ハロルドという技術的にも体力的にもものすごく大変な役を、軽やかにこなされている印象があります。ただ、お稽古場で全然座らないんですよ。みんなが休憩しているときも坂本さんはずっと練習なさっている。なんてストイックな方なんだろうと感銘を受けて、「こんな大人になりたい」と憧れますし尊敬しています。あと、私は宝塚歌劇団時代は男役と娘役で踊るペアダンスがよくありましたが、本物の男性とのダンスの経験があまりなかったんです。今回は坂本さんと組んで踊るシーンがあるのですが、やってみると「こんなに身を任せて、どこにでもつれていってくれるんだ!?」って。本当になにもしなくても勝手に踊れちゃうんですよ。なにが起きているかわからなくて「これ私、どうしたらいいですか?」と尋ねたら、「何もしなくていいよ」と言ってくだって。

――かっこいい……。

花乃 ぜひ記事にしてください(笑)。そういうリードも含め、スーパースターさんだなと尊敬しています。

小田井 僕は坂本くんと同い年なんです。いい意味ですごく肩の力が抜けていると言いますか、自然体と言いますか。歌っているときも、台詞を言っているときも、川で泳ぐ魚のようにスイスイスイって感じなんです。ハロルドとして常に物語の中心にいるだけど縦横無尽に駆け巡っている感じもして、それを自然体でやられているからすごいなと思います。でもさっき花乃さんも言った通りで、自分の出番がないときは、稽古場の袖でずっと台詞をブツブツ言ってたり、踊りの確認をしていたり、共演者と小さい声で確認したりしていて、もちろん背負っているものに応えるべくやられていると思うんですけど、坂本くんとも話しましたが、声かけにくいんですよね。

花乃 (笑)。「よく言われる」とおっしゃってましたよね。

小田井 「多分もうあと何日かして、全部入ったら少しずつ余裕が出てくると思う」っておっしゃってました。だけど先日のWBCの大谷翔平選手とかダルビッシュ有選手みたいですよね、その背中を見せられたらこっちもがんばらないとと思わされる。そういうカリスマ性があります。

花乃 坂本さんと小田井さんのコンビネーションがすごく素敵なんですよ。役そのままといいますか。おふたりのナンバーもバランスがすごくよくて、お互いを高め合っている感じが見ていて素敵だなと思います。

小田井 そう言いますけど、僕は(坂本が)花乃さんと芝居してるほうが楽しそうに見える……。

花乃 ええ?(笑)

小田井 ちょっと嫉妬しますから。「なんやろ、この気持ち……」みたいな。僕とやってるときより楽しそうで。

花乃 いやいや、そんなことないです(笑)。

小田井 いや、ある!

二人 (笑)

取材・文/中川實穗