2015年トニー賞作品賞受賞の傑作ブロードウェイミュージカル「FUN HOME」が、ついに開幕!早速観劇してきた演劇部員、その魅力をお伝えします!
【STORY】
43歳、レズビアンで漫画家のアリソンは、今の自分を見つめなおすため、今の自分と同じ年齢で自殺した父と自分の関係を漫画として記録することを決意する。小さいころからどこか男勝りな性格だったアリソンは、厳格で完璧主義な父と複雑な関係を築いてきた。
大学生となり、自身がレズビアンと自覚した彼女は、母の口から父がゲイであると知ることになる。そして、手紙で自身がレズビアンだとうちあけた数か月後、父は自殺してしまう。
彼女がしまい込んでいた父への思いとは、そして、父の苦しみとは何だったのか。
家族でありながらも他人、他人だけど家族。
田舎町の小さな一家の別れと再生を通して描かれる、希望の物語。
2月7日より東京・シアタークリエで上演されているミュージカルFUN HOME。
劇場に入ってまず最初に気が付くのは、舞台上でチューニングをする演奏者たち。何を隠そう、この舞台で使用される音楽はすべて生演奏なのです。舞台が始まる前のパァーというチューニングの音からは、このミュージカルを包む温かさが感じられました。
観劇レポートとして特筆したいのは、このミュージカルでは小学生、大学生、大人の3つの時代のアリソンが交互に現れて時代を転々としているにも関わらず、暗転がなく物語が非常になめらかに進んでいくということです。そんな進め方を可能にしているのは、観客の想像力を掻き立てるシンプルな演出。観客が自分の想像で補い理解できる必要最低限の美術を使用し、必要ないものは使わない。だからこそ、観客は不自然な中断を感じず、いつのまにか自分のイメージで世界を創造し、入り込むことが出来るのです。
また、その進め方を可能にするのにもう一つ欠かせないのは役者たちの表現力。大人のアリソンを演じる瀬奈じゅんは最初から最後までずっと舞台に立ち続けていますが、その存在感は絶妙。私たちが見たいと思ったときに現れ、他の人を見ているときには観客に溶け込む。常に私たち観客と共にいてくれました。
また、大学生のアリソンを演じている大原櫻子の、その計り知れない声量には毎回圧倒されます。アリソンの、表現することを恐れない、自分自身の中の何かに常に挑んでいるような芯の強さは、彼女自身の内側からあふれ出ているものなのかもしれません。
さらに、アリソンを取りまく家族、恋人、友人を演じるのは実力派のキャストたち。
吉原光夫はアリソンの父の横暴さと繊細さ、うぬぼれと恐怖心を見事に表現。それを受け止めようともがき、気丈ながらも人知れず苦しむ母を紺野まひるが演じました。父と母、夫婦であるふたりの、それぞれの苦しみは計り知れません。
また、アリソンの恋人のジョーンを演じた横田、父の恋人を演じた上口から感じたのは、同性愛という特別なものではなく、自然な愛情です。相手が同性であるということを意識することはなく、恋人という関係の方に注目が行く。これこそがFUN HOMEがレズビアンやゲイといった題材を扱っていながらも特別そこにフォーカスされず、家族というテーマを考えさせる物語となった理由なのだと感じられました。
アリソンの子供時代を演じる子供たちの歌唱力と可愛らしさもお墨付き。歌唱力、演技力、舞台全体のレベルの高さは圧巻です。
音楽に頼らないながらも、絡み合い、まるで音楽が台詞の代わりを果たしていると思えるほどに調和していたこの舞台。ストレートプレイが好きな人も、ミュージカルが好きな人も、はたまた泣きたい人も、笑いたい人も、どんな人にも胸を張っておすすめできるものとなっています。
東京シアタークリエで2月26日まで上演中。是非足を運んでみてください。
ローチケ演劇部員によるFUN HOME連載は今回で終了です!お付き合いいただき、ありがとうございました!
文/ローチケ演劇部員(有)
写真提供/東宝演劇部