「これは二人だけの世界」松岡広大×山崎大輝『スリル・ミー』

さまざまな組み合わせで上演され続けるミュージカル『スリル・ミー』が9月から10月にかけて上演される。

本作は、1920年代に全米を震撼させた二人の天才による凶悪な犯罪を基にした作品で、“私”と“彼”、そして一台のピアノのみで繰り広げられる 究極の心理劇。2005年にニューヨークで初演された後、世界各国で上演されており、日本でも2011年の初演を皮切りに、田代万里生や新納慎也、松下洸平、柿澤勇人ら数々の俳優が参加し、再演を重ねている。演出は初演から変わらず栗山民也が手がける。

今回は、尾上松也(私)×廣瀬友祐(彼) 、木村達成(私)×前田公輝(彼)、松岡広大(私)×山崎大輝(彼)とい3チームが出演。その中で唯一、前回からの続投である松岡広大と山崎大輝に話を聞いた。

またこの二人でできることがうれしい。

――約2年ぶりにお二人の組み合わせで『スリル・ミー』をやることになっていかがですか?

山崎「またこの作品をやらせていただけるんだっていうことと、広大くんと一緒にやらせていただけるんだってことが素直にすごくうれしかったです。前回と違うものになるのは間違いないですが、今回どうお届けするかは、幕が開くまでわからないし幕が開いてもわからないかもしれないと思っています」

松岡「演劇は終わりがないし、もう一度できることを切望していたので、それが叶ってよかったなとまず思います。前回から2年経ち、いま台本を読み返すと当時思っていたこととまったく違うことを考えますし、僕らの関係の醸成というか発酵というか、そういうものもあるはずです。それぞれのこの2年間での経験もあるので、今回の新しい糸口が見つかるだろうなと思っています。美しいだけのものにはしたくないなという気持ちもありますしね」

山崎「さっき言い忘れ気味だったんですけど、多分、二人とも思ってることがあると思うんですよ」

松岡「お、なになに?」

山崎「思ったより早くなかった?」

松岡「そう??」

山崎「……言ってたじゃん!!」

松岡「ええ? そんな話したっけ?」

山崎「言ってた言ってた!」

松岡広大

――(笑)

松岡「あ、大輝くんが30歳になった頃、みたいな話?」

山崎「そういう話! 前回初めて『スリル・ミー』をやってるときもそういう話をしたし。言ってた覚えはあるでしょ!?」

松岡「うん(笑)。歴代の出演してこられた方々を見て、僕らももっといろんなことを経験した後にまた機会があるのかなと思ったって話だよね?」

山崎「そういうこと! だから今できるのがうれしかったんですよ。いや~、またこういう日々が始まりますよ」

――(笑)。どういう日々ですか?

山崎「今のやりとりからもわかるかと思いますが、ずっと尻に敷かれてるんですよ!」

二人「(笑)」

山崎大輝

ただ二人だけでわかるものをやればいい。

――作品に向かううえで「今回はこうしたい」みたいなものってあったりしますか?

松岡「それはないですね」

山崎「全然ないです」

松岡「稽古の中で、この2年で変わったところと変わってないところを見ながら、栗山さんと大輝くんと対話をしてつくっていくつもりです。そういうのが楽しいですし。僕自身も台本の感じ方が全然違っていて、当時のノートとかメモとか見ると「若いな」「固いな」と思います。一面的にしか見てなかったなって。台本は年に一回くらい読んでいたんですけどね、わからないので」

山崎「栗山さんもきっと、今の僕らを見て絶対また違うものを求めるだろうなと思っていて。それに応える……というか、それを自分たちにプラスしてやっていくような気持ちでいます。だから準備という準備はないんです。前回も、相方からもらうものと、それをもらって自分から生まれたものとで、どんどん勝手に構成されていったので」

松岡「栗山さんから「技巧に走るな」というオーダーもあったよね。ならばこの身ひとつでやるしかないっていうある種の覚悟が生まれて。ただ、今ならもうちょっと思慮深くできるかな、と思ってもいます。大輝くんは『スリル・ミー』と『ピアフ』で栗山さんの演出を受けたけど、作品によって違ったりした?」

山崎「共通してやっぱり「これはいま生で起きている出来事なんだ」ということをすごく大切にされる方だなと思います。そしてそれが特にあるのが『スリル・ミー』なんだと僕は感じました。前回言われて、今でも覚えている栗山さんの言葉があるんですけど、「これは二人だけの世界なんだ。ショーケースなんだ。誰も触れられない。ただそれを他の人たちが観ているだけ」というもので。だから説明的じゃなく、ただ二人だけでわかるものをやればいいっていうことでした。僕はその言葉を頼りに遂行したような感覚があります」

松岡「「遂行」なんだね」

山崎「うん、自分の中ではそうだった。そんなイメージでした」

松岡「この作品は、同性愛や真実の愛、美しいとかそういうところがフィーチャーされますが、やっぱり自分たちのことを話している作品なんです、切々と。そういう意味では、お客さんにこれは他人事じゃないよってことは心身で訴えたいなとも思います。そのぶん観る方は傷つくと思うんですけどね」

松岡広大

今の二人ならではの、こっぱずかしさと高揚がある。

――松岡さんがさっき台本を「わからなくて年に一回読んでた」とおっしゃってましたが、そのくらい難しいですか?

松岡「難しいです」

山崎「難しいですね」

松岡「そしてこういう場でどう語るかっていうのも難しいです」

山崎「同じこと言おうとしてた。この作品は語り方が難しいんですよ」

――その難しさというのは?

松岡「どの部分を抽出するかが、本当に栗山さんと俳優次第で」

山崎「そうだよね。この戯曲にはいくつも伝えたいことがあると思っていて。それをどうピックアップするかなんですよね。だからこそこれだけのたくさんペアが演じても、それぞれ唯一無二のものができるんだと思います。そういう意味でも語るのが難しいんですよね」

松岡「前回の僕らは「生の暴走」というのが抽出されたと思うけど、今回はどうなるか」

山崎「本当にわからないです。自分がやっていてもわからないところだし」

松岡「そこはほんとに取捨選択のバランスですかね。何対何の割合にするかみたいなところで決まるというか」

山崎「しかもそれを二人でつくっていくから、どんな“私”かによって、どんな“彼”かは変わるし、逆もまた然りなので。もちろんどの芝居もそうなんですけど、『スリル・ミー』は特に、わずかな違いで大きく変わる作品だと思っているので、そこがおもしろい部分でもあります」

山崎大輝

――お互いの感情って話し合ってつくったりもするのですか?

山崎「ロジカルにつくる部分もあるけど感覚の部分もあります。僕らは前回は話し合いをそこまでたくさんしたわけじゃないんですよ。もちろん話してはいたけど、どちらかというと、「相手がしていることに対してどうしていくか」みたいなところを個々にやっていた感じがすごくありました」

松岡「今回はもっと話していきたいね」

――この二人だからいいなと思っていることはありますか。

松岡「続きをやるわけではないけど、続きが大輝くんとできるっていうのはやっぱ楽しみです。改めて田代万里生さんと新納慎也さんが何度もできる理由がわかったというか(田代・新納ペアは2011年、2012年、2021年と出演)。同じ二人でも、変わらないものと変わりゆくものが両方あるからできるんだなと思いました。その中でも相手が彼でよかったなと思っているのは、感覚で考えているところと頭で考えているところと両方あって、素直に生きているところが僕は羨ましいんです。僕はどうしても頭ですごく考えてしまうから。大輝くんで本当に良かったなと思います」

山崎「僕たちはある部分はめちゃくちゃ似てるし、ある部分は全然似てないんですよ。それが、お芝居を一緒につくる中でも生きてるなと感じます。なんか、劇中の“彼”と“私”の微妙なアンバランスさと共通するところがあるなと思いますしね」

――前回以降、お二人は連絡を取り合ったりしていましたか?

山崎「(笑い出す)」

松岡「ほんとに困るんだよ、夜中に……」

山崎「いやそれ広大くんな? 俺が寝ようと思ったタイミングで電話してきて!」

二人「(笑)」

山崎「2年前の『スリル・ミー』から仲良くなって、プライベートでも会うようになって、ご飯も行くし、電話もするし、という感じです」

松岡「大体『スリル・ミー』の話をしてるよね」

山崎「そうね。だからそうなった僕らでまたこの作品をできることは、めちゃくちゃうれしいのと、若干こっぱずかしいっていうのもあります。自分を知られちゃったもんだから。(と、だんだん恥ずかしそうになる)」

松岡「うん、あるね。え、なに? 照れてるの?」

山崎「(笑)。でもこのこっぱずかしさって、(劇中の)彼らも久しぶりに会うわけだから、ちょっと重なるのかなとも思ったりしますし」

松岡「こっぱずかしさと高揚ね」

山崎「そうそうそう! そういうのを考えてたらニヤニヤしちゃった」

松岡「まあでも僕の中では数少ない友達ですよ…」

山崎「それは俺もですよ…」

――そんなうつむいて話さなくても。

二人「(笑)」

取材・文:中川實穗