【クリエイターインタビュー】音響デザイナー 山本浩一/ミュージカル『スクールオブロック』

舞台をつくるスタッフへのインタビューをお届けする<クリエイターズ・ノート>。

せっかくミュージカルを観に行くなら、なるべく良い音で聞きたいもの。そこで要となるのが音響の仕事。これまで数多くのミュージカルやコンサートの音響デザインを手掛け、今月開幕『スクールオブロック』の音響も担当するこの道の第一人者・山本浩一さんに聞いた。

(取材・文:三浦真紀)

 

山本浩一 Yamamoto Koichi

(プロフィール)日本大学芸術学部放送学科卒業。エス・シー・アライアンス取締役社長。近年の主な参加舞台作品に『キングアーサー』(オ・ルピナ演出)、『画狂人北斎』(宮本亞門演出)、『巌流島』(堤幸彦演出)、『太平洋序曲』(マシュー・ホワイト演出)、『ジキル&ハイド』(山田和也演出)、『ザ・ミュージック・マン』(ダニエル・ゴールドスタイン演出)、TEAM NACS『幾つの大罪~How many sins are there?~』(戸次重幸演出)、『アニー』(山田和也演出)、『BACKBEAT 2023』(石丸さち子演出)、『She Loves Me』(荻田浩一演出)、『ファインディング・ネバーランド』(小山ゆうな演出)などがある。

 

――そもそも劇場で観劇する際、歌や台詞、楽器の音色がきれいに聞こえる、逆に聞き取りづらいということもあります。音にそういった差が出るのは、どのような原因が考えられますか。

様々な原因がありますね。

施設を建てる際にこんな形で立てるといい音になる、という建築音響という分野がありまして、建物の作りによって音の響き方は変わってきます。音を出すと綺麗に減衰していくのが、ちょうどいい響き。客席の形状が複雑だと位置によって台詞が聞こえづらいところもあり、その場合はスピーカーを当てることで対処します。

ところが劇場によっては乱反射が起きて、ワンワンと響きが連なる現象が起きることもあります。

 

――『スクールオブロック』を上演する東京建物 Brillia HALLでは今、その対策が進んでいると聞いています。

はい。細かく測定をして、改良が進んでいるようです。

『MEAN GIRLS』では1階席の両サイドに幕を吊ることで反射を抑え、アンケートでも好評でした。その後、客席の1階席、2階席、3階席の後ろ側に吸音パネルを設置。その工事が徐々に行われており、まだ課題はありますが、音響の点では良くなってきていると思います。

 

――これまで錚々たるミュージシャンとご一緒されてきた山本さん。『スクールオブロック』のリハーサルを見学なさったそうですが、子供たちのバンド演奏はいかがでしたか。

実は僕も小学校5年生くらいから演奏していましたが、子供たちの演奏は最高ですね。テクニックは僕らの頃に比べると圧倒的に上です。

それよりも、楽器を演奏する楽しさがビシバシ伝わってくるのがいいんですよ。それを見ているだけで、こちらまで楽しくなってくる。普段はみんなキャッキャしている普通の子供たちなんですよ。それが楽器を持つと、一人前のアーティストのようになって、突然良いグルーヴを出す。そこには嘘がないんですね。

バンドをやることを、心底楽しんでいる。これは見どころ、なかなか見られない光景だと思います。

 

――それは楽しみですね。『スクールオブロック』は子供たちによるステージ上での演奏、そしてプロのバックバンドの演奏の二つが並行します。そのあたり、音響で難しいところや工夫しようと思っていることはありますか。

まず、プロのバンドはオーケストラピットを使わず、奥に配置します。このスタイルは音響を制御しやすいので、かなりスッキリとできるんじゃないかと思います。

難しいのは、子供たちの演奏と、プロのバンド演奏の音を一つのスピーカーから同じように出すと、みんな同じに聞こえて、誰が何をしているのかがよくわからなくなる可能性があるんですね。ですから、スピーカーをいくつか仕込み、子供たちの演奏と大人の演奏の音色、位置の違いを上手く出したい。そして元気いっぱい、若さ溢れる子供たちの演奏、そのエネルギー感をいかに出すか。そこは大きな課題です。

今回の稽古場にセッティングされたプロのバンド

 

――『スクールオブロック』はバラエティに富んだ楽曲が楽しめますが、その名の通りロック曲が多い作品。クラシック音楽系のミュージカルとは、音響の設計が変わるものですか。

全く変わります。スピーカーの選択、スピーカーから出る音をどんな音にするかのチューニング、響きの面では音楽に付加するエフェクターをどう使うかなど。ロックなどスピード感のある作品に関して、エフェクターがかなり重要です。

 

 

――『スクールオブロック』ならではのこだわり音響プランがありましたら、教えてください。

ロック音楽に合うスピーカーを使いたいなと考えています。

僕がかつて、長く使っていたのは、ローリング・ストーンズが来日した時に開発されたスピーカー。シカゴに見に行って、これはいい!と買ったんです。ロック系の時にはそのスピーカーを15年くらい使っていましたが、あまりに大きくて、つい先週捨てられてしまいました(笑)。

と言うのは、テクノロジーが進んで、同じ音圧のものがその10分の1の大きさで出るようになったので。今回は、ロック系に合う、ミッドローの押出しの強いスピーカーがいいかなと。Brillia HALLでは初めて使いますね。上手くいくと良いのですが。

 

――山本さんは元々、ミュージシャンだったのですか?

はい。大学時代からバンドをやっていて、レコーディングをするところまで行ったんです。

ただ、レコーディングと今の会社エス・シー・アライアンスを受けたのが同時期で。そこで、会社に勤めながらバンド演奏もすればいいかなと思っていたら、そうはいきませんでした。入社したのがちょうど、松任谷由実さんと松田聖子さんが武道館で公演した最初の年。めちゃくちゃ忙しくなってしまい、片手間にバンド活動なんて状況ではなかったです。

 

――では、ロックを聴くとテンションが上がるのでは?

もちろんです!そもそも仕事でも、僕はコンサートの音響が中心で、ミュージカルはロック系、『RENT』や『GODSPELL』のようなバンドものに限っていましたから。

ところが『ミー&マイガール』(2003年)が帝国劇場で上演された時、演出家の山田和也さんが大学の後輩で、一回やってみないか?と声がかかりまして。それがオーケストラのいるミュージカルの初仕事。そこで指揮者の塩田明弘さんと出会い、ローリング・ストーンズモデルのスピーカーを使ったんです。音自体は気に入ってもらったのですが、初日の1幕終わった後にスピーカーが全部壊れて、大惨事に。これは、ロックを志している人間は、オーケストラものをやっちゃいけないと神様が言っているんだと思いました(笑)。金輪際、オケの仕事は来ないなぁと。ところが、いまだにやっているのですから不思議なものですね。

 

<近年山本さんが音響デザインを手掛けたホリプロステージ作品>

2023年上演ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』撮影:引地信彦

2023年上演ミュージカル『キングアーサー』撮影:田中亜紀

 

――『スクールオブロック』はそれこそ山本さんのお得意なロック!音もバシッと決めていただけますね。

もちろんです!この作品は僕しかやる人がいないでしょう。劇場全体が盛り上がるような音作りに精一杯努めます。