「今のふたりで演じる楽しみ」林翔太と寺西拓人が語るブロードウェイ・ミュージカル「ロジャース/ハート」

作曲家リチャード・ロジャース、作詞家ロレンツ・ハートの半生を名曲と共に綴るブロードウェイ・ミュージカル『ロジャース/ハート』が9月30日(土)に開幕する。

本作が描くのは、『王様と私』や『サウンド・オブ・ミュージック』などの名作を手がけた作曲家リチャード・ロジャースと、そのロジャースがかつてコンビを組んでいた作詞家ロレンツ・ハートとの物語。日本では玉野和紀による上演台本・訳詞・演出・振付の“玉野版”として2018年に初演され、今回は5年ぶりの再演となる。

W主演を務める林翔太と寺西拓人は5年前の初演から引き続きの出演となるが、前回ロジャースを演じた林はハートを、前回人気歌手のエディー・フォンティーン他4役で出演した寺西はロジャースを演じる。そのほか出演者は、凰稀かなめ、藤岡正明、中河内雅貴、音波みのり、音くり寿、吉田莉々加、鯨井未呼斗、MAOTO、壮一帆、玉野和紀。

林翔太と寺西拓人に話を聞いた。

「配役が逆な感じがした」「そうね、キャラクターがね」

――5年ぶりの再演で、出演者も楽曲数も増え、おふたりも違った役での出演となりますが、今はどんなお気持ちでいらっしゃいますか?

 てっきり同じロジャース役をやると思っていました(笑)。でも、てら(寺西)がロジャースをやることになって、僕がハートをやることになって、このタイミングでふたりでこの役を演じられることがすごく楽しみです。

――林さんはこの初演について「僕が本格的に舞台に出させてもらうようになった最初の作品」とコメントを出されていましたね

 そこからの5年間でいろいろな舞台を経験してきたので、(自分が)どう進化しているのか楽しみにしています。さらに出演者も豪華すぎる方々ですから。

寺西 そうですよ!

 そこもどうなるのか楽しみにしています。

寺西 役が変わることはもちろんびっくりしたのですが、どちらかというと(寺西と林とで配役が)逆な感じがするというか。

 そうね。キャラクターがね。

寺西 (林は)ちょっと真面目、(寺西は)ちょっとテキトーみたいな感じだから、それもすごく新鮮で楽しみです。あとは本当にモンスターたちが……

 そうなのよ!

寺西 ミュージカルモンスターたちが大集合ですから。この中で主演をやらせていただくというのは、すごく光栄なことです。(演出の)玉野さんとも仲良くできたらいいなと思います。

――いま新鮮というお話も出ましたが、ご自身が演じる人物について、どんな役で、演じることをどう思われていますか?

 ハートは自由奔放な人です。でもすごく傷つきやすかったりもするし、繊細な一面を持っていて、ギャップがあるなと思います。初演のときの僕は、ミュージカルの右も左もわからないような状態でしたし、「ちゃんとやんなきゃ」という性格だったので、(真面目な)ロジャース役がハマっていたと思います。でもあれからいろんな経験をさせてもらって、いい意味で適当にできるようにもなってきたと思うので、今ハートを演じることに不安はないです。楽しみにしています。

――挑戦になりそうなことは?

 自由奔放な感じとかをどう出せるかなっていうのは挑戦……というよりは単純に楽しみですね。前回、矢田ちゃん(矢田悠祐)が演じたハートとどんなふうに変えながら、自分の色に染められるか。今回は役でピアノ演奏がないというだけで心に余裕を持ちながらできそうですし(笑)。

――逆に寺西さんはピアノ演奏がありますね

寺西 大変そう……。

 最初のシーンが怖いのよ。真っ暗な中で弾きはじめるから。

寺西 そこでこけたら終わりじゃないですか!

 でも大丈夫です、絶対。弾けますからね。

寺西 (声が小さくなりながら)いやいやいや……。

――寺西さんはロジャースという役についてどんなふうに思われていますか?

寺西 いま改めて台本を読んでも、5年前の記憶はあまり出てこないんですけど、それでもなんかちょっと林くんの声で再生されるんです。「ああ、言ってたな、この台詞」って。

 そうだよね。

寺西 それが稽古をしてどうなるのかは楽しみ。そして今の僕がロジャースを演じるとどうなるのかも自分でも楽しみにしています。役の印象は、ロジャースの真面目な感じとハートの天才肌な感じが、ちょっとなんか、KinKi Kidsのおふたりみたいなイメージがあるんです。

 うんうん。

寺西 それで言うと、僕はどちらかというと(堂本)光一くんというか。(堂本)剛くんみたいな天才気質ではないと自分では思っていますし。そういう意味では、ロジャースに近いものがあるのかなという気がしています。

――ピアノ以外で挑戦になりそうなところは?

寺西 前回は複数役演じていたので、役を深掘りするというよりは瞬発力みたいなものが大事でした。でも今回は、実在した一人の人物の人生を生きるので、より芝居に重きを置かないといけないと思います。そこは努力するところだろうなと思っています。

――ちなみに楽曲が増えるということは、おふたりの歌う曲も増えるのですか?

寺西 キャストが増えてますからね。少し前に玉野さんとお会いしたときに、「ちょっとラクになってるかも」とおっしゃっていました。

 ふたりの曲が増えてるというよりは、他の登場人物の曲が増えてるんだと思います。

寺西 そりゃもう、みなさんミュージカルモンスターですからね。

 増やさないわけにはいかないよね(笑)。

「てらはなんでもできるんですよ」「誰が言ってるんですか!」

――おふたりがこの5年の間に知った、ミュージカルの楽しさややり甲斐ってどんなものですか?

 この5年でミュージカルもストレートプレイも経験して、改めてミュージカルの楽曲が持つ力や、歌で届ける力みたいなものを感じています。「こんなに歌で感動させることができるんだ」ということを改めて知りました。僕がミュージカルを好きな理由はそこにもあります。

――それはステージ上に立って感じるものですか?

 それもありますし、僕自身、前よりミュージカルを観に行くようになったので。そこでもらった感動を、今度は自分がステージに立ってお客さんに届けることができることを、幸せだなと思います。

寺西 この5年間でミュージカルが好きになった気がします。出る度に思うんですよ、「ミュージカルっていいな」って。そういう気持ちが作品にも反映されたらいいと思いますしね。

――どういうところが好きになったのですか?

寺西 やっぱり「楽曲がある」ということかな。言葉じゃないもので表現することで、より伝わることがあるんだなと思う。ミュージカルを観て残るのって、やっぱり楽曲ですしね。

――この作品の音楽についてはどのように感じられていますか?

寺西 この時代の曲ってやっぱりおしゃれですし、それをミュージカルモンスターたちが歌ってくれるというのが個人的にも楽しみ。

 曲、おしゃれだよね。メロディもおしゃれ。「ここで半音なんだ」みたいなところもあるから、そこをバチッと決められたら、よりおしゃれな曲として届けられるんだなと思います。個人的には、てらの「マイ・ロマンス」が聴けるのはうれしいです。

寺西 がんばります!

――お互いの俳優としての印象をお聞かせください

 てらはなんでもできるんですよ。

寺西 誰が言ってるんですか!

 いや本当に、コメディチックな役から演劇する役までどんな役でもできちゃうからすごいなと思う。『ダブル・トラブル』で共演したときは、発想がコメディに向いているなと思いました。

――どうしてそう思ったのですか?

 いろんなアイデアを出してくるし、稽古場でも毎回違うことで笑いを取っていました。本番に入ってからもちょこちょこ変えてくるから、お客さんを飽きさせないんですよね。何回も観ている人も飽きさせないし、初めて観に来た人も筋がちゃんとわかる中でおもしろいことができる。すごいなと思います。

寺西 稽古のときはいろいろやらないとだめだと思って、やってました。でもコメディ作品の稽古ってチャレンジしやすい空気を出していただけるんですよ。そのおかげでチャレンジできたというのはあります。

――寺西さんから見ての林さんはどうですか?

寺西 なんでもできるって、俺からしたら林くんのことなので。

 いやいやいや。

寺西 あとこれは5年前の初演でも思いましたし、『ダブル・トラブル』でも思いましたけど、歌がうんめー!んですよ。とにかくうまい。ミュージカルにとって歌の持つ力はすごく大きいから、最強です。前回共演した『ダブル・トラブル』から1年くらい経ったし、またうまくなっちゃってるんじゃないかなと思っています。

 てらはたまにそう言ってくれるんですけど、てらもうまいじゃんって思う。自分で自分をうまいとは思わないし。そうやって言ってくれるのはうれしいですけどね。

――いま初演を振り返ると、役者としてどんなことを収穫できた作品だと思われますか?

 僕は初めてのことばかりだったので。主演でやらせていただくのも、ミュージカルにガッツリ挑戦させてもらうのも、ピアノもタップも初めてでした。すごく悩みながらやっていましたけど、あの経験がなかったら、その先のミュージカルもなかっただろうなと思っています。だから全部が収穫でした。

寺西 初演の稽古ですごく印象に残っているのは、ウエイターの役があって、台本だけ読むとただ接客するだけの普通の役なんです。それをそのまま稽古場でやったら玉野さんが「つまんない!」って。

 (笑)

寺西 「せっかく出るんだったら、なんかやりなよ」と言われて、「やっていいんだ!」と思ったのをすごく覚えています。それでやってるうちに楽しくなっちゃって、本番では全然違うことをしたりもしました。ちょっと「玉野さんに怒られるかな」とも思いながらやってたんですけど、そのシーンについてお客さんから「さすがですね」と言われた玉野さんが、「(寺西が)勝手にやってるんです」とおっしゃっていて。「やった!」と思いました。この作品で「めちゃくちゃしていいんだな」みたいなことは学びましたね。

――ちなみに玉野さんとは今作についてなにかお話されましたか?

 去年、『ダブル・トラブル』(2022年/林と寺西による二人芝居)を観てくださって、それで「心配はない」と言ってくれました。

寺西 え、まじすか。俺、言われてないんですけど。

 (笑)。思ってくれてるよ!

寺西 そうかな???(笑)

インタビュー・文/中川實穗