ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』観劇レポート

製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

荒木飛呂彦のシリーズ累計発行部数1億2,000万部を誇る大人気コミックシリーズを原作にしたミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』が、2月28日に東京・帝国劇場にて千穐楽を迎え、3月に札幌、4月に兵庫で上演される。

唯一無二の世界観が世界中から支持を得てきた本作の初の舞台化となる今作。ストーリーはすべての始まりとなる第1部「ファントムブラッド」をベースに、19世紀末のイギリスで主人公ジョナサン・ジョースター(通称“ジョジョ”)と運命的な出会いを果たすディオ・ブランドーを中心に、〈謎の石仮面〉をめぐる熱き戦いと奇妙な因縁を描く。演出・振付は長谷川寧、音楽は『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の謎~』でも知られるドーヴ・アチア(共同作曲:ロッド・ジャノワ)、脚本・歌詞は元吉庸泰。ジョナサン・ジョースターを松下優也/有澤樟太郎(Wキャスト)、ディオ・ブランドーを宮野真守が演じ、ジョジョの想い人エリナ・ペンドルトンを清水美依紗、ジョジョの仲間となるスピードワゴンをYOUNG DAIS、闇の力に対抗する<波紋法>を徐々に伝授するウィル・A・ツェペリを東山義久/廣瀬友祐(Wキャスト)、ロンドンに実在した殺人鬼 切り裂きジャックを河内大和、ディオの下僕となるワンチェンを島田惇平、ディオの実父で小悪党のダリオ・ブランドーをコング桑田、そして“ジョジョ”の父でありディオを養子として迎え入れる英国貴族ジョースター卿を別所哲也が演じている。

本記事では、松下優也が“ジョジョ”、東山義久がウィル・A・ツェペリを演じた公演の観劇レポートをお届けする(ネタバレが多く含まれるのでお気を付けください)。上演時間は休憩25分を含めて約3時間30分。

※以下、ネタバレあり※

舞台正面には大きな丸い穴、傾斜のついた馬のひづめ状の舞台、天井には円状に並んだ照明……シンプルだがこれがどう使われるのかとワクワクさせられる舞台美術が広がっている。バンドブースは客席の両サイドに埋め込まれるような形で設置されていて、ちょっと驚いた。この舞台で物語の扉を開くのはスピードワゴン。彼は貧民街の悪党であったが“ジョジョ”の高潔な魂に触れ仲間となる人物で、この作品では語り部も担う。スピードワゴンの楽曲にはラップが用いられており、演じるYOUNG DAISはヒップホップミュージシャンでもあるので、圧倒的なパフォーマンスでグイッとこの世界に巻き込んでいくような感覚に客席の熱が上がる。

そして“ジョジョ”とディオの物語が始まっていく。『ジョジョの奇妙な冒険』といえば……というと挙がるシーンはさまざまだと思うが、あの名台詞も、あの魅力的な擬音も、あのバトルも、派手で華やかなイメージも、しっかりと楽しませてくれながらも、“星”を見る“ジョジョ”と“泥”を見るディオの真逆にいるような姿を一つひとつ丁寧に描いているのが印象的。さらに彼らと交わる人たちの鮮やかなキャラクターがまた物語を彩り、前述の通り舞台機構もおもしろく、パペットづかいや照明づかいなど演劇的な表現も魅力的で、なにより楽曲がすばらしく……と書くと嘘のように思えるが、そのすべてが“ジョジョ”のバランスで融合しているのだ。

筆者が観劇した公演で“ジョジョ”を演じたのは松下優也。トリッキーな役柄も魅力的に乗りこなしてきた俳優なので、逆にこの“ジョジョ”のような透明感のある役柄をどう演じるのだろうというところがまず楽しみであったが、松下の歌声の美しさが役を真っ直ぐに表現しており、歌声を聴いた瞬間に納得し感動した。また、時間を重ねていく中で“ジョジョ”は、同じ人か疑うくらい醸し出す空気が変わり、身体も分厚くなったように見えるほど成長する。そういう変化もひとつ筋を通してみせるので、“ジョジョ”が得た強さをリアルに感じられた。ディオを演じる宮野も見事。歌い、踊り、飛び、というような役なので体力も使うと思うが、宮野はディオの生い立ち、奥底にあるもの、抱えているものも繊細に表現し続け、ディオというキャラクターの奥深さをすんなりと理解させてくれる。また、(声優の技術をことさら強調するようなことはしないが)声の表現に驚かされるような場面もあり、観ていて漫画のようだと感じる瞬間も。“ジョジョ”とディオ、お互いがお互いを引き立て合いながら、作品の熱を高めていく。

そしてそこに清らかな歌声で凛とした存在感を持つ清水のエリナ、一度観るとYOUNG DAISでしか想像できなくなるスピードワゴン、佇まいだけでももう彼の辿ってきた道や意志を思わせる東山(Wキャスト)のツェペリ、これがミュージカル初参加ということにも驚く河内の切り裂きジャック、特に身体表現が圧巻の島田のワンチェン、徹底的に小悪党を演じるコング桑田のダリオ、そして登場するだけでその高潔さや温かさが隅々まで満ちるような別所のジョースター卿ら色彩豊かな登場人物たちが登場し、より深く、より繊細に、物語を届ける。

ドーヴ・アチアの楽曲は、『ジョジョの奇妙な冒険』という作品そのものの印象や、読者に与えた衝撃、そこから広がっていくものが音楽になった、というような印象。散りばめられた“ジョジョ”の精神が音楽によって胸にまっすぐ響きながらも、このシーンをこういう曲調で描くのか、という意外性があったりもして、曲が始まると嬉しくなるような感覚もあった。また、演出の長谷川は本作で振付も手がけている。長谷川の振付や群舞が見せる世界はこの作品の持つ“奇妙”をより魅力的にしている。今回ダンスの能力に長けたアンサンブルキャストが揃っていることもあり、作品に溶け込みながらも存在感のあるダンスが心に残った。

衣裳も、ファッションブランド「ヨシオクボ」のデザイナー久保嘉男が手がけている。久保が舞台の衣裳を手がけるのは初めてだそうだが、原作の要素を取り入れながらもそのまま再現するわけではない、このミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』ならではのデザインが採用されており芸術的。キャラクターの姿が舞台上で鮮やかに映えていた。

原作ファンは「あの場面、どうするんだろう」と思っているシーンがきっといくつもあるだろう。それをどれも、演劇ならではの表現、それは舞台機構であったり、パペットであったり、フライングであったり、LEDであったり、照明で、思わぬアイテムで、そして身体表現でその場に立ち上げていく。そこには驚きがあり、演劇の楽しさがあり、観ていてワクワクするものとなっていた。なので原作を読んで行くか迷っている方には、個人的には読んで行ってもいいのではと言いたい。なぜなら「漫画で読んだあの場面がこうなるのか!」というおもしろさも味わえるはずだから。

札幌・兵庫公演のチケットは、現在ローチケでも販売中。期待を超える作品です。

取材・文:中川實穗

今後の公演
北海道公演(札幌文化芸術劇場hitaru 3月26日〜3月30日)
兵庫公演(兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール 4月9日〜4月14日)を予定。
4月13日(土)17:00兵庫公演、14日(日)12:00兵庫大千穐楽公演のLIVE配信を予定。

https://www.tohostage.com/jojo/stream.html