2024年9月1日(日)、堂本光一主演ミュージカル『Endless SHOCK』福岡・博多座公演が開幕した。その前日、8月31日(土)に行われたゲネプロ(公開通し稽古)と取材会の模様をお届けする。
ミュージカル『SHOCK』シリーズは、2000年11月に東京・帝国劇場で初演、帝劇史上最年少座長として堂本光一が当時21歳で帝劇初出演・初主演を務め、2005年に『Endless SHOCK』というタイトルに。堂本が主演以外に脚本・演出面にも携わりながら毎年上演し続け、全日程即日完売を毎公演積み重ねてきた。2012年には東京以外では初となる地方公演で福岡・博多座に。翌年には大阪・梅田芸術劇場でも上演された。
“SHOW MUST GO ON”という言葉の意味を問い続けながら、エンターテイナーのコウイチとそのカンパニーが運命を駆け抜ける姿を描く本作は、歌やダンスはもちろん階段落ちや殺陣、そして数々のフライングで日本中のファンを魅了し続けている。そして、主演の堂本光一は、今年5月9日(木)に国内演劇における代役なし単独主演記録1位を塗り替える、2018回を達成した。
そんな日本が誇るミュージカル『Endless SHOCK』は、2025年からの帝国劇場の建て替えを受け、今年で終幕が決定。2024年4月・5月に帝国劇場、7月・8月に梅田芸術劇場での上演を経て、9月博多座、そして11月には再び帝国劇場へと舞台を移しラストを迎える。
ゲネプロ(公開通し稽古)レポート
ラストへ向かって命を燃やすカンパニー
『Endless SHOCK』が博多座で前回上演されたのは2022年9月。当時は世の中の新型コロナの状況を踏まえ、行われていなかった客席上空でのフライングの演出が、博多座公演から復活。堂本光一が黒のマスク姿で博多座の客席を舞った。あれから2年、『Endless SHOCK』が、ラストイヤーを掲げ、福岡に帰ってきた!博多座公演開幕の前日に行われた通し稽古の様子をレポートする。
オーケストラピットから曲が流れ出し、堂本光一はじめ出演者の名前、そして『SHOCK』の大きな文字が映し出されて幕が上がり、生き生きとした表情で大階段に登場した堂本光一とカンパニーの面々。いよいよSHOWが始まった―。
オープニングに登場するフライング。世の中は2年前の状況から更に変わり、前回博多座で目にした黒マスク姿で上空を舞う堂本光一の姿はもちろんなく、空中を自在に操り優雅かつ涼し気に舞う姿は、照明の光も相まってキラキラと輝きを放ち、博多座の光景を忘れずに見渡しているかのようにも見えた。
ダンス、イリュージョンなどの華やかな演出が続くなか、カンパニーに舞い降りた大舞台への挑戦とそこから生まれる軋轢、それぞれの思いを乗せて、物語は終盤へと加速していく。その中で感じた変化といえば、堂本光一の台詞の言い回しや少しの間あい…。そんな細かな部分に2年前とは何か違う印象を受けたのは、発する台詞に重みを感じたからだろうか?彼の芝居により深みが増しているように思えた。ただ一方で変わらぬことも。年齢を感じさせない堂本のダンス・パフォーマンスやアクションは健在。身体を張った階段落ちや殺陣、立て続けに登場するフライング。特に2幕で見せる『MUGEN(夢幻)』の場面では、力強い和太鼓演奏後にも関わらず、高さを保ったジャンプなど(下記場面写真)後輩たちと変わらぬ激しいパフォーマンスも見せていた。命燃え尽きるまで…コウイチと光一…全身全霊をかけてステージに臨む二人の姿は重なり、最後まで圧倒された。
続いて注目したのは、堂本光一の事務所の後輩、ふぉ~ゆ~の福田悠太と辰巳雄大。彼らは2019年以来の出演となり、博多座公演から本作に参加。その成長も著しく、二人は懐かしさを肌で感じつつも久しぶりの『SHOCK』のステージを心から楽しんでいるように見えた。また、いつも堂本のフライングのフッキングを担当していた福田によるフッキング後、堂本と装着完了のアイコンタクトを取る様子や、両サイドに福田と辰巳を並べて踊る姿、ちょっとした場面で見せるアドリブのようなやり取りなど、堂本との息の合った3ショット!思わず「これ!」と口に出したくなるほど、どこか微笑ましく懐かしい光景。どんなに年月が経とうが変わらぬその信頼関係、絆の深さのようなものを感じさせた。
そして、この5年で多くの舞台経験を積んできた福田と辰巳も、当時の若さでぶつかっていく演技とは違い、役にさらに寄り添っており、細やかな表情や台詞ひとつ、ダンスで見せる感情の高ぶりなど、全体に厚みが感じられ演技の幅が広がっていた。
また、4・5月の帝国劇場でライバル役を務めた佐藤勝利(timelesz)も博多座で再び参加。彼はこの博多座公演でSHOCK卒業となるが、演技に関してこれまでとは違ったアプローチを試みているようで、コウイチという存在に負けじと立ち向かおうとするアグレッシブさが増し、彼の大きな瞳が向ける熱い視線だけでもショウリの思いが強く感じ取れる。いつもTVなどで見かけていた笑顔の好青年という佐藤のイメージをいい意味で覆してくれる、熱いライバル像を演じていた。
同じく堂本の事務所の後輩、室龍太、高田翔、松尾龍、尾崎龍星も先輩たちに負けじと役と向き合い、先輩たちにいい刺激を与えている。ダンスはもちろん、それぞれがこの舞台のラストに全力で挑もうという気迫をひしひしと感じさせてくれた。
そして、ヒロインとその母として本作に華を添える女性陣。2年ぶりにリカ役を務める綺咲愛里と2013年から本作に参加している前田美波里。
元宝塚歌劇団星組トップ娘役で多くの舞台を経験している綺咲は、コウイチに憧れを抱き彼についていくことに必死で儚げな女性の印象を見せつつも、後半は現実を受け止め実は誰よりも強い心を持ったリカを好演している。その強さを感じるがゆえ、消えゆくものを思う辛さがより一層深く客席へ伝わり、悲しみを誘った。
そしてこの舞台になくてはならない、カンパニーを支えるオーナー役・前田美波里。彼女は博多座公演が実に7年ぶりとなる。舞台に立てばその立ち振る舞いの華やかさに目を奪われる。その存在感や風格は言うまでもない。母のような大きな愛でカンパニーを包み込む優しさにあふれた温かい演技は、本作とカンパニーに対する彼女のリアルな愛情が役に投影されているかのようだった。
3時間を超える舞台だが、時間を忘れさせるほどあっという間にフィナーレに。毎年少しずつブラッシュアップを重ね、何度観ても飽きさせることなく、いつもエンターテインメントの神髄を見せつけてくれる本作。9月29日(日)までの博多座公演を経てもなお高みを目指し、止まることなく走り続け、11月29日(金)の帝国劇場での大千穐楽まで私たちを魅了するに違いない。
囲み取材会
ここからは、ゲネプロ後に行われた取材会の様子をお届けする。
ゲネプロを終えて今の感想を聞かれた堂本光一と佐藤勝利。「始まってしまうと終わりに向かってしまうので寂しさを感じてしまいます。この博多座はお客様との距離も近いですし、演じていて気持ちがいいですし、パフォーマンスにしてもより派手に見せてくれます。本当に好きな劇場なんですよね。1公演1公演を大事にしながら、博多座の千穐楽まで毎日楽しく、そして自分に厳しく演じていきたいと思います」と話す堂本。
そして佐藤が「僕は、4月5月の帝国劇場公演に出演させていただき、この博多座公演で再び参加させてもらうのですが…」と話を始めると、堂本から「この人、(博多座公演)2日しか稽古出来ていないんですよ(笑)」と驚きの発言が!そんなことを微塵も感じさせない仕上がりだっただけに、そのクオリティに一同驚きつつ「えぇ!」と会場内が一瞬ざわつくなか、爽やかに笑顔で「そうです!」と返す佐藤。続けて「勝利のマネージャーが『仕事です』と。いやっ…これも仕事だぞ?と思ったんですけど(笑)」と佐藤をからかうかのように笑顔でつっこむ堂本に、佐藤は「合流したばかりですが、そんな自分を温かく迎え入れてくださって、(作品自体に)帰って来た感じがすごくしています。博多座は初めてですが、光一君からも『博多、楽しいよ!』と聞いていますし、本番も、おいしいご飯も、どちらも楽しみです(笑)」と笑顔を向けた。
次に、これまでの福岡公演での思い出を聞かれた堂本は「博多にはいい思い出しかないです。ふらっと入ったお店、どこでもおいしいじゃないですかぁ。しかも安いし(笑)!大阪にせよ東京にせよ、舞台のメンバーを連れてご飯に行くとビックリするような値段になるんですけど、博多ではそうはならない!……いい思い出でした(笑)」と話すと、それを受けて久々の参加となるふぉ~ゆ~の福田が「いまの話を聞きまして…」と改まった表情で一歩前へ。そして「光一君の懐事情などが気になっていたりするんですけど、今の話を聞いて…たかってやろうと思います(笑)。みんなで、勇気を出して!たかっていこうぜ!!」と振り返ってカンパニーの面々に声をかけるムードメーカーの福田に、堂本はじめ会場から笑いが起きていた。
同じくふぉ~ゆ~のメンバーでこちらも久々の参加となる辰巳は「光一君とも話をしていたのですが、劇場の匂いとか、そういうものでいろいろな思い出がフラッシュバックして、劇場に入った瞬間から『SHOCK』が始まるんだなと(気持ちに)スイッチが入りました。それこそ僕は『SHOCK』自体が久しぶりなので、光一君と袖でスタンバイしている時やスタッフさんと袖で話している時に、あぁこういう瞬間あったな…と懐かしみつつも、新たな気持ちで博多座のステージに立てているので、明日(初日)からが楽しみです」と振り返っていた。
その話を聞いていた堂本は「われわれが大阪公演期間中に、彼らは稽古を始めていてくれたんです。だから心配することもなく、彼らがこれまで『SHOCK』に貢献してくれてきたことは今もなおこの作品に息づいている部分があると思いますから、彼らが帰ってきてくれたことは心強く思っていますし、新たな発見も出来たらいいなと思っていますけど……福ちゃんの天パ(天然パーマ)が強くなってるな~と思いましたねぇ(笑)」と、最後は福田に負けじと笑いへ持っていこうとする堂本。そんな二人に辰巳がすかさず「ほら~、福ちゃんがそんなことするから、光一君もボケなきゃいけなくなっちゃったじゃないか!」とつっこむ場面も。この愉快な関係性を再び見れるのもファンには嬉しいのではないだろうか。
そして、本作での博多座公演は2度目となる綺咲は「皆さんもおっしゃるようにご飯もおいしいですし、博多座の劇場自体も大好きで、明日から始まるんだなというのを劇場の匂いで、肌で感じてワクワクしています。また、着倒版(舞台出演者の楽屋入りや退館を管理するもので、通常はひっくり返すタイプ)が博多座はピンのように刺すタイプなので、そこが博多座ならではで好きです」と明かした。
そして前田は「私は2013年から(この作品に)参加していますがいろいろなことを思い出して…。博多座に来たらなんだか突然辛くなって来ちゃいまして」と告げると、「うん…なんかカウントダウンが始まったようなね」と大きく頷く堂本。さらに前田は「この博多座はステージと楽屋の距離が近くて。ステージの真裏に楽屋があるので、早替えも楽屋で出来て、自分の衣裳をチェックまでしてステージに戻れるなんて、そんな劇場なかなか無いです。また、客席と一体化できるこの距離感も素晴らしいんです。これで終わってしまうのは辛すぎますが、明日、幕が上がるのも少し嬉しい…。そんな複雑な気持ちでおります」と語った。
順調に行けば今月28日昼の公演で、『SHOCK』は前人未到の大台、単独主演回数2100回を記録する。それについて堂本は「自分でも意味が分からなくなってますよね、2100回…って、どういうことなんだろう」と笑いながら福田に視線を向けると「“西暦”ですよね」と福田。「西暦を超えたもんね」と笑って頷く堂本。その言葉を受けて福田は「“西暦を超えた男”。見出しはこれで行きましょう!」とマスコミに向けて提案してみせる場面も。
続けて堂本からは「共演者、アンサンブル、スタッフ、そして皆さんがこの作品を愛して支えてくださっているのを感じられているので、それをちゃんとしっかりお返ししようという思いの積み重ねが、この数(2100回)になっているなと感じています。『SHOCK』は…今年で幕を閉めます。博多座でもたくさん、このステージに立たせていただきました。そのひとつひとつの公演に、とにかく感謝の思いというものを乗せながら演らせていただいて、そしてお客様に改めて『SHOCK』の良さを届けられたらいいなと思っております。自分としても、悔いの残らないように、全力で毎日演らせていただきたいなと思っております。劇場でお待ちしております」と、言葉一つ一つを噛みしめるかのように語り、会見を締めた。
果てしなく続く…と誰もが思い描き今作を見守ってきたファンにとって、終わりを受け止めるには心の準備がまだという人もいるかもしれない。ただ、この素晴らしいミュージカル『Endless SHOCK』は、私たちの記憶に深く刻み込まれ、心の中で永遠に生き続ける。堂本光一を筆頭にこのカンパニーは、それだけのエネルギーを放ち、有終の美を飾ってくれるだろう。
撮影/大工昭