ミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表 開催レポート

(文:橘涼香/撮影:渡部孝弘)

来年2025年1月開幕のミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』の製作発表会見が10月30日(水)に開催され、劇中より4曲の楽曲が披露された。

半世紀に渡り、数々の名作を世に送り出してきたミュージカル界の“生ける伝説”アンドリュー・ロイド=ウェバーが、自身最大のヒット作である『オペラ座の怪人』の後日譚として創作したミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』が2025年1月17日~2月24日、東京日比谷の日生劇場で三度目の上演の幕を開ける。

『オペラ座の怪人』のラストシーンで、自らが育てた歌姫クリスティーヌ・ダーエへの愛を抱きながら、パリ・オペラ座の地下深い闇の居城から忽然と姿を消したファントム。手を取り合って日の当たる世界へと戻っていったクリスティーヌとラウル・シャニュイ子爵。ファントムの秘密を知るバレエ教師マダム・ジリーとその娘メグ・ジリー。彼らの10年後の運命を描いたこの作品は、2010年にロンドンにて初演の幕を開け、数度に渡る手直しを経て、オーストラリアで上演され高い評価を得た。

その作品が日本で初演されたのは2014年。奇しくも『オペラ座の怪人』初演とところも同じ日生劇場での上演で、日本におけるファントム役のオリジナルキャスト市村正親が10年後のファントムをやはり日本オリジナルキャストとして演じたのをはじめ、豪華絢爛な装置、衣裳、アンドリュー・ロイド=ウェバーの多彩な音楽が瞬く間に好評を呼び、チケットは全日程ソールドアウト。続く2019年の再演も同様の評判に湧き、熱狂の『ラブ・ネバー・ダイ』旋風が巻き起こった。

そんな作品が、初演から、また2019年の再演からの続投キャストと、今回からカンパニーに加わる新キャストを迎えて三度目の幕を開けるとあって大きな期待が高まるなか、10月30日都内で製作発表が行われた。
ファントム役を初演から演じ続ける市村正親、2019年公演からの続投となる石丸幹二、今回新たにファントム役に名を連ねた橋本さとし。クリスティーヌ役をやはり初演から務め続ける平原綾香、初演でメグ・ジリー役を演じ、今回クリスティーヌとして作品に帰ってくる笹本玲奈、宝塚歌劇団時代、また退団後もモーリー・イエストン版『ファントム』でクリスティーヌを演じている新キャストの真彩希帆。ラウル・シャニュイ子爵役の加藤和樹(Wキャストで続投の田代万里生はスケジュールの都合で欠席)。メグ・ジリー役のいずれも新キャストの星風まどか、小南満佑子、そしてマダム・ジリー役の新キャスト春野寿美礼(Wキャストで続投の香寿たつきはスケジュールの都合で欠席)の、豪華キャスト陣が登壇。多くの取材陣と激戦を勝ち抜いた幸運な100名のオーディエンスの熱気であふれかえる会場で、作品への並々ならぬ想いを語ってくれた。

製作発表はまず作品の権利元である「リアリー・ユースフル・カンパニー」からのお祝いメッセージの披露からスタート。「2014年、2019年の大成功に続き、2025年に日本で三度目の上演を迎えることを大変嬉しく思っています。日本での上演は、2011年にロンドンで開幕したのち、世界最高峰のクリエイティブチームによって制作されたオーストラリアバージョンを基に上演されます。大きな喜びを感じた2014年の日本初演以来、『ラブ・ネバー・ダイ』の成功を共に築いていけることが大変嬉しく、日本カンパニーの皆様が、素晴らしい初日の幕開けと公演の成功を迎えられることを心からお祈り申し上げます」という趣旨の祝辞が届けられた。

そこからいよいよ、登壇キャストによる歌唱披露が、指揮・音楽監督兼歌唱指導の山口琇也、ピアノ伴奏・間野亮子により、4曲続けて行われた。

♪「君の歌をもう一度」市村正親&石丸幹二

1曲目は作品の冒頭で歌われる10年の歳月の間、クリスティーヌとその歌に焦がれ続けている心情をファントムが訴える『ラブ・ネバー・ダイ』を代表する大ナンバー。ピアノの静かな前奏が響くなか市村が登場。「君が歌うまで音のない世界が続く」と語り掛けるような切々とした歌唱に、ファントムオリジナルキャストの貫禄がにじむ。
入れ替わりで石丸が歌い継ぎ、胸に燃え続ける思いがやがて激情へと変わっていき、クリスティーヌが歌わない限り、この心は救われないと歌い上げる様に、作品世界が早くも立ち現れ、場内は大きな拍手に包まれた。

♪「懐かしい友よ」真彩希帆、加藤和樹、星風まどか&小南満佑子、春野寿美礼

2曲目はニューヨーク、コニーアイランドのファンタズマ(見世物小屋)の楽屋で、クリスティーヌ、ラウル、メグ・ジリー、マダム・ジリーが10年ぶりに再会を果たすナンバー。
まず、真彩クリスティーヌと小南メグ・ジリーが再会を喜びあって歌いはじめ、新キャストの掛け合い、美しいハイソプラノが再会の喜びにピッタリとあって聞かせる。そこに早くもどこかやさぐれた雰囲気を醸し出す加藤和樹のラウルと、凛とした春野寿美礼のマダム・ジリーが登場。二人の歌唱には思わぬ再会への戸惑いや、探り合いが含まれていく。更にメグ・ジリーの星風まどかが登場。何かの手違いが起きていると真彩と歌い合い、母マダム・ジリーとの掛け合いには、この場にいないファントムの影が潜んでくる。単純な再会の喜びだけではない、登場人物たちの複雑な心情が網羅される1曲が、本番では実現しない二人のメグ・ジリーが共にいる五人でのハーモニーが紡がれる貴重な歌唱に、一気に作品のドラマ性が広がった。

♪「負ければ地獄」 橋本さとし&加藤和樹

ファントム役:橋本さとし

加藤が場に残り、上手から橋本がゆったりとした足取りで登場。ファントムとクリスティーヌの夫のラウルとの再会には、互いへの敵意が静かににじみ出てきて、歌でありつつ台詞でもあるミュージカルの醍醐味が炸裂する。メロディーのない台詞もリズムを伴った音楽のようで、クリスティーヌをめぐって大きな賭けに出る橋本ファントムと加藤ラウルという、芝居心にも秀でた二人の新キャストへの期待がぐんぐんと膨らんでくる時間になった。

♪「愛は死なず」 平原綾香&笹本玲奈

そして4曲目は作品タイトルとなっている、クリスティーヌがラストシーンで歌い上げる大ナンバーの披露。新キャストの笹本玲奈の歌唱はリリカルなソプラノが美しく『オペラ座の怪人』のクリスティーヌが、時を経た姿だということに説得力がある。その笹本の歌唱を舞台裏で、心で共に歌うように聞いていた平原綾香が歌い継ぎ、クリスティーヌがオペラ歌手であることをきちんと表現する歌唱で、アーティスト平原綾香のイメージを良い意味で裏切り、聴く者をあっと驚かせた初演から進化を重ね、高音、低音共に自在な圧巻の歌声で締めくくった。なんとも贅沢で、作品の魅力が凝縮した歌唱披露に熱い拍手が贈られた。

素晴らしい歌唱を披露してくれたキャスト陣が壇上に揃い、改めて盛大な拍手が贈られるなか、それぞれの挨拶、また質疑応答が続いた。

『オペラ座の怪人』と『ラブ・ネバー・ダイ』双方の日本版オリジナルキャストの市村は「ファントムという役を初めて演じたのが39歳の時でした。それから10年後のファントムを描いた作品があると聞いて、運命的な何かを感じ、やらざるを得ないと思ったし、こんなに幸せなことはないですね。『ラブ・ネバー・ダイ』初演の時には父親になっていたので、その辺の心情は実感でやっています」と長年ファントム役に携わってきたならではの思いを吐露した。

その『オペラ座の怪人』に1990年ラウル役としてデビューした石丸は「いまこうして大先輩の市村さんと共にファントム役ができることにやはり運命を感じるし、このチャンスを生かしていきたい」と語り、先般ニューヨークのコニーアイランドを久々に訪れたとのことで「とても綺麗になっていて、ファントムの生きた時代の雰囲気を感じ取れました。観覧車にも乗ったのですが、スイング観覧車で上に上がったらすごく揺れて。その恐怖をファントム役に生かして演じたい」と、冗談めかして意欲を述べた。

新キャストの橋本は「新人の橋本さとしです。この歳までとったことがない新人賞を総なめにしたいと思います」と笑わせ、自身が客席から市村ファントムを観劇した際に「ファントムの背中からはじまる作品で、こういう形はなかなかないですよね。市村さんのその背中から既に作品に巻き込まれていったので、かっこいいなと。俳優なら誰もが憧れる役ですが、まさか自分がやれるとは思っていなかったので、その時の自分に『お前やってるぞ』と言ってやりたい。ずっと共演したかった市村さん、石丸さんとは一切絡みがありません」と、役柄への意欲と共に、同じ役を競演する間柄故の思いも覗かせた。また「仮面はどのくらい視界が見えるんですか?」と二人に問い「意外と見えるよ」「むしろ汗との闘い」との体験談に「顔がやせ細るかも」と和やかな会話が続いた。

クリスティーヌを演じ続ける平原は「今年がミュージカルデビュー十周年になります。『ラブ・ネバー・ダイ』は私にとって初めての挑戦のミュージカルでした。ここで歌うこと、演じること、大切な全てを教わった作品です」と振り返り、実生活で父との別れを経験したことを慮った市村から「『お父さんが亡くなって寂しいな。俺がお父さんになってやる』との言葉をかけられたことを披露。「クリスティーヌがファントムに寄せる思いと同じなので、リアルにできると期待しています。期待しちゃっていい?」と市村に問い「大丈夫だよ!」と力強い応えが帰ってくる微笑ましいやりとりもあった。

新クリスティーヌの笹本は「2014年の初演ではメグ・ジリー役として出演していました。クリスティーヌ役として帰ってこられたのは本当に光栄です。私にとっては本当に挑戦ですので、心も身体もクリスティーヌとひとつになって演じたい」と決意を語ったあと「初演では平原さんの『愛は死なず』を毎公演下手の袖から観ていて、先のシーンに気持ちを持っていこうと思っていたのに、感動が先に立ってそうできなくて。当時はクリスティーヌを理解することも難しかった」と話すと、平原が「わかる、なんでそんなに選べないの?と思うよね」と応じ、自身もずっとあとになってクリスティーヌの心情が、ふっと降ってきたように理解できて、涙が止まらなかった、という貴重な体験談を。「メグが本当に素晴らしかった玲奈ちゃんが、クリスティーヌをどうつかんでいくのが楽しみ」とエールを贈った。

同じく新クリスティーヌの真彩は「『ラブ・ネバー・ダイ』は楽曲をずっと聞いていて、初演から観ていた作品で、こうして参加できることを本当に嬉しく思っています。美しい音楽って心が洗われるじゃないですか。宝塚歌劇団でモーリー・イエストンさんのクリスティーヌを演じたあと、アンドリュー・ロイド=ウェバーさんの『オペラ座の怪人』のクリスティーヌにもいつか触れてみたいと思っていました。『ラブ・ネバー・ダイ』はこの音とこの音が重なるとこうなるのかという楽曲があって。人によって声帯が違うし、響きも違いますから、ファントムとクリスティーヌが共にトリプルキャスト、ラウル、メグ・ジリー、マダム・ジリーもWキャストで様々な組み合わせがあり、それぞれどんなハーモニーになるのかが楽しみですし、緊張もしています」と初役への思いを述べた。

ラウル役の加藤は「素晴らしいファントムはじめ、皆様と一緒にラウル役を演じられることが本当に嬉しいです。皆様の足を引っ張らないように田代万里生くんと共に素敵なラウルを作っていきたいと思います」と意気込みを語ったあと、真彩同様出演したモーリー版『ファントム』ではファントム役を演じていることへの質問が飛ぶと「確かに別作品とは言え“ファントム”を演じていますが、歌も迫力と心地よさがあって感動したファントム役の方たちと一緒にラウルとして出るので、一度怪人のことは忘れてこの作品のラウル役を突き詰めていきたいです」とラウル役に思いを込めた。

また、メグ・ジリーの星風が「素晴らしい作品、そして素敵な楽曲の数々に携わらせていただけること、キャストの皆様、そしてスタッフの皆様からたくさんのことを学ばせて頂ける日々を楽しみにしています。メグ・ジリーという役を心して演じさせていただきます」と心を込めると、同じ新キャストの小南も「初演からずっと観てきた憧れの作品に参加できることに感謝の気持ちでいっぱいです。精一杯メグ・ジリーとして魂を捧げていきたいと思っています」とメグ役に懸ける思いを述べた。

そして、初演、再演でマダム・ジリーを圧巻の演技で魅せた鳳蘭、今回も出演する初演からマダム・ジリーを演じている香寿たつきら、歴代マダム・ジリーがいずれも宝塚歌劇団の先輩に当たる春野寿美礼は「先輩方の背中を追いかけつつ、作品を愛する皆様との時間を大切に、素晴らしい作品になることを目指して頑張りたいと思います」と、抜群の歌唱力で宝塚時代、そしてミュージカル俳優としての現在も活躍を続ける春野マダム・ジリー誕生への期待を高めた。

そんな和気藹々とした会話が続いたあと「十年ぶりにクリスティーヌに再会したファントムに恋のアドバイスをするとしたら?」という問いかけに対して市村が「私そのものがファントムなので、わざわざアドバイスすることはありません」とキッパリ言い切ると、石丸が「隠れていなければならなかった理由があるとはいえ、十年思い続けているって大変。それが色々な形で実りますから『思いは大事だぞ』」。橋本が「『ここまで来たら貫け』この一言です」と、それぞれの言葉で語り、早くも三者三様のファントム像を感じさせた。

奥)マダム・ジリー役:春野寿美礼

最後に市村から「初演、再演がソールドアウトしたほど素晴らしい作品です。このミュージカルには全編ファントムの思いがみなぎっているんだなと改めて感じて身が引き締まりました。残念ながら東京でしかできないので、全国から来ていただきたい」との力強いメッセージがあり、市村の「ミュージカル」を合図に全員で「『ラブ・ネバー・ダイ』お待ちしていま~す!」とのタイトルコールで豪華な製作発表は締めくくられた。新キャストを迎え、ますますパワーアップした作品の初日が待たれる、期待の膨らむ時間だった。