岡幸二郎 インタビュー|「Living Room Concert 1st Anniversary 岡幸二郎 ミュージカル スペシャルコンサート in サントリーホール」

ハイクオリティな演奏を、配信でお届けしてきたリビングルーム・コンサート。その1周年を飾るスペシャルコンサートの開催が決定した。「Living Room Concert 1st Anniversary 岡幸二郎 ミュージカル スペシャルコンサート in サントリーホール」と題し、出演の際には毎回好評を博している岡幸二郎が、会場に観客を招いての生ライブやトークをお届けしていく。果たしてどのようなステージになるのだろうか、話を聞いた。

 

――リビングルーム・コンサートがスタートしてから1周年とのことですが、どのような経緯で始まったものなんですか?

もともと、リビングルーム・カフェという企画をされていたんですけど、コロナ禍であっても何かできないかという想いがある中で、そこでコンサートをやろうという企画が立ち上がったものなんです。最初は、何回かやるうちのミュージカルの回にゲストとしてお話をいただいていたんですが、特に司会がいらっしゃらないということなので、司会も引き受けまして。それで、ほかのクラシックの回の司会も引き受けさせていただいていました。それが始まりですね。

 

――リビングルーム・コンサートは、普段ではあまり顔を合わせないような方が揃うことも多い印象でした。

そうなんです! 舞台とかでは見れない組み合わせで、それでいて音や演奏のクオリティをより高くお届けする。そういう部分で、普通の配信とはちょっと違う、クオリティの高いものになっていると思います。ミュージカルの回では、構成などもさせていただいていて、舞台では観れないものをやろうと、色々とチャレンジをしていました。そういう部分も観ている方から好評の声をいただけました。

 

――リビングルーム・コンサートの司会をされて、たくさんの方にお会いされたと思いますが、印象に残っていることはありますか?

ミュージカル業界の人間も非常に変わった人は多いんですが(笑)、クラシックの方もとても個性的な方が多かったですね。とても新鮮でしたし、すごく刺激を受けました。個性的ではあるんだけど、やっていることは超一流ですから。こういう機会でなければ聴くことのできないものだな、と思いながら袖で聴いていました。普段はあんまりおしゃべりしない方だろうな、と思った方には、あえてインタビューしたりして(笑)。すると、お相手もしゃべらないわけにはいかないからお話してくださるんですけど、そしたらコメントで「こんな話をするなんて」と反応があったりしました。きっと、クラシックを熟知している方だと聞かないことだったり、やらないことがあったと思うんです。そこは、僕がキャスティングされた特権として、突っ込んでいっていいんだろうな、と思って、お聞きしました(笑)

 

――今回の1周年スペシャルコンサートはどのようなステージになりますか

以前に、コーラスに焦点をあてた回をやりまして、ソロ曲ではなくコーラスにもいかに素晴らしい曲があるかということをやったんですね。それが思いのほか評判をいただいたんです。やはり、多くのものはソロがメインになりますから、コーラスというのは本来あまり目立ちにくいところがあるんですけど、本当に力のある方たちを集めてお届けしたので、聴いている人に響いたんだと思うんですね。そういう方から「これはホールで聴きたいよね」というお声も結構あって、今回はそれをサントリーホールで響かせたいな、と思っています。

 

――ミュージカルの中では、どうしても動きのある主人公やヒロインのソロに目が行ってしまいますから、普段と違う視点で鑑賞できたのかもしれないですね。

そうなんですよね。でも、ミュージカルの感想なんかをうかがっていると、楽しかったな、と感じてくださるところは大勢のキャストが出ているところだったりもするんですよね。ソロも素晴らしいんだけど、大勢が出てきて動きのあるシーンもとっても面白い。でも、そこに焦点をあてたコンサートというのは、今までなかったように思いますね。

 

――今回は岡さんのほか、コーラスに6人の方が出演されますね。

もう、本当に歌えるメンバーがそろっていますよ。自分の頭の中で、この曲をやろうか、そしたらこの人をリードボーカルにしたいな…とか、この人とこの人を組み合わせてみたい、自分とこの人を組み合わせたらどうだろう、と、本当にいろいろ考えた上でのキャスティングになりました。基本的に私のコンサートでは、もちろん私がメインとして私のコンサートになってはいるんですけれども、コーラスのメンバーも私と同じラインに並べるんです。後ろに並べたりは絶対にしない。そういう意味で、誰が主役で、ほかはその他にならないようにしています。やっぱり、聴き終わったお客様には「あの人のあの曲がかっこよかった」みたいに、コーラスの方にも注目していただけるように作っていこうかなと思っています。

 

――そこに優劣をつけることなく、実力のある人の本領を存分に発揮してもらおう、ということですね。

私はあまり使いたくない言葉なんですが……アンサンブルの方たちって、(ミュージカル作品の中では)どうしても当たらなくて、メインばっかりになっちゃう。こんなに上手いのに、これだけしか歌わないのか、と。そういう想いがこれまでいっぱいあったので、ちゃんと歌える場を、という気持ちもありましたね。今後、チラシを見たりしたときにこのコーラスの方が出ているから観てみよう、とかそういう楽しみ方も見つけてくださると嬉しいですね。とは言っても、今回のメンバーだと上野哲也は「ミス・サイゴン」にクリス役などで出ていますし、尾川詩帆は劇団四季の「ウエスト・サイド物語」でマリア役をやっていました。間聖次朗は「ライオン・キング」でヤング・シンバ役をやっていて、今は芸大を出て自分で演出をしたりもしています。みんな本当に、それぞれに力のある子たちばかりです。舞台上もすごくシンプルなので、本当にただただ楽しんでいただくことに特化するしかない。ということは、ごまかせないんです。大掛かりな舞台装置があったりはしないので、声だけの勝負。それに対応できるメンバーを集めて、それに対応できるピアニストに来ていただいています。

 

――どんな曲を考えていらっしゃいますか?

コーラスがいっぱい入っている中で、いろいろな辛みがある曲をやっていきたいですね。前回、コーラスの回で「ライオン・キング」の「サークル・オブ・ライフ」とかを歌ったんですが、いい評判をいただいたので、それはやりたいなと思っています。サントリーホールという場所で、オープニングの声だけの響きというのは、多分いいんじゃないかな。コーラス6人と私の7人しかいないのに、20人くらい居そうな感じのする華やかなコーラスを全面に押し出していきたい。それに加えて、それぞれの緩急もつけながらお届けできれば楽しいかな、と思います。ミュージカルって、どうしても作品の中にあっての1曲じゃないですか。だから、1曲だけを引っ張ってくるのって、結構難しい。前後の流れがあってのモノなので、その曲の背景や場面場面をお客様と共有できるかが、大事なんです。おそらく、ミュージカルがお好きな方がたくさんご覧になると思うんです。ステージをみることで、お客様が観たミュージカルの映像がまた頭の中に浮かんだり、思い出の映像とともに生の声が聞こえてくる。そういう感じになるんじゃないかな。

 

――岡さんのステージはトークの部分もすごく魅力的ですよね。

しゃべるんでね(笑)。小洒落たトークは絶対にしないので……お客さんが緊張しちゃうじゃないですか。トークでリラックスしていただいて、歌で感動させて、というのをずっとやってきています。今回は、ピアニストの山中(惇史)くんもすごく面白い方。ミュージカルをぜんぜん観たことないんですよ。1年くらい前から観た方がいいよ、って言ってるんだけどね。それなのに、ミュージカルの曲を渡すと、もう100年はピアノを弾いているかのうように美しく演奏するんです。あとのメンバーは、普段も共演している子たちばっかりなので、楽しくなると思いますよ。……多分、私を怖がっている子たちばかりですけどね(笑)

 

――サントリーホールという大きなステージで、岡さんと並んで立つわけですから、背筋が伸びるような気持ちかも知れませんね。

僕もサントリーホールは多分2回目。東日本大震災のチャリティ・コンサートで以前に立たせていただきました。その時は、みなさんクラシックの方ばかりで、ミュージカルからは僕だけだったんです。リハの時に、あれマイクは?と思ったら「マイクなんてないですよ」って言われて、本当にビビりました。「サントリーホールは響きますから」って言われても、それは分かるんだけど、って(笑)。それでも何とか、マイクなしで歌わせていただきました。やっぱり経験っていうのは大きいですから。サントリーホールで歌ったという経験が、彼ら6人の次のキャリアに影響するだろうし、影響してほしい人を選んでいますからね。

 

――この1年はコロナ禍で大変な状況が続きました。その中で感じたことや見つけたことはありますか?

コロナ禍になってすぐの頃は、毎日、ベランダでぼーっとしていました(笑)。もともとはいつもどこかに出かけていたタイプの人間なので、ずっと家に居るということがなくて。無理矢理に昼寝してみたりしてね。変にストレスも溜まっちゃいました。そこから、少しずつ自分の時間を生み出せるようになって、ストレスが落ち着いてきたように思います。すごく広い意味で、何が本当に大切なもので、何がいらないものだったのかが明確になった1年でした。そういう中で、何をすればいいのかも明確になってきた。本当はやりたかったこと、本当はやらないといけなかったこと。そういうものが見えてきましたね。コンサートやライブも、もっとやっていきたいですね。リビング・コンサートは基本配信ではありますが、ただ配信で流していくという時代はもう終わったというか、つまらない。これじゃないとできない、という内容は何なのかな、というのを模索し始めています。普段は見れない演奏者の手元のアップとか、役者の表情とか。画面の切り替えもやっぱり普通の固定カメラで撮るのではない部分をこれまではやってきたので、その先はなんだろう、と考えていますね。あとはもう、音楽って最高だな、と。

 

――音楽の素晴らしさに改めて気付かれたんですね

もちろん演劇だって素晴らしいんですけど、いろいろなことがあって、緊張していた体や精神が、音楽を聴くとほぐされていくというか。そういう、人が気持ちよくなっていくような音楽をこれからも届けていきたいですね。音楽って、知らず知らずのうちに頭に入っているようなところもあると思うんですよ。例えば、12月なのにあんまりクリスマスっぽくないな、と思っていたら、街にクリスマスソングがあまり流れていなかったんですよね。そういう勝手に体に染みついていた音楽もたくさんある。音楽が無いだけで、そういう違和感が出るくらいにね。

 

――音楽はもう、人のくらしに自然に溶け込んでいる欠かせないものですよね。最後に、今回のステージを楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

とにかく、ミュージカルの曲を楽しんでいただきたい。そこに尽きますね。生の音楽ってこんなに素晴らしい、ピアノ1台と歌声だけでこれだけのものが作れるんだよ、というものをお届けしたいですね。……と、自分でハードルを上げてしまっていますが(笑)、本当にそう思っています。人の声のパワーってこんなにすごいんだ、というのを今回は楽しんでいただければと思います。

 

ライター:宮崎新之