【連載】ローチケアングラ宣言!≪第一回≫ 寺山修司

2018.10.12

1960年代中期~70年代にかけて起こったアングラ演劇。
今もなお当時の作品を様々な形で目にすることができます。
そこで、ローチケ演劇宣言!では、ローチケアングラ宣言!と題して、当時のムーブメントと現在を紡ぐ連載を行います。

1回目は、歌集「空には本」、評論集・舞台・映画「書を捨てよ町へ出よう」、戯曲「毛皮のマリー」「レミング」など、1983年に急逝するまで数々の傑作を世に送りだしてきた寺山修司を取り上げます。
18歳で短歌新人賞を受賞し、31歳の時には横尾忠則、東 由多加、九条映子らと演劇実験室「天井棧敷」を設立。自ら「職業、寺山修司」と称し、詩人、エッセイスト、劇作家、映画監督、作詞家など様々なジャンルで才能を発揮しました。
その彼が1983年に急逝してから35年にあたる今年、没後35年を記念した『書を捨てよ町へ出よう』(上演台本・演出=藤田貴大)がただいま上演中。今も多くの人々に影響を与え続ける魅力に迫ります。

 

ローチケアングラ宣言!≪第一回≫ 寺山修司

撮影:有田泰而

寺山修司没後35年記念の一環で上演される、寺山の初期作品『書を捨てよ町へ出よう』(上演台本・演出=藤田貴大)。今もなお、多くの人々に支持される寺山修司の魅力とは? 長きにわたり幅広い世代に愛される理由とは? 今の若者たちが寺山作品から感じられるものとは? 寺山作品の著作権管理を担うテラヤマ・ワールドの代表で、三沢市寺山修司記念館の副館長も務めるポスターハリス・カンパニー代表の笹目浩之さんに、話を訊いた。

 

■若者に息吹を与えるカリスマ

撮影:菅野善勝
 

寺山修司が「演劇実験室 天井棧敷」(1967-1983)で行っていたことは常に最先端で、いつも世間から注目を浴びていました。劇団というよりも、その存在自体が《事件》だったと言えると思います。
そしてスキャンダル性を持ちながら、斬新な作品を次々と発表していた寺山に、当時の若者たちは憧れます。親離れを説いた青春論『家出のすすめ』なども読み、皆、「寺山修司のようになりたい」と思うわけです。
また、寺山修司に関わった多くの人々が、彼について語り、彼についての本を出版しています。一人の作家についての本が、これほど出版されているのは珍しいこと。付き合いがわずかだった人ですら一冊書けるほど、寺山修司から鮮烈な言葉を受け取っている証です。今もなお、その言葉を糧にして芸術活動を行っているアーティストはたくさんいます。それほど、寺山修司という人は多くの人々に大きな影響を与えているのです。
寺山の言葉は今も色あせることがないばかりか、今の時代だからこそ通じるものもたくさんあります。ですから、寺山に触れたことのない現在の若い人たちにも、この舞台『書を捨てよ町へ出よう』をはじめ、様々な作品を通じて、寺山修司の言葉の断片をつかんでもらい、そこから何かを感じて欲しいな、と思います。

 

■サブカルチャーのはしり

撮影:鋤田正義
 

あらゆる分野で縦横無尽に活躍していた寺山修司は、常に新しいことを仕掛けていました。面白いと思った新しいものをいち早く取り入れ、世間に知らしめる。今でいうサブカルチャーをけん引していた作家だったんです。
特に演劇の世界では明確で、天井棧敷結成当初は、美輪明宏さん主演『毛皮のマリー』など一幕ものの芝居が中心だったのですが、そのうち起承転結な物語を壊し始め、ドキュメンタリー的な作品や、世間を騒がせた市街劇、密室劇、見本市会場を使った壮大な作品など、どんどん実験的になっていきます。そして、最後の最後まで前衛であり続けました。
また、新しいジャンル、あまり日の当たらないような題材を取り入れることにも積極的でした。松本潤主演で舞台化、また菅田将暉&ヤン・イクチュン主演で映画化されたことをきっかけに、あらためて絶賛された小説『あゝ、荒野』は、当時、まだ、マイナー文化だった、ボクシングを取り上げています。そして競馬。寺山修司は言葉によって、競馬のイメージを大きく変えました。今では若い女性も競馬場に足を運ぶようになりましたが、当時はそうではありませんでしたからね。今でも競馬エッセイで寺山修司に敵う人はいないんじゃないでしょうか。何かあれば、いまだに寺山が出演しているJRAのコマーシャルが使われていますから、その影響力の大きさは分かりますよね。

 

■SNS時代に合う寺山の言葉

寺山修司はまず、歌人として注目されました。現在の高校の教科書には、寺山修司の俳句や短歌が掲載されているので、若い人たちも文学者としては皆さんご存知ですよね。寺山の言葉は、とにかくキレる。いかに短い言葉で、自分の想いを表現するかに長けていました。それは中学生の頃から、俳句や短歌に親しみ、言葉を削ぎ落していく訓練をしていたからだと思います。現代に生きていれば、SNS時代の申し子的存在になっていたんじゃないでしょうか。
寺山の演劇・映画は、コラージュ的作品が多い。『書を捨てよ町へ出よう』(71年)は寺山が最初に撮った青春映画ですが、天井棧敷のお芝居をすべてコラージュしているような構成になっています。また、当時の若者の叫びや怒り、風俗や社会風刺などの様々な要素もコラージュされています。
今回演出を務める藤田貴大さんも、コラージュで表現されている作品が多いですよね。藤田さんが持つまろやかさの中に見える狂気や残酷さと、寺山修司の言葉とが化学反応を起こすことを期待しています。
そして、この舞台を観た若い人たちに、寺山修司の若い頃の叫びや想いを受け取っていただけたらうれしいですね。

 

 

『書を捨てよ町へ出よう』
原作/寺山修司 脚本/寺山修司 監督/寺山修司
©1971 テラヤマ・ワールド/ATG

 

 

インタビュー・文/金田明子
素材提供/テラヤマ・ワールド

 

≪寺山修司関連公演≫

[演劇]
RooTSシリーズ『書を捨てよ町へ出よう』

日程・会場:
10/7(日)~10/21(日) 東京・東京芸術劇場 シアターイースト
10/27(土)・10/28(日) 長野・サントミューゼ 上田市交流文化芸術センター 小ホール
11/3(土)・11/4(日) 青森・三沢市国際交流教育センター
11/7(水)・11/8(木) 北海道・札幌市教育文化会館小ホール

作:寺山修司
上演台本・演出:藤田貴大(マームとジプシー)

出演:
佐藤緋美 青柳いづみ
川崎ゆり子 佐々木美奈 召田実子
石井亮介 尾野島慎太朗 辻本達也 中島広隆
波佐谷聡 船津健太・山本達久

映像出演:
穂村弘(歌人)
又吉直樹(芸人)
佐々木英明(詩人)

 

[イベント]

寺山修司展記念講演会「ベジャール/テラヤマ/ピナ・バウシュ」

日程・会場:
11/17(土) 神奈川近代文学館ホール