舞台『ヴェニスの商人』野村周平インタビュー

初のシェイクスピアで「深く楽しめる」カッコいい舞台を

舞台『ヴェニスの商人』が12月6日、日本青年館ホールにて開幕する。草なぎ剛が初めてシェイクスピアに挑戦すること、稀代の悪役・シャイロックを演じることでも注目を集める今作。アントーニオ(忍成修吾)がシャイロックから金を借りることとなった原因である、アントーニオの親友・バサーニオを演じる野村周平に話を聞いた。

──今回、初めてシェイクスピアに挑戦されるとのことですが、シェイクスピア作品に対してどんな印象を持っていますか?

これまでは「難しい作品」という印象が強くて、僕には理解できないかもしれないと避けていた部分もあったんです。でも、年齢を重ねていろんな価値観が変わってきた。「シェイクスピア知ってたほうがカッコいいよな」と思えるようになってきたタイミングでお話をいただいて、うれしかったですね。

──『ヴェニスの商人』の戯曲を読んでみての感想は?

相当難しいものだと思って構えていたんですが、読んでみたらかなりわかりやすくて。シェイクスピアの魅力もすごく伝わりやすい物語なんじゃないかと思いますし、やり方次第で悲劇にも喜劇にもなり得る作品だなとも思います。

──ご自身が演じるバサーニオという役をどんなふうに捉えていますか?

まだ試行錯誤している部分はありますけど……。一見、金持ちのどうしようもないヤツに思えるんですよ。アントーニオに対して甘え上手だったり、頭が良くてクールに振る舞っているけど、やってることはダサかったり。で、アントーニオを裏切るのかなと思いきや、ちゃんと彼のためにシャイロックにお金を返そうとするじゃないですか。友達想いなんですよね。そこが、ちょっと『走れメロス』みたいだなと思ったりします。

──今回、主人公のシャイロックを演じられる草なぎ剛さんの印象は?

本当に天真爛漫な方です。だって草なぎさんって、とんでもないスーパー芸能人じゃないですか。なのに、いい意味で芸能人らしくない、とてもフランクな方なんですよ。

──稽古はもう始まっていると思いますが、どんな稽古場ですか?

今は本読みが終わって立ち稽古に入ったタイミングですが、けっこうみんな台本を持たずにやってるんですよ! 何より、草なぎさんがもう全然台本持ってないから、持つわけにいかなくて(笑)。今日、ちょうどポーシャ(佐久間由衣)と一緒にバラエティ番組に出演してきたんですよ。で、合間に「もう9割くらい覚えました」と言っていたので「あー、だよね!」と返事はしたんですけど(笑)。

──森新太郎さんの演出はいかがでしょう?

すごく寄り添ってくれますね。たとえばセリフが出ないとき、ただ注意するんじゃなくて、「なぜ出ないか」を一緒に考えてくれるんです。「こういう動きにしたらセリフが出やすいかな」とか。よりよくなるためのプロセスを教えてくれて、ゴールまでたどり着けるように補助してくれる。同じシーンをものすごい回数繰り返しますけど、毎回繰り返す理由を伝えてくれるので。いろんな言い方を試したうえで、最適なものを選びたいということなんですよね。この作品に対する愛が伝わってくる繰り返しなんです。ただ、ひとつだけ、長い時間をかけてやりとりを繰り返す稽古をして、「じゃあ一回通しでやりましょう」となったタイミングで、これまでと全部が違うんですよ。

──違う、とは?

さっきまであったはずの椅子がなかったり、立ち位置が違ったり。僕はけっこうそういうのが新鮮で楽しいと思うんですけど、たださっき椅子ありきの芝居してたのにどうしよう、とはなりますよね(笑)。それも、面白いことを引き出せるんじゃないかという森さんの考えだと思いますけど。

──稽古中、共演者の方と話し合いをすることも?

稽古しながら「僕はこう思ってます」というような意見のやりとりはずっとやっていますね。みなさん、こちらの意見を尊重してくださるし、とにかく草なぎさんをはじめ、みなさんの演技が面白いですよ。

──稽古を重ねている今の感触として、今回の『ヴェニスの商人』はどんな作品になりそうですか?

戯曲を読んでいる段階では、ともすれば単調になってしまう面もあるかなと思っていたんです。でも、実際に演じていくにつれて、言葉にはできない面白さが出てきているなと感じていますね。役者の力もすごいなと思うし、それを引き出す演出家の力もすごいなと思うんですが。ただ、それを過信せずにもっと面白くなると思って日々取り組んでいるので、深く楽しめる舞台になるんじゃないかなと思っています。詳しくは言えないですけど、斬新な演出があるんです。僕ら演者はしんどいけど、観る方は面白いだろうなと思うようなこと。だからそこも楽しんでいただきたいですね。カッコいいですよ、舞台上が。

──野村さんは映像のお仕事もたくさんされていますが、演劇のよさはどこにあると思いますか?

それはやっぱり生で、その物語の時代を生きた人たちの姿を観られるというところじゃないですか。それと感情とか熱量がダイレクトに伝わるところ。僕自身、今回の作品でちゃんと伝わったという手応えがあったり「いいね」と評価されたらまた舞台をやろうと思うだろうし、「面白くない」と言われたらやりたくなくなると思うんです(笑)。「また舞台をやりたい」と思えるような作品にしたいですね。僕自身の役についても、ちゃんと世に出て恥じないものを出せた、という達成感を感じられる結果になるといいなと思っています。

取材・文/釣木文恵
ヘアメイク/須賀瞳
スタイリスト/清水奈緒美