【ローチケ大衆演劇宣言!】舞踊絵巻Oshale Japan『The New Japanese Culture Show~桜の森の満開の下~』│龍美麗×三咲春樹×澤村蓮×SADAインタビュー

写真左より 龍美麗・三咲春樹・澤村蓮・SADA

大衆演劇はお芝居と舞踊ショーの二本立て。きらびやかなショーは海外でも注目されている。そんな大衆演劇がこの年末、芝居小屋を飛び出して北とぴあで特別公演をすることに。第1部 のお芝居『春ノ咲ク花』に続く第2部、舞踊絵巻Oshale Japanと銘打った『The New Japanese Culture Show〜桜の森の満開の下〜』は、坂口安吾の小説をもとにした舞踊ショー。ダブル主演をつとめるのは龍美麗(劇龍座長)と三咲春樹(劇団暁座長)。今回はさらに共演の澤村蓮(章劇座長)、音楽担当のSADAを交えた豪華対談が実現。「大衆演劇と音楽」をテーマに縦横無尽に語ってもらった。大衆演劇舞踊あるあるから話題の端唄×現代音楽の試みまで。楽しさ溢れる大衆演劇の世界を覗いてみてください。


――大衆演劇と音楽は切っても切れない関係ですが、今日はいろんなお話をおきかせください。まずは自己紹介がてら、ご自身の十八番の舞踊ショー曲を。

龍美麗(以下美麗) 劇龍の座長、龍美麗です。僕の十八番は森山直太朗さんの「生きとし生けるもの」です。曲がリリースされた10代の頃から踊り始めて、当時のお客様からいただいた着物を今も着ています。踊るというよりはもはや表現。あの壮大な世界観と向きあうためには精神的なパワーが必要、寿命が縮むので最近は年に3、4回しか踊りません(笑)。それくらい大事にしています。

――美麗座長はイケイケな曲を踊っているイメージでしたのでこれは意外でした。

美麗 大好きなんですよ。あとあまり人がやらないというところでは舞踊ショーでHIPHOPを最初に踊ったのは僕じゃないかな。普段は8割がたHIPHOPを聞いています。

――美麗座長には以前、大衆演劇とHIPHOPが初コラボした「ピカレスク浪漫」シリーズ第一弾「大江戸悪漢衆~序の譚~」上演の際に「ローチケ大衆演劇宣言!」でインタビューさせていただきました。蓮座長はいかがですか?

澤村蓮(以下蓮) 章劇座長の澤村蓮です。僕はこの曲っていうのは特にないけれど回りやすい曲ですね。ぐるぐる回れるような曲をチョイスします。

一同 え、そこ?(爆笑)。

 僕はフィギュアスケートが好きなんですが、この前試合のニュースを見ていて「Madokara Mieru(窓から見える)」という曲を見つけたので、今日初めて踊ってみました。俳句や日本の四季を盛り込んだ壮大な曲なんですが、めちゃくちゃ回れましたね(笑)。あと僕は松山出身なので地元の曲の「夜明けのブルース」も好きです、これも結構回れます。お客さんもわかってて、送り出しで「今日は蓮ちゃんノッてたね」と言われます。


――どれだけ回るのかが調子のバロメーターなんですね。蓮座長の衣装は名前と同じ蓮の花のデザインが多いですね。

 はい、僕は一般家庭からこの道に入って座長になった。大衆演劇では珍しいことなので「どこにいたって綺麗な花は咲かせられるじゃないか」という意味を込めて蓮の着物は良く着ています。


――春樹座長にとって、ここ一番の入魂の一曲といえば?

三咲春樹(以下春樹) 劇団暁の座長、三咲春樹です。僕はやっぱり「山河」ですね。何かあったときに踊るのはこの曲です。最近は黒髪とシンプルな衣装で踊ってます。40歳過ぎても思いっきり反りますし、踊ると気持ちが入りますね。


――春樹座長の踊りは綺麗でソフト。ブルーのロン毛をなびかせた貴公子みたいなイメージがあります。

春樹 自分ではそんなつもりないですけど、なんかお客さんにはそんなイメージみたいです。狩衣(*平安時代の貴族が着ていた雅な着物)を着て、綺麗で幻想的な感じの曲も踊ります。玉置浩二さんの「あの頃へ」とか。普段は湘南乃風とかノリノリ系の曲が好きなんですが、踊るのには向かないかな。僕だけでなく、自分が好きでよく聞く曲と舞踊で踊る曲、踊りやすい曲は違うような気がします。

SADA 今回、音楽を担当したSADAです。僕はありがたいことに最近、役者さんから曲づくりを頼まれることが多いんですが、今日は有力なお話が聞けてとても嬉しいです。回るってのはこれから重視していかないと(笑)。

美麗 いや、回ることに命懸けてる役者は他にいないので、そこはあまり理解しようとしなくていいです。

SADA わかりました。一旦置きます(笑)。

一同 笑


――「山河」は大衆演劇の袴踊りの定番の名曲ですが、他に「大衆演劇でしか聞けない曲」といえば?

美麗 「ブラジル音頭」。マジで大衆演劇以外で聞いたことがない。


――たしかに!あの独特なナンセンスなノリは大衆演劇ならではですね。客席参加型の「一本釣り」やお客さんも踊る韓国トロットの「ムジョコン」も、ほかではまず聞かないです。

 そもそも街中で演歌が流れてない。演歌を聞く機会自体が減ってますからね。


――「夢芝居」も本家以外にダイアモンド☆ユカイさんはじめいろんな方のカバー曲が踊られています。皆さんつねにバージョン違いを探してるんでしょうか?

美麗 僕は週に1回はiTunesのストアをチェックしてますが、最近知らない人の知らない歌しかなくて、子供に聞いてます(笑)。演歌の文化を守ってるという意味では、大衆演劇は相当尽力してますよね。

春樹 僕は買い物中や飲んでるときにかかってる曲が気になったらメモする程度で、曲の探し方も知らないですが、逆に今の若い子たちはすごいですよ。今どきの曲から古い曲までよく知ってる。特にJ-POPの幅広さにびっくりします。なんでその曲知ってるの?って曲を口ずさんでる。

美麗 TikTokで昔のJ-POPを使うのが流行ってるからなんです。うちの小学生の子どもたちも平成初期の曲をめっちゃ知ってますよ。その流れで一般の若い子たちの耳が慣れてくれれば、大衆演劇にもいい作用がありそうですよね。

SADA 僕は見る側として、大衆演劇に行くとめちゃめちゃ勉強になる。こんな曲があるんや!という発見ばかりなんです。日本のいろんな曲を一度に聞ける一番のステージが大衆演劇じゃないですかね。懐が深いというか、器が広いというか、何でもウェルカム感が素晴らしい。

龍美麗 BTSの後に三波春夫が流れるのは大衆演劇だけ。

一同 爆笑


――次はなんの曲が出てくるだろうというワクワク感も楽しみのひとつですね。

春樹 構成のバランスは考えますね。和物、洋物、わちゃわちゃと盛り上がる系を1本入れたらあとは抑えて、ピシッとしたものを入れていくとか、気をつかいまくります。

 僕は持ち物、扇子が続かないようにするとか。あとは歌手のかぶりも気にします。最近は気をつけないと小田純平ばっかり流れる(笑)。たしかにいい曲歌われますが。

美麗 僕、1週間連続で毎日「酒の川」聞いたことある(笑)。「酒の川」「男酔い」「あぐら酒」「転がる石」。この辺は大衆演劇では継続大ヒット中ですね。僕は最近、ある方に「最近の大衆演劇は古すぎてわからんか、新しすぎてわからんかの両極端になってるから、間取る人間がおった方がええよな」と言われたんです。みんなが名曲を踊り倒したあとで、あえて昔と今に振り切りすぎた結果、聞き馴染みのない曲が多くなっている。だから僕は最近バランスを意識してますね。たとえばT-BOLANとか、40~50代ぐらいの人たちが懐かしむ曲には名曲や踊りやすい曲が多いので、 そういうところを攻めていきたいです。


――ここからは「The New Japanese Culture Show〜桜の森の満開の下〜」のお話を聞かせてください。美麗座長と春樹座長はダブルキャストで山賊役をされますが、春樹座長は10月の新潟で行われた「クールジャパンEXPO㏌NIIGATA」の舞台で、作品そのものは体験済みですね。

美麗 ずるいですよね(笑)。

春樹 いや美麗座長、今回は僕らもう本当に死ぬと思います(笑)。キャストが変わるので演出も変わるはずですが。前回はうちの副座長の三咲大樹が山賊をやったんですが開始15分で息が完全に上がっちゃって、動きもついていけなくなって、終わった瞬間ぶっ倒れてました。とにかく立ち回りが多いんですよ。

美麗 怖いですね。振り付けの先生に「僕、喘息あるんで」と言わないと。

SADA 山賊が女の人に出会う、坂口安吾の「桜の森の満開の下」を題材にしたノンバーバル(言葉を使わない)な舞踊ショーです。ベースやバイオリンの生演奏があって、曲がどんどん変わっていって、途中の宴会パートでは早稲田大学ハワイ民族舞踊研究会の皆さんのダンスがあったり、夢の中でいろんな文化が入り混じる。新潟の舞台は55分くらいあって大迫力で「人間ってこんなに動けるんだ!すごいな!」って心から尊敬いたしました。

美麗 不安でしかない。僕、セリフ覚えはいいんですが 踊りを覚えるのが超苦手で。セリフ100ページの方が全然いいです。しかもこの前、ダンスや殺陣に〇とか△が付いてる出演者の表を見たら、僕と妹の魔裟斗だけダンスがなぜか◎になっていて、そこは△にして欲しかった。独学で適当に踊ってるだけなんで。


――また意外です。つねにドヤ顔で自信満々だからダンスも得意なんだと思ってました。

美麗 ドヤ顔でごまかしてるんです(笑)


――冠についているOshale Japanは、日本の伝統文化を革新的にアレンジして、ノンバーバルな方向で海外にアピールしていく、という趣旨ですよね。

SADA そうですね。今年僕は蓮座長もメンバーの「ちょんまげ笑事」の皆さんとニュージーランド公演に行ったんですが、海外のお客様の反応と、今の日本の若い世代の反応って似てるんじゃないかと思ったんです。それこそ日本に住んでても演歌を聞いたことなかったり、伝統文化に触れる機会がなかったら同じですよね。日本の若者たちが「日本おもろいやん!」って思うものって、多分世界にも持っていける。大衆演劇の皆さんの独特のホスピタリティ、お客様に対するおもてなし感というか、サービス精神的なものは世界中で受けるという自信にもなりました。


――SADAさんは端唄を”江戸時代のポップス“として現代に蘇らせる音楽活動もされていますね。

SADA 殺陣と日本舞踊とダンスとバイオリンの入ったロックバンド、破天航路をやっている過程で端唄に出会いました。35年くらい生きてきて「端唄?それ何?聞いたことないわ」から始まって「端唄、めっちゃ面白いのいっぱいあるやん」となって。調べてみたら民謡とは違って最近やっている人少ないし、これから自分がトライしても3位ぐらいにはなれるんちゃう?っていう甘い考えで始めて今にいたります(笑)。海外公演で日本の端唄を現代ロックやメタル風にするとものすごく熱狂してくれるんですよ。


――芸者衆のお座敷でのさわぎがモチーフの「SAWAGI 2024」は今回の公演でも使用されますし、リリースもされて注目されています。

美麗 僕が最初に端唄を聞いたのは美空ひばりさんのカバーでした。こういうのがあるんだ、日本語の美しさや言葉遊びの面白さがいっぱい詰まってるんだな、という印象でした。

春樹 僕は劇団に古典が好きな三咲暁人とか若手たちがいるので、端唄方面はもっぱら彼らに任せていますね。

 僕はSADAさんと海外公演に行ったり、浅草で花魁道中を何度もやってるんで、端唄はそのテーマ曲としてもおなじみです。花魁道中って大変なんですよ。鬘や衣装が重くて。

SADA 端唄を深いところまで探っていくと面白いんですよ。海外に日本の伝統文化を提唱できるし、その国の人たちとコラボレーションするいいアイテムになる。この前は端唄をHIPHOPにアレンジしてみたんですが、これはものすごく難しかった。美麗座長にはわかってもらえると思いますが。これからも端唄でいろんなことにチャレンジしていきたいです。


――そして12月4日にはSADAさんが作曲して、章劇の後見である澤村章太郎さんが歌った「泥深に咲く蓮華」もリリースされました。

SADA これは1年前に同名のお芝居のテーマ曲として作ったものです。2年前に亡くなられた日本文化大衆演劇協会の篠原淑浩会長の生涯を描いたお芝居で、関わった人たちの思いがこもった作品でした。そのときはリリースの予定はなかったんですが、今回、篠原演芸場をリニューアル工事するというタイミングもあり、このお芝居を配信でより多くの人に見てもらおうという企画の中でリリースが決まりました。芝居のテーマ曲がCD化されるのは貴重なので作った側としてもとても嬉しいです。


――曲を聞いて舞台を思い出せるっていいですね。一回聞いただけで耳に残る、本当にいい曲です。

SADA 章太郎さんの声がまたよくて。あれ、ファーストテイクなんですよ。まったくの加工なし。


――それもまた大衆演劇らしいですね。章太郎後見の歌のうまさは折り紙付きです。

美麗 僕らの親の世代の座長は歌わないとダメっていう文化がありました。特に関西でそれが盛んだったので関西出身の座長さんたちは歌がうまいんです。その後見の血を、なぜ甥である僕が引き継げなかったのか。僕はCDデビューしたことあるんですが今では黒歴史です(笑)。

 僕は26年間も後見と一緒にいるのに全然うまくならない。

一同 一緒にいるだけじゃダメだろ(笑)


――では最後に、今回公演への意気込みをお願いします。

 回れるかどうかそれだけを心配してます(笑)。

美麗 新風プロジェクトの芝居は経験していますが、舞踊劇は初めて。先程春樹座長から話を聞いて、ちゃんと覚えられるのか、ただただ恐怖と不安です。でもとにかく見に来た方には楽しんでもらいたい。僕は1部の芝居でも主役をやらせていただきますが、新風プロジェクト「極」というくらいですから芝居も舞踊ショーも、その名に恥じないように頑張っていきたいです。

春樹 僕は一度新潟でやっていますが、とにかく感動しました。副座長がやった役を今度は自分がやるので負けていられません! あとは舞台の異種格闘技戦ではないですが、いろんなジャンルの人たちが大勢集まるので、楽しんでいただけるのは間違いないです。

SADA 大衆演劇のお客様もそうじゃないお客様も楽しめる、ありそうでなかったステージになると思います!皆様のお越しをお待ちしています。

 

インタビュー・文/望月美寿