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俳優・荒牧慶彦がプロデュースを手がける「演劇ドラフトグランプリ」。座長によるドラフトで結成された5つのチームがオリジナルの演劇を制作・観客の前で披露する1日限りの演劇バトルで、2022年、2023年と大きな盛り上がりを見せた。ファイナルを迎える2024年公演に向け、荒牧慶彦にインタビューを行った。
■企画の意義をしっかり示せたと思う
――まずは3回目にしてファイナルとなる今回への意気込みを教えてください
自分で決めたものの、「ファイナルか…」という思いがあります。初回が好評をいただき、去年、今年とできたのはすごく光栄なことです。演出家さんや俳優の皆さんからも「参加したい」と言う声をいただきましたし、残念ながらスケジュールの都合で出演が叶わなかった方も含めて多くの方に支えられてできたコンテンツです。最後にするのはもったいない気持ちもありつつ、プロデューサーとして、華々しい花火を打ち上げられるように頑張りたいと思っています。
――今回を最後と決めた理由は?
僕は物事を進める時に「3」という数字が好きなんです。ボケの天丼も3回目までだと思いますし。だから今回で一旦区切りをつけようと思っています。「もっとやってほしい」という声をいただいたらいつか復活するかもしれませんが、「演劇ドラフトグランプリ」で示したい意義も見せられたと思うので、一回閉じようと思っています。
――「演劇ドラフトグランプリ」を企画したきっかけをお聞きしたいです
コロナ禍にシアターコンプレックスさんで行った企画で、演劇プロデューサーの松田誠さんから演劇を広めていくためのアイデアを聞かれたんです。そこで、普段は選ばれる立場である俳優が選ぶ立場になって、普段と違う観点から作品を作ってみたら面白いんじゃないかと話したら、たくさんの方に賛同していただけました。この企画の意義として、演劇をもっと身近に感じてほしいということがあります。舞台は足を運ぶハードルもチケットの値段も高く、なかなか見る機会のない方が多いと思います。そんな中で『ACTORS☆LEAGUE』や「演劇ドラフトグランプリ」が演劇界に渦を巻き起こしていると感じます。
――続けてきてみてのこれまで続けてきた手応え、今年の目標はいかがでしょう?
1年目は僕にとっても関係者・出演俳優たちにとっても未知でしたが、僕らの予想を大きく超えた「面白い」という声をいただけたのが嬉しかったです。俳優として出演もするのですごく緊張しました(笑)。2年目は流れがわかっていたのもあって楽しめましたが、プロデューサーということもあり、勝ち負けよりも企画がうまくいってほしいという気持ちが大きかった。今年は座長として勝ちを取りに行きたいです。
◼︎チーム一丸となって勝ちに行きたい
――勝ちを狙いに行く上で、劇団『雪猿』の強みを教えてください
強みは若さですかね。(廣野)凌大も(持田)悠生も(松田)昇大も20代。(砂川)脩弥と僕が30代ですが、エネルギッシュだなと。共演経験があったり僕がプロデュースした作品に出演してくれたり、みんないろんなところに携わってくれていて、彼らのスキルや長所・短所を把握し切っているので、そこが強みだと思います。
――三浦 香さんの演出についてはいかがですか?
いろいろな俳優から「香さんは素晴らしい演出をしてくれる」と聞いているのですごく楽しみです。台本をいただいていますが、プロットの段階で大爆笑が起きて、みんな「いいじゃん、これで行こう」と即決しました。でも、いざ台本が上がってきたらある意味不安になっています(笑)。個人的には凌大と悠生がどんな衣裳になるかも楽しみ。演じるうえでの難しさはありますが、香さんも「これで勝ちに行く」と言っているので、しっかり見せていきたいです。
――俳優として感じる「演劇ドラフトグランプリ」の面白さや難しさはなんでしょう?
僕ら舞台俳優は基本的にひとつの役を何公演か生きることができますが、演劇ドラフトグランプリでは)本当に一度きり、一回きりの人生を歩ませていただくので、刹那的な美しさと面白さ、緊張感があります。度胸もつきました(笑)。1年目は緊張で震えましたから。そのぶん終わった時の開放感も大きいです。
――各チーム20分となると、ドラマ1話分より少ないですね
普段やっている芝居からすると短いので、その中で1つのテーマを完結させるのは脚本家泣かせだと思います。でも皆さん「だからこそ好き放題できる」という観点を持ってらっしゃって「なるほど」と思います。僕らとしても20分は一瞬ですね。武道館はすごく反響するので、聞き取りやすいように喋ること、伝えることは意識しています。
――オープニングアクトについてもお伺いしたいです
解散ライブをしましたが、一夜限りの奇跡の復活です(笑)。前回「アイドル」というテーマでできたグループが、また武道館に帰るのが美しいんじゃないかなと。オープニングアクトで会場を盛り上げられたらということで、劇団「一番星」のみんなに協力してもらうことになりました。ここから始まる演劇ガチバトルを楽しんでもらうための心の準備体操だと思っているので、しっかり皆さんの心をほぐしたいと思っています。
◼︎プロデュースを通して多角的な視点が身についた
――この企画を通して得たもの、ご自身の変化などはありますか?
皆さん賛同して参加してくれていますが、公演は1日限りでも、稼働は1日限りではないんですよね。忙しい中でスケジュールの合間を縫って参加してくださっている。いろいろ難しさがあるというのが学びでしたし、様々な立場の方や全体のことを考えられるようになったのが変化かなと。俳優として「板の上で何を見せられるか」というところにこだわっていたのが、プロデュースを経験して第三者視点で見られるようになったと思います。
――プロデューサーとしての視点が身についたことによって、俳優としてのあり方や心構えについても影響はあったんでしょうか?
すごくあります。物理的なことではなく抽象的な話になりますが、芝居としての行間もより深く読めるようになりましたし、ステージ上での立ち位置、ポジショニングも考えられるようになりました。他の方の芝居についても、バランスや間、姿勢なども俯瞰的に見られるようになりましたね。
――これまでの「演劇ドラフトグランプリ」で印象深い思い出があったらお伺いしたいです
みんなが楽屋でめちゃくちゃセリフと振り合わせをしているのが思い出というか、最初に思い出す光景です。プロデューサーとして各楽屋にご挨拶に行くんですが、絶対にドアが閉じていて。中からセリフが聞こえてくるので「邪魔したくないな」と葛藤しつつ挨拶していました。みんなが本当に必死で、1回限りの演劇に対して真摯に向き合ってくれているのが嬉しいという思い出があります。
――プロデューサーとして、俳優としての今後のビジョンはいかがでしょう?
「求められるならやる」というスタンスなので、僕に需要があるならそれにしっかり応えていきたいです。スケジュール的にお断りせざるを得ない場合もありますが、今までもこれからも一つひとつ真摯に向き合います。プロデューサーとしてはまだまだ赤ちゃんみたいなものなので、いろいろ挑戦していけたらいいなと思います。僕は「やってみたい仕事がないなら自分で作ろう」という考えでして、今年、やりたいものを形にしてできたのが剣劇「三國志演技〜孫呉」なんです。僕のやりたいことを出演してくれた役者や力を貸してくれたスタッフにも認めてもらえて、興行的にも成功し、何よりお手紙なんかでファンの方にも喜んでもらえたということがわかって、出だしとしてこんなに幸せでいいのか?という作品でした。これからもそんな幸せを目指してやっていくと思います。
――最後に、メッセージをお願いします
プロデューサーとしては、とにかく全員の無事を願っています。みんなファイナルで張り切ってくれると思いますが、忙しいなかでの稽古なので体調不良や怪我がないようにというのが一番です。俳優としては、自分が持てるスキルを全部活かしてお客様の心を掴みにいきたいです。演劇はお客様に観ていただくことで完成します。観に来てくださるお客様と共にファイナルを楽しみたいと思っています。
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取材・文/吉田 沙奈
Photo/篠塚ようこ
ヘアメイク/akenoko▲
スタイリング/ヨシダミホ