世界で語り継がれる名作映画を、朗読劇として上演する「Classic Movie Reading」シリーズ。これまでに『ローマの休日』と『自転車泥棒』、『風と共に去りぬ』、『若草物語』といった名作に新たな息吹を吹き込んできた。2025年2月に行う第四回目は、シリーズ初の邦画・小津安二郎監督の『東京物語』を上演する。
脚本・鈴木智晴、演出・野坂実がタッグを組み、愛月ひかる、中尾隆聖、白石珠江(劇団民藝)、斉藤レイ、平田裕香、広瀬登紀江、馬場良馬、内海光司といったキャスト陣が集結。ビジュアル撮影のタイミングで、主演を務める愛月ひかるにインタビューを行った。
――今回のお話をいただいた時の思いはいかがでしたか?
非常に有名な作品ですが、恥ずかしながら見たことがなく、お話をいただいてからいろいろ調べました。映画では原節子さんが演じられていたということもあってプレッシャーではありますが、過去に出演したリーディングが楽しかったので今回もワクワクしています。その時も女性の役を受けることについて悩みましたが楽しかった。今回もさらなる挑戦になりそうですが、やってみたいという思いが強く、お話をお受けしました。
――ラジオドラマなどにも出演されていますが、声のお芝居のどんな部分に魅力を感じていますか?
自分の中で、動きまでついた女性役をやりたいという願望があまりないんです。今のところ唯一女優として表現できる場が朗読劇なので、新たな役に出会えるのが楽しみです。
自分では癖がある声だと思っていますが、一度聞いたら耳に残るかなという気もしています。普通のお芝居は(台本を)覚えて読む・立って芝居する楽しさがありますが、朗読劇は読むたびに発見があるのが楽しい。伝えようとしながら読むことでより自分の心にも響く楽しさがあるのかなと感じます。ラジオドラマはマイクからの距離などの演出もあって。「抱き合っているシーンはマイクに寄って吐息交じりで」などの指示もあり、朗読とはまた違う楽しさがありました。
――台本を読んだ感想、役への共感はいかがでしょう。
いつの時代も、家族愛や兄弟愛は絶対にあるものだと思いますし、それが色濃く描かれている作品だと感じました。特に私が演じる紀子さんは、義理の両親への心からの優しさ、気遣いが素晴らしいと思います。今見ても素晴らしい作品なので、見た方の心に残るものになったらいいなと思います。
私も家族は大切にしたいと思っていますし、結婚はしていませんが、義理の父と母に対して自分の両親のように接することができるのは理想です。淡々としているようでとても引き込まれる作品ですよね。紀子さんは戦死した旦那さんを心のどこかに引きずっていて、自立しているけど寂しさをずっと抱えているんだろうなと思います。そこを大切に演じていきたいです。
――品のある役は愛月さんに重なる部分もあります。
私はあそこまで素晴らしい人間ではないと思っていますので、この役を演じたことでそういう人だと思われるといいなと思っています(笑)。戦後すぐの女性像ということで、台本を読んでも言葉遣いなどが奥ゆかしくて素敵だなと思います。未来的なものより時代感のあるものの方が好きなので、すんなり入れそうな気はしています。
――近代の日本を舞台にした作品への出演は珍しいと思います。役作りのためにしようと思っていることはあるでしょうか。
多分、宝塚時代から日本人を演じたことがないです。「外国の方だからこう演じる」というのはありませんが、国の文化などは絶対に違いますよね。今回は自分の国ですが、時代が全然違うのでそういう意味では新たな挑戦で楽しみに思っています。役作りについてはまだわからないです。とりあえずは髪型やメイクから入っていこうと(笑)。
――演出の野坂さん、共演者の皆さんについての印象や楽しみなことはありますか?
皆さん初めましてなので、まだわからないことだらけです。皆さんとのお芝居も、野坂さんの演出を受けるのもすごく楽しみです。
――取材前にビジュアル撮影をされたということですが、衣装やヘアメイクをしての撮影はいかがでしたか?
昔のポスターのリバイバルみたいなポーズでも撮影しました。自分ではちゃんと昭和感が出たかわかりませんが、多分大丈夫(笑)。正座しての撮影は初めてだったので新鮮でしたね。
――今回は三越劇場での公演です。
サイズ感が芝居をするのにちょうどいい劇場という印象を受けました。全席に伝わりやすいですし、内装もクラシカルで素敵。今回の作品にもあっていると思いますし、お客様にも非日常感を味わっていただける劇場。また立てることを嬉しく思います。
――家族の物語にちなんで、ご自身と家族のエピソードや旅行の思い出があれば教えてください。
私は一人っ子なんですが、宝塚を退団してから年に1回絶対に家族で旅行に行っています。今年はシンガポールに行きました。母の希望でマリーナベイサウンズに宿泊し、あいにくのお天気でしたが、ちょっとプールで泳げて記念になりました。プールにいるカメラさんが写真を撮ってくれて、お金を払うとアルバムにしてもらえる。せっかくなのでアルバムを作ってもらっていい思い出になりました。あとは、写真を撮りたくて、カラフルなお家が並ぶ地区に行った帰り、タクシーが捕まらなくて。家族3人ですごく迷っていたら、現地の大学生くらいの男の子がショッピングモールまで案内してくれたんです。旅先で人の優しさに触れました。
――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
また新たに朗読劇に挑戦させていただきます。私は恥ずかしながらお話をいただいてから『東京物語』に触れました。きっと初めて見る方もいるでしょうから、この作品の素晴らしさ、見た後に心に残る温かいものなどが皆さんに伝わるように演じられたらと思っています。
取材・文:吉田沙奈