爍綽と vol.2『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』│人間横丁(山田蒼士朗・内田紅多) インタビュー

写真左から)山田蒼士朗、内田紅多

ほんわかとした空気感、ファンタジックながらも切れ味のあるネタで注目を集める結成4年目のコンビ、人間横丁に2024年を振り返ってもらった。この独特の魅力を放つ二人を形作ったものとは?

それでも『M-1』で勝ちたい

──結成4年目にして、年々活躍の場を広げているお二人ですが、2024年を振り返ってみて、どんな年でしたか?

内田 毎年、去年より今年のほうが楽しかったと思ってるんですけど、今年もそうでした。

山田 濃密な1年でしたね。『深夜のハチミツ』(フジテレビ)に出ていたのも今年なんて、信じられない。

内田 『深夜のハチミツ』レギュラーから外れてしまったり、『M-1グランプリ』3回戦で敗退してしまったりもありましたけど、うまくいかないことも自分たちを強くしてくれると思うので、それも含めていい1年でした。

──お二人の漫才には独特のふんわりとした空気感があって、賞レースの熾烈な戦いからは遠い印象もあります。「『M-1グランプリ』で決勝に行かなくても評価されそう」と言われがちな芸風といいますか……。ご自身としては賞レースに対してどんな感覚で取り組んでいますか?

内田 そう、「『M-1』で勝たなくても大丈夫だよ」と言っていただくことは確かにあって、それはすごく嬉しいし、大事にしたい言葉なんですよ。でも、とはいえ、どうしても『M-1』で勝ち上がりたい、決勝に行きたいという気持ちは揺らがないです。

山田 内田さんには、ネタで評価されたいという強い気持ちがあるんですよ。そういう話はコンビ間でけっこうたくさんします。

内田 組んだ最初の頃、山のようにしゃべりました。私たちの年代でお笑いを始めた人たちってみんな賞レースを観てきたし、好きだし、目指すものという感覚が当たり前のようにある気がします。

“喧嘩師”人間横丁に訪れた変化

──7月には初めての単独ライブ『懐柔』もありましたね

内田 それこそ、あまり賞レースのことを意識しない自由なネタが作れたのも嬉しかったし、当日はお客さんも優しくて、「こんなに幸せな空間を自分たちで作れるんだ!」と思えて。他には置き換えられない経験になりました。

山田 フライヤーにしても、映像にしても、普段のライブではやらないことができて、「楽しませたい」と「楽しみたい」の感情で乗り越えられた感じがします。前年にやった新ネタライブがすごく大変だったので、今回本当に仲が悪くなったらどうしようと心配していたんですけど。

内田 新ネタライブの期間中にもネタ1つつくるたびにケンカしてたし、本番中にもたくさんケンカしたので「喧嘩師」という異名がついてしまって。でも今回の単独準備中のケンカはすごく減って……。

二人 (声を揃えて)2回!

──どうしてそんなにケンカを減らすことができたんですか? というかそもそも、なぜそんなにケンカを……?

内田 人間横丁は私がネタを書いて、山田くんに見せて、作っていくんです。でも、山田くんって、言葉を選べなくて。

山田 はい、配慮が、できなくて……。

内田 「これ面白くないよ」とか言ったりするんですよ。それって、コンビのネタを書かない側としてはかなり信じられない発言なんですけど。だから「言葉を選んで言うべき」というところでかなりケンカしてたんです。

山田 それをすごく反省して。ネタをもらったときの「これなんだろう」という気持ちの出し方が少しはうまくなった感じがします。おかげでちゃんと話し合いができるようになりました。

内田 山田くんがすごく変わってくれました。おかげで二人の関係性を整理できて、ケンカの回数がすごく減りました!

好きなものが似ている二人の「大事な時間」

──人間横丁のお二人は漫才のときも、それ以外のふだんの時間も、他にない空気感を漂わせていますが、お二人を作ったものはなんでしょう?

内田 そう言われて思いつくものは……、山田くんと出会って、ご飯とかお散歩、公園とかが、前よりも好きになりました。芝生の上でネタを書いたりして。一緒に過ごす時間によって、二人の雰囲気ができている気がします。YouTubeの自分たちのチャンネル(『人間横丁のにんげんよこちゅ〜る』)でも、二人で散歩している動画を載せているんですけど、山田くんは花が好きなので一つひとつ花の名前を確認したりするんです。ああいう時間が、すごく大事な気がしています。

山田 二人の好きなものが似ていて。内田さんは漫画家の山本ルンルンさん、僕は作家の万城目学さんが好きなんですよ。どちらも理論がしっかりしている、抜けがないSFという共通点がある。そういう好みから生まれたネタは、元々お互いが持ち合わせていたものがきれいにかけあわされているなと思っています。

内田 どんなネタをやっていても、地に足をつけていたいな、と思うんです。あまりにもウソなことだと、ちょっと冷めちゃう部分があるんじゃないかと思うんです。自分が観る側に立ったときでも、意味がわからないことが起きていたとしても、その理由がわかったらうれしい。実際に私たちのネタが、地に足ついているかはわからないけど(笑)。

──では、2025年の展望は?

山田 M-1グランプリ決勝?

内田 準決勝?

山田 決勝。

内田 決勝、行きたいです。

山田 あと、まだやったことないことをたくさんやってみたいですね。

演劇に初挑戦する内田、それを楽しみにする山田

──内田さんは1月に上演される爍綽とVol.2『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』で演劇に初挑戦されますね。これも「やったことないこと」だと思いますが、どういう経緯でお話がきたんですか?

内田 「爍綽と」の佐久間(麻由)さんがお笑いで私のことを観てくださったみたいで……、マネージャーさんから聞いたことをまとめると、かわいいから声をかけてもらったみたいです。

山田 (笑)。

マネージャーさん 「かわいいから」とは言ってない(笑)。

内田 実際に佐久間さんにお会いしたときに「ネタも好きで、雰囲気も好きで」といっぱい愛を伝えてくれたんですけど、キュッとすると「かわいいから」っていうことだと私は思ってたんだけど……。

山田 キュッとしないほうがいいと思う(笑)。

──なぜこのお仕事を受けてみようと?

内田 演技経験はなくて、別の人になって何かをするのは苦手意識があったんです。でも、やったことないことのほうがこれからの自分のためにもなるだろうし、お笑いに活きることもあるかもしれないし、やってみようと。「そのままでいてください」と言っていただきましたし、あて書きをしてくださるというので、楽しみながらやりたいと思います。

──山田さんは内田さんに来た演劇の仕事をどう受け止めましたか?

山田 やってみたらいいと思う、って言いました。楽しそうだから。

内田 山田くんは私が決断するより先に、「やったほうがいいよ」と言ってくれました。私が演劇の稽古とか本番のとき、何して過ごすつもり?

山田 最近観葉植物を買ったので、その子たちを愛でていたいと思います。でも内田さんの演劇、僕もすごく楽しみだから、全公演観に行こうかな。

取材・文/釣木文恵
写真/江森康之