梅津瑞樹がプロデュース・脚本・演出を手がける、橋本祥平との共同企画の演劇ユニット「言式(げんしき)」。旗揚げ公演から約1年、待望の第2弾公演『或いは、ほら』が12月19日(木)に東京・I’M A SHOWにて開幕。同日、初日公演を前に囲み会見が実施され、梅津と橋本が初日を前にしての心境を語った。
「いよいよこの日がきたか」。そう語る橋本は、旗揚げ公演が終わってからのこの1年間を「上半期は梅津さんとご一緒する仕事が多くて、空いている時間や移動時間などに、ずっと言式の話をしていた」と振り返る。そうして旗揚げ公演が終わると同時に始まった本作を届けられることが楽しみで仕方ないと笑顔を見せた。楽しみと同時に、「昨日は眠れませんでした」と言うほど緊張もしていたそう。初日を目前に控えた心境については、「一周回って、始まるものは始まるし…と割り切っている」と語り、さらに「さっき楽屋で食べたチョココロネのチョコが口についていないか、今はそれがすごく不安です」と笑いを誘う余裕も見せた。
梅津はステージ上のセットを眺めながら、「旗揚げ公演では、“言”と“式”と書かれたボックスがありましたが、今回はそのボックスすらなくなり、代わりにシンプルなボックスと巨大な布という不可思議なセットになっております。今回も企みをしているわけなんですが、それが皆さんの目に触れたときにどう評価されるのか。怖さというよりワクワクしています」とニヤリ。「1年という長いスパンを通して細々と積み上げたものを年の瀬にお披露目できるので、気持ちよく年を越せそうです」と、手応えを感じさせる表情を浮かべる。
自身が手がける脚本・演出について聞かれると、梅津は「好評をいただいた前作を超える度肝を抜くような作品をどのように提供するか、1年間頭を悩ませてきました。今回もオムニバス作品になりますが、ゼロから評価していただける、前作とはまた趣の異なる作品になったのかなと思います」とコメント。
言式としての前作からの変化を問われた橋本は、「前作から大きく変わった心の持ちようなどの変化はないんですが…」と前置きしたうえで、強く感じたこととして「梅津先生が脚本家・演出家としてやっていく未来が見えました!」と、梅津を大絶賛。「いやいや」と首を横に振る梅津に、橋本は「“かもしれない世界”ってあるじゃないですか」と、本作のタイトル『或いは、ほら』を彷彿とさせるうまいコメントでまとめた。
最後に「僕らの頭の中をお客様に見てもらおうと全力でやっています。言式として年に一度の公演ができたらいいと思っていて、本作も来年につながる公演にできたらいいなと思いますし、皆様の中に残り続ける作品になれば嬉しく思います」(橋本)、「稽古場ではスタッフの方々に『演劇の現場だね』と言ってもらうことが多くて励みになりました。我々は胸を張って『演劇をやっております』と、強く強くお伝えしたいですし、楽しい演劇が待っているよということを、お伝えさせていただければと思います」(梅津)と、会見を締めくくった。
囲み会見後はゲネプロが実施された。言式の作品は、何が起こるのか分からないという点も大きな見どころ。本記事でも、二人が演じる具体的な役柄やオムニバスの内容については極力触れずにゲネプロの様子をお届けする。
梅津が事前にヒントとして出していた「宇宙」について語らうある二人の人物の出会いから、物語は始まっていく。今作は前作以上にオムニバスで散りばめられたピースが終盤で組み上がっていったのが印象的で、「この人はあのときの!」「あのシーンがここに繋がるのか」といった驚きにあふれていた。
梅津らしい哲学を感じさせるストーリーの妙に唸るのはもちろん、やはり一番の醍醐味は二人の役者としての力だろう。二人の芝居は要所要所に笑えるポイントを作りながらも、違った環境を生きる人々の持つ“なんだか寂しい”という気持ちにリアリティと深みを与えていく。
梅津は会見で「一人の役者として、役者のスキルを使ってどこまで言式の中で挑戦できるのかという部分も考えて作っているので、そこも楽しんでもらいたい」と述べていた。二人が表現したいもの、二人が面白いと思っているもの。言式第2弾となる本作も、それらを存分に味わえる作品になったといえるだろう。
また、会見で二人が言及していたセットも見どころ。稽古場での取材で、二人は劇場に入ってやっと全貌が見えてくると語っていた。この日の会見でも、橋本が「劇場入りをするまでなかなか想像できなかった」と語っていた言葉通り、ステージを覆う巨大な一枚の布は、予想もしない動きで二人しかいない空間に意味を生み出していく。
二人はときに布の上を歩き、ときに後ろに隠れて、登場人物たちの置かれた状況や心情を表現。ついつい二人の芝居に目を奪われてしまうかもしれないが、布の動きに注目してみると、この作品をまた違ったベクトルから楽しめるのかもしれない。
梅津は会見で「ゼロから1を生み出すことは生きていくことの原動力」と語っていた。そんな原動力のもとに生み出される本作は、多くの“あったかもしれない可能性”を提示してくれる。それらの可能性は、観る人によってプラスにもマイナスにも捉えられるだろうが、きっとどこかに小さな救いを感じられるはずだ。観劇後、劇場を出てからも続いていく毎日に、“或いは、ほら”と自分にあるはずの可能性を探してみたくなるかもしれない。
言式『或いは、ほら』は、12月19日(木)から12月29日(日)までI’M A SHOWにて上演。
舞台写真
取材・撮影/双海しお