何かと話題の東京・豊洲に来春オープンする新劇場、IHIステージアラウンド東京のこけら落とし公演としても注目を集めている劇団☆新感線『髑髏城の七人~Season花~』。おそらく演劇史に残る伝説の舞台となるはずのこの舞台が、いよいよ始動! この9月にはヴィジュアル写真が解禁となり、小栗旬を筆頭に山本耕史、成河らメインキャストが全員顔を揃えた製作発表記者会見も大々的に行われ、2017年3月末の初日開幕までまだ間があるため少しずつではあるが、その全貌が徐々に明らかになってきた。
これまで1990年の初演版から1997年版、2004年の『アカドクロ』版でずっと主人公・捨之介と天魔王の二役を演じてきたのは劇団の看板役者でもある、古田新太。その古田は今回、捨之介から必殺の“斬鎧剣(ざんがいけん)”を打つように依頼される刀鍛冶<贋鉄斎(がんてつさい)>を初役で演じることになった。前回の2011年版『髑髏城の七人』に出演していた小栗と、2003年版『阿修羅城の瞳』に出演していた近藤芳正以外のメインキャストは劇団☆新感線初参加、フレッシュな顔合わせとなる今回のカンパニーについてや、新たなアプローチで描かれる“Season花”はどんな作品になりそうかを、このチームの要ともいうべき古田に予想してもらった。
――古田さんから見た、今回のカンパニーの印象はどんな感じですか。
古田 お互いに気を遣いあえるメンバーが揃っていて、エゴの強い人も特にいないのでとてもいい感じですよ。
――成河さんは、古田さんがいてくれるだけで安心感があるとおっしゃっていました。
古田 ま、オイラは劇団員だし、もともとそういう役回りだから。(清野)菜名ちゃん以外は一緒に仕事したことある人ばかりなんだけど、(小栗)旬とコンちゃん(近藤芳正)以外は、うちの劇団に出るのはみんな初めてですからね。うちの劇団って形式がちょっと難しいんですよ。いわゆるプロデュース公演ではなくてゲストの人たちが劇団に客演に来る形になるので、みんな一見(いちげん)で集まるような商業演劇のスタイルとも違うし。劇団員が何人か必ず出ていてそこに混ざる感じになるでしょ? 劇団員たちはこのゲストを呼ぶやり方にもう慣れているけど、そうなるとあとはゲストの人たちがどれだけ敷居低くうちの流れに乗ってきてくれるかが大事になってくるんです。そのためにはオイラがいると結構便利なんですよ。
――古田さんの予想では、今回の『髑髏城の七人』はどんな風になりそうですか?
古田 そうだなあ。ぶっちゃけ、蘭兵衛をやる(山本)耕史が一番強そうに見えそうな気がしているんだけどね。小栗は身体から作っていくとは言っていたけど、成河はもともとちっさいからね。結局のところ、蘭兵衛が一番強そうに見えちゃうんじゃないか。
――成河さんの天魔王はこれまでとイメージがかなり変わりそうですね。
古田 でも成河は体技(たいぎ)がとにかくすごいから。(2011年版の天魔王だった)(森山)未來ともまた違う感じの、俊敏な天魔王になりそう。そして個人的に一番期待しているのはムネちゃん(青木崇高)。兵庫って、歴代いろいろなタイプの“バカ”がやってきている役まわりなので、今回はどれくらい頭が悪そうに見えるかな~って。
――そこに期待しているんですか?(笑)
古田 うん。期待しますねえ。ムネちゃんの場合は、最初から強そうには見えるだろうから、あとはどれだけ極楽太夫のことが好きで、どれだけ仲間想いのヤツなのかという部分がムネちゃんのやる兵庫でどう見えてくるのか、すごく楽しみなんですよ。今までの兵庫ともまたちょっと違う感じになりそうだから。もともとは(橋本)じゅんさんがやっていた役なんだけど、そのあと(佐藤)アツヒロとか勝地(涼)とか……ちょっと種類が変わってきて、勉強ができないほうのバカになってきてたからなあ(笑)。
――見た目的にも、だいぶ違う印象ですしね。
古田 そうそう、ムネちゃんがやると“熱血おにいちゃん”っぽくなるんじゃないかなと思う。そうなると、中盤の兵庫の見せ場のシーンではより泣かされるかもしれないしね。
――アツい兵庫になりそうですね。りょうさんの極楽太夫もかなり妖艶な雰囲気です。
古田 りょうちゃんの極楽は、そりゃあ綺麗ですよ。
――製作発表の会見の時、古田さんはそのりょうさんと色っぽさで競うとおっしゃっていましたが。
古田 そうだね。だけどオイラは小栗みたいに自分の身体を鍛えるようなバカな真似はしないから。ただ肉襦袢を着るだけで、マッチョな身体になれちゃいますから。だいたい、肉体をわざわざ鍛えたり、守ったりするなんて女々しいんですよ。いつだって“ナチュラルボーン”でいかなきゃダメですよ。
――そういう意味での役づくりみたいなことは俳優には必要ない、というのが古田さんの持論でしたね。
古田 だって肉襦袢を着れば、どんな役でもオールOKなんですから(笑)。歌舞伎にだって肉襦袢を着る演目があるし、刺青している役だって一枚着ちゃえば済みますからね。それに、ケガをしたくないからってサポーターとかプロテクターをつけたりするのも女々しいよ。裸になる役だったらどうするんだってことですよ。
――そんなことをしなくても、すべて演技をすることで補えるはずだと。
古田 役者はみんな、そうありたいものです(笑)。
――そして古田さんとしては今回が初めての贋鉄斎役ですが、どんなキャラクターになりそうですか。
古田 ちょっとアッパー系でいこうかなと思っているところです。ほら、贋鉄斎って今まではみんな結構どっちかというとシブく決めてきたじゃない? 今回はそれはもういらないんじゃないかなあと思うので。
――シブくない贋鉄斎?
古田 というか、むしろ少し押しつけがましいオヤジさん。頑固オヤジで偏屈なところはあるんだろうけど、いわゆる格好つけているというのではなくてもう少しアッパーな、賑やかな人にしたいんです。
――刀が好き過ぎてちょっとおかしくなっちゃってるくらいの?
古田 そうだね、どっちかっていうと大きな声でしゃべる人って感じかな。もともとは逆木(圭一郎)さんがやっていた役で、『アカドクロ』では(梶原)善がやったのもちょっと格好つけてて、最後にオトす人みたいだったけど。前回の2011年版でやった(高田)聖子にしても結局はそんな感じだったから、オイラはまるで違うキャラクターでやってみたいんです。むしろ捨之介よりも元気で、喜んで戦いについていっちゃうみたいなオヤジ。
――贋鉄斎には“百人斬り”という見せ場もありますが。
古田 それに関しては、稽古でいのうえ(ひでのり)さんや(アクション監督の)川原(正嗣)とも相談してみるつもりなんだけど、自分としては何かトリッキーなことができたらなあとも思っているんだけど。たとえばマジックステッキ的な?
――マジックステッキ? 浮かせるつもりですか?(笑)
古田 そうそうそう(笑)。
――それはかなり面白いことになりそうですね。新しい劇場のこけら落とし公演だということに関してはいかがですか。
古田 もちろん、ワクワクしていますよ。製作費的にどのくらい遊ばせてくれるのかが気になるところですが、まあ、一発目だからできるだけ無駄遣いしちゃおうぜ!とも勝手に思っていますけど。とりあえず菜名ちゃんの沙霧と、旬の捨之介はおそらくたっぷり走り回ることになるでしょうね。
――やはり、この劇場の場合はたくさん走ったりしたほうが。
古田 そりゃあ、そのほうが絶対に愉快ですよ! 役者が走り回っているうちに反対側でセットチェンジしておけば、無限に走っていけるわけですし。
――走る方は大変なことになっちゃいますけど。古田さんはもうさすがに走らないおつもりですか。
古田 それはないでしょ。万が一そんなことになったら「贋鉄斎なら自転車くらい作れるはずだから、自分で発明したことにして自転車に乗らせてくれ!」って言います。
――そのほかに個人的に楽しみな点というと?
古田 4チームの最初なのでとにかくド派手にはしたいな、ということと。あとは前回の2011年版で、これまで一人二役だった捨之介と天魔王を二人二役に分けたことで、その二人の関係性はより深く描けるようにはなったんだけど、事件の発端となる役回りでもある沙霧の描かれ方が比較的薄くなってしまっていた気がするんですよ。なぜ髑髏城に行かなければいけなかったのかという動機づけとか、捨之介との関係性が見えづらかった。そのことも含めて今回は台本から書き換えてくるんだと思うので、天魔王と捨之介、蘭兵衛との関わりを深く描くと同時に、ぜひ沙霧と捨之介との結びつきもしっかり見せたいですね。その点で言うと『アカドクロ』の時は、うまくいったと思っているんです。あんな風に沙霧と捨之介が最後“どろろと百鬼丸”みたいに見えたら、チャーミングなんだけどなあ。
――ただ男女として好き同士というのではなく、バディーみたいな関係に?
古田 そうそうそう。
――特に今回は、あまり演劇を観慣れない方も興味を持って足を運んでくださるかもしれないですね。
古田 そうですね。これだけ大々的にやってくれているから。遊園地に行くことを思えばきっと、それほどチケット代も高くないと思うんですよ(笑)。しかもこの劇場でしか観られないものが体験できるわけですし、こっちは期間限定、それもしょっぱなのチームですからね。これは絶対に、観ておかなきゃ損だと思いますよ!(笑)
インタビュー・文/田中里津子
撮影:村上宗一郎