おぼんろ第25回本公演『ジョバズナ鼠の二枚舌』│末原拓馬 インタビュー

新作はおぼんろの第四章。
キーワードは“鼓動”

3月4日(火)より東京・新宿シアターモリエールにて、おぼんろ第25回本公演『ジョバズナ鼠の二枚舌』が開幕する。旗揚げから18年、これまでも絶えず進化を続けてきたおぼんろ。本作は、そんな数々の話題作の作・演出を手がけてきた末原拓馬がさらなる進化と原点回帰の双方を両立させるべく書き下ろす待望の新作である。その物語の着想は数年前に遡る。

「7年程前、新宿の街で路地裏を走る鼠を見て、ふとこの物語の始まりを思いつきました。主人公は研究所で生体実験を受けている鼠たち。死ななかった者だけが実験成功サンプルとなる世界で彼らは自らの命の役割や意義に思いを馳せます。そんなある日、研究所が閉鎖され…。行き場を失い、戦乱の街へと逃げ出した鼠たちがどんな運命を辿るのか。その魂の行方を追う物語です」

音や光、美術に衣裳。手作りをモットーに、細部まで物語との連動にこだわったその世界観もおぼんろ作品の見どころの一つだ。死生観をテーマとした本作でキーワードとなるのは“鼓動”なのだと言う。

「全ての哺乳類において生涯の鼓動回数は同じと決まっていて、大きなものほど寿命が長く、1回の鼓動も長いという学説があるそうです。あっという間にその回数を使い切ってしまう鼠たちは、数限りある鼓動を何のために打ち鳴らすのか。そんな生き様でありながら、同時に死に様とも呼べるような物語を描くにあたって、その音をどう表現するのかというところにもこだわっていけたら…。僕自身もここ数年で父や仲間の死を通じて、生と死についてより考えを巡らせるようになりました。おぼんろならではの発想や劇団員が共通して持っている身体性。そういった強みを用いて、ポジティブな意味で遺作になるかもしれない、なってもいいという思いでこの物語を立ち上げたいと思います」

末原自身の中で長らく温めてきた物語。そんな特別な新作を劇団員4名のみで作り上げるという濃密さもまた本作の欠かせぬ魅力である。

「路上芝居が第一章、廃工場やギャラリーでの上演が第二章、大きな会社と組んで世界に進出した第三章。そう定義するとしたら、本作はおぼんろの第四章なのかもしれません。第三章を経て、演出として一枚絵を作る力も劇団員の芝居の技巧も信じられないほど上がったので、その時間と経験をしっかり反映させたい。かつ四人だからこそ出し合える互いの人間臭さや、一見非効率に見えることもあえて信じて取り組んでいきたい。稽古期間だけではのせられない、10年以上をともに歩んできたからこそ出せる深みと厚みを感じてもらえる公演になると思います。いつも言っていることですが、おぼんろの公演は参加する皆さんが主役。語り部の僕たちは、進化しながらも魂は変わらずにそこにいるので、ぜひ気軽に会いにきていただけたらと思います」

インタビュー&文/丘田ミイ子
Photo/篠塚よう子

【プチ質問】Q:手土産を選ぶポイントは?
A:そうだなぁ……「思い出」かな。物語になるようなこと。小さい頃におじちゃんとかおばあちゃんが、お土産を持ってきて「拓ちゃん、これ、なかなか手に入らないものなんだよ」って言って渡されたのを覚えているんです。今思えば、話を盛るのがうまいだけなんですけど、手土産とかお土産って、時には「ありがとうございます」の一言で軽くスルーされてしまうこともあるじゃないですか。だからこそ、何か思い出とか、物語のようなものを足して渡すことが、何を渡すかよりも大切かもしれません。

※構成/月刊ローチケ編集部 1月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布

【プロフィール】

末原拓馬
■スエハラ タクマ
主宰として’06年に劇団おぼんろを旗揚げ。脚本家、演出家、役者に加え、絵描き、ミュージシャンとしても活躍する。