KERA CROSS 第六弾『消失』稽古場レポート

2025.01.09

ケラリーノ・サンドロヴィッチの名作を異なる味わいで創り上げる連続上演シリーズ・KERA CROSS、その新たなシーズンの一発目にあたる第六弾が『消失』だ。1月18日(土)の開幕に向け着々と準備が進められている稽古場を訪ね、少しだけ見学させてもらった。

この日、行われていた稽古は第二幕の冒頭部分。兄・チャズと弟・スタンリーが暮らす家の一室にあるのは二段ベッドに、テーブルと椅子やソファ、そしてクリスマスツリー。この場に登場するのは、入野自由演じるスタンリーと、猫背椿演じる二階に間借りすることになったばかりの女性ネハムキン、そして目的はまだわからないがガス修理業者としてこの家に入り込んでいる男・岡本圭人演じるジャックの3人のみ。スタンリーとジャックが初めて顔を合わせるシーンでもあり、当然ながらスムーズなコミュニケーションが出来るわけもなく、その会話の掛け違いも可笑しみに繋がってくる場面だ。

稽古としては、ようやく“二周目”に入り各自キャラクターを見つけつつ、より深めていこうとしている段階。演出の河原雅彦は「その台詞は、もう少しだけ間を空けてから」といった指示で台詞の間やテンポ感を調整し、「ここでは相手の気配を感じながら動いてみて」などと提案もしつつ、動きや立ち位置を様々なバージョンで試しながら、この緻密で繊細な物語を大切にじっくりと演出していく。

途中、入野扮するスタンリーが台本のト書きにある指示通りに“意味不明な”声を発して感情的な演技をしている時、河原が「なにをやってんの~?(笑)」と楽しげにツッコミを入れたことで稽古場全体が和やかな笑いに包まれる瞬間もあったが、その後は場面が進むにつれキャストもスタッフも集中モード。河原の演出にもさらに熱が入り、台本に具体的な言葉で書かれていない部分も含め、登場人物たちの気持ちから自然と生まれるであろう仕草や動きを丁寧につけていく。それも、たとえば「そこは“同情”とかではなく“ロマン”を感じているように」など細やかなニュアンスも多く、しかしその注文に応えてキャストが再度そのシーンに取り組むと、キャラクターたちの中に確かに“リアル”が生まれて色合いが濃くなってきたように感じた。他にも小道具に手を掛けるタイミングや、怒りを滲ませる際の気持ちのグラデーションの割合などなど、リクエストはさまざまな角度から出されていたが、なかでも重要視しているのはやはり、ちょっとした会話のやりとりだけで笑いを生み出すために必要な間とタイミング、そしてテンポ感。その上で「もっとリラックスして楽しんでやっていいんだよ」とも声をかけていて、そうした緩急の付け方も、このシリアスさとユニークさ、明と暗が混在する物語を構成する要になっているようにも見える。

今回の新キャストと新演出がいかなる輝きを見つけられるのか、カンパニーはまだまだあらゆる可能性を探りながら、より上質な作品づくりを目指して歩み続ける。それぞれの真剣な表情には目を奪われっぱなしだったし、場面を繰り返すたびに変化していた物語の色合いの行方とその結果も非常に気になり、初日開幕がまた一段と楽しみになった。

取材・文/田中里津子