『学芸員 鎌目志万とダ・ヴィンチ・ノート』│小林賢太郎 インタビュー

1月29日(水)~2月2日(日)まで東京・サンシャイン劇場で、2月7日(金)~2月9日(日)までは大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホールで上演される、舞台『学芸員 鎌目志万とダ・ヴィンチ・ノート』。本作は、新人の学芸員としてやってきた、レオナルド・ダ・ヴィンチの研究をしている鎌目志万(かまめしまん)という男と、個性豊かな面々が繰り広げるミュージアム・コメディだ。その脚本・演出を務め、舞台、映像など、エンターテインメント作品の企画、脚本、演出のみならず小説、絵本、漫画などの執筆と幅広く活躍する劇作家・小林賢太郎に、作品を手掛けることになったきっかけや稽古場の様子、見どころなど本作について話を聞いた。

――今回は、美術館を舞台にした物語ですが、この題材にしようと思ったきっかけを教えてください

最初に制作会社さんから、原作ものというか、何かとっかかりのある題材でお芝居をやって欲しいというお題をいただいたんです。その回答として、「ダ・ヴィンチの手稿」をご提案したら、「いいですね」と乗っかっていただけて。そこから物語を考えていきました。だから、美術館というよりも、レオナルド・ダ・ヴィンチという素材が先にあったんです。

――ダ・ヴィンチの思考法と仕事術が詰まった「ダ・ヴィンチの手稿」は、彼が「万能の天才」と言われる所以となったノートやスケッチです。小林さんは以前から存在を知っていたのでしょうか?

ダ・ヴィンチの手稿が日本初公開された、2005年の「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」を見に行っていて、そのときの図録が家にあったんです。20年前に見た展覧会を20年後に舞台にしていると思うと感慨深いですね。展覧会で使われていたグラフィックは、今回のポスターにも使っています。あらゆる経験や生活のすべてが作品につながるんだなと改めて思いました。

――ダ・ヴィンチの手稿を題材にして、どのように物語を紡いでいったのでしょうか?

ダ・ヴィンチの手稿の言葉や、美術館、学芸員といったシチュエーションや職業は、僕がすでに知っていることではあったので、改めて取材をしなくても、ある程度ベースとしての知識があるというメリットがありました。その上で、物語を書くために改めて勉強し直したらまだまだ知らないことがたくさんあって。改めてレオナルド・ダ・ヴィンチや美術館、学芸員について深く知ることができて良かったなと思っています。

――タイトルにもなっている、主人公の「鎌目志万」という役名がとても印象的です

もともと僕のアイディアノートに「役名」というページがあって、普段から思いついた面白い名前をメモしているんです。「主人公の名前は何にしようかな」と、ノートを見返していたら「鎌目志万」という名前があって。今回の作品の主人公に求めていた「ちょっと変な名前」の変さがちょうどいいなと思いました。よく見ると「棟方志功」の字面にも少し似ていますし。あとは、名字が3文字なのもいいんですよね。カモメみたいで。

――ちょっと変な名前の鎌目志万を演じる、鈴木拡樹さんの印象を教えてください

鈴木くんは捉えどころのない人で、本心がないというか、どんなことでも受け入れられる体制ができている人なんだと思うんです。もはや鈴木拡樹を捉えることは諦めて、2人で一緒に鎌目志万を捉えに行こうと思っています。鎌目志万を鈴木くんの中から探すのではなくて、2人で一緒に作っていくというか。この物語を、鈴木拡樹という無印良品にどうフィットさせていくか、鈴木くん本人に気づいてもらわないと意味がないので、僕から「こういう言い方が鎌目志万にはいいんじゃないかな」と、お手本を演じて見せることはしないつもりです。僕が思ったことをトレースしても、1+1にしかならないけれど、一緒に探すことで掛け算にしたい。稽古場でよく2人で話すのですが、鈴木くんも脚本を読みながらいろいろ試してくれています。僕のヒントをもとに鈴木くんが打ち返してくれたものから人物像を築いていくのが、ベストな答えの出し方なのかなと。

――今回は1000人規模のオーディションが行われて、その中から5名のキャストが選ばれたそうですね

規模は大きかったですが、そんなに大変な作業ではなかったです。

――もともと5人選ぶ予定だったんですか?

演じていただきたい役はすでにありましたが、明確には決めていませんでした。今回の作品に合格したのは5人ですけど、別の小林賢太郎作品出演者枠に入った人が、実はもう数名いらっしゃいました。今後、僕の作品に出ていただく方がいるかもしれません。

――良い出会いがあったんですね

豊作でしたね。一次の映像審査から20人まで絞ったのですが、他の作品に出てもらえるかもしれないし、もっと欲深く、好きになれそうな方にお会いすれば良かったと思っています。またぜひやりたいですね。

――最終的には、鈴木拡樹さんとオーディションで選ばれた5人、それに加え、小林作品経験者の辻本耕志さんと菅原永二さんという魅力的な座組となりました

辻本くんと菅原さんは、企画が決まる前から参加してもらいたいと思っていたんです。初めましての人たちだけで固めずに、小林賢太郎作品を知っている人にいてもらった方が、いろいろと話が早いかなと。みなさん大人だから、稽古の序盤から仲がいいんですよ。稽古終わりで飲みに行ったこともあったみたいです。僕は誘われませんでしたけど……(笑)。コミュニケーション能力が高いばかりなので、安心しています。

――本読みからスタートして、稽古の状況はいかがですか?

本読みで初稿を読んで、キャストのみなさんがこの抑揚で喋るんだったらこういう笑いが作れるはずだと思い、そこからボケの量が増えていきました。初稿はニュートラルに書いてあった部分もあったので、第二稿でちょっと攻めて、第三稿でどんどんとレイヤーが重なっていくように育っていくと思います。みなさん、ものすごいスピードで打ち返してくれるので、この作品は育ちますよ。僕も楽しみなぐらい、分厚い作品になる予感がしています。僕の過去作品とは比べられないような、オンリーワンな作品ができそうで、とても楽しみです。

――今回のような外部公演と、ご自身のプロジェクト「シアター・コントロニカ」を並行してやられていくバランスは、今くらいがちょうど良いのでしょうか?

一時期は自分のプロジェクトだけでいいかなと思ったこともありました。でも、いろいろとお声がけをいただく中に、「これは面白そうだ」と思うものがあったので、それはやらせてもらおうかなと。外部公演の難しさを感じることももちろんありますが、外部公演をやらなければ出会えない方やことがたくさんあるので、ご縁には逆らわないでやっていこうかなとは思っています。

――規模にともなって、スタッフの数も多いらしいですね

お任せできる部分が増えるので、僕にも少し余裕ができるというか。割と僕は何でも屋で、「好きだから」とあれこれやってしまいがちなのですが、チームでお芝居を作っていくというやり方も楽しいものだなと思っています。

――小林賢太郎さんの動向が気になっている方も多いと思うのですが、今後、クリエイターとして実現したいことなどがあれば教えてください

どうなんですかね。気になっている人はいるのかな。

――たくさんいると思います

脚本・演出家の小林賢太郎作品を上映するオンラインシアター「シアター・コントロニカ」の活動は継続していきますが、クリエイターとして実現したいことか……何か大きいスポーツ大会の式典とかを作ってみたいですね(笑)。

――それは……いずれ実現させて欲しいです(笑)。今回の公演の見どころを教えてください

だいぶ食べやすく作ってあるので、演劇に対して食わず嫌いというか、興味はあるけど行ったことのないという方が最初に見るにはとてもいい作品になっているのではないかなと思います。演劇が苦手だと思っている人は一定数いると思うんです。僕もいろいろな作品を見ましたが、正直、「苦手だな」と思う作品はあったので、苦手な人の気持ちはよくわかります。そんな方にも楽しんでもらえるものを目指したいので、僕はあえて自分の中にある演劇アレルギーを治さないつもりです。「舞台は難しそうだからあまり見に行かないけど、小林賢太郎作品だったら見に行ってみようかな」と思えるような、別腹枠に入れてもらえたら嬉しいですね。劇場で演劇を見たことがないという方も、配信や映画館でお試しになってみてはいかがでしょうか。

――最後に、LAWSON(ローソン)にまつわるエピソードを教えてください

以前、放送された『小林賢太郎テレビ』という番組のコントの中に、「ローソン」というセリフがあったんですよ。「ローション」という言葉を、ザパンという架空の国の言葉に翻訳して喋るというシーンで、「シャ、シュ、ショ」が「サ、ス、ソ」になっちゃうというルールがあって、「ローション」を「ローソン」とハッキリと言いました。NHKで(笑)。でもこれはローソンにまつわるエピソードではないですかね。うーん……。あ、いろいろなコンビニがある中で、ローソンっていい名前だなとは思います。略せないじゃないですか。ローソンのことを「ロー」とか「ソン」という人はいないですから(笑)。

取材・文/石本真樹