
2025年2月8日(土)~2月12日(水)、東京国際フォーラムホール D7にて、日本文化の魅力を発信するJ-CULTURE FEST presents 井筒 装束シリーズ 詩楽劇『めいぼくげんじ物語 夢浮橋』が上演される。 本作は、『源氏物語』において薫と源氏の孫・匂宮を中心にした物語 を描いた「宇治十帖」を、装束と歌、音楽で表現するエンターテイ ンメント。 演出・振付と喜撰法師を尾上菊之丞、大君役を北翔海莉、薫役を中村莟玉、匂宮役を和田琢磨、中君役を天華えまが演じる。読み合わせがスタートしたところで、中村莟玉にインタビューを行った。
――今回のお話をいただいた時の思い・意気込みはいかがでしたか?
これまで、歌舞伎界の先輩たちや後輩の方がこの企画に参加していて、「すごく楽しい企画だ」と伺っていました。いつか僕も出させていただけたらなと思っていたときにお声がけいただきました。企画・演出も手がける菊之丞先生には子供の頃からお世話になっていますし、常にチャレンジの場を作ってくださる先生なので、菊之丞先生のお声がけということであればと喜んでお引き受けさせていただきました。
――『源氏物語』の「宇治十帖」を扱うということで、 物語の印象や台本を読んだ感想もお伺いしたいです。
元々歌舞伎にも今回登場するキャラクター・浮舟を主人公にした作品があり、そこに薫も匂宮も登場します。今回は浮舟と出会う前、大君と中君との出会いも描かれます。もちろん『源氏物語』はいろいろな形で作品化されていますが、「宇治十帖」は僕にとっても親しみ深く、自分の中にもイメージがあります。そういった部分もお見せし つつ、浮舟の前の物語も楽しんでいただきたいです。歌舞伎で描かれている浮舟は鬱屈としたところから始まりますが、なぜ薫がそうなったのかも今回の脚本ではお客様に伝わると思います。歌舞伎がお好きで『浮舟』をご存じの方には、さらに解釈を深めていただけるのではないかと思いますね。
――演じる役について、どう作っていこうと考えられていますか。
今回、菊之丞先生がお勤めになる喜撰法師がいわゆるストーリーテラーとして登場します。薫の心情が脚本の戸部(和久)先生の流麗な言葉で描かれていますし、随所に歌が入ってくる。全体的には様式美の方向にいくのかなという感じがしています。その空気にマッチする形で、薫というお役を勤めたいと思っています。
――読み合わせをした現段階での印象はいかがでしょう。
皆さん、お役をすごく素敵に捉えていらっしゃると思いました。また、実際に皆さんがお声を出してセリフを読んでいる姿を見ると、それぞれのフィールドが融合し、面白くなりそうだという想像が実感になってきました。その中で全体的なバランスをこれから考えるので、 僕も「歌舞伎らしくやろう」ということではなく、今回の作品のためのニュアンスを探っていくのがいいのかなと。北翔(海莉)さんや天華(えま)さんが宝塚で培ってきたことをポイントとしてお出しになる部分はあるかもしれないけど、全部その形のまま作ろうとはしてい ないという印象を受けましたし、その考えは理解できる。僕も歌舞伎にこだわりすぎずに作りたいです。
――様々なジャンルの方が集まるカンパニーですが、普段なかなかご一緒しない方からこんなところを学びたいと考えていらっしゃることはありますか?
やはり歌ですね。僕としては歌いたい気持ちはあまりないんですが、 歌わせていただけることになりまして。僕は宝塚も好きで昔から拝見しているので、北翔さん、天華さんの舞台も拝見していて、お二人の素敵な歌声も知っています。今回は客席から見るのではなく一緒にお稽古して、組み立てていく過程を見られるのが非常に楽しみです。こちらは人前で歌うなんて合唱コンクール以来の初心者ですから、教えを請うような時間もあったら嬉しいなと思っています。
――共演する皆さんの印象はいかがでしょう。
和田(琢磨)さんはこの企画で初めてご一緒しますが、歌舞伎でいうと尾上松也兄さんなど、共通のお知り合いが何人かいらっしゃいます。本作の顔合わせ前にプライベートでお会いしました。僕も本名が琢磨で漢字も一緒なのですごく親近感がありますし、なんとなく 「琢磨」っぽいなと(笑)。お芝居をご一緒させていただけるのが 楽しみですし、一番コミュニケーションを取ることになるだろうなと感じています。北翔さんは宝塚時代から拝見していまして、すごくパワフルでエネルギーがあるけどそっと包み込んでくれるような包容力のある方だと感じておりました。今回のお役にそこをどう出されるのか楽しみにしていますし、こちらが教わることがたくさんあるだろうと思っています。天華さんも現役時代から拝見していますし、僕が所属する事務所の先輩である七海ひろきさんとすごく仲が良い。共通のお知り合いがいる方々なのでそれほど人見知りせずお稽古に入れるかなと思っています。
――おっしゃられるように歌もありますし、舞比べのシーンもあると いうことで、音楽や踊りについてもお伺いしたいです。
中井(智弥)さん、長須(与佳)さんとは歌舞伎版『刀剣乱舞』で初めてご一緒しましたが、本当に素敵な方々ですし、作品の世界観とマッチする音曲を作り演奏される方々だと全幅の信頼をおいています。舞に関しては、日舞のパートは一応自分がこれまでやってきたフィールドですから、菊之丞先生の振り付けを楽しみにしています。 ただ、なんといっても今回の装束は非常に重厚感がある。歌舞伎の演目でも同じような格好をすることはありますが、それよりもさら に本式な布地、着付で演じるので、普段とは勝手が違うのかなと思っています。それもどうなるか楽しみです。
――ビジュアル装束でも装束を着たと思いますが、撮影時にディレク ションはありましたか?
菊之丞先生が皆さんの撮影に立ち会っていましたが、僕の時は「マルちゃんはどうぞやっておいてください」という感じでご自身の支度に行かれてしまいました(笑)。小道具として扇などを使い、なんとなくこうかなとポージングしました。色味はもちろん、ずっしりとした 重みが豪華な感じで素敵でしたね。
――菊之丞さんの演出を受けるうえで楽しみにされていることはある でしょうか。
菊之丞先生も無茶振りを無茶振りと思わずにされるタイプの先生で、 これまでも「まさかそんなことを」と思うオーダーを受けてきました。今回に関しては、歌もそうですし、琵琶の演奏もしたことがない。この間は「相手役・大君を演じる北翔さんを抱きしめながら琵 琶を弾く」とおっしゃっていて、何をおっしゃっているのかよくわか らないなと思いました(笑)。でも、非常にアイデアが豊富な先生ですから、ステージングや音楽・照明の使い方など、どう演出してくださるのかすごくワクワクしています。客席を大きく使うと聞いているので、そこもどうなるか楽しみですね。
――古典に馴染みがない方に向けて、見どころや魅力を伝えるとしたらどこでしょう。
ストーリーとしては、難しく感じずにご覧いただけると思います。 「いろいろな人間関係のわだかまり、屈折した心などをありのまま受け入れましょう」というようなメッセージの演目。それをお伝えするために選んだ題材が『源氏物語』だっただけです。お伝えしたい テーマは普遍的で、現代の方も共感できるし、コンプライアンスに溢れた時代だからこそ心に染みるんじゃないかと思います。古典だからと身構えずに来ていただきたいですね。
――ご自身のファンの方に向けて、注目ポイントを伝えるとしたらどところになりますか?
歌舞伎の公演では、完全に大人な二枚目のお役はそれほど勤めたことがありません。そういう意味では、これまでに見たことのないような役に挑んでいる様を見ていただけたらと思います。僕を応援してくださっている方は、僕が歌っている最中は優しく見守っていてほし いですね。
――最後に、楽しみにしている皆さん、迷っている皆さんへのメッセージをお願いします。
本作は詩楽劇というこれまでにないジャンルで、ミュージカルでもストレートプレイでもないし、和なのか洋なのかも非常に曖昧な世界観になりそうな予感がしています。そのため、新しいものを見るつもりで来ていただくのがいいと思いますね。先ほども申し上げましたが、 劇場の作り上、お客様が参加するわけではないけれど、お客様も 『源氏物語』の世界にいるような、没入型の演劇になると思います。 作品を理解しようということよりも、その空間の中で何を感じるかを楽しんでいただくのが良いかなと思いますので、身構えずに来ていただけたら嬉しいです。
取材・文:吉田沙奈