30-DELUX Special Theater 2025 「デスティニー -アドラメレクの鏡-」|佐藤アツヒロ×清水順二インタビュー

演劇ユニット30-DELUXが、2025年4~5月に『デスティニー -アドラメレクの鏡-』を上演する。本作は2011年初演、2013年に再演され、今回が12年ぶりの再演となる。初演、再演と主演を務めてきた佐藤アツヒロが、今回もジン/テムジン役として出演するほか、数々の舞台で活躍する今江大地、声優の鈴木達央、元宝塚男役スターの瀬戸かずやなど、実力派俳優陣の出演によりアクションエンターテインメントを繰り広げる。

これまでも数々の30-DELUXの作品に出演してきた主演の佐藤アツヒロと、30-DELUX製作総指揮の清水順二に、本作にかける思いを聞いた。

──清水さんは佐藤さんのことを「戦友」と呼ばれていますが、お2人の関係性についておうかがいできますか。

清水 いろいろと素敵なご縁が繋がった形と言いますか、『デスティニー』のキャスティングを進めていく中で、ある日事務所の方から主役のジン/テムジンにアツヒロくんはどうかというご提案をいただいたんです。僕が学生の頃に光GENJIといったら大スターですから、まさか佐藤アツヒロくんがうちの劇団に出るとはという気持ちでした。こちらも願ってもないお話で、 ぜひ!ということで出演をお願いすることになりました。それがアツヒロくんとのご縁の始まりです。

──初演は2011年でした。

清水 稽古が始まった直後に東日本大震災があって、4月末からの本番をやるかどうか、アツヒロくん含めみんなで話し合いました。僕は劇団を2002年に旗揚げしたときに、「10年で観客動員1万人の劇団を作る」という目標を立てていて、このときちょうど9年目だったんです。ありがたいことに、前売り券の時点で既に1万人を超えていた中で、公演を中止するのかしないのか、という判断を迫られました。アツヒロくんは「やってほしい」と言ってくれたし、事務所側からも上演するかどうかの判断は僕たちに任せると言ってもらえたので、上演することに決めました。結果的に目標にしていた観客動員1万人に到達できたし、アツヒロくんと初めて一緒にやれたし、劇団にとっても僕個人としても非常に大きな意味を持つ公演になりました。

──本作を12年ぶりに上演しようと思われた理由を教えてください。

清水 コロナ禍で少し元気がなかった劇団を再生していく上で、『デスティニー』は僕にとっても劇団にとっても非常に大事な作品なので、これをやろう、ということになりました。そうしたら、そのタイミングでたまたまアツヒロくんにお会いする機会があって、そこでアツヒロくんに「今度『デスティニー』を上演しようと思うんですけど、やりませんか」とお話ししてみたら、やりたい、と言ってもらえたんです。

──アツヒロさんは清水さんからこの作品をやりたいんだけど、と言われたときの率直なお気持ちはいかがでしたか。

佐藤 もう2回やっている作品ですし、僕と清水さんとの出会いの作品ですし、12年ぶりにこの作品をやることの意味、その重みみたいなものが、すごく伝わってきたんですよ。だから僕も、深いことは言わず「やろう」と返事をしました。12年ぶりということで、今の年齢になったからこそ、また改めて深く追求することもできるし、がむしゃらにやっていた殺陣も、落ち着いて無駄なところは省いてやれるかな、という思いもあります。改めてこの作品に向き合うということは、自分に挑戦するという感覚でもあって、そういう決意というか覚悟を持たないとな、と思いました。あと、清水さんがまた新しい仲間を揃えてくれるから、その人たちと一つのものを作れることが楽しみだな、という気持ちもあります。

──本作は、ライカという国家を舞台に、盗賊団や王女、そして悪魔が登場するということで、ダークファンタジー的な印象を受けますが、そのあたりはいかがでしょうか。

清水 30-DELUXは、僕がテーマパークで働いていた経験から、ディズニーランドのような夢の国の雰囲気とキャラクター、USJのような映画・アニメ的な華々しさ、日光江戸村のような激しいアクション、という3つの要素を合わせたような作品を作りたいというコンセプトが元々あるんです。これまで50作品ぐらい作ってきた中で、そのコンセプトが一番表れてるのがこの『デスティニー』な気がしています。物語の発想のスタートは、『インファナル・アフェア』と『フェイス/オフ』という2つの映画の世界観をベースにして、そこにアニメの面白さをコラボさせる、という感じなんです。

──2024年5月に上演された『SHAKES2024』について、上演時に清水さんが「テーマパークライブ演劇」と称されていました。『デスティニー』はそれとはまた違う方向性なのでしょうか。

清水 ハリウッド映画的な壮大なストーリー、壮大な世界観のファンタジーアクション活劇、という感じですかね。アツヒロくんと言ってるのは、僕らはセリフと殺陣を融合させた「アクションプレイ」というジャンルを突き詰めてやってきて、こういうジャンルをやっている団体ってあまりないんですよね。その中でも僕らは、僕らにしかできないファンタジー路線の独自な世界観で作ってるつもりではあります。

──佐藤さんが演じるはジン/テムジンという役について教えてください。

佐藤 タイトルが『デスティニー』ですから、出会った人たちに運命を変えられてしまう物語なんですよね。僕が演じるのは「ジン」と「テムジン」という、同じ一人の人間なんだけど、ジンが悪魔と契約して新たな体を手に入れてテムジンになるので、二役とも言える役です。ジンはなんていったらいいんだろう……村人?

清水 浮浪者的というか旅人というか、服もボロボロだし、盗みを働いたりしながら何とか生き延びている人ですね。

佐藤 物語の舞台が戦争中なんですよ。だから誰しもが生き延びたいという思いを抱えながら必死になっていて、ジンは死にそうになるんだけど悪魔と契約して、生き延びる代わりに半分悪魔になってしまうんです。ジンなりに生きるための葛藤を抱えながら、テムジンとして皇帝に上り詰めていくんだけど、そもそも皇帝になりたいとか、何か目的があるわけじゃなくて、運命によってどんどん人生を変えられていってしまう人なんです。

清水 ジンは鏡で自分を見て「本当に俺はこれでいいのか」と葛藤していて、それで今回タイトルに「アドラメレクの鏡」と入っているんです。アツヒロくんには、今まで以上に葛藤して苦しんでいただくことになると思います。

佐藤 ジンは、本当に何でもない男なんですよ。ただ「死にたくない」と思っている、どこにでもいる男。この作品は、シェイクスピアの雰囲気も入ってるよね。自虐的で葛藤している暗い世界というか。そのあたりを、再演だからこそもう一回構築して進化できるといいよね。

清水 先ほどアツヒロくんが「新しい仲間」と言ってくれましたが、コロナ禍から名古屋に「30-DELUX NAGOYA」、大阪に「30-DELUX OSAKA」を立ち上げてそれぞれでの制作を始めたんです。今回の公演では、名古屋と大阪のメンバーも何人か出演するので、そういう新しい人材を含め、座長・佐藤アツヒロの周りに新たな素晴らしいメンバーを揃えられたことで、すごい化学反応が起きるような気がしています。

──佐藤さんは演出を手がけるようになったり、清水さんは映画監督デビューをしたり、それぞれ新たな挑戦もされてきました。今作と向き合うときに、12年ぶりの再演ということで前回とはここが変わりそうだな、という部分があれば教えてください。

佐藤 演出家の立場を知って裏方の仕事をやればやるほど、いかにスタッフさんに支えられてるか、ということを改めて思い知らされます。今回は林明寛が演出を担当するのですが、明寛は『新版 国性爺合戦』のときは役者で共演しているので、今回演出家としての明寛とすごくいいタイミングで出会えたな、という気がしています。僕自身が演出を経験したことで、より良いコミュニケーションで作れるんじゃないかな、と思います。

清水 僕は映画監督をやったことで、思ったことの伝え方をより丁寧にしたり、積極的に伝えたり、ということによりこだわるようになった気がします。これまでは「これをやりたい!」というような強い伝え方だったこともあったと思うのですが、そうじゃなくて、

「僕はこういうことをしたいけれど、スタッフとしてどう思いますか?」みたいにヒアリングをして、最終的に全員が納得する回答を求める努力をするようになりました。

──お客様へのメッセージをお願いします!

佐藤 この『デスティニー』という作品を、とにかく見に来ていただきたいです。今までいろんな演劇を見てる方も、心に残る作品の一つに必ずなります。ぜひ劇場まで足を運んでください。

清水 観劇からちょっと離れてるとか、土日はあまり外に出なくなったとか、そういう方も多いかと思うので、もっとエンタメ界全体が盛り上がっていかないといけないな、と思っていて、そういう意味でも海外に発信していけるくらいの力のあるオリジナル作品を作りたいと思っています。12年ぶりの再演となる作品ですが、今見ても共感できるところが満載ですし、老若男女誰が見ても心から感動できて楽しめる作品だと思いますので、ぜひ足を運んでいただければと思います。

取材・文:久田絢子