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俳優デビュー10周年を迎える田中涼星。その記念すべき節目に、初のひとり芝居「Be with you」を上演する。企画プロデュースを手掛ける荒牧慶彦の「役者人生10年目を迎えた田中涼星が、さらに進化してくれると嬉しい」という期待を背負い、田中は「愛」をテーマとした3人の男たちの物語に挑む。脚本は三浦 香、演出は役者仲間として何度も共演してきた植田圭輔が務める。今回、役者・演出家として初めてタッグを組む田中と植田に、それぞれの立場から見た本作への思いを語ってもらった。
――まず、本企画を聞いた際の率直なお気持ちを教えてください
田中 「とうとう僕にもその時が来たか」と。もともと、まっきーさん(荒牧慶彦)から「ひとり芝居をやってほしい」と言われていたので、いつかはやるんだろうなとは思っていたんです。ちょうど俳優活動10周年という節目のタイミングがやってきたので、「じゃあやろう」と。不安ももちろんありますが、「これを経た先にあるものはなんだろう」という期待と楽しみも感じています。
――植田さんは演出の打診を受けていかがでしたか?
植田 涼星はよく知っている役者なので、きっと自分にしかできない涼星の良さの引き出し方ができると思うし、ひとり芝居へのアプローチもできるんじゃないか。直感的に僕がやる意味を感じたので、快く受けさせてもらいました。
――本作は三浦 香さんが脚本を担当されています。脚本を読んでみて、それぞれ役者・演出家の目線でこの脚本をどう受け取りましたか?
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田中 最初の印象は「僕のことをよく知ってくれているな」でした。香さんとは何度もご一緒しているのですが、脚本を読み進めていくと「こんな感じのことあったな」と過去を思い出すところもあって、懐かしい感覚もありました。同時に、「挑戦しなさい」というメッセージを感じる部分もあって。これをしっかり体現できれば、必ず面白い作品になると思いました。
植田 僕は「どうやって料理をしようかな」という感じでしたね。テーマとしては「愛」という壮大なものですが、登場人物3人にしっかり焦点が当たっていて、それぞれの演じ方についても脚本にしっかりと道しるべが記されている。脚本に書かれていることをしっかりやっていく、ということにプラスして、どう余白を生み出せるのかということを、読んですぐに考え始めましたね。お客様に想像させるエッセンスって、僕はすごく大事だと思っていて。せっかくなら、観にきてくれたお客様に、それぞれの感性で持ち帰ってもらいたい。最近、それが演出家としての自分らしさなのかなと思い始めていることもあって、この作品でもどうやってそういった余白を生み出そうかと考えました。
――これから本格的に稽古が始まっていく中で、役者・演出それぞれの立場で「これは挑戦になりそうだな、腕がなるな」と感じることはなんでしょうか?
田中 まず、こんなセリフ量を覚えたことがない(笑)。
植田 ふふ。
田中 そこがまず大きな挑戦ですし、当然、一つの作品で3役をやることも初めてです。本当に未知の領域に飛び込んでいくという感じですね。きっと、普段のお芝居とは体内の感覚も違うと思うんです。想像はつくんだけど、きっと想像できていない可能性みたいなものもあるはずなので、早くその感覚に出会って体に馴染ませていきたいです。
植田 今の技術を使えばいろんなことが具体的に表現できますが、このひとり芝居においては、抽象的な表現をうまく使って、いかにお客様の想像力を掻き立てられるかどうかだと、自分の経験から感じていて。登場人物が交代して時代も変わっていきますが、途切れさせずにいかに一つの物語として感じてもらえるか。そこが僕の挑戦になるのかなと思っています。
――田中さんからはひとり芝居に対して「未知」という言葉もありましたが、ひとり芝居経験者の植田さんから伝えたいことはありますか?
植田 「未知」というのが答えだと思います。いざ始まっちゃえば自然と掴めるんですが、準備にしても稽古にしても、「本当にこれで合っているのか?」となるし、どれだけやっても全然たどり着けていない気がして追い込まれてしまう。そのあたりは「もうしょうがないよね」という感じです(笑)。でも、気づいたら作品をモノにしているし、楽しくなっているので、その感覚を楽しんでほしいと思います。
田中 なるほど……。楽しめるところまで早く行きたいです(苦笑)。
植田 そこまで行けちゃえば、あとは本当に楽しいだけだから。
田中 ですよね。早くそこに行けるよう、死ぬ気で頑張ろうと思います!
――今回、田中さんは演出家としての植田さんとは初タッグとなります
植田 あ、どうも、こんにちは。
田中 こんにちは。
植田・田中 (笑)。
――演出家としての植田さんについて、役者仲間から何か聞いていますか?
田中 具体的には聞いていないのですが、とにかく楽しかったという話はよく聞きますね。僕も実際、植ちゃん演出の作品を観にいくんですが、カンパニーの皆さんが楽しくやっているのが伝わってくるので、そういうことなんだろうなと。
――植田さんは、演出家として稽古場にいる際に意識していることはありますか?
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植田 根本にあるのは、「“役者が演出をやるタイプの演劇”だと思われたくない」ということですかね。そう思わせないためには、誰よりも作品に向き合っているということを、作品づくりにおいて提示できるかどうかが大事だと思っています。簡単に言えば、何かを聞かれた際に、答えられないことがないように準備しておくことですかね。自分がプレイヤーの場合は、むしろ空っぽで稽古に臨んで、セッションで生まれるものを大事にしたいと思っているタイプなので、そこは真逆かもしれないです。
――本作は田中さんの俳優活動10周年記念公演となります。次の10年に向けての展望をお聞かせください
田中 ずっと求められる人間でありたいなと思っています。「田中涼星がいるから絶対面白い、観てみたい」と思ってもらえる役者になりたいです。もともと前にガツガツ出るタイプではなかったのですが、この10年での経験をもとに、これからはもっと主張していきたいなとも思っています。
――植田さんから見て、田中さんの変化や成長をどう感じていますか?
植田 初めて会った時、彼は初舞台で19歳でしたからね。変わってない部分は身長くらいじゃないか、というくらい変わったと思います(笑)。一緒に仕事をする度に、いい作品に出会って、色んな人の背中を見てきたんだろうなというのを感じますし、近年は現場に涼星がいてくれると心強いなとも感じています。
――今後の展望について、お二人で話す機会もあるのでしょうか?
植田 そういう話はあまりしませんが、多分、僕らは目指したい姿が一緒なんだと思います。今聞いていてびっくりしたのですが、僕もここ10年くらい「求められ続ける人間でありたい」って言い続けているんです。なので、同じこと考えているんだなと。
田中 長い時間、植ちゃんの背中を近くで見てきたので、数え切れないほど影響を受けていますね。「さすがだな、好きだな」という姿勢をたくさん見てきたので、盗んだつもりはないのですが、勝手にインプットされている部分が多いと思います。
――しっかりと“植田イズム”が染み付いている?
田中 そうですね。間違いなく染み付いています!
植田 嫌やわ~、かわいそうに(笑)。
田中 アハハハ。
――本作は愛がテーマとなります。お二人にとって「愛」とは何でしょうか?
植田 永遠のテーマですよね。これまでこういった壮大なテーマについての質問をいただいても、その都度、のらりくらりと答えてきてしまったなと、この歳になって感じていて。でも去年、愛について考える作品に出会って向き合った結果、愛って変わっていいものだし、最終的な答えが見つからないからこそ、探し続けるものなのかなと。今は嘘偽りなくそう言えるかもしれないです。
田中 ……もう答えが出ちゃいましたね。
植田 いやいや、愛に答えはないですから。
田中 僕は思いやりかなと。愛があるから、人に対して何かをやってあげたいと思える。もちろん、愛がなくてもやってあげることはできると思いますが、僕の持っている感覚としては、人への愛があるから思いやりが生まれるんじゃないかなと。植ちゃんが言ったように、愛は変わっていくものでもあると思うので、僕もこれからの人生経験で捉え方が変わっていくのかなと思っています。
――では最後に、改めて本作への意気込みをお聞かせください
植田 役者として10年歩み続けるって素晴らしいことだと思います。その記念すべき年にひとり芝居を打てる田中涼星の良さを伝えるためにも、少しではありますが自分が場をならし道を作り、その上を不自由なく歩けるよう、作品を作っていけたらと思っています。涼星に対してもお客様に対しても、余白を感じてもらえるように作っていけば、きっと喜んでいただける作品になるだろうし、涼星にとっても想像もしていない何かを掴んでもらえるかもしれない。僕は僕なりに作品に向き合って作っていきたいと思うので、応援していただけたら幸いです。
田中 10周年という節目に素敵なステージを用意していただいたので、僕の10年を全力でぶつけたいと思います。最初は「やってみなよ」と言ってもらったので、「じゃあやってみます」という感覚だったのですが、今はもっと自発的な気持ちで「やらなきゃ」という思いが大きくなっていて。新しい何かを掴みにいっている自分がいることに、新鮮な感覚があります。その感覚も含めて、新しい考え方を得られるんじゃないか、得なきゃいけないと、自分なりの課題も感じています。そういったものを全部ひっくるめて、自分自身も楽しんで、お客様にも楽しんでいただけるよう、この公演を成功させたいです。
インタビュー・文/双海しお
撮影/篠塚ようこ
ヘアメイク/鈴木りさ(akenoko▲)