ストスパ 5th『キロキロ』稽古場レポート

2025.02.11

白鳥雄介が作・演出を務める演劇ユニット・ストスパの第5回公演『キロキロ』が、2月12日(水)より、東京の下北沢・「劇」小劇場で上演される。その稽古場を取材した。

ストスパは、“劇場にいる誰もが情熱を燃やす場所、心の火を大きくする場所”という意味を込め「Stokes/Park(ストークスパーク)」という名で2018年に旗揚げ。その後、2023年、「ストスパ」に改名。「それでも前を向く」をテーマに、困難から立ち上がろうとする人間を描いている。

今作は、「それでも前を向く」を大きく感じさせる内容となっている。
結婚式に参列した35歳を迎えた高校の同級生たち。『今思えば岐路だったあの日』の話を、『まだ岐路ではない今日という日』に語り合う群像劇である。

開幕を前に白鳥雄介からこの日、コメントをもらった。

白鳥雄介 コメント

30代に突入し、結婚・出産・育児とライフステージが変わっていきました。
新たな幸せを手にした一方、折り合いがつけられなくなってきた夢と恋と友情。人生がこんなにも苦しくなることを、先人はなぜ教えてくれなかったのかと嘆いたこともありました。「人生設計」という科目が義務教育にあっていいと思うくらいです。ですが、僕も35歳、我々が変えていく世代です。だからこの劇を作りました。演劇にしがみついて芽生えた看過できない有象無象の感情を詰め込んだ群像劇。僕が通らなかった人生を、11人の役者に預けています。気づかずやってくる岐路のそばにあるべきものは何なのか、帰路に着く前に、誰かと語り合いたくなる劇『キロキロ』、キラキラできなかったオトナたちを観に来て頂ければ幸いです。

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稽古場レポート

群像劇である本作の舞台は、小さなカラオケ店の窓のない一室。人生がそれぞれの方向に向かう中、それぞれが求める「幸せ」とは何かを探りながら、物語は進んでいく。

この日の稽古はお笑い芸人として大成する夢を捨てきれずにいる35歳の主人公・加藤幹人(阿久津京介)と、その元相方・奥本隼人(小口隼也)のシーンから始まった。

2人がコンビであった“あの頃”のシーンは、物語に大きく作用することになるのだが、このシーンは追加になったばかりの新シーン。白鳥は心情の運びを丁寧に確認していた。だが、この日初めてセリフを合わせたとは思えない適応力を見せる阿久津と小口、これまで積み重ねてきた創作環境の良さを感じた。

その後、稽古場に全役者が集まり、全体稽古へ入る。
本作で描かれる“世代ならではの悩み”にリアルに直面する白鳥と同世代で組まれた座組は、今の自分だからこその等身大の表現方法を実践し、脚本に真摯に向き合っている印象を受けた。

クラスの中心人物だった藤永優香(西澤香夏)の結婚式を機に集まった同級生たち。幹人が住み込みで働いているカラオケ店に続々と姿を見せ、お互いの生活のことを話したり、悩みを共有したり、マウントを取ったり……そのステージに到達した人であれば、聞き馴染みのあるリアルな会話が繰り広げられていく。

藤永という女性は夢と恋、友情の交差点が描かれる今作の中心人物のひとり。今まさに岐路を迎えようとしている彼女だが、ある重要な事実が物語の中盤以降、明らかになっていく。ひとつひとつの言葉を発するのも難しい境遇に立つ藤永という人間に向き合い、生きようとする西澤の表情は必見だ。

物語の後半で効いてくる重要な役どころを演じるのは安齋彩音。芸人である加藤幹人を長年応援してきた筋金入りのお笑いファン、小石真衣として物語に厚みを出している。

口数の少ない役だが、その立ち振る舞いは切なく、それでいておかしい。目が離せない存在に創り上げられていた。

シーンを取り出しての導線や細かなディティールを確認する作業が続き、スタジオ稽古初日であったこの日は、その後通し稽古に移った。

妊娠を望むが夫の協力が得られない成美(菊地歩)やシングルマザー、ダブルワークで働く磯山(藤綾近)の存在は、物語が提示してくる問題点をより多層的にしていた。30代半ば、理想と現実の間で揺れる人間の内面に迫る真剣なテーマを扱っている……それなのに、思わず笑ってしまうシーンが乱発されるのが、ストスパの真骨頂。山科連太郎が演じるタワマン暮らしの金持ち・秋岡、志賀耕太郎演じるカラオケ店の店長・野地、武藤友祈子が演じる、作中では最も安定した暮らしを手にし、知らぬ間にマウントを取ってしまう女性の葛西、さらには田中達也が演じる職業不明の愛の戦士・榎田が笑いを誘う分、裏に隠れている人生のやるせなさが増幅していく。計算し尽くされた緩急と手堅く固められた俳優たちの生き様に飽きのこない100分となっているはずだ。

また、中島千尋が演じる役は敢えて伏せておく。
物語がうねり出す時、彼女の存在が頭から離れなくなる。

登場人物それぞれにきっと“これは私かもしれない”と共感してしまうところがある。突然訪れてしまう人生の分岐点で、全員がハッピーなエンディングを選ぶわけではないが、どこか優しく自己の存在を肯定してくれる作品。

「それでも前を向く」今作、是非、劇場で目撃し、観劇後“それもまた人生だ”と前向きな気持ちで、夢と希望、恋や友情を育む街・下北沢を歩いてほしい。

取材・文/中島千尋
撮影/金子裕美