Bunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2019『空ばかり見ていた』岩松了 インタビュー

岩松了×森田剛の初タッグが斬りこむ、「恋愛」の曖昧なリアル 

 

「恋」も「愛」も文字にすれば、誰にも伝わりやすい言葉。だが、その中身は実に複雑で、様々な事情、感情に揺れている。来たる3月にシアターコクーンで新作『空ばかり見ていた』を発表する岩松了は、劇作、演出を通じ、そんな恋愛の不安定さ、不確実さをつぶさに見つめようとしている。

岩松「恋愛がそれだけでは成立しない面白さを描きたい。“恋は誤解だ”なんてよく言われることだけど、ただ単に二人の仲が冷めるんじゃなく、たとえば師弟関係や思想的なつながりが途切れたときに恋も冷めることがあるとしたら、その落胆ぶりは喜劇的でしょ。“じゃあ自分は純粋な恋愛をしていなかったんじゃないか”と責める気持ちになったり、“この恋を全うするためにはむしろ結婚するのが筋じゃないのか”と考えたり……そこにはどこか悲劇の色も出てくる」

 

劇中では、敬愛する反政府軍のリーダーの妹と恋愛関係に陥った男と、兄と恋人の関係に近づこうと自ら兵士になることを志願する女、周囲の人間たちの心模様が紐解かれる。主人公の兵士役には、故・蜷川幸雄演出作品でも見せた端正かつ詩情あふれる存在感が印象的な森田剛。様々な意図を含みつつ多くを語らない岩松戯曲に初めて相対する。

岩松「森田くんで兵隊の話をやろうというのは、以前からイメージしていました。僕は余計に動いたりしない、影のある俳優が好きなんです。彼にもそういう印象があって、その“暗さ”がこの芝居をつくっていくうえでの探りどころにもなりそうな気がします」

 

内戦という舞台設定が持つ緊迫感は、恋人たちの感情の振幅をよりビビッドに縁取るだろう。また「戦争」は、岩松自身が長く関心を持ち、様々な作品で扱ってきたモチーフでもある。

岩松「戦争と平和って分離してるわけじゃないもんね。たとえば自分の子どもがかわいいと思う母親は“戦争反対”って言えないって理屈が僕の中にはある。家族が仲良くして、その絆を人に見せるのは、他を排除することにもつながるわけだから。じゃあ“反対”って言うために、残された手立てはもう“程度”しかない。この言葉が、いかに哲学的かを僕は力説したい(笑)」

 

どこまでが愛か、どこからが戦争か。容易には線引きできない「間」にこそ、人の本質が垣間見える瞬間があるのかもしれない。

 

インタビュー・文/鈴木理映子

 

※構成/月刊ローチケ編集部 1月15日号より転載

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【プロフィール】
岩松了

■イワマツ リョウ ’89年に「蒲団と達磨」で岸田國士戯曲賞を受賞。作家、演出家、俳優、映画監督など幅広く活躍している。