『リプリー、あいにくの宇宙ね』|伊藤万理華×井之脇 海インタビュー

ニッポン放送とヨーロッパ企画・上田誠がタッグを組み、エンタメ舞台に取り組むシリーズの第5弾にあたる新作『リプリー、あいにくの宇宙ね』が2025年5月に東京で、6月には高知と大阪で上演される。これは宇宙船を舞台にした“スペースオペラ活劇”で、アクションやポエトリー音楽、そしてもちろん笑いをたっぷり盛り込んだ、壮大かつ緻密なSF喜劇となる。キャストには乃木坂46を卒業後、俳優として話題作に出演、活躍が多岐にわたり、ドラマ『時をかけるな、恋人たち』で既に上田脚本を経験済みの伊藤万理華、主演ドラマ『晩餐ブルース』のほか、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』にも出演中の井之脇海、今作が記念すべき初舞台となる、ミュージシャンにして俳優としての活動も顕著なシシド・カフカ、さらに男性ブランコの浦井のりひろと平井まさあき、かもめんたるの岩崎う大と槙尾ユウスケら、個性派、実力派が顔を揃えることも大きな魅力だ。ローチケ演劇宣言では、この日この時が初対面となる伊藤と井之脇を独占インタビュー! 作品への想いや期待、意気込みを大いに語ってもらった。

――まず、この作品への出演のお話が来た時の、率直な心境はいかがでしたか。
伊藤 上田さんが脚本を書かれたドラマ(『時をかけるな、恋人たち』2023年)で初めて上田さんの作品に出させていただきました。以前から存じ上げていて、実際に上田さんの書かれた世界観で役を演じてみたら、私の勝手な想いですが、とても肌に合っているなと。いつか、上田さんの関わる舞台に出られたらいいなと思っていたので、今回は思いのほか早く念願が叶うことになりとても嬉しかったです。
井之脇 僕は、お話をいただいた時に最初は「なんで僕?」って思いました(笑)。
――どうしてですか?(笑)
井之脇 コメディ作品の経験があまりないですし。そもそも僕自身、コメディをやるような面白い人間でもないので(笑)。上田さんとも面識もなかったので……。
――いきなり、だったんですね。
井之脇 いきなり、でした(笑)。でももちろんヨーロッパ企画さんの、特に映画はいろいろ観ていて、お客さんとして「面白いなあ!」とずっと思っていましたから。お話をいただいてビックリはしましたけど、このタイミングでコメディに挑戦できるのは、いい機会だしありがたいなと思いました。しかも今回は劇団の方に加えて、かもめんたるさんや男性ブランコさんという心強い方々もいらっしゃるので、みなさんに身を任せつつ、楽しんでやれたらいいなと思っています。
――上田さんやヨーロッパ企画の作品に魅かれるのは、たとえばどういうところから。
伊藤 上田さんの作品で、SFファンタジーが日常の中から発生するところが好きです。ふとしたきっかけでタイムリープしたり、日常から急に異質な空間に飛び込むことになる、その展開にいつもワクワクしています。多少ぶっ飛んだ内容になっても違和感なく馴染めるのは、日常に絶妙に寄り添っているからなのかもしれません。もしかしたら、こんな世界が本当にあるのかもしれないなって思えるから。以前ご一緒したドラマも、ちょっとしたきっかけで地下に行くと秘密基地みたいな場所があって……という展開でした。ああいう世界がすごく好きなんです。
――好みだったんですね。
伊藤 そう、独特のシュールさ、会話のテンポ感も好きです。その会話のやりとりに入りたいし、もっと聞いていたいなという気持ちになります。ずっと、あの世界の住人になれたら嬉しいのに、と思っていました。
井之脇 僕も、上田さんの作品は、SFの中に笑いがありつつも日常的な部分があることでなんだか胸がキュッとなる瞬間を感じていましたし、そうやって複層的に広がっていく世界が魅力的だなといつも思っていました。特に印象深いのは映画『サマータイムマシン・ブルース』なんですが、時間を操るのが天才的なんですよね。それはタイムリープするということだけではなくて、会話の間なども含めて、時間というものに対するアンテナの感度の高さを、作品を観るたびに思い知らされていたので。なので、今回の舞台では、台詞の間を大事にしながら取り組んでみたいなと思っています。
――今回は宇宙船を舞台にした作品だということですが、具体的な部分はまだこれからだとは思いますけれども、どんなお話になりそうか、もう少しヒントをいただきたいです。
伊藤 先日、上田さんからどんな物語になるのか、少しお話を聞けたのですが。まず、今回は劇場がコンパクトでお客様との距離も近いので、だからこそコメディに振り切れる、広くないからこそ暴れられるとおっしゃっていました。
――コメディをやりやすい環境かもしれない、ということですね。
伊藤 本多劇場だからできる自由度、というものもあるのかもしれない、とのことです。これまでやってきた大きな劇場では、様々な仕掛けや巨大な画面を使ったりしていて、そういう仕掛けは今回もあるかもしれないのですが、比較的手作業感があるのかなと、予想しています。私が演じるキャラクターとしては、コールドスリープから目覚めた直後からずっとトラブルが続いて、それに不憫な巻き込まれ方をする人なんですね。でも、実際にこうした舞台を作る側としてもトラブルはつきものですから、そことも重ねていけるのかもしれません。
井之脇 舞台は宇宙船で、きっとほぼワンシチュエーション。その密室の中で起こる物語になると思うのですが、ということは、外は静寂の宇宙が広がっているなか宇宙船の明かりだけが光っていて、一方、宇宙船の中では賑やかな物語が繰り広げられている。それは演劇が行われている“箱”の状況とも似ているなと思うんです。つまり演劇を上演中の劇場にはお客さんがいて、その前でさまざまな物語が展開していますけれど、壁の外の世界はそのお芝居には一切関与していない。その対比も面白いですよね。このお芝居が行われている舞台上は、お客さんも含めた一つの宇宙船に思えるような気もしてきます。きっと笑いに関しても、間近に感じられるお客さんからの反応で、僕らの芝居も多少変わることもあるでしょうし。物語が舞台の上だけではなく、客席とも地続きで届くような作品になったらいいなと思っています。あと思ったのは、ワンシチュエーションものということは出演者は逃げられない、ハケられないんじゃないかなと。そんな場所で、常にいろいろなものに巻き込まれ続けるという展開は面白そうでもあり、大変そう……。僕も精一杯がんばります!(笑)
――今回、なかなか面白い顔合わせになっているように思いますが、共演者についてはどう思われていますか。初共演の方も多そうですが、特に気になっている人は。
伊藤 ヨーロッパ企画の石田剛太さん以外はみなさん初めましてです。特に、シシド・カフカさんが今回初舞台だということでしたので、それはすごく意外でした。実は今回の共演が決まる前に、シシドさんが主宰されているバンド、エル・テンポのライブにたまたま伺ったことがあって「すごい、カッコイイ!」と感激していたところだったんです。
――なんだか、運命的ですね。
伊藤 ホントに。しかも初舞台とのことなので、今回の舞台が楽しい思い出になってほしいな、ぜひ楽しい作品を一緒に作り上げたいなと思いました。
井之脇 僕もほとんどの方と初めましてです。シシドさんとは『ひよっこ』にお互い出ているんですが、直接的な絡みはなかったので今回ご一緒できることが本当に楽しみです。あと、芸人さんお二組と一緒にお芝居できるのもすごく面白そうだなと思っています。映像作品で芸人さんと共演すると、みなさん口を揃えて「僕らなんかがお邪魔してます」みたいなことを、こちらはもちろんそんな感覚ではいないですけどおっしゃるんです。だけど今回の演劇は、おそらく本当に肩書きはまったく関係なく、フラットに共演できるのかな、と。しかも、このお二組は普段からお芝居をされている方々なので、役者がやる笑いとも一味違うプロの生み出す新しい笑いを、間近で目撃できたり、笑いの生まれる瞬間を一緒に体験できそうで、今からワクワクしています。
――今回はスペースオペラだとのことなので、やはり歌唱シーンもあるんでしょうか。まあ、伊藤さんはもちろん歌は大丈夫だと思っていますけれども……。

伊藤 いやいや大丈夫じゃないですって、なんで大丈夫だなんて言うんですか!(笑) むしろ全然ダメですよ。
――そうなんですか?(笑) でも今回、歌うんですよね?
伊藤 そうですね。上田さんから聞いているのは、私が以前に歌っていた作品の中で“ポエトリーリーディング”、歌ではあるけど詩を読むような、リズムに合わせたラップみたいな曲があったので、その要素を入れたいとおっしゃっていて。
――それなら大丈夫だ、と?
伊藤 私の声質的には朗々と歌い上げる、みたいなことはできないので(笑)。個性を尊重してくださりつつ、曲を作っていただいています。周りのみなさんに迷惑をかけないよう、がんばります!(笑)
――井之脇さんは、歌は?
井之脇 僕は全然ダメですね。歌うのは、決して嫌いじゃないですけど、お客様の前でとなると自信はないです……。だけど今回の場合は、たぶんそれこそ上手なのがいいというものでもないんじゃないか、とも思うので。場面が面白くなるなら、なんでもやりたいです。
――では最後に、お客様に向けてお誘いのメッセージをいただけますか。
伊藤 コンパクトな親しみやすい空間の中で、さっき井之脇さんがおっしゃった劇場が宇宙船みたいな感覚で、お客様と一緒になってみんなで作り上げていく作品になるといいなと思っています。きっと毎公演、その場で新しいものが生まれていく面白さもありそうですから、一緒に盛り上げつつ楽しんでいただけたら嬉しいです。
井之脇 きっとお客さんをも巻き込んでいくような大きなうねり、渦ができる舞台になると思います。演劇をガッツリ楽しみたい方も、ちょっと笑いたいな、一息つきたいなという人も、どうぞお気軽に劇場にお越しください!

取材・文:田中里津子