
演劇をポップカルチャーに押し上げるべく結成された関西発の劇団、南極(2025年3月17日南極ゴジラより改名)。そんな触込みに違わず、SNSで発信されるビジュアルから舞台上で構築される劇世界に至るまで、群を抜いたデザイン力の高さに近年ますますの注目が集まっている。その魅力は外側のみではない。SF超大作を下敷きにテクノロジーの暴走を描いた前々作『(あたらしい)ジュラシックパーク』、恐竜の絶滅をテーマに青春の終焉と世界の終末を切なく、愛らしく立ち上げた前作『バード・バーダー・バーデスト』など、個性豊かなキャラクターが彩る物語は多くの観客の心をとらえた。昨年にはメンバー全員が上京し、今年1月に株式会社南極の設立を発表。きたる3月26日には新宿シアタートップスにて新作『wowの熱』が開幕する。本特集では、ハード・ソフト面ともにますますの磨きがかかる南極の秘密を紐解くべく、作・演出を手がけるこんにち博士のインタビューとメンバーたちによる座談会をお届けする。新境地となる劇作の展望、劇団結成秘話、メンバーが考える劇団の魅力などについてたっぷりと話を聞いた。
■こんにち博士インタビュー

“恐竜”を一旦封印? 南極新章突入へ
―大盛況となった『バード・バーダー・バーデスト』から半年ぶりの新作です。『wowの熱』ではしばしば劇作のモチーフとしてきた「恐竜」を一度手放し、新たな試みを展開するのだとか。まずは、その着想からお聞かせください。
おっしゃる通りここ最近は恐竜をテーマにしたSF演劇をやってきたのですが、今回は、新宿の街を舞台に南極のメンバーが本人役で登場するメタ演劇の要素を含んだ作品を上演する予定です。過去二作は自分たちが学生時代の頃に思っていたことを恐竜に反映し、現実をSFに繋げる形で作っていたのですが、この新作では今住んでいる世界にSFを侵食させることがやりたくて…。もう少しわかりやすく言うと、僕たち南極がSFの世界に巻き込まれる、という形になるのではないかなと思っています。
―いつもと違うモチーフや方法で劇作に取り組むに至るにはどんな経緯があったのでしょう?
毎回最初にタイトルを決めて、そこから劇作を拡げていくという形をとっているのですが、『wowの熱』に決めた時は新宿シアタートップスで上演することだけが決まっている状態でした。そんな中で、このタイトルでトップスで上演するのであれば、ファンタジックな物語よりはもう少し生っぽい、俳優それぞれの持ち味が活かせるようなことをやりたいと思ったんです。とくに今回はメンバーのみでの公演なので、より個人がフューチャーされるような試みがしたいという思いもありました。タイトルは『wowの熱』以外にもいくつか候補があったのですが、みんなに共有して意見をもらう中でこれにしようと決めた感じでした。
―シアタートップスで上演するにあたって、他に新たに挑戦しようと思っていることはありますか?
僕は基本的に俳優にあてがきをするんですけど、それと同時に劇場にもあてがきをしているんですよね。なので、場との親和性というか、その場で起こせそうな反響を取り入れつつ、今回もこの劇場でしかできないことをやりたいと思っています。見学に行った時、改めて「ほんまに新宿のど真ん中や!」って思ったんですけど、物語においても演出においてもすごく想像力が駆り立てられる空間だったんですよね。せっかく新宿のど真ん中で上演するので、劇場内だけでなく、新宿という街そのものやその中にこの空間があるということも含めて劇に活かしたいですし、それが観客の方にとっても物語のフックになるといいなと思っています。
―新たな物語を執筆するにあたって影響を受けた題材や出来事はありますか?
僕は寺山修司の『あゝ、荒野』という小説がすごく好きなのですが、それも新宿が舞台の話なので、とくに後半の執筆に関して影響された部分があります。南極の作品は、割と具体的で、ポップで愉快な印象があると思うのですが、今回はそこに終始せず、俳優の感情やその細かな機微、具体化しにくい部分もしっかり見せようと思って書き進めました。そのあたりもこれまでにはない新たな試みになっています。
―新境地に挑むにあたって苦労したことや新たに気づいたことなどはありましたか?
やはり本人役のあてがきは思ったよりも難しく、色々苦戦はしていますね。本人という存在は超現実だけど、内容はSFなので、その人がどうSFに巻き込まれていくのかを描くにあたってのバランスがとくに難しいです。SFに寄せすぎると本人役でやる意味がないし、かといって、本人性を作品に落とし込みすぎるのも違和感が生じるので、その濃度や扱い方のバランスについてはかなり見極めが必要だなと思っています。でも、うまくいったらめちゃくちゃ面白くなるはずなので、稽古を積み重ねることでベストを目指していけたらと考えています。
―各々が関西で演劇活動をしていた時期を経て、東京を拠点に旗揚げ。そこから5年ですが、とくにこの2年はますますの注目が集まってきたように感じます。劇作家・こんにち博士としての心境の変化などはありましたか?
「新しいことをやりたい」というよりは、「見たことないことをやりたい」っていうのがすごくあって…。例えば、同じ「恐竜」をテーマにするにしても、公演毎にやったことのない要素を取り入れた上で形にしたいと思っているんですよね。中でも南極でやる上では、うまくいくかわからないこと、どう転ぶか未知数な挑戦に取り組みたい気持ちがあります。今日も稽古しながら、みんなで「これ、どうなるかわからんな」って言いながらなんとか実現できるように試行錯誤をしていたんですけど…(笑)。でも、そのトライがうまくいった時はやっぱりすごく嬉しいし、楽しいんです。あと、たとえうまくいかなくても、南極を続ける上では一つ一つが大事なフィードバックになるとも思っているので、執筆も稽古も見たことない景色に向かって果敢にトライしたいと思っています。
上京と社会人生活によって目覚めた作家性
―創作の可能性に溢れた刺激的な稽古場でした! 南極以前の歩みについても少しお聞きしたいのですが、こんにち博士さんが演劇始めようと思ったのはいつ頃だったのでしょう?
大学の映画研究部に入ろうと思っていたんですけど、ひょんなことから演劇部に入っちゃって…(笑)。でも、演劇が楽しかったのでやめようとは全くならなかったですね。大学の時は戯曲を書くことはおろか、オリジナルをやることもほとんどなく、キャラメルボックスや第三舞台などの既成の台本お借りして主に俳優として活動していました。関西育ちということもあり、小さい頃から吉本新喜劇がすごく好きで、それが一つの演劇の原体験になっている気もします。だから、演劇部でも「笑いを取りたい!」という気持ちが強くて、静かにしとかないとあかんシーンで台本から外れて関係ないボケをやり続けたりしていましたね。今から思うと考えられないんですけど、それはそれですごく楽しかったです(笑)。
―キャラメルボックスや第三舞台! 今の作風からはちょっと想像できない、意外な経歴がお聞きできました。その後オリジナルの劇作に挑戦するようになるに至るにはどんな経緯があったのでしょう?
大学の時も後半にちょこっと書いたりはしていたんですけど、本格的に作・演出をやるようになったのは南極ゴジラの旗揚げがきっかけですね。でも、子どもの頃から世界観を作ることがすごく好きで、レゴを使って一つの世界やその中での設定を考えたり、自分でオリジナルのカードゲーム作ったりとかしていました。在学時に書いた作品では「その場が盛り上がるバカバカしいことをやろう」くらいに思っていたんですけど、就職して社会人として働き始めたことで見える景色が広がって、書くものにも変化が生まれました。
―なるほど。具体的にはどんな変化があったのでしょう?
劇団に力を入れるために数ヶ月前に退社をしたのですが、ここ数年の会社員生活には「かっこいいな」と思う人との出会いや出来事がすごくたくさんあったんですよね。いつからか、そういう出来事をSFやファンタジーを通じて劇にしたい、と思うようになって…。あと、東京に出てきたことも大きかったですね。大阪の地元で暮らしていた頃には出会ったことのないような人や初めて目や耳にすることが溢れていて、そのことによって地元の良さに気づくこともあったし、物事への解像度がグッと上がったんです。なので、東京での社会人生活は自分の作家性の原点であるような気がします。

南極のポリシーと今後の展望
―執筆における原点や転機。これまでの歩みの豊かさが伺えるお話です。演出家としてこだわっているところはどんなところでしょうか?
演出に関しては極力具体的にしたいという思いがあります。例えば、飲み物が沸騰するシーンがあったら、本当に沸騰しているように見せたいし、水に飛び込むシーンでは本当に濡れているように見せたくて…。舞台表現においてはお客さんの想像力をお借りしたり、そこに託すような部分もあるのですが、全部を委ねるのではなく、その想像がきちんと働くような風景が必要だと思っています。ここ最近はとくに、具体的にビジュアルで見せる部分と想像力によって立ち上げる部分をコントロールするのが演出の仕事だと思って取り組んでいます。それは劇以外の部分にも言えることで、お客さんが劇場に来るまでにビジュアルを見て、なんとなく「こんな劇になるのかな」と想像してくれているところをいい意味で裏切れるような…。そんな風に体験全部をデザインしたものをしっかりと作り、届けることを大切にしています。
―オリジナルの楽曲をはじめ、個性の光る衣装や美術、あとグッズなどへのこだわりにも通じるお話ですね。
音楽を作ってくれるメンバーやイラストを描いてくれるメンバーがいることはとても心強いですね。それぞれが得意分野を持っていることは南極の強みだし、その強みを活かして各々の力が発揮されるポジションを割り振るのもすごく楽しいです。みんなが持っている能力が互いを高めてくれているし、とりわけ公演の時にはその掛け算のパワーを痛感します。お客さんが目に触れたり、耳で聞いたり、あと、来る前に読んだりするものはできる限り全部ちゃんと世界観を作り上げたい。そんな思いがあります。
―旗揚げから5年の節目となる新作『wowの熱』は、そんな風にメンバー一丸となって培ってきた強みと新たな挑戦のどちらもが詰まった作品になりそうですね。
ここ数年で「恐竜」というテーマをあらゆる角度から深掘りしたことで、そのテーマでは一旦やり尽くしたという実感がありますし、同時に、作品から作品へのある種の接続も感じています。恐竜たちが絶滅を迎えて、その荒れた大地で今度は一体何が始まるのか。僕の中ではそんな視点で新作をとらえている部分もあります。恐竜の絶滅後、氷河期という厳しい状況の中で体温を保てる哺乳類が生き残り、どんな世界が築いたのか。そんな人類史的なところも意識しながら新作を作っていけたらと思っています。
―タイトルにある“熱”という言葉の源流にも少し触れられるお話です。最後に、この上演を経て今後はどんな景色を描いているのか、南極の展望をお聞かせください。
僕らには試してみたいことや挑戦したいことがまだまだいっぱいあるのですが、それを叶えるためにはやっぱり劇場の大きさが必要になってくるんですよね。それは物理的な美術の大きさの話であったりもするし、どんな人たちと一緒に作品を作りたいかという展望でもあります。なので、自分たちのアイデアや表現を一つでも多く形にしていくために劇団としても大きく成長していかなくてはと思っています。「有名になりたい」という漠然としたビジョンではなく、自分たちのやりたいことが全部やり切れる劇場で公演ができるようになりたい。ここ1、2年でよりそういう思いが強くなりました。公演毎に倍に倍にと成長していく気持ちで。新作『wowの熱』もそんな意気込みで取り組んでいけたらと思っています。
■メンバー座談会

今回は稽古後にメンバーを交えた座談会も開催。作・演出を手がけるこんにち博士とメンバーでキャストのユガミノーマル、端栞里、和久井千尋、古田絵夢、ポクシン・トガワ、九條えり花、井上耕輔の8名に南極の個性や強み、新作『wowの熱』の魅力について語ってもらった。
※座談会時は不在だったメンバー瀬安勇志、揺楽瑠香も本作に出演する。
結成はコロナど真ん中、2020年春
―まずは南極ゴジラ結成のきっかけ、それぞれの入団の決め手からお聞かせ下さい。
こんにち博士 2020年に結成をしたのですが、メンバーの入団はほぼみんな同時期で、その後しばらくして端栞里が入団してくれて今の編成になりました。最初はキャプテンのユガミノーマルがみんなに声をかけてくれたんです。
ユガミノーマル こんにち博士との間で「劇団をやろう」という話は少し前から出ていたので、いよいよとなった時に一人ずつ電話をかけて「南極ゴジラというのをやろうと思うんやけど、入りませんか?」とお誘いをしました。
こんにち博士 関西大学に演劇部がいくつかあって、そこ出身の人が多いのでなんとなくの母体ではあるのですが、和久井千尋とは別の大学で演劇部の活動の中で知り合っていたり、ポクシン・トガワは元々は僕の高校からの友達だったり、そういう馴れ初めのメンバーもいます。
ポクシン・トガワ そうなんです。僕は演劇をやっていたわけではなく、それこそ高校の学園祭でこんにち博士とちょっと一緒に劇をやったくらいで…。
こんにち博士 そうそう。だから付き合いは一番長いんですよ。それで言うと、栞里だけが入団の決め手みたいなのがあったんじゃないかな?
端栞里 私が入団したのは結成1年経ったくらいの頃。メンバーがみんな役者やったから裏方を支えるマネージャーを募集していたんですよ。私は当時高校生で、その時から役者志望やったんですけど、「南極ゴジラは売れそうやから、裏方でもいいからとりあえず入ろう!」と思って応募して…。結局、俳優として出ています。
こんにち博士 めちゃくちゃ出ています!(笑)
―まさかそんな背景があったとは! ちなみに「売れそう」という直感はどんなところに感じたんですか?
端栞里 高校生の時に小劇場にハマって、学生演劇を観まくってたんです。そんな中で「南極ゴジラ結成」みたいなツイートが流れてきたんですけど、小劇場の結成ツイートにしてはやたらとバズ、いや、伸びていて…(笑)。
こんにち博士 うん。バズってはないもんな!
端栞里 一瞬バズってたって言おうと思ったけど、そこまでではなかったと思ってやめました(笑)。でも、盛り上がってはいたし、何より打ち出しているビジュアルやデザイン、SNSの運用が図抜けていたので、それも決め手でしたね。
こんにち博士 結成がコロナ禍ど真ん中の2020年春だったこともあり、しばらくは自宅待機で一度も会わずにラジオドラマを作る、みたいな活動しかできなかったんですよ。そういう経緯もあって、落ち着いたタイミングで集まって、「劇団としての写真をしっかり撮りたい」と思っていたんです。学生の頃は公演に向けて写真を撮ったり宣伝をすることで精一杯だったので、劇団そのものを知ってもらうための発信を意識しました。結成当初はメンバーの半分くらいがまだ関西に住んでいて、そこから徐々に上京をしたという感じで、去年の今頃に全員が東京に揃いました。でも、初めての東京公演はやはり厳しくて、客席も全然埋まらなくて…。
それぞれの人生にとって「南極」とは?
―そんな時期を乗り越え、着々と注目を集め、前作『バード・バーダー・バーデスト』では連日大盛況となりました。現在は東京を拠点に据え、会社の立ち上げも発表され、ますます精力的な活動にも期待が高まりますが、みなさんにとって「南極」とはどんなカンパニーでしょうか?
井上耕輔 ちょっと突っ込んだ話になってしまうのですが、僕は家庭が複雑というか、ちょっとしんどい環境で育ってきたこともあり、最初はこのアットホームな空気に戸惑い、馴染むのにも少し時間がかかったんですよ。でも、一緒に過ごす時間が長くなるにつれて、家族の温かさや優しさってこういう感じなんかなって。そんな風に感じるようになりました。これまでの自分が経験してこなかったことができる場所でもあります。
ユガミノーマル たしかに南極はみんなで一緒に過ごす時間が多い団体なんじゃないかなと思います。昔から合宿もよくやっていたし、今でも本番前の1週間くらいは泊まり込みで芝居を固めることもあって、その間は寝食を共にしているので自然に一体感が生まれるんですよね。性格も生活リズムもみんなバラバラだから、朝型のメンバーに叩き起こされたりとかもあるんですけど…(笑)。でも、そんな風に全員でぐっと力を入れて演劇に打ち込む時間は南極独特のグルーヴ感に繋がっている気がしますし、強みだとも思います。
和久井千尋 僕にとっては、生活の中で最も彩りのある部分ですね。平日はサラリーマンとして働いていて、かつ家庭もある中で活動をさせてもらっているので、なかなか全部の稽古に参加することはできないんですけど、みんなに寄り添ってもらいながら出演までできているのがすごくありがたいなと思っています。社会人としての生活やそこで得たコミュニケーションを劇団活動に活かせたりもするので、相互に還元できることがすごく嬉しいですし、今後はもっと高いレベルでそういう役割を担えたらいいなと思っています。
ポクシン・トガワ 僕は「作る」ということにものすごくこだわる団体だなと思っています。今まさに準備を進めている『wowの熱』もそうですし、前作『バード・バーダー・バーデスト』もそうだったのですが、小道具から音楽に至るまで全てのものをギリギリまで突き詰めて作り続ける人たちなんですよ。そういう妥協のないクリエーションに挑み続けるメンバーが好きだし、自分もそこに惹かれて南極にいるのだろうなと思います。
九條えり花 私は結成してからもしばらくの間、実家のある滋賀に住んでいて、稽古にもなかなか参加ができなかったんですよ。そんな中で「自分には何ができ、どういうことで団体に貢献できるんだろう」っていうのをずっと考え続けていて…。正直、それまでの人生では悩みという悩みがなくて、家庭も友人関係も受験も就活もいろんなことがあったけど、挫折の経験もこれといってない人生だったんです。でも、南極ゴジラに入ってからのこの5年はそうはいかなくて、めちゃくちゃ悩みました。
ユガミノーマル それは初耳の情報!
こんにち博士 たしかに聞いたことなかった!
九條えり花 南極ゴジラに入ってからは自分の人生についてもすごく考えるし、創作の豊かさややりがいを感じつつ、だからこそ「苦しいな」って思う瞬間もあって、理解も悩みもより深みを増した気がするんですよね。そういう意味では、人間として成長をさせてくれる場所でもあるのだと思います。
古田絵夢 私は劇団化する前に1回出させてもらったことがあったんですけど、以降は就職していたので出られなかったんですよ。そんな中で「劇団化するので入りませんか?」って電話をもらった時は選んでもらえたことがすごくうれしかったんですよね。そこから仕事もやめて、南極ゴジラにベットする日々が始まったんですけど、すごく楽しいです。なんというか、自分たちの関係を人に説明するときに「劇団員」ではなく「友達」って言いたい自分がいるんですよね。「稽古でこのシーンやるのしんどいな」と思った時もみんなに会えるのが嬉しいから行くし、やっぱりすごく“楽しい場所”なんだと思います。
こんにち博士 絵夢はイラストとかデザインも色々担当してくれているんですよ。
古田絵夢 めんどくさがりなので、自分一人やったらなかなか形にできなかったりするんですけど、南極ゴジラに入ってからは嫌でも締切がやってくるので、それもありがたかったです(笑)。劇団化したばかりの時に描いたイラストは見てられないほど下手くそなんですけど、そう思えるくらいこの5年でいろんなことをやらせてもらったのだとも思います。
端栞里 私にとっても“楽しい場所”がしっくりくるかも。一番気楽にいられる人たちであり、一番好きな場所であり、一番面白い台本であり…。そこで、一番好きな俳優業ができる。こんなに楽しいことが集結した場所ってないんじゃないかなって思っています。他の団体に客演することや映像の仕事をすることもあるので、一人の俳優としても売れたいと思っていますし、同時に南極としても売れたいです。稽古場ではホッとしすぎて「もっと気を張らないと!」と思う時も…(笑)。そのくらいホームな場所です。
こんにち博士 僕もとにかく楽しくて、今は自分の時間の容量の全てを南極の活動に割いている状態なんですけど、それくらいの意味があると思っているんです。大袈裟でなく、人生をかける価値あるなと思っているから。
全員 お〜!
こんにち博士 そう思って会社もやめたんですけど、後悔は一切していないです。なぜなら、南極には人生をかける価値があると思っているから!!
ユガミノーマル 二回言った〜!!
『wowの熱』では本人が本人役として登場?!
―団体の個性が伝わる熱いエピソードの数々、ありがとうございます!では、来たる新作『wowの熱』の魅力や見どころ、作品に寄せるメッセージを一言ずつお願いします。
こんにち博士 今回の最大の特徴はやっぱり南極のみんながそのまま本人を演じるところかなと思っています。これまでは誰が見ても分かりやすい、キャラクター化した役をそれぞれに書いて演じてもらっていたので、南極にとって新たな魅力を打ち出せる作品になるのではないかと思っています。その分苦戦しているところももちろんあるのですが、本人のことを知っていてもいなくても、純粋に物語として面白がってもらえるものを目指していきたいと思っています。
ユガミノーマル こんちゃん(こんにち博士)は毎回一人ひとりのキャラに合ったあてがきをしてくれるんですけど、作品を重ねる毎にその濃度や精度が上がっていて、自分が表には出してなかった部分や自分ですら気づかなかった一面もが反映されていて思わずドキッとしたりします。『wowの熱』はまさにその極地のような作品。本と自分が追いかけっこをしているというか、役を通じて自分と対話と重ねるような感覚もあってすごく刺激的ですね。
ポクシン・トガワ 自分もなんですけど、メンバーのあてがきも絶妙なんですよね。中でも僕が個人的に笑ったのは、和久井と耕輔が台本の中にそのまんまいるということでした。「二人は絶対こう言うやろうな」ってところを物語の中に当てているのがすごく面白かったですね。だから、自分が出ていないシーンの稽古を見ているのも楽しい。ト書きには毎回「これどうやって表現するんやろう?」ってことがいっぱい書いてあるんですけど、それをどうにかみんなで試行錯誤しながら実現する時間も楽しいんですよね。今回で言うと、例えば、「ユガミの頭が飛んでいく」とか…(笑)。どうなるかわからへんことがいっぱいあるのも魅力ですね。
井上耕輔 今回は作品のテーマ自体が「南極」だったりもするので、個々の自己紹介だけでなく、劇を通して改めて「南極」というものを紹介しているような感触もありますよね。少なくとも僕の中では見たことのない構成で、この新しい演劇をしっかりと形にできたらすごいものが生まれるのではないかと思っています。同時に「これをしくじったらやばいな」という緊張感もあって、その瀬戸際をどうにか昇華させて「これが南極だ!」っていうものができたらと思っています。
和久井千尋 個人としての存在感や技量をしっかり見せられる公演にしたいなとも思います。今まではどちらかというと、集団としての魅せる力やグルーヴ感に重きをおいていて、実際にそこを評価してもらったりもしていたのですが、互いにカバーし合う部分も多かったんですよね。でも、今回は一人ひとりの役割がはっきりしている分逃げ場がないですし、お客さんとの距離も近い劇場なので、プレッシャーもありますが、腕の上げどころだと思ってしっかり自分の持ち味を発揮できたらと思います。
九條えり花 劇場との親和性も魅力だと思います!南極としては初となる新宿シアタートップスなのですが、今回の作品にはここしかないと思うくらいハマっているんですよ。前作『バード・バーダー・バーデスト』はすみだパークスタジオで、恐竜時代という設定と劇場の倉庫感が良く合っていたと思うのですが、今回は物語の舞台が新宿だし、劇中に新宿っていうワードも結構出てくるんですよ。なので、お客さんも観終わって劇場から外へ出た時に地続きになっているような体験をしていただけるんじゃないかなと思っていて…。濃度の高い体験型演劇になりそうなので、是非その魅力も体感していただけたらなと思います。
古田絵夢 それで言ったら、美術もすごいことになりそう!前作、前々作と同じく、いとうすずらんさんが手がけて下さるのですが、稽古中に説明を聞いているだけでもすごくワクワクするような空間になりそうなんです。今の段階では想像がつかないような風景が劇場で見られると思うので、そこも含めて楽しみにしてもらえたらと思います。あと、「南極」をテーマにした演劇ではあるんですけど、南極を知らない人や演劇を初めて観る人にとっても面白い作品に仕上げられたらと思いますし、いろんな方のご感想が聞けたらなと思っています!
端栞里 劇団員が本人役として出てくるパートと『wowの熱』という劇をやるパートの二つが抱き合わせになっていて、物語とメタ構造のどちらもを堪能できる作品になっているんですよね。『wowの熱』の物語パートとしては舞台が中学校で、一人ひとりがキャラ立ちしていてちょっとアニメっぽくもあって、南極のカラーが存分に出ているのでいつも通り楽しんでもらえると思います。そこにメタがどう絡んでいくのかは現状予測不可能なんですけど、きっとこの作品でしか見られないものができると思います。フィクションとノンフィクションが混ざったり、繋がったりしていく様子を是非一緒に面白がってもらえたらと思います!
インタビュー・文/丘田ミイ子