フライングシアター自由劇場 第5回公演「そよ風と魔女たちとマクベスと」開幕!

2025.04.28

新マクベス伝説が
Neoマクベス・十二夜によって作られた

国王暗殺というとんでもない大それた行動までして、憧れの地位を得たマクベス夫婦。それはギリシャ悲劇をも思わせるような運命に操られたものだ。
そう、少なくとも予言に心動かされた者、マクベスの悲劇がそこにある。

しかもこの串田脚色の舞台では、マクベスを予言で操る魔女は8人も登場する。
幕開け早々、マクベスの演説の「みなさん、そよ風にはご用心」と言った直後に、白い大きな布を貼ったパーテーションに映し出されたシルエットから一斉に(あるいはわさわさと)飛び出してくる魔女たちが口々に“クチュクチュ!”とか“ブルブル”とか魔女語でリズムを刻み、また口琴やカズーといった楽器で囃し立て、お馴染み「きれいは汚い 汚いはきれい」とハモりながら場を去る‥‥。

串田和美が《マクベス》を上演すること六度め、が、そこにはコピー&ペーストの演出はない。
もちろん上演した時代も違うし、俳優も違うのだが、まずはタイトルロールの串田十二夜のマクベス。亡霊以上に時代を超えた魔女という超自然の存在と相対して、心の内部にまで達する闇、罪の深さが感じられ、愚かな人間が作る歴史について語る名台詞もストレートに通じ心にしみてきた。今回令和のこの時代に起きているウクライナ侵攻を筆頭とする紛争に対する串田の“時代に対するそよ風感”が一歩踏み込んだ形となって表現しているようだ。

一方で、マクベス以上に野望をたぎらせ、夫をたきつける夫人も、その内なる野望に目覚め、野望のために滅んでいく姿を、血まみれのグローブも含めて真っ赤が似合う大空ゆうひが中身の濃い演技で迫っていた。これがあったからこそ、最後の串田シートン(この場では魔女役)との「LongLongAgo」の詩の掛け合いが心に沁みてくるのだ。

幕間狂言のように後半突然現れる三河漫才ならぬ沙翁漫才、ノゾエ征爾と串田和美のコンビ(この場面のみノゾエ執筆)、反町鬼郎とさとうこうじの“ロストアンガス”凸凹コンビも軽快で好調だ。
段ボール仕立ての大きな兵士たちの攻防もあれば、ボトルの頭に特製人形を設えて乾杯!するなど、シンプルな中にも想像力をかき立てる美術の空気感、こんなところにも“そよ風”を感じ、最後には森があたかも動いてるような、灯火が吹き消され塵になる王の姿が目に浮かぶようだ。

どこまでも《そよ風と魔女たちとマクベスと》遊べる2時間だった。

(演劇ライター:佐藤優)

舞台写真

撮影:串田明緒