らんぶる第一回公演『晩節荒らし』|佐藤誓+山西惇インタビュー


佐藤誓と山西惇の演劇ユニット、記念すべき旗揚げ公演は30役以上を演じ分ける二人芝居

さまざまな話題作に出演し、いずれも毎回印象に残る役を演じ続けているベテラン演技派俳優の二人、佐藤誓と山西惇。実は同い年だという彼らが還暦を機に一念発起、構想足掛け3年を経て演劇ユニット“らんぶる”を結成!(ちなみに、このユニット名は二人がいつも打ち合わせに利用していた老舗の名曲喫茶の店名が由来だとか)その記念すべき旗揚げ公演は、独特の切なさとロマンに満ちた一癖ある物語と演出で高い評価を得ている福原充則が作・演出を手掛ける『晩節荒らし』を上演する。この舞台で二人が演じる役は、じっくりと人生を表現する役もあれば一言のみで退場する役まで合わせてなんと30役以上!果たして二人はこのチャレンジにいかに取り組むのか……? 本格的な稽古がいよいよ始まるという5月下旬、ユニット結成のいきさつから作品への想いなどを、出来立ての“らんぶる”Tシャツがお似合いの二人にたっぷり語ってもらった。

 

――お二人が初めて共演されたのは、ミュージカル『生きる』(2018年、2020年)だったとか。それ以前から、面識はおありだったんですよね?

山西 お互いの芝居を、お客さんとして観たりはしていました。

佐藤 だけど個人的に一緒に飲みに行ったりはしていなかったですね。だから、実は同い年だということも『生きる』で共演した時に初めて知って。


――では、どこのタイミングでユニットを組む流れになったんですか。

佐藤 本当は還暦記念でやりたかったんですけど、そのためにはもっとずっと前から準備しておかなければいけなかったので、結局その年にはできなくて。

山西 確か、誓さんからのあけましておめでとうLINEに「二人でちょっとなんかやらない?」って書いてあったんですよ。それで僕も「あ、それ、いいんじゃないですか」って大して深く考えずに返信して。それが最初のきっかけだったと思いますね。

佐藤 『生きる』はミュージカルで、同じ市役所職員という役柄同士ではあったんだけどお芝居でガッツリ絡む感じではなかったから、山西くんとは改めて共演したいと思っていたんです。でも今にして思えば、よく声かけたなあと思いますね。ちょうど還暦にもなり、加えてその頃はコロナ禍でもあり、やりたいことはどんどんやらなきゃダメだなとか、あと何本芝居できるだろうとか、いろいろ考えることも多くて。もしかしたら、また別の芝居で共演できるかもしれないけれども。


――それを待ってはいられない、と。

佐藤 そう、それで思い切って誘ってみたわけです。


――二人芝居をやろうというのは、最初から?

佐藤 一応、そうでしたね。でも準備を進めるうち、とにかく山西くんとガッツリ芝居ができるのなら、もう一人誰かいて三人芝居でもいいかもなと思った時期もありました。だけどせっかく二人でユニットを結成するわけなので、その第一回公演はやはり二人芝居がいいんじゃないですかって、山西くんが言ったんですよ。

山西 そうでした(笑)。純粋に、二人で始めるんだからそのほうがいいかな、と。僕、声をかけてもらった時にパッと浮かんだのが、綾田俊樹さんとベンガルさんがお二人で年イチくらいのペースでやっていらしたユニット(綾ベン企画)のことだったんです。毎回違う女優さんをゲストに呼んだりしながら続けていた、あの公演が僕すっごい好きでね。ああいう俳優主導の自由度の高いユニットみたいなのを、このおじさん二人でやるのは面白いかもしれない、だから一回目は、やはりまずは二人しか出てないほうがいいかなと思ったんですよ。


――そして第一回公演を福原充則さんの作・演出で、となったのは。

山西 たまたま芝居を観に行った時に、僕の隣の席が福原くんで。僕自身は福原くんは知らない仲ではなく、近藤芳正さんと一緒にやっていたダンダンブエノという劇団にも一本書いてもらっていたし(『ハイ!ミラクルズ』2008年)、明石家さんまさんと一緒にやらせてもらっていたシリーズにも福原くんが書いた芝居があって(『七転抜刀!戸塚宿』2020年)。

佐藤 そういえば山西くんが出ていた“劇団500歳の会”(2012年)の演出も、福原くんだったよね?

山西 そうでしたそうでした。こうして振り返ると節目節目で出会ってる感じがありますね。それで「今度、誓さんとユニット組もうと思ってるんだけど」と話してみたら「いいじゃないですか」と言ってくれたんで「ちなみにこの期間ってスケジュール、どう?」と聞くと「いけるかもしれません」と。

佐藤 でも、結構無理やりだったよね、福原くんもめちゃくちゃ忙しい人だから。演劇だけでなく映像も含め、書かなきゃいけない脚本もあれば演出の仕事もあるし。


――福原さんに書いてもらうにあたり、お二人から何かリクエストを出したりもしたんですか?

山西 僕は、福原くんの劇世界の相当なファンなので、この二人にどんなことやってほしいか、ということで好きに書いてください!とお願いしました。

佐藤 僕のほうは、福原くんと以前から知り合いではあったし、いつか一緒にやりたいねという話はしていたんですが、芝居を一緒に作るのは今回が初めてなんです。それで福原くんから「最近、何が気になりますか、どんなことに興味がありますか」と最初に聞かれた時には「老いとか死ですね」って話をしたんです。実際、還暦を迎えてそういうことを考えることが多くなっていたし、ただ、この二人を使って遊んでもらえたら、とも思っていました。そうしたら、こんな物語を書いてきてくれた、という(笑)。

山西 それにしても、おそらくラクさせてはくれないんだろうなと覚悟はしていたけど、まさか二人だけでこんなにいろんな役を演じることになるとは(笑)。

佐藤 ちょっと予想を超えてました(笑)。


――台本を読ませていただいて、たった二人でここまでたくさんの役を、しかもとんでもないハイスピードで切り替えながら演じ分けるんだ、大丈夫?」と思いました(笑)。ただ読んでいるだけでもこんがらがってきそうなのに、と。

山西 セリフを覚えながら読んでいて、たまにちょっと不安になる時がある、「あれ? こっちの役が俺だったよな?」って(笑)。

佐藤 たとえば、映像を使って役名を出したり、名札を付けておけば簡単なんですけどね(笑)。


――着替える暇もなさそうですし。台本を手にして、まずは役の多さに驚く感じでしたか。

山西 「そうか、こういうのを書いてきたか!」とは思いました。ただ、ストーリー的には群像劇みたいな印象もあって、メインの役どころで言うと三人の男たちがいて、ロードムービー的な展開もあって。僕はそういう系統の映画が好きなので、自分が演じることを考えずに読むと(笑)、とても面白い話だとは思ったんですが。


――物語としては面白いんだけれど、それをどうやって演じるのかを考えると。

山西 考え出しちゃうと、もう大変(笑)。だけど今はまだ覚えている最中なんですが、キャラクターをしっかりイメージして書かれていることはすごくよくわかるんですよ。言葉遣いとか言葉の選び方で、この人はこういう言葉を選んで喋る人なんだなというのが伝わってくるし。だからとにかくこの脚本を信頼して、あとは演じ分けるだけです。といってももちろん難しいですけど。それぞれの役の声を探して、喋るスピードとか息継ぎの多さ、もっちゃり喋る人なのかスラスラ喋る人なのか、そんなことをイメージしつつちょっとずつ覚えていこうかなと思っているところです。

佐藤 僕もキャラクターがはっきり腑に落ちてからのほうが、セリフは覚えられそうだなとは思いつつ。でも、いかにうまく演じ分けられるかということはあまり考えてないようにしています。あくまでも、この『晩節荒らし』という物語を伝えるためにたくさんの役を演じるのだと考えています。ある意味、ちょっと落語に近いかもしれないですね、だから噺家さんの演じ分け方みたいなことを二人でやっていけば伝わっていくんではないかなぁと。その上で、あとはお客様の想像力に委ねられたら、と思います。


――そこが、大事ですね。

佐藤 のほほんと観ているのではなく、ぜひ積極的に参加していただいて。これはどんな役なんだろうと想像しながら一生懸命、観ていただきたい。


――お客さんが芝居を観ながらそうやって想像することを楽しみ出すと、ますます面白くなっていきそうです。

山西 確かに、そう思います。

佐藤 一回引っ込んで、着替えて別の役で出てくるのではなくて、その場で瞬間的に役が変わったりもしますから。

山西 シーンによっては、舞台に立っているのは二人なんだけど、そこには別の人も何人かいるみたいなシーンもあったりしますし。


――少し立ち位置が変わると、違う人になる。

山西 その姿を脳内で再生しながら観ていただく、と。


――お二人で30役以上演じられますが。

佐藤 ま、一言しかセリフがない役もありますけど(笑)。


――特に気になっている役とか、好きな場面はありますか。

山西 二人共女性を演じるんですが、誓さんは女性役が何役かあって、それがまたみんな魅力的な女性なんですよ。

佐藤 妙に可愛いというかね。女同士のシーンもあるし、男と女のシーンもあるし。


――そもそも、とてもいいお話なんですよね。

山西 そうなんですよ!

佐藤 それがちゃんと伝わるようにしたいですね。

山西 以前『キネマと恋人』(KERA・MAP#007 2016年、#009 2019年)で、誓さんが女郎の役を演じられていたのを客席で僕は観ていたんですけど。すごく良かったんです。演じているのではなく「あ、女の人になってる!」と思えて。男優が女性をやるというのは、つまりこういうやり方なんだなと思ったんです。

佐藤 ま、どう頑張っても美しくはならないんでね(笑)。


――だけど、花組芝居に所属されていたということは。

山西 引き出しがものすごくあるんだと思うんです。

佐藤 花組の加納(幸和)さんから教わったものもたくさんありますし、あとは麿赤児さんが少女役をやったりした時の、あの超越した感じも可愛らしかったし。それから若松武史さんも、これが男が女をやるってことじゃないかなと思わされましたし。もちろん歌舞伎俳優さんとかで、本当に綺麗な女形さんもいらっしゃいますが、自分はそこを目指しているわけではないので(笑)。だけど基本的に今回の脚本は、演じる女性とその相手役の男性との会話を口に出して読むだけで、なんかしっくりくるというか。そんなに無理しなくてもいいんじゃないか、と思えるようなセリフになっているんですよ。


――ごく自然に、成立しそうな気がします。

山西 そこも、すごく楽しみなところなんです。ホント、とってもロマンチックなカップルが出てくるので。


――胸がキュンとしそうです。

山西 それをおじさん二人が演じて、そのキュン度合いがちゃんと伝わっていたら相当いいんじゃないか、と思います(笑)。

佐藤 つまり、相手役をキュンとさせればいいんだよね。

山西 そうそう、まずはお互いをキュンとさせることが大事(笑)。


――では最後に、お客様に向けてお誘いの言葉をいただけますか。

佐藤 とにかく、一緒に舞台を作りに来てもらいたいです。もちろん、俳優が決してサボろうとしているわけでも丸投げしているわけでもありません(笑)。僕たちも頑張って演じますので、それを想像力で何倍にも膨らませて楽しんでいただきたいなと思います。

山西 僕はなぜお芝居が好きなのかな、と考えると、芝居を観ている間というのは、その上演時間中に心が旅をするというか、精神の旅行に出るみたいなところがあるなと思っていて。それが面白いから劇場に通うんだろうなと思うんです。今回も、もちろん物語の流れで具体的にいろいろなすごい場所に行くことになりますが、決してそれだけではなく、みなさんの心もさまざまなところに飛び、いろいろな風景を見て帰っていただけるはずです、そこはまず保証します(笑)。誓さんが言う通り、お客さんの想像力次第でもあるんですが(笑)。いろいろなところまで連れて行ってあげられるように、これから僕らも稽古を必死で頑張ります。劇場で、お待ちしています!

 

取材・文:田中里津子